シンプラル法律事務所
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論点整理(ビジョナリーカンパニー@ 時代を超える生存の原則)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

ビジョナリーカンパニー@ 時代を超える生存の原則 ジェームズ・C・コリンズ 
  ★第1章 最高のなかの最高(p1) 
◆12の崩れた神話
×@すばらしい会社をはじめるには、すばらしいアイデアが必要である。
具体的なアイデアをまったく持たずに設立されたものもあり、スタートで完全につまずいたものも少なくない。
スタートで後れをとるが、長距離レースには勝つことが多い。

×Aビジョナリー・カンパニーには、ビジョンを持った偉大なカリスマ的指導者が必要
〇偉大な指導者になることよりも、長く続く組織を作り出すことに力を注いだ。

×Bとくに成功している企業は、利益の追求を最大の目的としている。
目的はさまざまで、利益を得ることはそのなかのひとつにすぎず、最大の目標であるとはかぎらない。
but
利益を最優先させる傾向が強い比較対象企業よりも、ビジョナリー・カンパニーの方が利益をあげている。

×Cビジョナリー・カンパニーには、共通した「正しい」基本的価値観がある。
基本的価値観に「正解」と言えるものはない
「洗練されたもの」や「人道的なもの」であることが多いが、そうである必要はない。
決定的な点は、理念の内容ではなく、理念をいかに深く「信じて」いるか。
会社の一挙一動に、いかに一貫して理念が実践され、息づき、現れているか。
「われわれが実際に、何よりも大切にしているものは何なのか」という問いを立てる。

×D変わらない点は、変わり続けることだけである。
基本的価値観は揺るぎなく、時代の流れや流行に左右されることはない。
基本低価値観が百年をはるかに超えて変わっていないケースすらある。
基本理念をしっかりと維持しながら、進歩への意欲がきわめて強いため、大切な基本理念を曲げることなく、変化し、適応できる。

×E優良企業は、危険を冒さない。
「社運を賭けた大胆な目標」に挑むことをおそれない。
胸躍るような大冒険⇒人は引きつけられ、やる気になり、前進への勢いが生まれる。

×ビジョナリー・カンパニーはだれにとってもすばらしい職場。
〇ビジョナリー・カンパニーはその基本理念と高い要素にぴったりと「合う」者にとってだけ、すばらしい職場。
存在意義、達成すべきことをはっきりさせている⇒厳しい基準に合わせようとしなかったり、合わせられない者には、居場所はどこにもない。

×綿密で複雑な戦略を立てて、最善の動きをとる。
〇ビジョナリー・カンパニーがとる最善の動きのなかには、実験、試行錯誤、臨機応変によって、そして、文字どおりの偶然によって生まれたものがある。
「大量のものを試し、うまくいったものを残す」方針の結果であることが多い。

×根本的な変化を促すには、社外からCEOを迎えるべき。
〇比較対象企業と比べて、社外の人材を経営者として雇用する確率が6分の1
根本的な変化と斬新なアイデアは社内からは生まれないという一般常識は、何度も繰り返し崩されている。

×Iもっとも成功している企業は、競争に勝つことを第1に考えている。
自らに勝つことを第1に考えている。
「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるか」と厳しく問い続けた結果、自然に成功が生まれてくる。
どれほど目標を達成しても、どれほど競争相手を引き離しても、「もう十分だ」とは決して考えない。

×J2つの相反することは、同時に獲得することはできない。
〇「ANDの才能」を大切にする。
AとBの両方を同時に追求できるとする考え方。

×K経営者が先見的な発言をしているから。
基本理念を活かすために、何千もの手段を使う終わりのない過程をとっており、これは、ほんの第1歩にすぎない。
◆調査プロジェクト(17頁)
■出発点・・・・3Mのビジョンを示した指導者はだれか
  調査プロジェクトには2つの大きな目標:
@ビジョナリー・カンパニーに共通する(そして、ほかの会社から際立っている)特徴やダイナミクスを見つけ、それらの結果をもとに、実践の場で役に立つ概念の枠組みをつくる。
Aこれらの結果や概念を効果的に伝え、それによって、経営手法に影響を与えたり、ビジョナリー・カンパニーを設立し、築き、維持する力になりたいと考えている人々の役に立つようにする。
■ステップ1:どの会社を調査すべきか 
■ステップ2:「自社ビルを見つける」落とし穴を避ける・・・比較対象グループ
×「これらの会社の共通点は何か」という問いの立て方。
〇「これらの会社が本質的に違う点は何か。ほかのグループ会社と比べて際立っている点は何か」という問いを立てるべき。

出発点が似ているほかの企業と対照させながら調査する以外に方法はない。
比較対象企業:
@設立時期が同じ
A設立時の商品や市場が似ている
BCEOへのアンケート調査で社名があがった回数が少ない
C負け犬ではない
■ステップ3:歴史と発展
□時代を超えた原則を発見する 
■ステップ4:データを詰め込み、何か月もかけてコンピューターで分析し、カメを探す。
  ダーウィンがガラパゴス諸島で見たカメ
■ステップ5:努力の成果を収穫する 
生物学(とくに進化論)、遺伝子工学、心理学、社会心理学、社会学、哲学、政治学、歴史、文化人類学など、ビジネス以外の本を幅広く読んでいった。
←独創性を大切にした。
◆データはあくまでデータ 
  重要な変数を1つ変化させるという手法はとれない
←企業を純粋培養するわけにいかない。
★第二章 時を告げるのではなく、時計をつくる(p35) 
  事実と食い違う2つの神話:
@すばらしいアイデアの神話
A偉大なカリスマ的指導者の神話
■「すばらしいアイデア」の神話 
ビル・ヒューレットとデーブ・パッカード:最初に会社をはじめることを決め、そのあとで、何をつくるかを考えた。
テキサス・インスツルメント:設立時の構想が大成功を収めた。
ソニー:井深大が会社を設立したとき、具体的な製品のアイデアはなかった。
ケンウッド:具体的な製品分野を念頭においていた。
サム・ウォルトン:
「何をはじめるのか、先はみえなかったが、仕事にはげみ、顧客を大切にするかぎり限界はないと、いつも信じていた」
20年経った頃、郊外のディスカウント・ショップという「すばらしいアイデア」にぶつかった。
ウォルトンと同じことをやろうとしていた小売り企業はほかにもあった。ウォルトンは、同じことをほかのだれよりもうまくやっただけだ(p42)。
■「すばらしいアイデア」を持つのは、悪いアイデアかもしれない 
「すばらしいアイデア」を出発点としているものの比率は、比較対象企業より、ビジョナリー・カンパニーの方がはるかに低かった。
ビジョナリー・カンパニーは、企業として早い時期に成功したものの比率が、比較対象企業よりも低かった。
企業として早い時期に成功することと、ビジョナリー・カンパニーとして成功することは、逆相関している。
長距離レースで勝つのはカメであり、ウサギではない。
■  ■企業そのものが究極の作品である
会社を製品の手段として見るのではなく、製品を会社の手段として見るように、発想を転換。
ウエスチングハウス:
時を告げる。
最高傑作は交流方式。

コフィン:
「アメリカ初の企業研究所」、ゼネラル・エレクトリック研究所の設立。
時計を作った。
最高傑作はGE。
成功した会社の創業者:
幸運の女神は、どこまでもねばり抜く者にほほえむ(p47)。
「絶対に、絶対に、絶対にあきらめない」を座右の銘。
何をねばり抜くのか?
答えは会社。
アイデアはあきらめたり、変えたり、発展させることはあるが、
会社は絶対にあきらめない。
製品開発(のプロセス)は、当社にとってとくに重要な製品・・(HP)
井深大の最高の「製品」:ソニーという企業であり、その企業文化。
ウォルト・ディズニーの最高傑作:ディズニー社であり、人々を幸せにする同社のたぐいまれな能力
サム・ウォルトンの最高傑作:ウォルマート社、新しい小売りの形態を大規模に、世界中のどの会社よりも見事に実現できる企業
ウィリアム・プロクターとジェームズ・ギャンブルの最大の貢献:決して時代遅れにはならないもの。適応能力が高く、世代を超えて受け継がれる深く根づいた基本的価値観という「伝統ある精神」を持つ会社
会社を窮極の作品と見る

