シンプラル法律事務所
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論点整理(損害賠償)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

損害
損害論 ◆損害論(金融商品取引被害の手引p133)
A:購入代金の支出が損害(支出説)
B:購入時の支出から後の売却代金や口頭弁論終結時の当該証券の時価を控除した差損等を損害とする考え方(差損説)
不法行為における損害:
不法行為がなければ被害者が現在有しているであろう仮定的利益状態と、不法行為がなされたために被害者が現在有している現在の利益状態との間の「差額」
支出説:
購入代金支出時に損害が発生し、購入代金全額が損害であるという考え方。
すでに投資者が当該証券を売却している場合の売却代金や、口頭弁論終結時においてなお投資者が保有している有価証券の時価等は、損益相殺の対象。
差損説:
購入時の支出から、すでに投資者が当該証券を売却している場合の売却代金や、口頭弁論終結時においてなお投資者が保有している有価証券の時価等、投資者が現に受領した、あるいは受領しうべき額を控除した差損を損害と捉える考え方。
最高裁H20.6.24:
米国債での運用を装い顧客から投資金を拠出させ、配当金を支払っていた事案について、支出説に立ったうえで、配当金について損益相殺的な調整等として損害額から控除することは許されない。


不法行為
時効  規定 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
●     ●3年の消滅時効
3年の消滅時効
vs.
通常の債権の10年とのアンバランス。
◎    ◎起算点
3年の消滅時効は短い⇒「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」は厳格に解される。
〇加害者を知った時
最高裁昭和48.11.16:
「加害者を知りたる時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味する解するのが相当であり、被害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者ヲ知リタル」にあたるものというべき」

一般には、具体的な住所氏名まで分からなくても、その気になって調べれば分かるという程度に特定できればよい(内田)。 
〇  〇損害を知った時
3年の起算点が、損害発生の可能性を知った時か、それとも損害の発生を現実に認識した時か?
最高裁:現実の認識を要する
←損害発生の可能性を知った時を起算点とすると、不法行為の被害者は、「自己に対する不法行為が存在する可能性のあることを知った時点において、事故の権利を消滅させないために、損害の発生の有無を調査せざるを得なくなるが、不法行為によって損害を被った者に対し、このような負担を課することは不当である。」
〇  〇後遺症の扱い
当初予想しえた損害は、事後的に発生しても、最初の損害に含めて時効が進行するるのが原則。
予想しえなかったような後遺症が生じた場合は、当初の損害に対する判決確定後の治療費も請求でき、時効kも別個に進行。
後遺症については、症状固定時が時効の起算点となる。
←その時点まではどの程度の支出となるかわからず、損害賠償請求権の行使を期待できない。
but
症状固定の診断を受けたあとは、たとえ自動車保険料率算定会(自算会)の後遺障害等級の認定を争って異議申立てをし、その間に時効期間が経過しても、時効の起算点には影響しない(最高裁H16.12.14)。
〇継続的・累積的損害 
判例:
損害が継続して発生している限り、日々新たな損害が発生するものとして、それらの新たな損害を知った時から別個の事項が進行するという、逐次進行説。
損害が累積的で分断すべきでないもの⇒損害の全体を知った時、すなわち、加害行為がやんだ時に全体についての時効が進行を始めると考えるべき。
  ●20年
最高裁H1.12.21
20年は除斥期間。
⇒期間が経過すれば裁判所は職権で損害賠償請求権の消滅を認定すべき⇒「信義則違反又は権利濫用の主張は、主張自体失当」 
最高裁H10.6.12
集団予防接種の副作用で重度心身障害者となったX1と両親X2、X3が国に対して国賠請求をおkなった。
提訴の時点で、被害が生じてから22年を経過。
原審:請求棄却
判断:「著しく正義・公平の理念に反する」
X1は一審判決後に禁治産宣告を受けた
「不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6か月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6か月内に右損害賠償請求権を行使したなどの特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、同法724条の効果は生じないものと解するのが相当」

平成元年判決を前提としつつ、その例外として一種の停止事由を認めたもの。
最高裁H21.4.28:
被害者を殺害した加害者が、被害者の死体を自宅に埋めて隠匿し、相続人が死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出して約26年が経過し、加害者の自首後DNA鑑定で確認⇒3か月の熟慮期間が経過して法定単純承認により相続人が確定して6か月以内に損害賠償訴訟が提起。
「相続人が確定しないことの原因を作った加害者は損害賠償義務を免れるということは、著しく正義・公平の理念に反する」として平成10年判決を引用し、
「民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である」
民法  第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
   


権利行使と不法行為
最高裁H21.9.4 貸金業者が借主に貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成する場合
事案 過払金を受領し続けた行為が不法行為を構成すると主張して、不法行為による損害賠償請求を請求。
判断 一般に、貸金業者が、借主に対し貸金の支払を請求し、借主から弁済を受ける行為それ自体は、当該貸金債権が存在しないと事後的に判断されたことや、長期間にわたり制限超過部分を含む弁済を受けたことにより結果的に過払金が多額となったことのみをもって直ちに不法行為を構成するということはできず、これが不法行為を構成するのは、上記請求ないし受領が暴行、脅迫等を伴うものであったり、法律的根拠を欠くものであることを知りながら、又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに、あえてその請求をしたりしたなど、その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られるものと解される。
この理は、当該貸金業者が過払金の受領につき、民法704条所定の悪意の受益者であると推定される場合においても異なるところはない。
解説 最高裁昭和63.1.26
訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。


要件論
規定 民法709条 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
権利・法益侵害 経緯 雲右衛門事件(大正3年7月4日):
著作権法上の著作権がなければ不法行為法の保護を受けられない。
709条の「権利」を法律上権利としての地位が確立しているものに限った。
大学湯事件(大正14年11月28日):
「吾人の法律観念上その侵害に対し不法行為に基づく救済を与ふることを必要とすと思惟する一の利益」
~「権利侵害」の権利概念を極めて広く解する方向を確立した。
内容 厳密な意味での権利でなくても、法律上の保護に値する利益であれば足りる。
「権利性」の分岐点 ①権利者の範囲、つまり、原告が具体的にいかなる利害関係を有し、いかなる個別的な利害関係を侵害されるのかという点について明確であること、
②権利・利益の客体・内容が明確であること、
③具体的な被害者個人の個別的利益の保護を基礎づける実体法が存在すること(単なる反射的利益はダメ。)
を要する。(潮見p49)
相関関係説(我妻) 違法性は、①被侵害利益の種類(物権的・人格権的・債権的)と②侵害行為の態様(刑罰法規違反・取締法規違反・公序良俗違反等)との相関関係で判断。
学説 A:過失一元論
B:違法性一元論
C(内田):「不法行為の成否の判断作用における一つの手掛かりとして、ないしは、そこでの思考の整理の便宜のために」、権利侵害ないし違法性要件を残そうとする立場で、「不法行為上の救済を与えるのが妥当と認められる利益」という程の意味で権利侵害または違法性要件を故意・過失と並ぶ要件として残す。
「権利・利益侵害」の存在意義
(内田Ⅱp361)
相関関係説的な「違法要件」は「過失要件」と重なる。
「権利侵害」が不法行為の成立を制約する要件として積極的な機能を有していない場合が多いのは事実。
but
日照権紛争の例:
Yは日照の遮断に気付いている⇒「侵害の事実の認識・容認」という意味では「故意」がある。
but
常に不法行為が成立するわけではない。
(←都市生活を営む以上、ある程度の日照、通風の遮断や騒音などはお互いに我慢すべき。)

故意・過失要件とは別に、被侵害利益が保護に値するかという評価が独自に必要な場合がある。
侵害行為自体が、もともと正当な権利の行使である場合には、被侵害利益が法律上の保護に値するかの判断が必要となる。
これこそまさに709条の「権利侵害」要件が本来期待していた役割であり、解釈論として十分ありうる。(内田p361)
正当な権利の行使が一定の限度を超えることによって不法行為を構成する事案においては、故意・過失とは別に「権利」や「法律上保護される利益」の侵害の要件は積極的な意味を持ちうる(従来は「受忍限度」という言葉で表現されることが少なくなかった)。
むしろ、これらの要件こそが不法行為の成否を決する役割を演ずることが多い。
権利・利益侵害の例
(内田Ⅱp362)
物権 所有権等の物権の侵害に不法行為が成立するのは当然
債権 債務者の債権侵害⇒債務不履行。
債務者以外の第三者による債権侵害⇒不法行為の問題。
自由意思にい働きかけ、あくまで(Bとの)自由競争で目的を達し、Bの債権を侵害⇒原則OK。
意思に反する違法な行為⇒不法行為。
生命・身体
公害・生活妨害 信玄公旗掛松事件(大判大正8年3月3日)(松が汽車の煤煙で枯死)
生活妨害においては、他人に損害を与える行為をのものは完全に適法行為。
「権利の行使と雖も法律に於いて認められたる適当の範囲内に於いて之を為すことを要する」⇒「適当の範囲」を木尾えると権利の濫用となり、不法行為責任が生ずる。
「適当の範囲」とは、「社会的共同生活」の必要から考えて、「社会観念上被害者に於いて認容」すべきものと「一般に認められる程度」