製品ラインや市場戦略について考える時間を減らし、組織の設計について考える時間を増やすべき。
時を告げるために使う時間を減らし、時計をつくるために使う時間を増やすべき。
ビジョナリー・カンパニーが、すばらしい製品やサービスを次々に生み出しているのは、こうした会社が組織として卓越しているから。
■偉大なカリスマ的指導者の神話
□カリスマは必要ない
世間の注目を集めるカリスマ的スタイルは、ビジョナリー・カンパニーの基礎を固めるのに、まったく不必要。
むしろ、カリスマ性が非常に強いスタイルは、ビジョナリー・カンパニーを築くことと逆相関
3Mのマックナイト:
穏やかな口調の紳士、聞き上手、謙虚、控え目、うつむきかげんに歩く、慎み深い、口調が穏やか、物静かで思慮深く真面目
自分が世間の注目を集めるカリスマ的指導者であれば、それはそれでよい。
but
そうでなくても、問題はない。
3M、P&G、ソニー、ボーイング、HP、メルクのような企業を築いた人々の仲間だと言えるのだから。
ビジョナリー・カンパニーで優秀な経営者が輩出し、継続性が保たれているのは、こうした企業が卓越した組織であるからであって、代々の経営者が優秀だから、卓越した企業になったのではない。
ウェルチがCEOに選ばれたのは、組織がしっかりしていたから。
その組織をつくったのは、チャールズ・コフィンらの歴代の経営者であり、ジョージ・ウエスチングハウスとは違って、会社を築くにあたって、建築家のような方法をとった人々。
■建築家のような方法・・・時計をつくる(p57)
ビジョナリー・カンパニーの草創期の重要な経営者は、指導者としてのスタイルに関係なく、比較対象企業の経営者より組織志向が強かった。
□シティコープ対チェース
ジェームズ・スティルマン:
卓越した全国銀行を築くという目標に向かって、組織を発展させることに力を注いだ。
新しい店舗を開設し、
権限を分散した部門制度をとりいれ、
大企業の経営者を社外取締役として招いて強力な取締役会を組織し、
管理職を訓練・採用する制度を導入。
アルバート・ウィギン:
権限をまったく委譲しなかった。
チェース以外にも50社の取締役をつとめ、権限を一手に握ってチェースを支配した。
「チェース銀行はウィギンであり、ウィギンはチェース銀行である」
□ウォルマート対エームズ
ウォルトンの方が時計をつくる傾向、つまり、建築家としての傾向がはるかに強かった。
20代初めごろには、性格がほぼ固まっており、その後の人生の大部分を、ウォルマートという会社を築き、可能性を広げるという終わりのない目標を追求することに費やした。
わたしたちは最初から、可能なかぎり最高の小売り企業(だれよりもプロフェッショナルな経営幹部集団)になるという、懸命に努力してきた(ウォルトンp60)。
ウォルトンは、変化、実験、不断の改善を大切にした。
変化と改善を促す組織としての具体的な仕組みを整えた(p60)。
・「店舗のなかの店舗」と呼ばれるコンセプトを打ち出し、部門責任者にそれぞれの部門を自分の会社であるかにように運営する権限と裁量を与えた
・ほかの店舗でも使えそうな経費節減やサービス向上のアイデアを出したアソシエーツ(従業員)には奨励金をだし表彰。
・「集中販売促進コンテスト」をはじめ、アソシエーツが創造的な試みに取り組むことを奨励
・マーチャンダイジング会議を開き、チェーン全店で行う実験的な試みを話し合い、土曜日の朝の会議では、新しいことを試み、大きな成果をあげた従業員が呼ばれた。
・利益配分制度や従業員持ち株制度
エームズ:
どんな変化でもすべて上から命じ、店長の行動をマニュアルでことこまかに指図し、自主性を発揮する余地を残さなかった。
□モトローラ―対ゼニス 
モトローラのガルビン(p62):
長く続く偉大な会社を築くことを、何よりも夢見ていた。
歴史に残る大きな成功を収めたメーカーを建築した。
・技術者ではないが優秀な技術者を雇う
・意見の違い、議論、反論を歓迎
・「ほぼ自分だけでできることなら、自由に行動する権利」を個々人に与えた
・努力目標を定め、社員に大きな責任を与え、会社と社員が、多くの場合は失敗やミスから学び、成長する環境を整えた 
ゼニスの創業者:
後継計画を立てなかった
⇒1958年に急死したとき、トップに立つ人材が育っていなかった
□ディズニー対コロンビア・ピクチャーズ 
ディズニー:
その人生を通じて、会社を発展させ、その可能性を広げることに、コロンビアのコーンよりも力を注いだ。
■CEO、経営幹部、企業家へのメッセージ(p68) 
ビジョナリー・カンパニーを築くにあたって、とくに重要な方法は、行動ではなく、視点を変えること。
ニュートンの革命、ダーウィンの革命、アメリカ合衆国の建国にぶつかった人々と同じように、根本から発想を転換する必要。
ニュートンの革命:
全ては神の思し召し

「神がなされたのは、宇宙を一定の法則で動くようにしたことで、わたしたちは、そうした法則がどのように働いているかを見つける必要がある。」「神がすべてを決めるわけではない。神は、永遠に続く過程と法則をつくったのだ」

全宇宙の基礎となるダイナミクスと法則を、人々は探り始めた。
(=ニュートンの革命)
ダーウィンの革命:
神があらゆる種を完全につくり、自然界でのそれぞれの役割を与えた

進化の基本過程(遺伝コード、DNA、遺伝子の変異、突然変異、自然淘汰)によって、最終的に、胸の赤いコマドリが誕生し、それが生態系に完全に適応していると見えるだけ。
こうした過程が続き、不思議な「時を刻む時計」の複雑な仕組みがあって、自然界は美しく、機能的なものになった。
ビジョナリー・カンパニー:
成功したのは、基本的な過程、基礎になるダイナミクスが組織に深く根づいていることが少なくとも一因になっているから。

会社を築き、経営する仕事に携わっているのであれば、製品についてすばらしいビジョンを考えたり、カリスマ的指導者になろうと考える時間を減らし、組織についてのビジョンを考え、ビジョナリー・カンパニーとしての性格を築こうと考える時間を増やすべき。
アメリカの建国:
×「だれが大統領になるべきか。だれが指導者になるべきか。もっとも賢明な人物はだれか。」
○「われわれがこの世を去ったのちも、優れた大統領をずっと生み出すために、どんなプロセスをつくることができるのか。どのような国を築きたいのか。国の原則は何か。その原則をどう運用すべきか。われわれが目指す国を築くには、どんな指針と仕組みをつくるべきか」

アメリカの時計は、
ニュートンやダーウィンの時計とは違って、冷たく機械的なものではない。
人間の理想と価値観に基づいた時計。
人間の願いと大志でつくられた時計。
心を持った時計。
★挿話:「ORの抑圧」をはねのけ「ANDの才能」を活かす
「ORの抑圧」:逆説的な考えは簡単に受け入れず、一見矛盾する力や考え方は同時に追求できないとする見方。
「ANDの才能」さまざまな側面の両極にあるものを同時に追求する能力
・利益を超えた目的 現実的な利益の追求
ゆるぎない基本理念力強い変化 前進
基本理念を核とする保守主義 リスクの大きい試みへの大胆な挑戦
・明確なビジョンと方向性 臨機応変の模索と実験
・社運を賭けた大胆な目標 進化による進歩
基本理念に忠実な経営者の選択 変化を起こす経営者の選択
・理念の管理 自主性の発揮
・カルトに近い極めて同質的な文化 変化し、前進し、適応する能力
・長期的な視野に立った投資 短期的な成果の要求
・哲学的で、先見的で未来志向 日常業務での基本の徹底
・基本理念に忠実な組織 環境に適応する組織
「高い理想」を掲げかつ「高い収益性」を追求する。
バランスをとろうとするのではなく、両者を「徹底」させる。
「一流の知性と言えるかどうかは、2つの相反する考え方を同時に受け入れながら、それぞれの機能を発揮させる能力があるかどうかで判断される」
  ★第三章 利益を超えて(p75)
「価値観とビジョン・・・メルクの1世紀」
われわれは人々の生命を維持し、生活を改善する仕事をしている。すべての行動は、この目的を達成できたかどうかを基準に評価されなければならない(メルク)。
メルクは「糸状中症」治療薬「メクチザン」を開発し、100万人の患者に無料で提供。
薬を自らの手で、それも自費で配布し、糸状虫症に侵されて危険な状態にある百万人の患者に薬が確実に届くようにした。

このプロジェクトを進めなかったら、メルクの科学者、「人々の生命を維持し、生活を改善する仕事をしている」と自負する企業で働く科学者の士気が低下していただろうと指摘。
■現実的な理想主義・・・「ORの抑圧」からの解放 
ジョージ・メルク2世
高い理想と現実的な利己利益を同時に追求
医薬品は患者のためにあることを忘れてはならない。医薬品は人々のためにあることを、絶対に忘れてはならない。医薬品は利益のためにあるのではない。
利益はあとからついてくるものであり、われわれがこの点を忘れなければ、利益は必ずついてくるこのことを肝に銘じていればいるほど、利益は大きくなる。」(ジョージ・メルク2世)
高い理想、つまり基本理念を、事業が成功したあとにでなく、生き残るために必死になっていた時期にも持っていたビジョナリー・カンパニーは多い。
ソニー:
井深:生き残るために必死になっている企業家にしては、驚くべきことに、設立したばかりの会社の理念を書き表した。

●会社創立の目的
・技術者たちが技術することに喜びを感じ、その社会的使命を自覚して思い切り働ける職場をこしらえる。
日本再建、文化向上に対する技術面生産面よりの活発なる活動。
非常に進歩したる技術の国民生活内への即時応用

●経営方針
・不当なるもうけ主義を廃しあくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置きいたずらに規模の拡大を追わず。
・技術上の困難はこれをむしろ歓迎し量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。
・一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限度に発揮せしむ。

井深が趣意書を起草してから40年後、盛田は、ソニーの理念を凝縮し、洗練させた「ソニー・スピリット」をつくった:

「ソニーは開拓者。その窓は、いつも未知の世界に向かって開かれている人のやらない仕事、困難であるがために人が避けて通る仕事に、ソニーは勇敢に取り組み、それを企業化していく。ここでは、新しい製品の開発とその生産・販売のすべてにわたって、創造的な活動が要求され、期待され、約束されている・・・。開拓者ソニーは、限りなく人を生かし、人を信じ、その能力を絶えず開拓して前進してゆくことを、ただひとつの生命としているのである。」
「わが社のポリシーは、消費者がどんな製品を望んでいるかを調査して、それに合わせて製品をつくるのではなく、新しい製品をつくることによって彼らをリードすることにある。・・・だからわれわれは、市場調査などにあまり労力を費やさず、新しい製品とその用途についてのあらゆる可能性を検討し、消費者とのコミュニケーションを通してそのことを教え、市場を開拓していくことを考えている」

需要があるかどうかわからない製品を発売する決定を次々に下してきた。
1980年代:フォードの「使命・価値観・指導原理(MVGP)」
1916年:ヘンリー・フォード:
「自動車事業で莫大な利益を利益をあげるべきだとは思わない。適度な利益が望ましく、過度の利益は望ましくない。
利益は適度に抑えて、販売台数を多くする方がよい。・・・なぜなら、車を買って、車に乗ることを楽しめる人が増え、そして、十分な賃金で雇用できる人数が増えるからだ。
この2つの目標を達成することに、わたしは人生を賭けている。」
ドラッカー「会社という概念」:
GMが企業として失敗した(失敗と言えるだろう)のは、「専門家至上主義」とでも言うべき姿勢・・・に大きな原因があり・・・そうした姿勢がもっとも顕著に表れているのが、アルフレッド・P・スローンの著書「ゼネラル・モーターズとの歳月」である。・・・その内容は方針、事業の決定、機構だけである。・・・これまでに書かれた回顧録のなかでおそらく、人間という面がもっとも希薄なものであり、しかも、意図的にそうしたの明らかだ。スローンの本は・・ひとつの側面しか見ていない。効率的に生産し、雇用を創出し、市場をつくり、売り上げを伸ばし、利益を生み出す企業経営しか考えていない。社会のなかの企業、生活のためではなく人生の場としての企業、隣人としての企業、パワーセンターとしての企業・・・。スローンの世界には、このすべてが欠けている。
■基本理念・・・利益の神話を吹き飛ばす。 (p89)
    基本理念がしっかりしていることが、ビジョナリー・カンパニーの成長、発展、転換にとって、とくに重要になっている。
ビジネス・スクールの教えに反して、ほとんどのビジョナリー・カンパニーにとって、「株主の富を最大限に高めること」や「利益を最大限に高めること」は、大きな原動力でも最大の目標でもなかった。
ビジョナリー・カンパニーでは、基本理念の力が比較対象企業よりもはるかに強い
経済活動を行う存在を「超えた」もの
収益力は、会社が存続するための必要条件であり、もっと重要な目的を達成するための手段だが、多くのビジョナリー・カンパニーにとって、それ自体が目的ではない。
利益とは、人間の体にとっての酸素や食料や水や血液のようなもの。
人生の目的ではないが、それがなければ生きられない。
比較対象企業に比べて理念に徹する傾向が強く
純粋な利益志向が薄い
□ヒューレット・パッカード対テキサス・インスツルメンツ 
パッカード:
人々が集まり、われわれが会社と呼ぶ組織として存在しているのは、人々が集まれば、個人ではできないことができるようになるからだ。つまり、社会に貢献できるようになるからだという結論に必ず行きつく。社会への貢献とは使い古された言葉だが、すべての基本である。
利益は会社経営の正しい目的ではない。すべての正しい目的を可能にするものである。
@ヒューレッドパッカードは「何よりも社会に貢献する」企業であるべきで、「当社の主要な任務は、科学の発展と人類の幸福のために、きわめて優秀な(電子機器)を設計、開発、製造することである」。その一方で、
A利益を得ることによって、こうした広い視野に立った目的を追求できるようになるとして「(利益を)当社のとくに重要な(目的)のひとつとして受け入れられない者には、現在も、将来にも、当社の経営陣としての居場所はない」
とも明言。
ジョン・ヤング:
利益はわれわれの活動の基礎である。われわれの貢献度をはかる尺度であり、自前で成長する手段だが、それ自体が目的であったことは1度もない。
目的は勝つことであり、この目的が達成されたかどうかは、顧客の目で判断され、誇りにできる仕事をしているかどうかで決まる。
真の顧客に本当に満足してもらえば、利益をあげられるようになる。
TI:原動力は売上
HP:同じ市場機会を目の前にしながら、低価格品には追随しないと決断した。
技術の進歩に貢献する機会にはならないから。
□ジョンソン&ジョンソン対ブリストル・マイヤーズ(p95)
  ロバート・W・ジョンソン・ジュニア(ジョンソン&ジョンソン):
1886年に「痛みと病気を軽くする」という理想主義的な目標を掲げて、J&Jを設立。
1908年には、顧客へのサービスと従業員への配慮を株主の利益に優先させる経営理念を確立。
「研究部門は、視野の狭い商業主義的な精神で行動せず・・・配当を支払うためでも、J&Jだけの利益のためでもなく、医術の進歩を後押しするために、前進し続ける
顧客への奉仕が第一であり・・・従業員と経営陣への奉仕がその次で・・・株主への奉仕は最後である」
  R・W・ジョンソン・ジュニアがJ&Jの基本理念「我が信条」をつくった(1943年)
われわれは、
第一に、医師、看護婦、病院、母親、そのほか我々の製品を使うすべての人々に対して責任を負う
製品は、常に最高の品質でなければならない。
製品のコストを引き下げるため、不断の努力をしなければならない。
注文には迅速かつ正確に応えなければならない。
われわれの取引先の利益は適切でなければならない。

第二に、ともに働く人々、工場や事務所で働く男性と女性に対して責任を負う
従業員が雇用に対して安心感を持てるようにしなければならない。
賃金は適切かつ十分でなければならず、管理は正しく行われ、労働時間は妥当であり、労働環境は清潔で整頓されていなければならない。
従業員が提案をしたり苦情を申し立てる制度が整っていなければならない。
監督者と部門責任者は、適任で、公平な人物でなければならない。
能力のある者には昇進の機会が開かれていなければならず、個人は、それぞれの尊厳と長所によって、立場を考慮されなければならない。

第三に、われわれの経営陣に対して責任を負う
経営幹部は、有能で、教養があり、経験が豊富で、能力の高い人物でなければならない。
経営幹部は、常識があり、十分な理解力のある人物でなければならない。

第四に、われわれが生きる地域社会に対して責任を負う
よき市民でなければならず、善行や慈善事業を支援し、税金を公平に負担しなければならない。
その使用を特別に許可されている財産を、よい状態に維持しなければならない。
市民の生活の向上、健康、教育、充実した行政を奨励する活動に参加し、地域社会にわれわれの活動を広めなければならない。

第五に、われわれの株主に対して責任を負う
事業は健全な利益を生まなければならない。
留保を蓄えなければならず、研究を続けなければならず、野心的な計画を進め、失敗は償わなければならない。
逆境のときに備えなければならず、適切な税金を支払い、新しい機材を購入し、新しい工場を建設し、新しい製品を発売し、新しい販売計画を策定しなければならない。
新しいアイデアを実験しなければならない。
このことが行われていれば、株主は適切な利益を得るはずである。

神の御加護のもと、われわれの力の及ぶかぎり、これらの責務を果たすことを、ここに決意する。
  1980年代初め、CEOのジム・バークは、経営者としての時間の40%を、信条を組織に浸透させることに費やした。
  ハーバー・ビジネス・スクールは、事例研究のひとつを、J&Jがどのようにしてその信条を、組織機構、社内の計画策定のプロセス、給与体系、戦略的な事業決定などに反映させ、危機に直面したときの具体的な指針としているかだけにあてている。
  1982年のタイレノール事故のとき、J&Jは信条を指針として対応。
(社外の何者かが、タイレノールの瓶に青酸カリを混入し、シカゴ地域で7人の死者をだした。))
ただちに、タイレノールのカプセル製品すべてを、アメリカ全土から完全に回収した。
その費用は1億ドルと推定される。
2500人の従業員を動員して、事故の危険性を警告し、問題の対応にあたった。

ワシントン・ポスト紙
「J&Jは、費用を度外視して、正しいことを自発的に行う企業だというイメージを確立するのに成功した」と伝えた。
ブリストル・マイヤーズ:
デンバー地域でエキセドリンの錠剤に異物が混入⇒コロラド州に限定して回収し、事故の危険性を警告するキャンペーンも行わなかった。
会長のリチャード・ゲルブは、
エキセドリン事故は「ブリストル・マイヤーズの収益にほとんど影響しない」と強調したコメント。
□ボーイング対マクドネル・ダグラス(p101)
  ボーイング:
ボーイングの目的は利益をあげることではなく、航空機技術のパイオニアになること