その後受忍限度論に
受忍限度論(適法行為による加害という生活妨害型不法行為に特有の判断基準):
不法行為の成否は、端的に、生じた結果が社会的共同生活における受忍限度を超えているかどうかという基準によって判定される。
快適な生活環境を求める意識の高まり⇒生活妨害からの保護の範囲も拡大し、
①煙や音などによる積極的生活妨害のみならず、
②日照・通風の遮断のような消極的生活妨害についても保護が広げられる。
生活の平穏や快適な生活という生活利益の保護が確立⇒人格権として権利性を獲得。
高層マンションの一定の高さを超える部分の撤去を求めた訴訟において
最高裁(H18.3.30):
「良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(「景観利益」)は法律上保護に値する」
(結論としては、景観利益の違法な侵害行為はないと判断)
受忍限度の判断
~社会通念を反映するだけに、ときとして判断は困難。
ex.
自宅と道路を挟んだ場所に葬儀場ができ、棺の搬入や出棺の様子が別室から見えるようになった状態が、「他者から自己の欲しない刺激によって心を乱されないで日常生活を送る利益、いわば平穏な生活を送る利益としての人格権ないし人格的利益」の侵害にあたるかどうかが争われた事件で、原審がフェンスを高くすることと慰謝料の支払を認めたのに対し、最高裁はこれを破棄し、請求を棄却(最高裁H22.6.29)。
身分権 身分権:夫婦・親子といった、身分上の地位に基づいて与えられる権利であり、人格的利益の一種。
ex.配偶者の貞操に対する権利の侵害。
名誉毀損 保護法益 被害者の「社会的評価が低下したこと」
主観的な名誉感情(自分自身の人格的価値について自らが有する主観的な評価)の侵害だけでは、名誉棄損とはならない。(最高裁昭和45.12.18)
名誉感情の侵害は、名誉棄損ではなく、人格権・プライバシー保護の問題として処理すべき。(潮見p68)
●事実を摘示していの名誉棄損
その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、右行為には違法性がなく、仮に右証明がないときにも、行為者において右事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される。
(最高裁昭和
58.10.20、最高裁昭和58.10.20
●事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉棄損
その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に右証明がないときにも、行為者において右事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定される。(最高裁H1.12.21、最高裁H9.9.9
意見ないし論評の表明による名誉棄損の違法性阻却事由しては、①公共の利害・公的目的
②前提事実の重要な部分についての真実性又は相当性③意見ないし論評としての域を逸脱しないこと
が必要。
●対抗言論の抗弁
言論の弊害に対しては更なる言論で対抗するのが原則であり、名誉を棄損された者が対抗言論によって名誉を回復できる場合には、国家が救済のために介入すべきではなく、当事者間の自由な言論に委ねておく方が良いとする、不法行為の成立範囲を限定する理論。
プライバシー ●プライバシー該当性
ある事実ないし情報がプライバシーに属する事実ないし情報として保護に値するものであるか否かは、一般人の感受性を基準に判断した場合に、当該私人の立場に立ったならば公開を欲しないであろう事柄であって、一般人に知られていないものが基準となる
●違法性判断基準
プライバシーの公表が不法行為に当たるか否かの違法性判断基準については、プライバシーに属する事実ないし情報の内容及び公表の態様を考慮した上、当該事実ないし情報を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に、プライバシー侵害として、不法行為が成立するとされている。(比較衡量説。最高裁H6.2.8、最高裁H15.3.14
その他の人格的利益 人格権:
人間の尊厳に由来し、人格の自由な展開、ならびに個人の私的生活領域の保護を目的とする権利。
人格的利益のあらゆる側面を保護するものとしての一般的・包括的人格権は、憲法13条にその基礎を有し、憲法上保障された基本権の1つであると同時に、私権としての性質を有する。
その他の財産的利益
その他の権利・利益侵害
労働者・役員等の引き抜き 雇用契約終了後の競業避止義務

雇用契約終了後の競業避止義務は、
法令に別段の定めがある場合、及び
当事者間に特約がなされた場合合理的な範囲内でのみ認められる。

「競業避止義務を定める特約が約定されたのが、もともと当事者間の契約なくして実定法上労働契約終了後の競業避止義務を肯定し得る場合についてであり、競業禁止期間、禁止される競業行為の範囲、場所につき約定し、競業避止義務の内容を具体化したという意味を有するときには、当該約定は、競業行為の禁止の内容が不当なものでない限り原則として有効と考えられる。」
「これに対し、そのような場合ではなく競業避止義務を合意により創出する場合には、労働者は、もともとそのような義務がないにもかかわらず、専ら使用者の利益確保のために特約により退職後の競業避止義務を負担するのであるから、使用者が確保しようとする利益に照らし、競業行為の禁止の内容が必要最小限度にとどまっており、かつ、十分な代償措置を執っていることを要するものと考えられる。」(東京地決平成7年10月16日)

「会社の取締役又は従業員は その退任後又は雇用関係終了後においては、その一切の法律関係から解放されるのであって、在任又は在職中に知り得た知識や人間関係等をその後自らの営業活動のために利用することも、それが旧使用者の財産権の目的であるような場合又は法令の定め若しくは当者間の格別の合意があるような場合を除いては、原則として自由なのであって、退任ないし退職した者が、旧使用者に雇用されていた地位を利用して、その保有していた顧客、業務ノウハウ等を違法又は不当な方法で奪取したものと評価すべきようなときでない限り、退任ないし退職した者が旧使用者と競業的な事業を開始し営業したとしても、直ちにそれが不法行為を構成することにはならないものとするのが相当である。」(東京地判平成5年8月25日)

不法行為となる場合

法令あるいは特約により競業避止義務が課されていない場合でも、例外的に、元従業員等の競業行為が、引き抜かれた企業の規模・業種、元従業員らの地位、これらの者がなした侵害行為の目的・態様、そして企業側の保護されるべき利益を考慮すると、不法行為と評価される場合がある。

①雇用主の保有する営業秘密について、不正競争防止法で規定している不正取得行為、不正開示行為等に該当する場合。

②雇用主に損害を加える目的で一斉に退職し、会社の組織活動等が機能しえなくなるようにした場合。
意図的に雇用主の営業上の秘密を獲得する目的で雇用主の会社に入社したような場合。

③社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な行為態様で雇用主の顧客等をを奪取したと見られるような場合。

その場合の損害

①一時的に被害者の営業活動が阻害されたことによる営業利益の喪失
損害賠償の方法で保護されるべき営業利益逸失期間をどのようにして画するかという問題。
・退職が不意打ち的であったかどうか
・当該事業分野での労働市場からの代替労働力の補充の容易性
・当該事業分野での労働力の流動性と企業側の対処可能性
・当該営業利益がどれだけの確実性をもって獲得され得ると言えるか

得意先を奪われたことによる営業利益の喪失
・得意先を維持していたならこれとの取引により得たであろう利益
・損害軽減のための努力が必要・・・・過失相殺での斟酌
・得意先獲得に当たっての当該労働者・役員等のなした正当な手段による努力・技能の部分は、損害とはみない。

営業秘密の不当利用による営業利益の喪失
民訴法248条の「相当な損害」
・不正競争防止法もしくはその法理の積極的活用を図るべき場合

過失 客観的過失論 行為者の意思や心理状態から切り離し、客観的な結果回避義務(行為義務)の違反として捕らえようとする見解。
内容
(潮見p155~)
①過失とは、人が社会生活を送るにあたり、他人の権利を侵害したり危険に陥れたりしないために尽くすべきものとして法秩序による要求されている注意を尽くさずに行動すること。
法秩序の命令・禁止に対する違反(客観的行為義務違反)。
人の行為を評価対象とした客観的過失であり、かつ法秩序により立てられた命令規範・禁止規範に対する違反として把握される規範的概念。
その根底には、社会生活における権利侵害の危険をどのように行為者と潜在的被害者群との間で振り分けるかという危険の割当てに関する価値判断が存在。
②その価値判断に際しては、
回避コスト(B)<損害発生の蓋然性(P)×被侵害利益の大きさ(L)
の場合に過失ありとする、「ハンドの公式」を引用する見解が増しつつある。
③過失ありとの評価を下すには、適正な結果回避措置を期待しうる前提として、行為者に結果発生の予見可能性(予見義務に裏付けられたもの)が存在しなければならない。しかも、ここでの予見可能性の対象とされるのは、結果発生の具体的危険。
今日の過失概念 予見可能性説と結果回避義務を結合して、
過失とは損害の発生を予見し防止する注意義務を怠ること。
過失とは、「その終局において、結果回避義務の違反をいうものであり、かつ具体的状況のもとにおいて、適正な回避措置を期待しうる前提として、予見義務にいらづけられた予見可能性の存在を必要とするもの」
(東京地裁昭和53.8.3)
故意 定義 通説:
結果の発生を認識しながらそれを認容して行為するという心理状態

客観化された今日の過失概念とは異質な、文字通り主観的要件として理解されていた。
必要性 今日では、過失が結果回避義務違反と捉えられ、広く不法行為をカバーしているため(統一要件主義)、およそ不法行為を認めるべき場合は全て過失でカバーできる。

不法行為の成立範囲を拡大するとう実践的な目的から故意概念を拡大する必要性はない。
故意不法行為を過失不法行為とは別個の類型とすることに意味があるのは
①故意不法行為については損害賠償の範囲を拡張することが妥当だと考えられるからであり、
②ある種の不法行為は故意の場合にのみ成立すると考えられるから(ある種の債権侵害)
損害 意義 A差額説(通説):現実に生じた金銭的な被害
B損害事実説:「小指の負傷」という事実を損害と捉えその損害をいくらに金銭評価するかでピアニストと会社員との違いが生じる

損害賠償の範囲
規定 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第416条(損害賠償の範囲)
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
損害賠償の範囲 事実的因果関係のある損害は、場合により無限に広がりうる。
どこまでの範囲に限定されるかが、損害賠償の範囲。
事実的因果関係:「あれなければこれなし」という本来の因果関係。
相当因果関係:「どこまでの損害を賠償させるべきか」という損害賠償の範囲の問題。
判例 富喜丸事件(大連判大正15.5.22)
争点:
①加害行為から生じる、事実的因果関係のある損害のうち、どこまでを賠償の対象とするか、という損害賠償の範囲の問題。
②損害賠償の範囲内の損害を金銭的に評価する基準時の問題。
事実的因果関係のある損害のうち、特別の事情で生じた損害が賠償の対象となるかどうかという損害賠償の範囲の問題(①)は、加害者の予見可能性の有無で決まる。
賠償の対象となる物の価格を算定する場合に、騰貴した時点を基準時とするかどうか(②)は、その時点で価額で処分して利益を取得しえたという特別事情が予見できたかどうかで決まる。
批判 新たに契約関係に入ろうとする当事者にとって、自らが債務不履行に陥った場合にどの程度の賠償を支払わされるのかがある程度予測できることが望ましい。
⇒416条は、債務者にどの程度の予見可能性があったかで損害賠償の範囲を画そいうとした。
突発的に生じる不法行為においては、被害者側の事情についての加害者の予見可能性を問題とすることは、適当ではない
そもそも加害者は、そのような予見を前提に行動しているわけではない。
被害者側から見ても、加害者にどこまで予見可能であったかによって賠償の範囲が限定されるのは妥当ではない。
むしろ、加害行為によって惹起された全損害のうち、公平を欠くと感ぜられるほ程に遠い損害以外は原則として全て賠償させるべき。
問題となる場合 不法行為で損害賠償の範囲が問題となる局面の3つの類型:
ある個別損害項目が賠償すべき範囲に含まれるかという形で問題となる場合
②生じた損害が、加害行為以外の原因の寄与によって拡大した場合
直接の被害者以外の主体に損害が生じた場合
①費用項目範囲 裁判例 東京地裁昭和38.10.14:
不法行為で怪我をした被害者が、医者の指示もないのに温泉に療養に出かけた費用は、傷害の治療に不可欠かつ適切といえない場合には、賠償範囲に含まれない。
最高裁昭和49.4.25:
娘をウィーンへの留学に送り出した母親が交通事故で瀕死の重傷を負ったので、途中のモスクワで連絡を受けた娘が看護のために急遽帰国し、再度留学しなおした場合、余分に要した旅費は、帰国するための通常の交通機関の普通運賃の限度で賠償される。
説明 これらは、「死亡」や「負傷」といった「損害」の金銭的評価に関する問題であって、損害賠償の範囲の問題ではない。
費用項目が多ければ総額が増えるというのでは公平ではないから、「負傷」なら「負傷」のレベルに応じた損害の総評価額が類似の事案とバランスがとれているかどうかが、判断の重要な指針となる。
費用項目は、あくまで損害を金銭評価する際の判断要素に過ぎず、損害賠償の範囲の問題とは異なる
②他原因の寄与 交通事故で負傷した被害者が、被害を苦にして自殺した場合(被害者自身の行為)や、被害者の特異体質(被害者自身の素質)により損害が拡大した場合、あるいは病院の医師の過失(第三者の行為)により被害者が死亡した場合など。
保護範囲説 平井教授:
損害賠償の範囲をめぐる問題は、事実的因果関係に立つ損害のうちどこまでを賠償すべきかという規範的判断であり、因果関係とは異なることを示すため、「保護範囲」という言葉を使う。
結局、生じた損害に対する責任を加害者に帰せしめるのが妥当かどうかの判断。
故意不法行為⇒原則として事実的因果関係のある損害は全て賠償されるべきであるが、「異常な事態の介入の結果生じた損害についてはこの限りではない」(平井)
過失不法行為⇒保護範囲は、ある損害に対して加害者がそれを回避する義務を負っていると判断されるかどうか、すなわち、ある損害が損害回避義務(=過失判断の基準となる行為義務)の及ぶ射程範囲内にあると判断されるかどうかによって画定される。
要するに、どこまで賠償させるべきかは、加害者がどこまでの回避行為をすべきだったかによって決まるのであるから、結局、その損害との関係で過失があると評価できるかで決まる。
事例 大阪地裁昭和51.7.15:
道でAの飼い犬に吠えられて襲われた10歳の女児が逃げようとして道路に飛び出したところトラックにはねられて死亡。死亡も損害賠償の範囲に含まれるとした。