人生最大の喜びとは、困難で建設的な仕事に携わり・・・そこから得られる満足感である。

なぜ747を製造するのか。
「われわれはボーイングだからだ。」
「なんてことだ。こいつらはこのプロジェクトの投資収益すら知らないのか」
□モトローラ対ゼニス 
  モトローラ:
1930年代の大恐慌のとき、設立後間もなく、生き残りに必死になっていたモトローラは、自社の財務状況や製品の特長について販売会社にきれいごとをならべる業界の慣行に従おうとしなかった。
「販売会社には事実をその通り伝える
第1に、それが正しいことであり
第2に、ごまかしてもいずれが見破られるからだ」

現実的な解決策を見つけ、かつ、基本的価値観を貫く。
適切な利益を追求する(利益を最大限に高めるのではない)のは、目的を達成するための手段だとされている。
  マクドナルドの死後、ゼニスは、指針になるものも活力を与えるものもほとんどないままに失速し、典型的な利益至上主義に陥った。
  モトローラに関する記事:
形式にこだわらない文化、平等主義、技術志向、楽観的で常に前進しようとする姿勢など、「目にみえない」側面が一貫して強調されている。
マクドナルド亡きあとにゼニスに関する記事:
財務状況、市場シェアなど、財務面に重点が置かれている。
□マリオット対ハワード・ジョンソン(p105)
  マリオット:
3つの一般的な考えが頭にあっただけ。
@気さくなサービスをお客様に提供すること
A良質の食事を適正な価格で提供すること
B昼夜を問わず猛烈に働いて利益をあげること。
マリオットは、この見方を制度化し、自分がこの世を去ったのちも長く残るようにした。
  @われわれの事業は人材ビジネスだ・・・従業員を教育し、手助けし、大事にする。公正にふるいにかける。技能習得の機会を与え、成功を後押しする。そのなかから勝者が現れるようにする。
A優秀な人材を集め、能力を発揮するよう期待する。人材の選択を誤っていた場合には、すぐに、そして公正に解雇する。
B猛烈に働き、同時に、仕事を楽しむ。何かをして、それを成し遂げるのは楽しい。重要なことは、続けることだ。
  マリオットを動かす要素は「カネではなく」、すばらしい仕事をしているという誇りと達成感
従業員を何よりも大切にし、顧客を来客としてもてなし、どこよりも大切にすることによって、当然の結果として、株主は「魅力的な」(「最大の」ではない)投資収益を得る。
□フィリップ・モリス対R・J・レイノルズ 
  フィリップ・モリス:
「わたしはタバコを愛している。タバコは、人生を本当に生きる価値のあるものにする。・・・タバコは、大きな願いをかなえる。人間にとって大切なもののひとつを与えてくれる。人間は常に均衡状態を保とうとしており、その点で、たばこは大きな役割を果たす。」
「挑戦的とも言える喫煙文化が経営陣のフロアに満ちあふれている。そこの住人は、ポケットからたばこの箱を取り出し・・・たばこに火をつけ・・・その箱をデスクやテーブルの上にぽんと投げて、さあ見てくれ、と言わんばかりの態度をとる。」
■「正しい」理念はあるのか 
ビジョナリー・カンパニーの多くが、社会貢献、誠実さ、従業員の尊重、顧客へのサービス、卓越した創造力、主導的な地位、地域社会への責任などを理念として掲げているが、共通している項目は1つもない。
 
3M:
・革新・・「新商品のアイデアを殺すなかれ」
誠実に徹する
・個人の自主性と成長を尊重する
・誠実に努力した結果の過ちに寛容になる
・質と信頼性の高い製品を提供する
・「われわれの本当の事業は、問題を解決することである」

ヒューレット・パッカード:
・われわれが携わる分野の技術の進歩に貢献する(「われわれは貢献する企業として存在している」)
・会社の成功を共有する機会をつくるなど、HPの社員を大切にし、機会を与える。
・活動すつ地域社会に貢献し、責任を果たす。
・HPの顧客に手頃な価格で質の高い製品を提供する。
・利益と成長は、それ以外のすべての価値や目標を可能にする手段である。

マリオット:
・気さくなサービスを提供し、顧客を来客として大切にもてなす。「自宅から離れている人々が友人に囲まれ、心から歓迎されていると感じられるようにする」
・社員がもっとも重要であり、十分に配慮し、大きな期待をかければ、自然に結果が表れる。・猛烈に働き、働くことを常に楽しむ。
不断の自己改善を求める。
逆境を乗り越えて、人格を形成する。

メルク:
・「われわれは人びとの生命を維持し、生活を改善する仕事をしている。すべての行動は、この目標を達成できたかどうかを基準に、評価されなければならない」
誠実で正直であれ。
・企業として社会に責任を果たす。
・科学による革新を起こし、模倣はしない。
・すべての点で超一流になる。
・利益を追求するが、人類に貢献する仕事から利益をあげる。

ノードストローム:
顧客へのサービスを何よりも大切にする
・猛烈に働き、生産性を高める。
・絶えず改善し、絶対に満足しない。
・高い評価を得て、特別の集団の一員になる。

フィリップ・モリス:
・選択の自由という権利(喫煙し、自分がほしいものを買う権利)は守るに値する。
・勝利・・トップ企業になり、他社を打ち破る。
・自主性の発揮を奨励する。
・性別、人種、階級に関係なく、能力に応じて機会を与える。
・猛烈に働き、不断の自己改善を進める。

プロクター&ギャンブル:
優れた製品を提供する。
・不断の自己改善を進める。
誠実で公正であれ。
・個人を尊重し、配慮する。

ウォルマート:
「われわれは顧客に価値を提供するために存在している」・・・価格を引き下げ、品ぞろえを増やして、顧客の生活を充実させる。それ以外のことはすべて二次的である。
流行に逆らい、常識を覆す。
・従業員をパートナーとする。
・仕事に情熱を持ち、打ち込み、熱心に取り組む。
・無駄をなくす。
・常に高い目標を追求する。

ウォルト・ディズニー:
皮肉な考え方は許さない。
・一貫性と細部にあくまでこだわる。
・創造力、夢、想像力を活かして絶えず進歩する。
・ディズニーの「魔法」のイメージを徹底的に管理し、守る。
・「何百万という人々を幸せにし」「健全なアメリカの価値観」を讃え、はぐくみ、広める。
ビジョナリー・カンパニーの理念に不可欠な要素はない。
理念が本物であり、企業がどこまで理念を貫き通しているかの方が、理念の内容よりも重要である。
重要な問題は、企業が「正しい」基本理念や「好ましい」基本理念を持っているかどうかではなく、企業が、好ましいにせよ、好ましくないにせよ、基本理念を持っており、社員の指針となり、活力を与えているかどうか。
 ■ ■言葉か行為か(p115)
@社会心理学の研究によると、人々はある考え方を公言するようになると、それまではそうした考えをもっていなくても、その考え方に従って一貫した行動をとる傾向が強くなる。
基本理念を公言することで、その理念に従って一貫した行動をとる
(ビジョナリー・カンパニーは、基本理念を公言する傾向が強い。)
Aその理念を組織全体に浸透させ、個々の指導者を超えたものにするための方法もとっている
従業員に基本理念を徹底して強化し、理念を中心に、カルトに近いほど強力な文化を生み出す。
基本理念に合っているかどうかを基準として、経営陣を慎重に育成し、選別する。
・目的、戦略、戦術、組織設計などで、基本理念との一貫性を持たせている。
■CEO、経営幹部、企業家への指針(p118)
基本理念=基本的価値観+目的
基本的価値観:
組織にとって不可欠で不変の主義
いくつかの一般的な指導原理からなり、文化や経営手法と混同してはならず、利益の追求や目先の事情のために曲げてはならない
目的:
単なるカネもうけを超えた会社の根本的な存在理由
地平線の上に永遠に輝き続ける道しるべとなる星であり、個々の目標や事業戦略と混同してはならない
■基本的価値観 
組織にとって不可欠で不変の主義であり、利益の追求や目先の事情のために曲げてはならない。
IBMのトーマス・J・ワトソン・ジュニア:
信念は、常に方針、経営手法、目標に優先されるべきである。
方針も経営手法も目標も、基本的な信念に反すると思われる場合には、いつでも変更しなければならない。
サム・ウォルトン:
ウォルマートのいちばん重要な価値観の本質について、
顧客をほかの何よりも優先させる。・・・顧客に奉仕しなかったり、顧客に奉仕する仲間を支えないのなら、その人間は必要ない

ジェームズ・ギャンブル:
純粋な製品を、はかりをごまかすことなく生産できないのなら、正直にできる仕事にかわるべきだ。たとえそれが石を割るだけの仕事でも。

HPウェイ:
HPウェイの基本は個人を尊重し、配慮することだ。つまり、「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい」すべてはこれに尽きる。
ビジョナリー・カンパニーが掲げる基本的価値観は、ごくわずかで、たいていは3つから6つ。

基本的価値観は、文字通り基本的で、組織のすみずみにまで浸透しており、変わることも、曲げられることもほとんどない。
本当に基本的であり得る価値観が、そういくつもあるはずがない。

「これらの価値観のうち、外部の環境が変わっても、たとえ、これらの価値観が利益に結びつかなくなり、逆に、それによって不利益を被るようになったとしても、百年間にわたって守り続けていくべきものはどれか、逆に、これらの価値観を掲げていては不利になる環境になった場合に、変更でき、捨て去るものはどれか」
他の企業の価値観をまねるのはダメ。
社外の人間の意見に従っていては、基本理念にはならない。
経営書を読んでも、基本理念は生まれない
基本理念を掲げるときには、心から信じていることを表現することが不可欠
ほかの企業が掲げている価値観も、社外の人間が考える理念のあるべき姿も、なんの意味もない。
アメリカの独立宣言:
「われわれは、次の真理は自明であると考える・・・」
自由と平等は時代を超え、周囲の環境に左右されない理想であると、建国者は考えていた。
ビジョナリー・カンパニーの基本的価値観は、理論や外部環境によって正当化する必要などないもの。
時代の流れや流行に左右されることもない。
市場環境が変化した場合ですら、変わることはない。
トーマス・J・ワトソン・ジュニア:
「父にとって、こうした価値観は人生のルールだった。何があっても守り、ほかの者にも勧め、実業家として忠実に従うべきもの」
自分たちのなかにあるもの、それぞれが肝に銘じ、骨の髄まで染み込んでりうものを表現しただけ。
問題は、何を信じていたのかではなく、どこまで深く信じていたか。
組織がどこまでそれを貫きとおしたか
「本物」であること
■目的(p124)
「カネ儲けというのは、会社が存在していることの結果としては重要であるが、われわれはもっと深く考えて、われわれが存在している真の理由を見つけ出さなければならない」」
問題はHPのように、この目的に徹し、貫きとおせるか。
基本的価値観の場合と同じで、ポイントは本物であることであって、独自性ではない。
目的は、広い意味を持ち、根本的で、不変なものにすべき。
病気と闘い、苦しみを和らげ、人々を助ける仕事に献身するメルクの精神は正義であり、すばらしい仕事をしたいと思う気持ちを呼び起こすものだからだ。これは時を超えた目的であり、メルク社員がこの先百年間、偉業を成し遂げる指針になるだろう。」
目的は不変であり、終わりはない
想像力がこの世からなくならない限り、ディズニーランドが完成することは絶対にない。
航空技術の限界を押し広げるボーイングの挑戦は決して終わらない。
HPは、どこまで進んでも、「われわれが貢献できるものはもうない」と思える点に達することはない。
技術と革新によって生活の質を向上させるGEの任務が終わることはない。
マリオットは、「自宅から離れている人たちが、友人に囲まれ、心から歓迎されていると感じられるようにする」基本的な任務を捨て去ることは、絶対にない。
モトローラは「質の高い製品とサービスを適正な価格で提供することによって、地域社会に貢献する名誉ある役割を担う」基本的な目標を捨て去ることは、絶対にない。
ディズニーは「人々を幸せにする」基本的な任務を捨て去ることはない。
ビジョナリー・カンパニーには、胸がおどるような新しい事業分野へと発展しながら、基本的な目的を指針として守る能力があり、その能力を発揮している。
×「当社の目的は、子供向けのアニメをつくることにある」
「われわれの想像力を活かして、人々を幸せにする」
基本理念の独立した構成要素のひとつとして、目的があるというのが役立つ。
★第四章 基本理念を維持し、進歩を促す (p133)
サム・ウォルトン:
「一度成功したからといって、それを続けていてはいけない。周囲の状況は常に変化しているからだ。成功するためには、その変化の一歩先をいく必要がある。」

トーマス・J・ワトソン:
世界は変化している。この難題に組織が対応するには、企業として前進しながら、(その基礎となる)信念以外の組織のすべてを変える覚悟で臨まなければならない。・・・組織にとっての聖域は、その基礎となる経営理念だけだと考えるべきである。
IBMは、基本的価値観以外のすべてを、もっと徹底的に帰るべきだった。
ビジョナリー・カンパニーは、
@基本理念を大事に維持し、守るが、
A基本理念を表す具体的な行動は、いつでも変更し、発展させなければならない。
■進歩への意欲(p136)
進歩への意欲⇒基本理念以外のすべての分野で、変化と前進を促す。
進歩しようとする意欲は、探求し、創造し、発見し、達成し、変化し、向上しようとする人間の奥深い衝動から生まれる。
探究・創造・発見・達成・変化・向上
内に秘めた、抑えることのできない、ほとんど本能に近い衝動による。
ヘンリー・フォード:
「われわれは常に向上できる常に進歩できる常に新たな可能性を見つけられる大切なのは前進し続けることだ」
■内部の原動力 
基本理念と同じように、進歩への意欲内部の力
偉大な芸術家や発明家が持っている意欲のように、外部の世界がどうであろうと、人々を内部から駆り立てる
ビジョナリー・カンパニーは、進歩し、向上し、新たな可能性を切り開こうとするとき、外部の理由を必要としない。
ビジョナリー・カンパニーが強い自信を持ちながら、同時に鋭く自己批判するのも、進歩への意欲があるから。
ノードストローム:
「当社のサービスについては語りたくない。評判ほど当社のサービスの水準は高くない。人の評価はとても変わりやすい。毎日どんなときも、ただベストを尽くすだけだ。」
HPのマーケティング部長:
「われわれは当社の成功を誇りにし、祝っている。しかし、本当に興奮させられるのは、当社が将来、どこまで前進していけるのかを考えるときだ。当社がどこまで発展していくのか、それを見きわめる過程に終わりはない。われわれに終着点はないからだ。現在の成功に決して満足してほしくない。それは衰退のはじまりだからだ。」」
■基本理念を維持し、進歩を促す(p140)
基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みも整えている。
基本理念:
継続性と安定性をもたらす
組織のゆるぎない土台になっている。
企業の可能性と方向性を、理念の内容に沿うものに制限する。
内容が明確である。
基本理念を掲げるのは、その本質からいって、保守的な行為である。
進歩への意欲:
新しい方向性、新しい手法、新しい戦略など、不断の変化を促す
目標、改善、理想像などに向かって、絶えず前進するように駆り立てる
企業が考え得る可能性の数と幅を広げる
具体的な内容がないこともある
進歩への意欲があらわれると、場合によっては、劇的で、急進的で、革命的な変化が生まれ得る
ビジョナリー・カンパニーは、基本理念を持ち、進歩への意欲を持っている。
それだけでなく、
基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みも整えている。
ディズニー:
ディズニー大学をつくり、すべての従業員に「ディズニー・トラディション」セミナーの受講を義務付ける。

HP:
社内の人材だけを登用する方針を打ち出し、同社の理念を、従業員の評価と昇進の際の基準にし、HPウェイに合わない者が上級幹部に昇進するのは不可能な仕組みにしている。

マリオット:
従業員を厳しく選別する仕組みを作り、価値観を教化するプロセスを定め、顧客の意見を確実に反映する環境を整えた。

ノードストローム:
サービスのカルトをつくり、具体的な褒賞と懲罰によってこれを強化した。
顧客を大切にする「ノーディ」が英雄として高い報酬を得る一方で、顧客をないがしろにする従業員は切り捨てられる。

モトローラ:
厳格なシックス・シグマ品質基準を設定し、品質管理のボルドリッジ賞を目標に。

3M:
権限を委譲し、研究員が勤務時間の15%を自分が選んだプロジェクトにあてることを認め、社内にベンチャーキャピタル・ファンドを設定し、各部門が年間売上高の25%を過去5年間に発売された製品であげるよう求める規則。
ビジョナリー・カンパニーの建築家は、戦略、戦術、組織体系、構造、報奨制度、オフィス・レイアウト、職務計画など、企業の動きのすべてに一貫性を持たせるよう努力している。
■CEO、経営幹部、企業家のためのキー・コンセプト(p144)
何よりも重要な点をひとつあげるなら、それは、基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みを整えることの大切さ
基本理念を維持し進歩を促すための具体的な方法
@社運を賭けた大胆な目標(BHAG)
Aカルトのような文化
B大量のものを試して、うまくいったものを残す
C生え抜きの経営陣
D決して満足しない
  ★第五章 社運を賭けた大胆な目標(p149) 
ウォルト・ディズニー
わたしの仕事のなかでもっとも重要な点は、当社で働く才能のある人々の調整を図り、共通の目標を目指すようにしたこと。
ボーイングには、大胆な課題に次々に取り組んできた伝統がある。
1930年代初めにはすでに、大胆な賭けに取り組む姿勢が表れており、軍用航空機市場の大手になるという目標を掲げて、まずはP26に社運を賭け、ついでB17に大金を投じている。
1960年代初めに727の開発に取り組んだとき、顧客になり得る航空会社(イースタン航空)の要求を、明快で具体的で、不可能に近い課題にまとめて、技術陣に与えている