犬が10歳の女児に対して襲いかかれば、子供は車の危険も省みずに夢中になって道路上に飛び出すことは十分あり得る。⇒交通事故による死亡という損害との関係で飼い主Aには過失ありと評価される。
東京高裁昭和50.10.27
農家へ化粧品のセールスに来た人が、牛小屋から庭へ逃げ出した乳牛を見て、襲われたと思い込み、牛小屋の裏まで逃げ、さらにその背後にある幅80センチの石垣の上を走って逃げようとして落ちて重傷を負ったが、牛はセールスマンの逃げ出した地点まですら来なかった。
石垣の上を走って逃げるという「不必要ともいうべき行動をとった合理的理由を見出し難」く「乳牛の動静と原告の受傷との間に通常の因果関係があるとすることはできない」とされた。

セールスマンの行動は常軌を逸しており、その重傷という損害まで牛の持ち主の過失は及んでないと評価された。
被害者の自殺 特別な事情がなければ、そこまで保護範囲は及ばないとされることが多いだろう。
集団でいじめ続け自殺に追い込んだ⇒死亡についても保護責任が及ぶとされた事例。
(いわき市いじめ自殺事件:福島地いわき支H2.12.26)
被害を受けた生徒の精神的損害の賠償のみを認め、自殺については賠償責任を認めなかった事例。(中野富士見中学いじめ自殺事件:東京高裁H6.5.20)
交通事故の被害者が後遺症からうつ病になり自殺した事案で、事故と自殺との間の「相当因果関係」を肯定しつつ心因的要因を理由とする減額をした原審の判断が是認。(最高裁H5.9.9)
被害者の素因 ex.事故で軽傷を負ったが、被害者の特異体質のために死亡したような場合。
問題を単に保護範囲に入るかどうかという観点から捉えるより、保護範囲に含まれるとしたうえで、賠償額を減額するという観点も有用。
通常「過失相殺」が用いられる。
第三者の行為 ex.XはYの過失による交通事故によって負傷し、Z病院に入院したが、Z病院の医師の過失によって合併症を併発し、死亡した。
A:一般的な考え:
Yの当初の加害行為がなければそもそも損害は生じなかった
⇒医療過誤によって拡大した損害についてZとの間に共同不法行為の関係が生じる。
⇒Yに全損害についての賠償責任を課した上で、Zの過失は共同不法行為者間の内部的な求償で考慮する。
B:交通事故と医療事故の異質さ⇒各原因の寄与度に応じた分割責任を認めるべきとの見解も有力。
C:医師に重大な過失があれば当初の加害行為と医療過誤による損害との間には法的因果関係がないとしてもの。(東京地裁昭和54.7.3)
内田:もともと独立の不法行為が競合していると考えるべき事例⇒当初の損害と異質な損害が医師の過失によって生じた場合には、保護範囲に含まれないと考える余地
③間接被害者 被害者以外からの請求 間接被害者:不法行為により、直接の被害者以外の第三者に財産的・非財産的損害が波及して生じる場合の第三者。
不法行為の一般原則⇒間接被害者であれ、その第三者との関係で独立に不法行為の要件をが充たされれば、加害者に対する損害賠償請求権が発生。
被害者の損害に含まれる場合
(内田Ⅱp467
,555)
負傷したAに代わって近親者Bが医療費を出した。
Bは損害賠償請求できるか?
直接の被害者に生じた損害の中に含まれる費用項目については、間接被害者(B)からの請求でも認められる。
一定の付添看護費用等も同様。
BがAに対する扶養義務者であれば、賠償者の代位(法422条)の類推で、BのYに対する請求を基礎づけることが可能
民法 第422条(損害賠償による代位)
債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。

Aは友人Bから時計を借りていたが、自宅で保管中に盗まれた。
AはBに時計の価額を賠償として支払った。
その後Cが時計を盗んだkことが発覚。

A(返還債務jの債務者)にその物の所有権を取得させるのが公平(法422条)。

損害賠償制度の目的からする当然の帰結とされ、不法行為による損害賠償においても類推適用される。
最高裁昭和36.1.24:
労働基準法は、同法79条に基づき、使用者が遺族補償を行った場合において、補償の原因となった自己が第三者の不法行為によって発生したものであるとき、使用者はその第三者に対し、補償を受けたものが、第三者に対して有する損害賠償せの請求権を取得するか否かについて何ら規定していないが、右のような場合においては、民法422条を類推して使用者に第三者に対する求償が認められるべきであると解するのが相当。
Bが義務jとして支払ったわけではない場合
結論的には加害者に対する請求を認めるが、その法的構成は分かれている。
加害者に対する事務管理と更生するものもあるが、やや無理がある。
「弁済者の任意代位(499条)あるいは事務管理(702条)の法理を類推適用」すると述べるものもある(東京地裁昭和58.7.25)。
民法 第499条(任意代位)
債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。.
民法 第702条(管理者による費用の償還請求等)
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
生命侵害による逸失利益について相続否定説をとった場合、夫が死亡した場合の妻子のように、扶養利益を侵害された者の損害は、実質的にはj、直接の被害者の損害が転化したものと考えられる。⇒加害者の当該被扶養者に対する故意・過失を立証するまでもなく賠償責任が認められる。
(もっとも根拠条文は709条を援用するしかないから、定型的に過失を擬制することになる。)
定型的付随損害 ①直接の被害者に生じた損害に含まれるものが第三者から請求される場合のほか、
②直接の被害者に対する不法行為に伴って、一定範囲の第三者に定型的に発生する損害の賠償請求がなされる場合がある。
ex.
法711条の慰謝料請求権
被害者のもとへ駆けつけるための交通費など
(判例は、相当因果関係概念を用いてこれらの損害を処理。)

このような費用を支出した第三者は、自己に対する独立の不法行為の成立を立証するまでもなく賠償請求が認められる。
企業損害 ●第三者からの損害賠償請求が、直接の被害者ではないことを理由に制限される場合

企業損害
被害者は企業と雇用契約の関係にあるので、雇用契約上の債権が侵害されているとみることもでき、第三者による債権侵害と呼ばれる問題の一つの場面。
最高裁昭和43.11.15
X会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は・・A個人に集中して、同人にはX会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人とX会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであって、かかる・・事実関係のもとにおいては、原審が、YのAに対する加害行為と同人の受傷によるX会社の利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上間接の被害者たるX会社の本訴請求を認容しうべきものとした判断は、正当である」

①X会社は小規模な薬局であり、税金対策から法人組織にしているに過ぎなかった。
②法人組織にすると、AとX会社は別人格になるが、経済的な実質は同一と見ることができる
このような場合、X会社の損害は実質上Aの逸失利益の喪失のことで、結局、Aの負傷という損害に含まれる。
本判決は、このような特殊なケースにのみ、企業損害の賠償を肯定。
狭義の間接被害者 交通事故の被害者がたまたま会社の重要人物で、その支障が会社に甚大な損害を与えた場合。
判例のような限定のもとに賠償を認めるのが妥当。

①加害者に過失があったとはいえ、このように遠い損害にまで賠償責任を肯定することは、損害の公平の分担の理念から問題(故意があれば別)
②多くの場合、企業はこれらのリスクを予め予測し、分散の手立てを講じておくことが可能(そのための保険も存在。)。
人気上昇中のロックグループのボーカルAが交通事故で瀕死の重傷を負い、グループ活動が不可能⇒過失不法行為である限り、他のメンバーの逸失利益は賠償の対象とはならない。
間接被害者の損害は、(損害賠償請求権の主体の問題ではなく)直接の被害者に対する損害賠償の範囲の問題、または、直接の被害者に生じた損害の金銭的評価の問題として構成することができる。
これが学説の主流であり(直接の被害者の損害賠償の範囲に含まれる限りで間接被害者からの請求も認めるなど)、判例も、相当因果関係という概念を用いて同様な枠組みで処理している。

賠償額の減額調整
過失相殺 過失相殺とは 規定 第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
被害者にも責められるべき点がある場合、それを斟酌して、賠償額の減額を認めるもの。
責任能力と過失相殺 過失相殺には、責任能力は必要ではなく、「事理弁識能力」があればよい。(最高裁昭和39.6.24)
「事理弁識能力」:「道理をわきまえること」であり、責任能力(通常11~12歳)より低い能力でいい。下級審では5,6歳。
被害者側の過失 被害者本人に事理弁識能力がなくても、「被害者側」という一群のグループの誰かに過失があれば過失相殺できる。(被害者側の過失)
「被害者側」とは「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」であり、幼児の場合には監督者である父母やその被用者である家事使用人。
(事理弁識能力を欠くような幼児には監督義務者がいるから、過失相殺の障害となr事理弁識能力の問題は一応回避。)
保母Bのように、両親から「幼児の監護を委託された者(保育園)の被用者」のように、「被害者と一帯をなすとみられない者の過失」は被害者側の過失には含まれない⇒過失相殺も認められない。
被害者の行為態様 最高裁H20.7.4:
自動二輪車を交互に運転して暴走行為をしていた友人のAとBが、たまたまAが運転中にパトカーと衝突してBが死亡し、Bの相続人がパトカーの運行供用者責任を追及。
最高裁は、Aの運転行為はABの共同暴走行為の一環をなすから、「公平の見地に照らし、本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができる」とした。