ニューヨークのラガーディア空港の4−22滑走路で離着陸でき、ニューヨークからマイアミまノンストップで飛べ、横6列の座席が入るほど幅広く、131人乗りで、安全性についてのボーイングの高い基準を達成しているジェット旅客機。
技術陣は、それ以外に選択の余地を与えられなかった。
1965年、ボーイングは、747の開発を決定⇒経営が破たんする一歩手前まで追い込まれた。
ある取締役「開発がうまくいかなかったら、いつだってやめられる」
ウィリアム・アレン社長:顔をこわばらせて、「やめるだって。とんでもないことだ。ボーイングがこの航空機をつくると宣言するからには、会社の資源をすべてつぎ込んでも、必ず完成させる」
■BHAG(Big Hairy Audacious Goals)・・・進歩を促す強力な仕組み(p154)
   ビジョナリー・カンパニーは進歩を促す強力な仕組みとして、ときに大胆な目標を掲げる。
どの企業も目標は持っている。しかし、単なる目標を持っていることと、思わずひるむほど大きな課題(とんでもない高い山に登るというような課題)に挑戦することの間には、明らかな違いがある。
ケネディ大統領:
1961年5月25日に、「わが国は60年代が終わるまでに、月に人間を着陸させ、安全に地球に帰還させる目標を達成すると明言すべきだ」と宣言。
□明確で説得力のある目標
  BHAGは人々の意欲を引き出す。人の心に訴え、心を動かす。具体的で、わくわくさせられ、焦点が絞られている。だれでもすぐに理解でき、くどくど説明する必要はない。
  進歩を促すためには、通常の経営理念だけでなく、BHAGという強力な方法を使うことを考えてみるべき。
  ジャック・ウェルチ:
何よりまず取り組むべきは、「会社が目指す方向を、幅広くはあるが明快な言葉で示すことである。会社全体にとって意味のあるメッセージ、大きな方向を指し示すが、単純でわかりやすいメッセージが必要だ」
ex.
参入したすべての市場でナンバー1かナンバー2になり、当社を小さな企業のスピードと、機敏さを持つ企業に変革する。
ウエスチングハウス:
トータル・クオリティ
市場のリーダー
技術主導
グローバル
焦点を絞った成長
多角化
BHAGについて肝心な点:
「前進をもたらしているか。勢いをつくり出しているか。従業員はやる気になっているか。社内に活力がみなぎっているか。刺激的で、興奮させられる大胆な冒険だとみられているか。従業員は創造力を駆使し、エネルギーを注ぎ込むつもりになっているか」
  フィリップ・モリス(当時業界6位):
「たばこ業界のゼネラル・モーターズになる。」
=世界市場で圧倒的な力を持つ企業になる。
  ビジネススクールの学生:
「この企業は、まともな戦略的な資産と能力を持っていない。ニッチ市場にとどまり続けるべきだ。」
  フィリップ・モリスの例がそうであるように、BHAGはきわめて大胆であり、理性的に考えれば、「とてもまともとは言えない」というのが賢明な意見になるが、その一方で、「それでも、やってできないことはない」と主張する意欲的な意見が出てくる灰色の領域に入るもの。
単なる目標ではなく、社運を賭けた大胆な目標
  ヘンリー・フォード:
「自動車を大衆の手に」
「大衆のための自動車をつくる。・・・価格がきわめて安く、まともな給料をとっている者なら、買えない者はおらず、家族とともに、神がつくった広大な土地で楽しむことができるようになる。・・・全員が乗用車を買えるようになり、全員が乗用車を持つようになる。道路からは馬車が消え、自動車に乗るのが当然になる。」

フォードの設計人は活気づき、毎晩、10時、11時まで猛烈に働くようになった。
BHAGが組織にとって有益なのは、それが達成されていない間だけ。
   ソニー:
東京通信工業からソニーへ企業名の変更
盛田:
「いまの名前では世界に事業を拡大できない。外国人にとって発音が難しすぎる」
「わが社はまだ規模も小さく・・・(しかし)海外市場を視野に入れなければ、井深市や私が思い描いているような会社にすることはできない、と強く感じるようになった。われわれとしては、日本の製品は品質は悪いという外国での評判をどうしても変えたかった・・・」

会社として成功を収めたいと考えていただけでなく低品質という日本の消費財のイメージを変えた会社という定評を得たいと考えていた。

従業員が1000人にも満たず、海外事業はほとんどなかった会社にしては、これは小さいとは言えない野望。
1952年、技術者を同意して、不可能とも思える目標を追求。
「ポケッタブル・ラジオ」をつくる目標。
「どんな困難があろうと、トランジスター・ラジオの開発に全力をあげよう。ラジオ用のトランジスターは開発できると確信している」(井深)
「皆はトランジスターは商売にならんと言っている・・。だからこそ、トランジスタのーの事業は面白いんだ」(井深)
  ウォルマート:
「ニューポートの小さな店を、5年以内にアーカンソー州で最高で、もっとも利益の多い雑貨店にする」

年間7万2000ドルの売上高を25万ドルまで、3倍以上に増やす必要があった。
1977年には、4年以内に10億ドル企業になるという目標。
□不退転の決意とリスク(p165)
目標の達成にどこまで必死になっているのかも重要。
BHAGと呼べるのは、その目標を達成する決意がきわめて固い場合だけ。
ボーイングは、リスクに直面しながらも、大胆な方針を貫いた。
リスクは可能性だけで終わるとはかぎらない。安全なところにとどまっていては、進歩を促すことはできない。
ディズニー:
1934年、長時間のアニメ劇映画をつくって成功させた。
20年後、まったく新しい遊園地をつくるというアイデア。
1960年代、創業者の遺志をついでフロリダにEPCOTセンターをつくった。
敵対的買収への動きを次々に抑え込んで復活を遂げ、東京ディズニーランド、ユーロ・ディズニーなどの大胆な冒険に再び乗り出すようになった。
vs.
コロンビア・ピクチャーズ:
大胆で先見性があるもののリスクがある事業には、ほとんど手を出していない。
コロンビアの経営陣は、自分たちについて、「徹頭徹尾・・・投資家であって、経営管理者ではない」と考えていた。
IBM:(p168)
1960年代初めにIBM360に一か八かの投資を行い、自社の命運をかけた
360の開発⇒IBMの既存の製品のほとんどが時代遅れに。
vs.
バローズ:
コンピュータ技術でIBMより進んでいた。
but
次世代の製品に大胆に挑戦すべきときがくると、安全第一の方歩をとり、古い会計用の機種に力を集中した。

IBMが市場を制圧していること見守るしかなかった。
企業がきわめて未来志向の動きをとるのは、収益性を最大限に高めること以外の点に事業の究極的な目標があると見ているとき。
IBMは常にナンバー1でなければならないのであり、360の開発に踏み切ったいのは、IBMはIBMだから。
1924年にインターナショナル・ビジネス・マシンズ・コーポレーションだと名乗り、社名にふさわしい企業になると真剣に考えていた。
極めて保守的なP&G:
ときとして大胆なBHAGに取り組んでいる。
1919年、流通システムを革命し、卸売り会社を通さず、小売店と直接に取引することによって、雇用を安定させるという目標

経理部門:「取引先が2万から40万に増えてしまう。これで経理コストがどこまであがるか、気付いているのか」
物流部門:「全米に数百の倉庫をつくって、アメリカ中の運送会社を雇い、小売店に配送しなければならなくなる」
マネジャー:「卸売会社との取引きをやめたら、猛烈に怒り出し、P&Gに関係するものは、何も扱ってくれなくなる。そうなったら、当社は破滅してしまうのではないか」
営業部門:「アメリカ中の小売店を1軒1軒訪問するだけの営業部隊を、どうやってつくればいいのか。営業部門は、アメリカ陸軍より大きくなってしまうのか」
デブリー社長:
当社は正しいことであれば、現実的でも可能でもないと思えることに挑戦して、それが現実的であり、可能であると証明したい。・・・正しいと信じることをやる。それが成功すれば、それを続ける。それで打撃を受ければ、家屋敷を担保に入れて、一発勝負を賭ける。」
vs.
コルゲート
□「不遜要因」(p172)
不遜=過剰なほどの自信、傲慢なまでの自負を意味し、神々をおそれぬ態度
BHAGは、社外からみたときの方が、はるかに大胆に見える。ビジョナリー・カンパニーは、いくら大胆だと言っても、神々をおそれぬほどではないと考えている。掲げた目標を達成できないとは、まったく考えてもいない。

ロッククライミングを下から見るのと同じ。
本人にとってみれば、自分の力量を考えて、十分に登れる岩場を上っているだけ。
ちゃんと練習してきたのだから、集中力を保って一歩一歩登っていけば、失敗するわけがないと考えている。
落ちれば命がないのは確かだが、だからこそやる気になる・・・。そう考えている。
■重要なのは指導者ではなく、目標・・・時を告げるのではなく、時計をつくる。 
月旅行計画のすばらしさは、計画がはじまったあとは自然に勢いがついて、だれが大統領になろうとも進歩を促し続けた。
目標それ自体が、進歩を促すものになっていた。
サム・ウォルトンは、大胆なBHAGを設定したことで、進歩を促す強力な仕組みを残した。
目標が指導者を超えている。
ボーイング:
活気にあふれた前進をもたらしていたのは、アレン社長ではなく、目標そのもの。

アレンが引退したあと、ボーイングは前進をやめることも、無気力になることもなかった。
←会社の生き残りを賭けて、必死になっていたからであり、また、旅客機の歴史のなかで例のないほど刺激的な新型機を開発していたから。

繰り返しBHAGを掲げることが、ボーイングではこれまでの6人のCEOのいずれにも共通する仕組みになっている。

難しい課題に大胆に取り組むことが、組織の性格になっていて、経営者の世代が変わっても、この社風は変わらない。
vs.
マクドネル・ダグラス:
「リスクをひとつずつ慎重に分析し、きわめて保守的なものであった・・・激しい議論を交わして戦略を決定する方法がとられなかった」
ソニー:
売上高に対する研究開発費の比率がほかの企業よりはるかに高いと思われているが、そんなことはない。
・・・当社とほかの日本企業の違いは、技術の水準や技術者の質にあるわけではなく、また、研究開発費の総額にあるわけですらない(当社の研究開発費は売上高の約5パーセントである)。
最大の違いは・・・任務を定め、適切なターゲットを設定していることにある。技術者に完全な自由を与えている企業が多いが、当社ではそうしていない。目的を決め、具体的ではっきりしたターゲットを決め、それを達成するために必要なチームをつくる
井深会長は、ターゲットを決めて研究をはじめたら、絶対にあきらめるなと教えている
この教えが、ソニーの研究開発陣全体に浸透している
□  □BHAGと「偉大な指導者が去ったあとの停滞」(p177)
BHAGを設定し、それが指導者が去ったあとにも力を持ち、経営者が代を重ねていっても、進歩を刺激するようにする方法。
シティコープ:
1890年代、シティ・バンクは、社長が1人、現金出納係がひとり、従業員が数名
but
ジェームズ・スティルマン社長は「偉大な全国銀行になる」という目標
その目的は配当ではなく、この理想の実現であり、国内金融と国際金融の世界で偉大な銀行になること。
この目標自体が力を持つようになり、はるかに先の世代まで、シティコープを前進させる力になっていった。
1960年代にデービッド・ロックフェラーがチェースの社長になったあと、シティバンクを打ち負かす目標は、チェースの目標というより、ロックフェラー社長個人の目標になった。
マーケティング戦略と商品戦略に主に頼ってきた(=時計をつくるのではなく、時を告げる人に頼った)
but
シティコープの歴代の経営者は、目標を達成する手段として主に組織の力に頼った(=時計をつくった)。
スティルマン:後継者の育成と組織構造の強化に焦点を絞った
バンダ―リップ:「わたしが見るところ、制約条件のひとつに経営者の質がある」
⇒組織の設計に力を注いで、経営幹部研修制度をつくった。
ジョージ・ムーア:「シティコープを組織力のある機関にする」ことに努力し、人材の採用、研修、昇進の制度をその中心の据えた。
モトローラ:
1940年代後半にテレビ市場に進出したとき、テレビ部門に難しいBHAGを設定。
初年度に十万台のテレビを179.95ドルで売って利益を出すように求めた。
「この目標は達成できる。この価格、この利益を出すまでは、原価計算表はもうチェックしない。必ずなんとかなる」とガルビンはつっぱねた。

息子を後継者として育成していたころ、ガルビンは「会社を動かし続ける」ことの重要性を繰り返し教えている。
方向はどうであれ、活発に動いているほうがじっとしているよりはるかによく、いつも目標を決めておくべきだ。

「若返り」という言葉を使って、大胆なプロジェクトに頻繁に取り組むことで、事業を常に変化させていく考え方。
vs.
ゼニスは、モトローラと違って、1958年に創業者が死亡したあと、大胆な目標を設定することが組織の体質にならなかった。
■CEO、経営幹部、企業家への指針(p184)
BHAGは、組織のどのレベルでも、進歩を促すために使える。
会社の違ったレベルで、同時にいくつものBHAGを目指していることが多い。
小企業や起業家には、BHAGはとくに適している。
・BHAGはきわめて明確で説得力があり、説明する必要もないほどでなければならない。
BHAGは目標であり(たとえば、登るべき山や、宇宙旅行の目的地としての月のようなもので)、「声明」ではない。それで組織内に活力がみなぎらないのであれば、それはBHAGではない。
気軽に達成できるようなものであってはならない。ボーイング747のように、組織内の人々が、なんとか達成できるだろうが、それには英雄的な努力とある程度の幸運が必要だと思えるものでなければならない。
きわめて大胆で、それ自体が興奮を呼び起こすものでなければならず、シティ・バンクやウォールマートの例にみられるように、達成する前に組織の指導者が去ったとしても、進歩を促し続けるものでなければならない。
・それを達成したのち、「目標達成症候群」にかかって組織の動きが止まり、停滞する危険がつきまとう。⇒次のBHAGを準備しておくべき。BHAG以外にも、進歩を促す方法を持っておくべき
会社の基本理念に沿ったものでなければならない。
□基本理念を維持し、進歩を促す 
BHAGを追求するにあたっては、基本理念を注意深く維持すべき。
ex.
B747は、信じがたいほどリスクが高いプロジェクト。
その過程で、ボーイングは、製品の安全性を最優先する基本理念を維持しており、民間航空機の開発には例がないほど、厳しい安全基準を適用し、テスト、解析を行なっている。

ウォルト・ディズニーは、財務面でどんなに苦しくなっても、「白雪姫」の製作、ディズニーランド、ディズニー・ワールドの建設にあたって、細部に対するこだわりという基本理念を曲げていない
基本理念を強化し、目指す方向に合ったBHAGのみに取り組む
ボーイング:
基本理念:航空技術の最先端に位置する。パイオニアになる。リスクをとる。
BHAG:B−17、707、747bに社運を賭ける。

IBM:
基本理念:すべての事業で最優秀を目指す。顧客を満足させるために時を惜しまない。
BHAG:360に50億ドルの開発費をかける。顧客の新しいニーズにこたえる。

フォード:
基本理念:自動車、とくに庶民のための自動車をつくる。
BHAG:自動車を大衆の手に。

モトローラ:
基本理念:「社内の潜在的な想像力」を活用する。若返り。不断の改善。偉大な製品によって社会に貢献する。
BHAG:179.95ドルのテレビを10万台売る方法を考える。シックス・シグマの品質基準を達成する。品質管理のボルドリッジ賞を獲得する。イリジウム計画を進める。

フィリップ・モリス:
基本理念:勝利するトップ企業になり、他社を打ち破る。個人緒選択の自由は守るに値する。
BHAG:タバコに対する社会的圧力があるなかで、業界の巨人を打い倒し、タバコ業界のトップになる。

ソニー:
基本理念:日本の文化と地位を高める。開拓者であり、人が避けて通る仕事に取り組む。
BHAG:低品質という海外での日本製品のイメージを変える。ポケッタブル・トランジスター・ラジオを開発する。

ディズニー:
基本理念:人々を幸せにする。細部にあくまでもこだわる。創造力、夢、発想。
BHAG:ディズニーランドを建設する。それも、業界の標準に従ってではなく、自分たちのイメージに従って建設する。

メルク:
基本理念:人々の生命を維持し、生活を改善する。医薬品は患者のためにあり、利益のためではない。創造力と革新。
BHAG:研究開発への巨額の投資と病気を治療する新薬によって、世界的に傑出した製薬会社になる。
BHAGは会社の基本理念をはっきりと示すものでなければならない
実際、BHAGは、基本理念を維持する重要な仕組みのひとつ、「カルトのような文化」を強化するものになり得る。
基本理念⇒会社の継続性が保証され、それを基礎に、月旅行にも似た大胆な目標に取り組める。
進歩がある⇒基本理念が保たれる。
基本理念と進歩という2つの強力な要素が分かち難く結びつき、両者がともに最大限の力を発揮して、組織を強化していく。
★     ★第六章 カルトのような文化 (p193)
サム・ウォルトン:
では皆さん、いったん約束したことは必ず守るというウォルマートの信条をしっかりと胸に刻んで、右手をあげ、わたしが言うことを復唱してください。本日以降、お客さまが3メートル以内に近づいてきたら、わたしは微笑み、お客様の目を見て、あいさつするとサムに誓います・・・。
IBMは従業員の動機付けがじつにうまい。妻のアンを見ていると、よくわかる。洗脳されているんだという人もいるだろうが、こういう洗脳ならいい。会社への忠誠心を高め、働く意欲を高めているのだから。
ノードストロームにようこそ

わたしたちの第一の目標は、
顧客に傑出したサービスを提供すること
です。
個人としての目標、職場での目標を、どちらも高く設定してください。
高い目標を達成できる能力があるはずと、わたしたちは確信しています。

ノードストロームの規則:
どのような状況にあっても、自分で考え、最善の判断を下すこと。これ以外の規則はありません。
■「病原菌か何かのように追い払われる」(p202)
ビジョナリーとは、やさしさではなく、自由奔放を許すことでもなかった。
事実はまったく逆であった。
ビジョナリー・カンパニーは自分達の性格、存在意義、達成すべきことをはっきりさせている自社の厳しい基準に合わない社員や合せようとしない社員が働ける余地は少なくなる傾向がある。
ビジョナリー・カンパニーに顕著にみられる特徴:
@理念への熱狂
A(基本理念の)教化への努力
B同質性の追求
Cエリート主義
■IBMが偉大な企業になった過程 
20世紀前半にアメリカを代表する企業にまで成長したIBMの社内を、「カルトのような雰囲気だった」と表現。
1914年に父親のトーマス・J・ワトソン・シニアが経営の苦しい小企業の経営者になり、・・壁にポスターをはりめぐらせた。
「無駄にした時間は永遠に失われる」
「同じところに止まっていることなどあり得ない」
「決して満足してはならない」
「売るのはサービスである」
「どういう社員を雇っているかで、会社の評判が決まる」