他人の過失を過失相において考慮する際の判断基準が、身分上・生活関係上の一体性ではないことを物語っている。
過失相殺の根拠 加害者は損害全部について賠償すべき程に悪くないとの判断。
つまり、損害の発生には被害者も寄与しており、それが加害者の非難可能性ないし違法性の程度を減少させている。
過失相殺とは、公平のためにそのことを損害の金銭的評価において斟酌する制度。
適用 故意不法行為等 当事者間の公平を維持するために、故意の不法行為でも減額を相当とする場合がありうる
⇒当然には排除すべきではない

ex.被害者の挑発によって加害者が加害行為を行ったような場合。
裁判所の裁量 裁判官は、722条の意味での被害者の「過失」を認定できる証拠があれば、当事者の主張がなくても過失相殺による減額調整ができる(弁護主義が適用されない。最高裁昭和41.6.21)。
過失相殺をするかどうか、またどのような割合で行うかは、裁判官の裁量であり(最高裁昭和34.11.26)、過失相殺の割合について、いちいち根拠を示す必要もない
but
合理性を欠いた場合は違法となる(最高裁H2.3.6)。
通常、財産的損害について、損害額全部を算出してから、過失割合の比率に従ってまとめて減額するが特定の損害項目について、被害者の過失の寄与を認定して減額することもある。
弁護士費用は過失相殺の対象とならない(最高裁昭和52.10.20)。
詐欺的取引が問題となる局面では、故意不法行為者に対する関係では、下級審裁判例は、過失相殺を排除する傾向に。
←「加害者の故意」が「被害者の過失」を導くことに向けられている。
but
マルチ商法のように被害者も組織的違法行為に加担している場合は、別の処理がされている。(潮見旧版p313)
「被害者側の過失の法理」の機能 共同不法行為との関係 X1の運転する車とYの運転するトラックが衝突⇒X1の車は大破し、X1と同乗していた妻X2が負傷。
X1X2からYに対して、人的・物的損害の賠償請求。
X1とYの過失割合を5対5とし、X2の負傷については、X1とYの共同不法行為という理由で、賠償額全額について請求を認容。(原審)
最高裁:
原審を一部破棄して、妻X2の賠償額を算定するにあたって夫X1の過失による過失相殺を肯定。
「被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失」という被害者側の過失の法理を適用した。
過失相殺を認めれば、「加害者が、いったん被害者である妻に対して全損害をを賠償した後、夫にその過失に応じた負担部分を求償するという求償関係をも一挙に解決し、紛争を一回で処理することができるという合理性もある」。

本来の意味での過失相殺ではなく、X1とX2の特殊な関係(夫婦)のゆえに、X1とYが本来負うべき全額についての連帯責任を分割責任にした。
このような分割責任が正当視されるのは、「身分上・生活関係上の一体性」が存在する場合、つまり、「財布はひとつ」といえる場合。
損害拡大と過失相殺 加害者の過失によって被害者が負傷したが、その治療に際して、被害者が養生を怠ったため余計ない費用を要した場合のように、被害者の過失によって損害が拡大した場合にも、過失相殺を用いて減額する場合がある。
理論的には、損害の金銭的評価そのものであって、被害者が医師の指示もないのに温泉療養にでかけた費用を含めるかという問題と共通。
「過失相殺」として減額する場合もあるし、裁判例では「相当因果関係」を用いて評価額を限定する場合もある。
被害者側の素因 心因的素因 Xは、追突され、むちうち症の傷害を受け、その結果2年8カ月にわたる入院をし、事故後10年以上経過しても後遺症。
追突の状況は、被害車のバンパーに加害車が触れた程度で、Xの症状はその性格による。
最高裁(最高裁昭和63.4.21)は、事故後3年間の傷害を「相当因果関係」内の損害とし、かつそれについて「心因的要因」の寄与を認め、過失相殺の規定を類推適用して損害額を4割に減額した原審を維持。
素因による減額 日本の判例は、比較的広く減額を認めている。
心因的素因⇒多くの場合減額。(ex.不法行為の被害者であるという意識が神経症的に被害を拡大する「賠償神経症」)
法的構成 A:相当因果関係(法416条)概念を用い、素因を「特別の事情」であるとして、予見可能性がないとする。
B:事実的因果関係そのものについて割合的認定を行う構成。
C:金銭的評価の段階で寄与度に応じた減額を認める構成。
D:過失相殺の規定の類推適用により減額する構成。
最高裁は、まず損害賠償の範囲を「相当因果関係」概念によって絞り、そのうえで、D(過失相殺の類推適用)の構成を用いて減額
心因的素因の限界 最高裁(H12.3.24):
「同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」、性格やそれに基づく業務遂行の態様等を賠償額の算定にあたって斟酌すべきではない。
病的素因・加齢的素因 最高裁は、病的素因(疾患)の事案で、過失相殺の規定を類推適用して、被害者の素因を斟酌できる旨判示(最高裁H4.6.25)。
過失相殺が病的素因に類推適用される場合も、弁論主義の適用はなく、裁判所は職権で斟酌できる(最高裁H20.3.27)。
身体的特徴 追突事故により頸部に傷害を受けた被害者が、平均的体格に比べ首が長く多少の頚椎の不安定症があるという「身体的特徴」を有していた事案で、この点を考慮に入れて賠償額の減額を行った原審判決を破棄(最高裁H8.10.29)。
「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない。」
「人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。」」

通常人の個体差の体格・体質は減額自由にならない。
「慎重な行動」を要請されるかどうかという観点から正当化すると、病的素因についても、必ずしも減額事由とすべきではない場合が生じうる。
加齢的素因は、通常人の個体差の問題⇒減額事由にはならない。
減額事由をどのように画するかは、今後の問題。
好意関係 好意同乗 好意で、つまり無償で何かしてもらって損害が生じた場合、好意であることが減額事由になるのではないかという問題。
好意関係 津地裁昭和58.4.21:
ボランティアによる子供会のハイキングで児童が水死。子供自身の不注意と無償性を考慮して8割減額
帰責性の程度 被害者の行為態様や素因、さらには加害者と被害者の人間関係といったファクターが、加害者の帰責性(過失・違法性・寄与度等の表現で表現される。有るか無いかではなく量的概念である)の程度に影響し、それが賠償額の縮減を要請する。
加害者はその損害に対する帰責性の度合いに応じて賠償義務を負うということであり、いわゆる保護範囲に入るとされる損害についても、加害者の帰責性を減ずる要素があると、最終的な賠償額の算定において斟酌される(帰責性の原理)。
そして、その法原理のひとつの表現である過失相殺の法理が援用される。
損益相殺 損益相殺 不法行為の被害者が、損害を被ったのと同一の原因によって利益を受けた場合には、公平の見地から、その利益の額を賠償額から控除する法理。

不法行為による損害賠償の理念を、不法行為がkなければあったであろう状態の回復(原状回復)とすれば、不法行為を契機として利益を得る事を認める必要はない。
生命保険金 生命保険金が支払われていても、損害賠償額の算定にたって損益相殺の対象とはならない。(最高裁昭和39.9.25)

生命保険金は払い込んだ保険料の対価の性質をもち、もともとは不法行為の原因と関係なく支払われるべきもの。
損害保険金 「既に払い込んだ保険料の対価たる性質」を有する損害保険金は「いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらない」(最高裁昭和50.1.31)
but
Xは重複して損害の填補を受けることになる。
その調整が、保険代位(請求権代位)の制度(保険法25条1項)
乙保険会社がXに60万円支払うと、乙保険会社は、保険代位により60万円の限度でXのYに対する損害賠償請求権を取得。⇒XがYに対してし請求でいる損害賠償額は40万円に減少する。(Xの二重補填が回避される。)
保険法 第25条(請求権代位)
保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
一 当該保険者が行った保険給付の額
二 被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2 前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する
保険会社は、契約上、保険金を支払う義務を負い、その額は、リスク計算に基づいて算出された保険料の対価として性質を有する。
⇒保険代位を認めることは、計算上、保険会社が保険料分だけ得をする。
⇒保険代位は、被害者の重複補填を避けるための損害保険特有の制度。
社会保障給付 ●労災が不法行為による場合、加害者の損害賠償額が労災保険給付を理由に減額されるか?
第三者行為災害:第三者の不法行為による労災
使用者行為災害:使用者の不法行為による労災
労災保険給付:
①一時金形式⇒すでに支払われた本件給付が損害賠償額から控除されるかが問題
②年金形式⇒将来の保険給付の控除が問題
一時金形式の場合 ●第三者行為災害の場合、労働者災害補償保険法12条の4第1項が、保険給付をした国に、保険代位と同様な趣旨の求償権を与えている。
労働者の損害賠償請求権は縮減するが、加害者が支払う総額に変化はない。
労災保険法 第12条の4〔政府による求償権取得、損害賠償との関係〕
政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
②前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。
●使用者行為災害の場合:
規定はないが、保険給付の価額の限度において使用者は民法による損害賠償の責任を免れる。(最高裁昭和52.10.25)(労基法84条2項の類推適用)

①保険給付が損害の填補の性質を有する
②保険料を負担する使用者にとって労災保険が責任保険的な意味を有する
労基法 第84条(他の法律との関係)
この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
②使用者は、この法律による補償を行つた場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。
年金形式の場合 第三者行為災害(最高裁昭和52.5.27)、使用者行為災害(最高裁昭和52.10.25)について、すでに支給された分のみを控除し、将来支給される分の控除は認めない立場。
butその後
大法廷で、地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金の事例で
被害者が不法行為によって死亡し、その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には、損益的な調整が必要となりうるが、このような調整は、「被害者又はその相続人の受ける利益によって被害者に生じた損害が現実に補てんされたということができる範囲に限られるべきである」。すなわち、相続人が取得した債権については、「当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合に限られる」(最高裁H5.3.24)

遺族年金については、「支給を受けることが確定した」額の限度で控除の対象となる。
つまり、現実に支給されていなくても、支給を受けることが確定していれば、控除の対象となる(判例変更)。
労災保険法付則64条 ●労災保険法付則64条
第三者行為災害の場合、将来給付される労災保険給付を控除せずに加害者から賠償金が支払われる⇒その限度で政府は保健給付をしないことができる(労災保険法12条の4第2項)⇒二重給付が回避。
but
使用者行為災害の場合、賠償義務を履行した使用者が被災労働者に代位して国に給付請求することはできない(最高裁H1.4.27)。
⇒将来の給付についても控除を認めないと、使用者は責任保険的な利益を失うことになる。

最高裁昭和52.10.25の後、使用者行為災害について労災保険法付則64条に損害賠償との調整規定がおかれ、前払一時金制度が設けられている労災保険給付に限り、前払一時金の最高限度額の範囲内では損害賠償義務の履行が猶予され、猶予中に労災保険給付が行われれば最終的に免責されることとし、損害賠償が先行した場合においては、労災保険給付の支給を停止するという方式が採用。
(←前払一時金制度がある場合には、年金給付の現在額が一応明らかになるから、損害賠償額との調整が容易になる。)
労災保険給付と過失相殺 Z会社に勤務するXが、会社の業務で自動車を運転中、Yの自動車と衝突。Xの被った損害額は1000万円であったが、Xにも5割の過失があった。Xに対して400万円の労災保険給付が一時金でなされた場合。Yに対していくら請求できるか。
A:過失相殺後控除説:(最高裁H1.4.11)
まず過失相殺を行い(賠償額は500万円)ここから保健給付額を控除⇒請求額は100万円。

保険給付が損害賠償額の支払と共通性を有することを強調

B:控除後過失相殺説:
まず保健給付を控除し(残額600万円)、これを過失相殺すると、請求できる額は300万円。

労災保険給付の社会保障的性格を強調
損益相殺と708条の趣旨 民法 第708条(不法原因給付)
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
形式的に損益相殺が可能に見える場合も、708条の不法原因給付の趣旨を考慮して、損益相殺が認められない場合がある。
ヤミ金融の組織に属する業者から、出資法に違反する著しく高率の利息を取り立てたXが、上記組織の統括者であったYに対し、弁済として交付した金員に相当する損害をこうむったとして不法行為に基づく損害賠償を求めた事案:
最高裁:「反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が、これによって損害を被るとともに、当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には、同利益については、加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく、被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも、上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されない」(最高裁H20.6.10)

極端な高金利での貸付け自体が反倫理的行為とあsれ、消費貸借は公序良俗に反して無効であって、その貸金をYが不当利得として返還請求することが不法原因給付として許されない。そうである以上、Xからの交付した金員相当額の損害賠償請求においても、Xが給付を受けた金額を利得して損益相殺的な調整をすることはできない
最高裁H20.6.24:
自分を介して米国債を購入すれば高額の配当を得られるとの架空話でXを騙して金員を騙取したYが、実際には米国債を購入していないのに購入したかのように装って仮装の配当金を交付していた事案で、Yの詐欺行為は反倫理的行為であるから、「仮想配当金の交付によってXが得た利益は、不法原因給付によって生じたものというべきであり」、損害賠償額から仮装配当金の額を「損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として」控除することは許されない
建物の瑕疵と損益相殺 最高裁H22.6.17:
「瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、上記建物の買主がこれに居住していたという利益については、当該買主からの工事施工者等にに対する立替費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできない」
建替えによって、「当初から瑕疵のない建物の引渡しを受けていた場合に比べて結果的に耐用年数の伸長した新築建物を取得することになったとしても、これを利益とみることはできず、そのことを理由に損益相殺ないし損益相殺的な調整をすべきものと解することはできない」とした。
宮川裁判官の補足意見:
本件のような事例で居住利益の控除を認めると、買主はやむを得ず居住しているのに、賠償が遅れれば遅れるほど賠償額は少なくなり、「誠意なき売主等を利するという事態を招き、公平ではない」。
耐用年数の点も、もともと建物としての価値のないものを引き渡している以上、売主としての債務は履行されていないに等しく、後日契約どおりの建物に建て替えられたからといって、耐用年数の伸びた分を買主の利益と評価すべきではない。
契約法的に言えば、売主は履行が遅れた分の賠償責任すら負っている。
損益相殺の根拠 対立する2個の債権間の差し引きではない⇒いわゆる相殺とは異なる。
公平の観点から認められう当然の法理とはいうものの、賠償額から利益を控除するということは、加害者とはかかわりのない事情によって、本来全額の賠償をすべき加害者が得をすることになる。
⇒何をもおって損益相殺の対象とするかは慎重な検討を要する。
(単に、不法行為がなかったなら得られたはずの利益を被害者に保持させるべきではない、とういだけでは正当化できない場合がある。)
cf.香典は控除の対象にならない。(損害を填補する性質のものではない。(最高裁))


損害論
損害の意味 損害とは、権利侵害により被害者に発生した不利益。
A:差額説 通説・判例
「損害」とは、不法行為がなければ被害者が現在有しているであろう仮定的利益状態と、不法行為がなされたために被害者が現在有している現在の利益状態との間の「差額」
特徴 ①比較されるべき現実の利益状態と仮定的な利益状態の総「額」の差として損害が定義
⇒損害自体が一定の数字をもって表現される計数上のものとして観念される。
②損害そのものの確定と損害の金銭的評価との間に概念分離がない。
(両者が一体のものとして、相当因果関係による制限に服している。)
③損害の「算定」を支配する考え方として、具体的損害計算個別損害項目積算方式が採用。
個別損害項目積算方式:
損害を財産的損害と精神的損害(慰謝料)とに分けた上で、前者については、休業損害、治療費、介護費、入院費k、葬祭費、家屋改造費等の積極的損害(不法行為がなされたために被害者の既存の財産に生じた減少)と、逸失利益を中心とする消極的損害(被害者の財産に生じたであろう増加が、不法行為がなされたために生じなかったことによる損害)からなるものとして考える。
各個の損害項目ごとに当該具体的被害者の財産的不利益を確定し、それを総計することで全体の損害額を確定するという操作がなされる。
具体的損害計算:損害を当該具体的被害者に即して確定していくという立場。
④損害の発生を基礎づける事実についての証明責任を被害者側に課す
⇒権利侵害によって生じた不利益な状態のみならず、金銭評価を基礎づける事実についての証明責任も被害者側に負担させる。
権利侵害によって生じた不利益の証明責任については、損害を構成する個々の項目(損害項目)についての証明を念頭に置いているのが、伝統的な立場。
判例での差額説の修正 差額説を基調としつつ(最高裁昭和42年11月10日)、これを貫いた時に修正を図る。
現在および将来の所得の減少が認められない場合であっても、例外的に、特段の事情があれば、後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の賠償が認められる。
特段の事情としては、
「事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであって、かかる要因がなければ収入の減少を来しているものと認められる場合」や、
「労働能力の喪失の程度が軽微であっても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、とくに昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合」などが想定。(最高裁昭和56.12.22)
差額説への批判 ①どういう判断を経てそのような差額計算に至ったのか・・・さらに、その前提として、現実の利益状態や仮定的利益状態をどうやって確定するのか・・・という点の正当化こそが、差額説の支持者に求められる。
②被害者に不利益が発生したという事実状態の確定の問題と、これを金銭面でどのように評価するかという問題の次元の違いが意識されていない。
B:損害事実説 小指の負傷という事実を損害として捉え、その損害をいくらに金銭評価するかでピアニストと会社員との違いが生じるとする理解。

実際、死亡や負傷という事実の金銭的評価は、政策的・裁量的な評価の問題であることが多く、損害とその金銭的評価を区別する視点が有用。
最高裁判例 最高裁昭和42.11.10:
現実に収入減がなければ逸失利益はない⇒差額説に立った議論。
最高裁昭和56.12.22:
「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである」
~結果的に逸失利益の賠償を否定したとはいえ、損害事実説に理解を示す判示を行った。
下級審 交通事故で脾臓を失った九州大学歯学部の学生について、その後の研究医としての収入に影響がなかった場合でも、15%の労働能力喪失率を肯定した例。(福岡地裁H4.5.29)
差額説⇒実際に収入の減少がなければ逸失利益はない。
労働能力喪失説⇒労働能力喪失率に応じた逸失利益が算定される。
損害の金銭的評価 物・財産権 物の滅失:その物の交換価値
物の損傷:修理代と修理期間中代替物を借りなければならなかった費用(レンタカー料金等)
基準時 大連判大正15.5.22(富喜丸事件):
損害額の算定は原則として不法行為時(物の滅失損傷時)の交換価格が基準となる。
中間最高価格を基準とするには、債務不履行による損害賠償に関する416条を類推適用して、その時点で被害者が転売するなどして確実に利益を得たであろうという「特別の事情」があり、かつその「特別の事情」が不法行為当時加害者において予見可能であったことを原告が証明しなければならない。

①不法行為にも416条が類推適用されることを明らかにした
②賠償額算定の基準時の問題にも同条の論理を用いた
民法 第416条(損害賠償の範囲)
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
内田Ⅱp391
不法行為の目的は、不法行為がなければあったであろう状態を回復すること。

その物が特定物か否か、転売予定か否か、などを考慮したうえで、被害者に不法行為がなければあったであろう地位を回復する、という理念から選択すべき。

●原則は、賠償を得る時(実際上は事実審口頭弁論終結時)とするのが筋

不法行為時の評価で賠償を得ても、賠償を得る時点で、不法行為がなかった場合と同等の地位が回復されるとは限らない。
●不特定物の場合は、基準時は原則として代替物を購入し得たであろう時点(実際に入手した場合は、合理的な方法である限り、その額)

通常は、被害者は合理的な期間内に代替物を入手することが期待でき、訴訟が確定するまで不便を忍んで待っていたことによる損失を全て賠償させる必要はない。

中間最高価格の問題は、不特定物に関しては通常は生じない。
●特定物や、不特定物でも代替品の入手が期待できない場合で、判決時以前の価格高騰時に転売していた蓋然性が高い場合には、それを考慮して基準時を選択すべき。
●重要なのは、客観的な蓋然性であって加害者の予見可能性ではない。
⇒416条の適用対象と考えるべきではない。
身体・生命 傷害 ①被害者が現実に費やした費用(積極的損害)
②失った得べかりし利益(消極的損害)
③精神的損害(慰謝料)
の、個別損害積み上げ保水気
別原因による死亡 最高裁H8.4.25:
「交通事故の時点で、死亡の原因となる具体的事実が存在し、近い将来のいける死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない」

傷害による労働能力喪失という損害を金銭評価する際に、通常は、就労可能期間の得べかりし利益を計算するが、それは賠償額算定の手法のひとつに過ぎず、損害そのものは傷害を負った時点で発生している。
したがって、その後に被害者がたまたま別の原因で死亡したからといって、当然に賠償が減縮されるべきものではない。
介護費用 介護費用が損害として認容されている場合は、被害者が死亡した後の介護費用は控除すべき。(最高裁H11.12.20)

将来の介護費用が賠償の対象となるのは、引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからであるが、被害者が死亡すればその時点で介護は不要になるから、「その費用をなお加害者に負担させることは、被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり、かえって衡平の理念に反することになる」から。

傷害と言う損害による逸失利益の算定においては、別原因による死亡を考慮すべきではないが、介護費用のような積極的損害の賠償は、被害者が現実に支出すべき費用を補てんするという性質をもつから、支出する必要がなくなった分は控除すべき
慰謝料 補完的機能 精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料の算定にあたって、裁判官は、その額を認定するに至った根拠を示す必要がなく、算定の際に考慮した事実をいちいち説示する必要もなく、また、原告が請求額の証明をしていなくても、裁判所は、諸般の事情を斟酌して慰謝料の賠償を命じることができる。(最高裁昭和47.6.22)
その際、斟酌すべき事情に制限がないから、被害者の地位・職業等はもとより、加害者の社会的地位や財産状態をも斟酌することができる。(大判大正9.5.20)
1個の不法行為に基づく財産的損害の賠償請求権と非財産的損害の賠償請求権とは、1個の訴訟物を構成する。それゆえ、原告被害者の請求額の範囲内であれば、裁判所は、原告が提示した内訳に拘束されない。原告の請求額を超えない範囲であれば、原告の提示した慰謝料額を越えて慰謝料を認容してよい。(最高裁昭和48.4.5)
法人の慰謝料 慰謝料:最低限、精神的・肉体的苦痛を癒すことを目的とする(精神的損害填補機能)。法人自体の精神的・肉体的苦痛を観念することはできない⇒慰謝料請求権は認められない。
but
法人への名誉毀損が問題となった事件で、財産的損害に包摂されない「金銭評価の可能な無形損害」が発生した場合にこれを金銭で賠償させることができる旨判示。
(最高裁昭和39.1.28)
but
学説は批判的。(潮見p261)
休業損害 給与所得者 事故前の収入を基礎として受傷によって休業したことによる現実の収入減の額とされる。
家事従事者 賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として、受傷のため家事労働に従事できなかった期間につき認められる
医療過誤 生存可能期間 最高裁H11.2.25判決:
医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定される。
患者が同時点の後いかほどの期間生存し得たかは、週に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき自由である。
⇒患者の逸失利益の算定に当たって、生存可能期間(余命)の認定がもんだと位となり得る
相当程度の可能性理論 最高裁H12.9.22判決:
疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてはなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。
(鑑定によれば「適切な救急治療が行われたならば、確率は20%以下ではあるが、救命できた可能性は残る」というものであった。)

生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は方によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができる
最高裁H15.11.11判決(相当程度の可能性理論の重大な後遺障害への適用):
患者の診療に当たった医師が、過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において、その転送義務に違反した行為と患者の上記重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも、適時に適切な医療機関への転送が行われ、同医療機関において適切な検査、治療等の医療行為を受けていたならば、患者に上記重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと解するのが相当である。
最高裁H16.1.15判決(相当程度の可能性理論の診療契約上の債務不履行責任への適用):
医師に適時に適切な検査を行うべき診療契約上の義務を怠った過失があり、その結果患者が早期に適切な医療行為を受けることができなかった場合において、上記検査義務を怠った医師の過失と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されなくとも、適時に適切な検査を行うことによって病変が発見され、当該病変に対して早期に適切な治療等の医療行為が行われていたならば、患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときには、医師は、患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき診療契約上の債務不履行責任を負うものと解するのが相当である。

遅延利息
遅滞に陥る時期 債権の原則 第412条(履行期と履行遅滞) 
債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
期限の定めのない債務は、発生の同時に履行期にある。⇒債権者はいつでも履行の請求をできる。
but
債務者が遅滞となるためには、債権者の催告を必要とする。
催告は債務の同一性を認識できれば足り、数量または金額等に過不足があってもかまわない。
催告にあたって「10日以内に」とか「月末までに」というように一定の期間を定めた場合には、その期間を徒過すれば直ちに遅滞となる。
催告日から遅滞に陥るのではなく、催告日の翌日から遅滞に陥いる。(最高裁大正10.5.27)
不法行為の場合 期限の定めのない債務であるが、民法412条3項は適用されず、「不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥る」(最高裁昭和37.9.4)

①民法704条における悪意受益者の利息支払義務との権衡上、騙取地からの遅延利息の請求が正当化される。
②他人物の侵奪(窃盗)という、ローマ法以来催告を要せずに侵奪時から遅滞に陥るとされている類型が問題となっているのであって、そこでは、損害が物の交換価値により把握されることから侵奪時に損害賠償義務が具体的債務として成立する。

請求権競合が問題となる局面では、契約違反を理由として損害賠償請求をすれば、請求時から遅延利息が付されるのに対し、不法行為を理由とすれば、損害発生時から遅延利息が付くことになる。
弁護士費用 「被害者が当該不法行為に基づくその余の費目の損害の賠償を求めるについて弁護士に訴訟の追行を委任し、かつ、相手方に対して勝訴した場合に限って、弁護士費用の全部又は一部が損害と認められるという性質のものであるが、その余の費目の損害と同一の不法行為による身体障害等同一利益の侵害に基づいて生じたものである場合には一個の損害賠償債務の一部を構成するものというべきであるから、右弁護士費用につき不法行為の加害者が負担すべき損害賠償債務も、当該不法行為の時に発生し、かつ、遅滞に陥るものと解するのが相当である」(最高裁昭和58.9.6)
弁護士費用相当額の損害賠償請求権の消滅時効について、不法行為時ではなく報酬支払契約時を起算点とする。(最高裁昭和45.6.19)
自賠法16条1項 自賠法 第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)
第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる

自賠法 第3条(自動車損害賠償責任) 
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
自賠法16条1項に基づく被害者の保険会社の保険会社に対する保険金支払請求権は、同条1項が被害者の運行供用者および運転者に対する損害賠償請求権とは別に保険会社に対する直接請求権を認めた法意に照らすと、同条3条の保有者の損害賠償責任の発生した時点において期限の定めのない債務として成立し、民法412条3項により保険会社が被害者からの履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。(最高裁昭和61.10.9)
同様に、自賠法72条に定める政府の損害填補金支払債務も期限の定めのない債務であり、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。(東京地裁昭和62.6.30)

★使用者責任(内田Ⅱp482~)
規定 民法 第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない
■    ■「事業の執行について」 
事業の執行の為に<「事業の執行について」<事業の執行に際して
●取引行為と使用者責任 
◎一体不可分説
かつて一体不可分説:「事業の執行について」とは「事業の範囲に属する行為又はこれと関連した一体を為し不可分の関係にある行為」
◎外形理論 
最高裁昭和40.11.30:
「事業の執行につき」とは、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含する
判例は、外形理論を肯定するための基準として、
①加害行為が被用者の本来の職務と相当の関連性を有すること
②被用者が権限外の加害行為を行うことが客観的に容易な状態に置かれていること
を挙げる。
◎職務との関連性 
最高裁H22.3.30:
貸金業等を目的とするY会社の従業員Aが、自らの横領金の穴埋めのため、有利に運用すると偽って顧客Xから金員をだまし取った事例:
原審:貸金業にとって原資の調達は客観的・外形的に見てAの職務に含まれる
最高裁:本件欺罔行為がYの事業の執行についてされたものであるというためには、貸金の原資の調達が使用者であるYの事業の範囲に属するというだけでなく、これが客観的、外形的にみて、被用者であるAがが担当する職務の範囲に属するものでなければならない」と述べ、Aが担当する職務の内容、Yの資金調達に関するAの職務権限、当該職務と本件欺罔行為との関連性等に関し、何ら主張立証がなされていないことを指摘して、Xの請求を棄却した一審を支持。
◎手形の振出・裏書 
最高裁昭和61.11.18:
厳密には雇用関係はないが建設会社の営業所長代理の肩書を与えられていた者が、権限なく所長名義の手形裏書を偽造したケースで、使用者責任を肯定。
最高裁昭和43.1.30:
護岸工事を請け負ったY建設会社が現場に設置した小規模な作業所の主任Aが、出入り業者に約束手形を振り出した事案で、Aの職務権限には手形振出行為は含まれておらず、額面の大きさからしても、この手形振出行為がAの職務の範囲内に属するとの外形もない。
◎相手方の信頼 
外形理論は、取引行為的不法行為に適合的な判断基準。
←取引行為の場合の使用者責任は、正当な権限が存在するという外観に対する信頼を裏切られた相手方を保護する機能を果たす。」
最高裁:たとえ被用者の行為が外形からみて使用者の職務権限内で適法に行われたものではなく、かつ、相手方がその事情について悪意であったか、または重過失によって知らなかった場合には、事業の執行について第三者に加えた損害とはいえないと判示。

過失⇒過失相殺の問題
悪意・重過失⇒不法行為の成立を否定。
●事実行為と使用者責任 
◎自動車事故 
最高裁:外形理論を適用し、外形上職務行為の範囲内の行為と認められればよい
vs.
自動車事故のような事実行為のいては、相手方の信頼は問題とならない。
被害者保護の観点⇒資力のある使用者の責任を広く認める方がいい
使用者の側⇒実際上免責が認められることはほとんどないとはいえ、選任・監督上の過失がない場合の免責が規定されている以上、およそ選任・監督上のコントロールを及ぼしえない場合にまで責任を負わせるのは使用者責任の趣旨に合致しない。

加害行為が客観的に使用者の支配領域内の危険に由来するか否かで判断すべき。
ex.
会社の事業用の車による自動車事故の場合、自動車とう危険物の管理は会社の支配領域内にある⇒一般に使用者責任が認められやすい。
◎責任否定事例 
建設会社の社員が、出張に自家用車を利用して出かけ、その帰途に事故を起こしたというケース(最高裁昭和52.9.22)。

①自家用車による事故、
②会社は通勤への自家用車の使用を原則として禁止し、出張への使用についても上司の許可を要求していたが、本件加害者は会社に無届けで自家用車を使用、
③加害者はそれまで会社の業務に関して自家用車を使用したことがなかった
⇒使用者の支配・監督が困難であり、「事業の執行について」とは認められにくくなる。
◎暴行 
損害を発生させたのはAの主体的な行為であって、誰かの管理する危険物ではない
⇒「使用者の支配領域内の危険」であるか否かの基準も判断基準として有用ではない。
最高裁:「Y会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為」であるか否かという基準を採用。

使用者の管理する危険ではなく被用者の主体的な行為が損害を発生させた場合には、事業の執行行為との密接関連性が判断基準とされた。
◎まとめ 
A:取引行為的不法行為⇒外形理論
B:事実行為的不法行為
a:危険物型(自動車事故型)⇒支配領域内の危険
b:暴行型⇒事業の執行行為との密接関連性


★共同不法行為
規定 第719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
709
条の原則
一般原則 709条⇒加害者が複数でも、自らの加害行為と事実的因果関係がある損害についてのみ賠償責任が生じる。
加害者が複数の場合も、独立の不法行為が競合したのであれば、709条で処理。
ABは過失の大きさに応じて負担。(求償類型の不当利得)
一般原則の不都合 ●共謀のある場合
暴力団組員ABがXを襲い、Aが腕を、Bが足を折った。
⇒事実的因果関係がなくても責任(719条1項前段)
●加害者不明の場合
AもBもXを撃った。どちらの珠が当たったかわからない。
⇒因果関係の立証がなくても責任(719条1項後段)
伝統的見解(判例)
潮見Ⅱp127
共同不法行為の成立要件として、
①共同行為者各自の行為(個別行為)が不法行為の要件(権利侵害ないし違法性、故意・過失、因果関係。なお責任阻却事由としての責任無能力)を備えていることを要求しつつ
②複数の行為の間の関連共同、つまり各人の違法行為が「関連共同」して損害の原因となったことを要求。
伝統的な感が桁によれば、個々の行為者の故意・過失、因果関係(個別的因果関係)がXの主張・立証すべき請求原因事実となる⇒共同不法行為の場合と民法709条の不法行為責任が競合する場合とで、違いはない。
関連共同性の要件が加わることで、因果関係の相当性判断が被害者に有利に緩和されるというだけ。
最高裁昭和29.4.2:
賃借家屋の無断転借人と同家屋の一部分についての2人の無断転々借人の共同不法行為責任が問われた事件
最高裁昭和31.10.23:
無権限で土地上に建物を建てて所有する者と、この者から地上建物を賃借した20名の者について、地上権者に対する共同不法行為責任が問われた事件
なお、建物賃借人については、地上権者の権利侵害との相当因果関係なしとして責任が否定された
最高裁H13.3.13:
交通事故と医療過誤の競合事件。
「それぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為」という表現を用いている。
教唆・幇助者と共同不法行為(潮見Ⅱp172)   ■教唆者・幇助者の意義 
教唆者:
他人に不法行為の決意を生じさせた者
刑法におけるのこと異なり、教唆するにあたり、教唆者に被害者の権利・法益侵害について故意があった場合のみならず、過失があった場合も含む。
幇助者:他人が不法行為をするのを容易にする行為をした者。
■   ■民法719条2項の意味 
●起草時の理解
起草時:教唆者や幇助者は、直接に加害行為をした者とはいえない⇒これらの者に対して損害賠償責任を負わせるには同条2項のような規定が必要との理解。

教唆者・幇助者については、侵害結果と教唆・幇助行為との間に相当因果関係は認められないが、このような者も連帯責任に取り込むため、(相当因果関係面での)擬制をしたのが同条2項。
●現在の理解・・・確認的規定としての民法719条2項 
民法719条1項前段の「共同の行為」につき主観的共同のにならず客観的共同をも含めるならば、教唆者や幇助者の行為については、同条1項前段の「共同の行為」に含まれるものといってよい。
⇒同条2項の規定は確認的規定。
「教唆」「幇助」という要件に該当しなくても、個々の事件で、直接の加害行為者の行為に関係した者について、「共同の行為」(強い関連共同)としての性質が認められたり、競合的不法行為であるものの「寄与度」についての主張・立証責任が転換された全部連帯責任が認められる場合であるとされることは、否定されない。
■    ■他者の行為に関与した者の民法709条に基づく不法行為責任・・・「間接侵害」・「間接的行為者」をめぐる問題 
教唆者・幇助者、広くは他者の行為に関与した者の行為を民法719条の問題とせず、この者の単独不法行為と捉え、民法709条のもとで、損害賠償責任を負わせることも、当然に可能。
最高裁判決:
中学生グループの1人が線路のレールに置き石をして列車が脱線転覆したときに、実行行為者と事前にその動機となった話合いをし、これに引き続いてされた実行行為の現場にも居合わせた・・・しかし、当該具体的実行行為については認識も共謀もなかったし、「見張り」をしていたわけでもない・・・者につき、実行行為と関連する先行行為に基づく事故回避措置義務の違反を理由に民法709条jjによる損害賠償責任を認めたもの。
単独の不法行為として評価される者の行為それ自体について、
①権利・法益侵害について故意・過失 、
②この者の行為と被害者の権利・法益侵害との間の因果関係(個別的因果関係)、
③被害者の権利・法益侵害がこの者の禁止・命令規範の保護目的の範囲内に該当すること
といった民法709条の要件を充足することが要求。
加害類型と719条 加害類型 ①加害行為一体型 加害行為一体型:
各人が別々の不法行為を行っているのではなく、全体としてひとつの加害行為がなされていると評価される場合
ex.暴力団組員ABがXを襲い、Aが腕を、Bが足を折ったケース。
719条1項前段
②損害一体型 損害一体型:
加害行為は別々になされているが、被害に一体性があって(どれが誰の加害行為の結果か分からない)、個々の加害行為が損害との関係でどこまで事実的因果関係があるか分からないケース。
ex.企業ABCが別々に有毒な原液を河に流し、下流で農作物に被害。
719条1項後段を類推適用
③独立不法行為競合型 独立不法行為競合型:
独立の不法行為がたまたま合したに過ぎない場合
加害行為も別だし、損害も、加害行為と事実的因果関係のある損害を確定できる。
ex.ABがそれぞれおなじ(又は別の)ガラスを割った。
709条
④加害者不明型 加害者不明型:
加害行為を行った複数の主体のうち、誰かが加害者であることは明らかだが、それが誰であるかわからないケース。
ex.どちらの弾があたったかわからない。
719条1項後段
719条の構造 前段 両者によって行われた「襲撃」というひとつの加害行為と因果関係がある以上、ABの個々の行為と因果関係がなくても、責任を及ぼすのが妥当。
後段 1項後段の法律的意味は、加害者が不明である限り因果関係を推定するところにある。
(一方との因果関係がないことが立証されれば、1項後段の適用からはずれる。)
加害者でありうる数人の者が特定でき、それ以外に加害者となりうる者は存在しない場合に限って、1項後段は適用すべき(原告がその証明をする必要)。
損害一体型 Aの加害行為が損害発生に寄与しているであろうことは容易に想像されるが、生じた損害にどこまで寄与しているのか(どこまで事実的因果関係があるのか)の立証は困難。
この場合、因果関係の立証が尽くされていないとして原告敗訴とするのは1項後段とアンバランス⇒因果関係を推定する1項後段を類推適用。
学説 客観的関連共同 ●「加害行為一体型」はどのようは事案類型であるかを判定する基準
⇒加害者間に存在する一定の結合関係をメルクマール。
客観的関連共同:
違法行為が関連共同して損害の原因となること
「客観的に一個の共同行為があるとみられること」
AB2台の自動車が双方の運転者の過失で衝突して、通行人Cに怪我を負わせた場合、719条1項前段の不法行為が成立。
vs.
各加害行為と損害との間には通常の意味での事実的因果関係が存在し、ABともに、709条により、全損害について賠償責任が成立。
(独立不法行為競合型になる。)
ここまで客観的関連共同性を広げることは、719条の独自の存在意義を希薄にする。
主観的関連共同 719条の強い効果を認めるにふさわしく、かつ「独立不法行為競合型」と明確に区別できり基準⇒主観的関連共同
「各自が他人の行為を利用し、他方、自己の行為が他人に利用されるのを認容する意思を持つこと」
過失による関連共同もある⇒その場合客観的関連共同との違いが不明。
主観的関連共同を共謀がある場合に限定すrと、余りに1項前段の適用領域を限定することになる。
帰責における一体性 結局判断の基準は、主観的/客観的関連共同という表現の中にはなく、
法的に見て、複数の加害者の加害行為が、損害との関係で、ひとつの加害行為と評価できる程に帰責における一体性を有するかどうかにかかっている。

全損害についての賠償義務を負わせるのが妥当な程度に加害行為に一体性があるかどうかという、評価の問題。
具体例 事例Ⅰ
工場廃液
●複数の工場廃液による損害:
各加害行為は独立⇒損害一体型⇒1項後段の推定
加害者間に強い一体性が認められる場合⇒1項前段の加害行為一体型となる可能性もある。
大阪地裁H3.3.29:西淀川大気汚染公害第1次訴訟
各企業の寄与度不明の損害について、719条1項後段の共同不法行為を肯定し、加害行為に社会的に見て一体性が認められる場合には、これを「強い関連共同性」と呼んで719条1項前段の共同不法行為を肯定。
1項後段の推定が及んでも、寄与の度合いが明らかに著しく小さい加害者には、裁量による賠償額の減額を認めるべきとの学説(大阪地裁H33.29も肯定)。

1項後段のん推定は及びつつ(事実的因果関係はある)、保護範囲ないしはその範囲内の損害に対する寄与度が、損害全額にまでは及ばない場合。
当該加害行為が損害発生に寄与した割合の限度で賠償義務を負うとの原理が働く場面。
事例Ⅱ
2台の車の衝突による通行人の怪我
●2台の車の衝突による通行人の怪我
伝統的には共同不法行為とされてきた。
but
①加害行為である過失による車の運転そのものは、全く別個独立のもので、互いに利用し合う一体性はない
②加害行為は全損害との関係で事実的因果関係があるのが普通

共同不法行為いとして扱う必然性もなく、厳密には独立不法行為競合型。

各加害者の損害賠償額の算定は別個になされるが、結果的には多くの場合、賠償額は全部が重なる事になる。(法719条1項前段を適用した場合と結論において違いはない)
法719条1項前段の共同不法行為の特色は、事実的因果関係のない損害についても賠償責任を負わせ、よって加害者の責任を加重するとkろにあるが、この事例では、ABともにCの損害との間で事実的因果関係がある。
Bの車がCに衝突したことについて、Aの過失行為が加功していることは、Bにとって責任を軽減する方向で働く事実ではあっても、単なるBの過失のみで事故が生じた場合より以上に、Bの責任を加重する方向には作用しない。
事例Ⅲ
廃液化合の事例
●AB向上からの廃液が、それぞれは無害なのに化合した結果有害となって被害を発生させた場合。
互いに化合による損害発生を予見できない⇒過失を認定できない
結果の発生を認容していたとか、AB両工場の操業に密接な関連性⇒加害行為に一体性
ABに単純な過失があるにすぎない⇒事例Ⅱと同様
事例Ⅳ
道路管理の瑕疵
●国道に大きな穴があいていて放置。トラックの運転手Aがぼんやり運停し気づくのが遅れ、急ハンドルで歩行者をはねる。
①運転者Aとの関係で加害行為が一体とはいえない
②道路の穴が原因となって被害⇒管理の瑕疵は被害全体との間に因果関係を有する
③Aの運転と道路管理の瑕疵は、ともに全損害との因果関係を有し、その意味でいわゆる「損害一体型」でもない

独立不法行為競合型として709条および国賠法により処理。
それぞれの加害行為が損害発生に寄与した割合(帰責性の割合)を「考慮して、寄与度減責の可能性。
減額された場合は、
重なった限度で連帯責任(部分連帯)。
事例V
事故+医療過誤
●Aの過失による交通事故の後、被害者Cを治療した医師Bの過失で被害が拡大。
判例:通常、共同不法行為として扱う。
but加害行為の一体性はない。
Aの加害行為と全損害とは事実的因果関係があるが、Bの加害行為と一部の損害とは事実的因果関係はない。
butその部分を確定することは困難。
⇒その限りで損害一体型。
医師が自己の加害行為と因果関係のない損害を明らかにすれば、その部分は賠償責任を負わない。
医師の行為が加わって損害が拡大⇒Aの賠償義務について賠償額の減額がなされるべき。
(因果関係の不存在による免責ではなく、保護範囲が及ばないこと、あるいは寄与度を理由とする減額)
共同不法行為の存在意義と効果 共同不法行為の意義は、事実的因果関係の要件を緩和することにある。
①加害行為一体型、②加害者不明型⇒損害の全額について常に連帯責任。
③損害一体型~事実的因果関係が推定されても、加害行為自体は個別に観念できる
⇒独立不法行為競合型のばあいと同じく、損害賠償の範囲は、各加害者ごとに判断されうる。
⇒保護範囲の判断や過失相殺、寄与度減責により、賠償額が他の加害者より小さくなる余地が生じる。
最高裁H13.3.13:
医療過誤をおかした医師に、被害者の死亡という全損害との関係で賠償責任を負わせたうえで、重篤な状態を見過ごしたAの両親の過失を被害者側の過失として斟酌し、医師がおる賠償責任の減額を認めた。
(自転車を運転していたAにも不注意があったが、それは交通事故の加害者との関係でのみ斟酌すべきだとされた。)
効果 不真正連帯債務 不真正連帯債務(連帯債務におけるような絶対的効力を認めたない連帯債務)

①連帯債務だと、債務者の1人について生じた免除や混同、時効という効果が他の債権者にも及び(絶対的効力事由)、債権の効力が弱くなる。
②共同不法行為の場合、独立不法行為競合型よりも加害者を保護すべき理由はない。

その点で、独立の不法行為が競合した場合と同じになる。
共同不法行為者の1人に対する免除は相対効(最高裁H6.11.24)。
ただし、加害者の1人に対する免除に際し、他の加害者の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、免除の効力が他の加害者にも及ぶ(最高裁H10.9.10)。
共同不法行為者間の求償 過失の割合 共同不法行為の加害者間には、解釈上、過失の割合(あるいは損害への寄与の割合)に応じた求償が認められる(通説・判例)。

①認めなければ現実に賠償した加害者が全部負担することとなる結果、誰も進んで賠償しようとはしなくなり、被害者の保護に欠ける。
②加害者間についてみても、求償を認めるのが公平にかなう。
その法的性格は一種の不当利得。
ABの共同不法行為によりCに100万円の損害が発生し、ABの過失割合が7対3と認定
⇒AがBに対して求償できるのは、自らの「負担部分」である70万円を超えて賠償金を支払った場合。(それ以下の弁済額でも3割を求償できるというわけではない。)
使用者責任との関係 Xの自動車がYタクシー会社のAが運転するタクシーと衝突。
Xの車はAの車の後ろに続いていたB車に接触して物損を与えた。
Xは、Bに損害賠償を支払い、Aの使用者であるY会社に求償。
XAの過失割合は2対8.
原審:XAYの過失割合は2:8:0であり、Yに対する求償はできない。
最高裁:原審を破棄して求償を認容。
利益の存するところに損失をも帰せしめるという715条1項の規定の趣旨に照らせば、「被用者が使用者の事業の執行につ第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合には、使用者と被用者とは一体をなすものとみて、右第三者との関係においても、使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解すべきである」
Yが被害者に全額の賠償をしてXに求償した場合は、Xの負担部分は、XとAの過失の割合に従って定められるべき。(2割の求償が可能)
加害行為一体型の場合 上記事案は、独立不法行為競合型に属する。
加害行為一体型の事案の場合
(ex.Y会社の会計担当者AがXと共謀して会社名義の手形を振り出してBに損害を与え、共同不法行為者の1人であるXが全額賠償した後にYに求償)

Y会社はAやXとの関係ではむしろ被害者であり、XがYに求償できるのはおかしい。
平成3年判決 Aがクレーン車を運転し、Bがワイヤーロープに鋼管をつり下げる作業をしていたところ、両名の過失により鋼管が移動中にワイヤーロープから抜け落ちてCの背中に激突し、Cが重傷を負った。
AはXの従業員で、AはYの指揮監督下にあった。BはY社の被用者。
Aの使用者としてCに賠償金を支払ったX会社は、Y会社に求償を行った。
問題:
①共同不法行為者ABのそれぞれに異なった使用者XYがあり、XからYに対する求償の問題。
②Aについては使用関係が二重になっており、XYがともにAの使用者の地位にある。
原審:ABXYを全て同一線上の共同不法行為者として捉え、それぞれの過失割合を認定するよう自己責任説的構成。
最高裁:
①の問題について「使用者は、その指揮監督する被用者と一体をなすものとして、被用者と同じ内容の責任を負う」として、昭和63年判決を引用し、XはAの過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて賠償したときは、その超える部分につきYに求償できる。
②問題について「各使用者間の責任の内部的な分担の公平を図るため」求償を認め、責任割合については、「被用者である加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者の事業の執行との関連性の程度、加害者に対する各使用者の指揮監督の強弱」などを考慮して定めるべき。
その際、被用者に対する求償の問題については「求償しうる部分の有無・割合は使用者と被用者との間の内部関係によって決せられるべきものであるから」、使用者間の求償において考慮すべきではない。

被用者に対する求償の問題は、それぞれの使用者と被用者の内部関係の問題として捉えた。
過失相殺 ABC三者のj同社が、それぞれの過失を競合する形で事故を起こし、AとBに損害が生じた。
AがBあるいはCに対して損害賠償請求をする場合。
ABCの過失割合は1:2:3
Aに300万円の損害。
A⇒Bに請求:
AB間の相対的な過失割合で過失相殺⇒Aは200万円の賠償(相対的過失相殺)
絶対的過失割合⇒Aは6分の1⇒AはBから250万円の賠償を得られる(共同不法行為であるから、BはAの過失割合をである6分の1を除く全損害についてCと連帯して賠償責任を負う)
最高裁H15.7.11:「絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負う」
連帯責任の例外 被害者側の過失 最高裁:2台の自動車の衝突により一方に同乗していた運転者の妻が障害を負った事案で、夫と妻の「身分上、生活関係条一体」(財布はひとつ)の関係を考慮し、求償関係を一挙に解決。⇒夫の過失を被害者側の過失として考慮して、相手方運転者の損害賠償額から過失相殺することを認めた(最高裁昭和51.3.25)。
寄与度 損害一体型については、別個独立の加害行為について事実的因果関係が推定されるにすぎない(法719条1項後段類推)
⇒次のような減額の可能性:
①事実的因果関係の不存在を立証して賠償額の減額ないし免除を得ることが可能
仮に全損害との関係で事実的因果関係があるとしても、個々の加害者において、事実的因果関係のある損害のうち、それぞれの過失との関係で保護範囲内とされた損害に対してのみ賠償責任を負う事になる。
損害一体型の事案では、連帯責任というのは、賠償責任が重なる限度で事実上生じるにすぎない。
⇒寄与度の小さい加害者に連帯責任を免除し、部分連帯。
719条1項前段の加害行為一体型の共同不法行為においては、単なる寄与度の低さを理由に連隊を破ることは、現状では認められていない。
夫と第三者が共謀して妻を襲った場合、求償関係を一挙に解決するという理由で、夫の故意を考慮して第三者の損害賠償額を減額することは認めるべきではない。
加害行為に一体性があれば、寄与度による減額を考慮する余地もない。
上述の2つの場面が分割責任を生ぜしめるのは、もともと典型的な共同不法行為ではないために、理論的に、分割責任を導くのに障害がない事例だから。

その他
法人の不法行為
(内田Ⅱp500)
■代表者の不法行為 
●代表者の加害行為 
規定 会社法 第350条(代表者の行為についての損害賠償責任)
株式会社は、代表取締役その他の代表者その職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第78条(代表者の行為についての損害賠償責任)
一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第197条
前章第三節第四款(第七十六条、第七十七条第一項から第三項まで、第八十一条及び第八十八条第二項を除く。)、第五款(第九十二条第一項を除く。)、第六款(第百四条第二項を除く。)及び第七款の規定は、一般財団法人の理事、理事会、監事及び会計監査人について準用する。
旧商法261条3項「第78条・・の規定は代表取締役これを準用す
78条2項:民法第44条1項・・の規定は合名会社にこれを準用す
民法44条1項:法人は理事その他の代理人がその職務を行うにつき他人に加えたる損害を賠償する責に任ず

民法44条の「職務を行うに付き」は民法715条1項の「事業の執行につき」とその解釈を同一にする(新版 注釈民法2p303)。
法人の代表者の不法行為について、2006(平成18)年の民法改正までは総則の法人の章に置かれていた(旧44条)。
現在は、一般法人法(「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」)や会社法に規定が置かれている。(一般法人78条、197条、会社350条)
代表者を通して活動する組織体一般に妥当する責任

権利能力のない社団にも類推適用される。
代表者(業務執行者)の定めのある組合にも類推適用される。
以上の規定と715条がセットになることによって、法人の業務に関連して他人に損害が生じた場合、直接の行為者が不法行為の要件(709条)を充たしている限り、行為者が代表者であるとなかろうと法人が賠償の責任を負う。
■法人の役員の責任 
●代表者自身の責任 
一般法人法78条等で法人が不法行為責任を負うとき、行為者である代表者個人も被害者に対して損害賠償責任を負う。
●役員の第三者に対する責任 
■企業責任 
●企業の不法行為責任 
●適用事例 
公害や製造物責任に『関する判決に多い。
報道機関・雑誌出版社による名誉毀損が問題となる場合、特定の記者の過失を問題とすることなく、会社自体を709条で訴えることが多い。
基本的には、709条によって企業自身の不法行為責任を追及することを認めるべき

個々の被用者の過失を問題とすることに意味がない類型の不法行為である。
ex.ブレーキに欠陥のある自動車を製造・販売したこと自体が行為義務違反であって、それがどの部署の誰の義務違反に由来するかを詮索すること意味はない。
   

損害についての特別規定
民訴法 損害額の認定 民訴法第248条(損害額の認定)
損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる
民訴法248条によって認定すべき損害額は、ここまでは確実に存在したであろうと考えられる範囲に抑えた額ではなく、むしろ存在する資料等から合理的に考えられる中で、実際に生じた損害額に最も近いと推測できる額をいう(東京地裁H19.10.26)
金融商品取引法 虚偽記載等 推定規定 第21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
2 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。
3 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第二十五条第一項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。
4 第二項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。
5 前項の場合を除くほか、第二項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。
特許法 損害額の推定等 権利者利益に基づく損害賠償 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
特許侵害による侵害の中心が、侵害製品が流通したことによる売上減(それに伴う逸失利益)であるとの見方を基本に、特許権者の侵害行為がなければ特許権者が得ることのできた製品1個あたりの利益に新会社の販売個数を乗じた額を損害額と擬制することで損害立証を容易化した規定。
原告は、侵害者の支配下にある事実としては侵害製品の売上数量のみを立証すれば足り(文書提出命令に基づいて販売台帳等の売上数量に関する証拠資料のみを入手すればよい)、あとは自己が得ることのできた利益の額という自己の支配下にある事情を立証すれば足りる。
侵害者利益の推定 2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する
実施料相当額の賠償 3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
実施料率の認定に当たっては、発明協会研究所編「実施料率第5版」に掲載された「技術分野別実施料データ」が参考にされることが多い。
文書提出命令 特許法第105条(書類の提出等)
裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、書類の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された書類の開示を求めることができない。
3 裁判所は、前項の場合において、第一項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかについて前項後段の書類を開示してその意見を聴くことが必要であると認めるときは、当事者等(当事者(法人である場合にあつては、その代表者)又は当事者の代理人(訴訟代理人及び補佐人を除く。)、使用人その他の従業者をいう。以下同じ。)、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該書類を開示することができる。
4 前三項の規定は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟における当該侵害行為について立証するため必要な検証の目的の提示について準用する。