厳格な規則:
営業担当者には身だしなみに気をつけ、ダーク・スーツを着るように求め
結婚を奨励し
喫煙をいましめ
飲酒を禁止した。
「教会と変わらないほど、自社の信条を組織的に教えている。・・・このため、社員の多くは熱心な信者になっている(熱心でなければ、働きやすくはないだろう)。・・・IBMに入社するのは、聖職につくか軍隊に入るのに似ていると言う人もいる。・・海兵隊を理解していれば、IBMは理解できるだろう。・・・そこで生き残るには、個性の一部を捨て去る意思がなければならない
「当社のビジネスの方法はこうだ・・・。当社はビジネスがどういうものかについて、はっきりした考え方を持っている。当社で働くようになれば、顧客にどう対すべきかを教える。顧客とサービスについての考え方が当社と違うのであれば、当社から離れる方がいい。その時期は早いほどいい」
IBMがとくに成功を収め、環境の変化に適応する能力がとくに高かったのは、カルトのような企業文化がとくに強かった時期である
■ウォルト・ディズニーの魔法 
ウォルト・ディズニーも基本理念を維持するために、
@教化、
A同質性の追求、
Bエリート主義
の3つを徹底して使っている。
「キャスト(出演者)」「ゲスト」「観衆」「パフォーマンス」「役」「脚本」「コスチューム」「配役」「オンステージ」「オフステージ」
トレーナー:われわれはどのような事業を行っているのですか・・・。
新従業員:人々を幸せにする仕事をしています。
トレーナー:その通り。・・相手がだれであっても、何語をしゃべる人でも、何をしている人でも、どこからきた人でも、肌の色がどうでも、それ以外のどんな違いがあっても、問題ではありません。われわれは、人々を幸せにするために働いているのです。ここには、仕事のために雇われた人はいません。全員が、われわれのショーのキャストなのです。
「ディズニーランドでは、われわれは疲れることはあっても、退屈することはない。大変な1日でも、われわれは幸せそうにしている。心からの笑顔を見せなければならない。笑顔はなかからわき出てくるものでなければならない・・・。何も頼るものがなくなったときは、笑顔のために給料をもらっていることを思い出すべきだ」
創業者は自分と従業員との関係を、父親と子どもの関係のようなものだと考えていた。
従業員には完全な献身を期待し、会社とその価値に対する完璧な忠誠心を要求した。
献身的なディズニーアイト、とくに忠誠心のあるディズニーアイトは、真面目に働いていて間違いを犯しても、次の機会を与えられた。
しかし、神聖な理念を踏みにじったり、忠誠心のなさを示すのは、罪悪であり、ただちに解雇された。
人前で汚い言葉⇒ただちにクビになった。
1984年にマイケル・アイスナーらの新しい経営陣が経営を引き継いだあと、注意深く維持されてきた基本理念が、そののち10年間に会社が再生する基礎になった。
but
コロンビア・ピクチャーズは、1958年にコーンが死んだあと、基本理念も企業文化を維持する仕組みももっていなかった。
⇒創業者の死後、独立企業としての立場を失った。
■プロクター&ギャンブル・・・会社に浸りきる(p221)
その歴史を通じて、@教化、A同質性の追求、Bエリート主義を徹底して使い基本理念を維持してきた。
中途入社はあり得ない。徹頭徹尾、社内から人材を登用する企業。
1887年:利益分配制度をつくった。
1892年:従業員持ち株制度をつくった。
1915年:総合的な健康・障害・退職・生命保険制度を設けた。
海外にいくとき、何よりもまず適合しなければならない文化はP&Gの文化であり、その国の文化は2番目になる。
世界中の社員が共通の絆で結ばれている。・・・・プロクター&ギャンブルの人たちなのだ。
秘密主義⇒エリート主義が強化。
同社は「特別」で「偉大」で「エクセレント」で「道義的」で「統制がとれ」、「最高の人材」が集まっており、「世界のビジネス組織のなかでもユニーク」な「伝統ある機関」だと自認。
■CEO、経営幹部、企業家へのメッセージ 
宗教団体や社会運動団体〜カリスマ的な指導者が中心になって、いわゆる個人崇拝が強まることが多い。
ビジョナリー・カンパニー〜「イデオロギー」に関してカルト的になっている。
カリスマ的な指導者を中心とするカルト主義⇒時を告げるのに似ている。
永続的な基本理念への傾倒を強化する環境をつくりあげる⇒時計をつくるのに似ている。
学ぶべき点は、基本理念を熱心に維持するしっかりした仕組みを持った組織をつくること。
自社の理念に基づいて、それを絶えず強化するように一貫したシグナルを送り続ける具体的な仕組みを確立。
具体的な方法:
・入社時のオリエンテーションと研修
・社内に「大学」や研修センター
・オン・ザ・ジョブ
・社内から人材登用。若い時期に従業員の考え方を自社の価値観に合わせて形成する。
・「英雄的な行動」や神話
・独特の言葉や用語
・社歌、拍手喝采、宣言文、誓い
・採用にあたって、あるいは入社後の数年間に、厳しい選別
・報奨や昇進で、会社の理念にどこまで適合しているのかを基準にすることを明確に。
・賞、コンテスト、表彰、懲罰
・理念に違反する間違いは厳しく処分
・会社への献身を引き出す仕組み。従業員持ち株制度。長時間労働を促す仕組み。
・祝賀行事で成功を祝う。
・工場とオフィスのレイアウトを工夫。
・会社の価値観、伝統、特別な集団に属していることを絶えず強調。
□基本理念を維持すると同時に、進歩を促す 
カルトのような文化は、基本理念を維持するもの。
これとバランスをとるものとして、進歩を促す強烈な文化がなければならない。
カルトのような文化⇒社運を賭けた大胆な目標(BHAG)を追求する能力を高め得る
会社の基本理念を信じていれば、肌の色、身体の特徴、性別などは問題にされない。
基本理念以外の面での多様性
■イデオロギーの管理と業務上の自主性(p232)
@基本理念を厳しく管理すると同時に、
A業務上、幅広い自主性を認めて、個々人の創意工夫を奨励。
カルトのような文化を持ちながら、はるかに権限分散が進み、業務上の自主性を幅広く認めている
@理念を管理⇒基本を維持
A業務上の自主性⇒進歩を促す
ノードストローム:
店員はすべて販売の専門家だと当社は考えている
専門家には規則はいらない
ノードストロームでは、基本的な価値と基準を守っていさえすれば、仕事を進めるために何をやってもいい。
基本理念に順応できない者、順応する意思がない者は、すぐにはじき飛ばされる。
起業家のようなやる気と創意工夫がない者は、理念を受け付けない者と変わらないほど、失敗する確率が高い。

従業員に権限を与えて、分散型の組織をつくりたいと考えている企業は、何よりもまず、理念をしっかりさせ、従業員を教化し、病原菌を追い払い、残った従業員にエリート組織の一員として大きな責任を負っているという感覚を持たせるべき。
適切な役者を舞台に立たせ、正しい考え方を教え込み、そのうえで、状況に応じたアドリブを使う自由を与えるべき。
基本理念を中心に、カルトのような同質性を求めることによって、
企業は従業員に実験、変化、適応を促すことができ、そして何よりも、行動を促すことができる
★    ★第七章 大量のものを試して、うまくいったものを残す(p235)
チャールズ・ダーウィン:
わたしの想像力の範囲では、(環境に見事に適応した種を)特別に恵まれた本性を持っているとか、創造された本性を持っているとか考えるよりも、すべての生物の進化をもたらす一般的な法則の結果が積み重なったものだと考える方が、はるかに理解しやすい。つまり、繁殖し、変異し、強いものが生き残って弱いものが死に絶える法則である。
リチャード・P・カールトン(3M元CEO):
当社は確かに、新製品のいくつかに偶然ぶつかっている。しかし、動いていなければ、ぶつかりもしないことを忘れてはならない。
ジョンソン・ジュニア:
失敗は、当社にとって、もっとも大切な製品である。
各社でとくに成功した動きのうちいくつかが、綿密な戦略計画に基づくものではなく、実験、試行錯誤、臨機応変によるものであったり、文字通り、偶然の結果であったりするのに、驚かされた。
あとから見れば、すばらしい戦略だと思えるものが、じつのところは、いきあたりばったりの試行錯誤の結果であったり、「意図的な偶然」の結果であったりする。
□偶然に消費財に進出したジョンソン&ジョンソン(p237)
薬用絆創膏での炎症⇒医師からの抗議⇒ベビー・パウダー⇒消費者向け製品への進出
バンドエイド〜消費者向け製品に「偶然」に進出する戦略を固めるものになった。
□機会を活かして空港サービスに進出したマリオット 
 フーバー空港近くのレストラン店舗での客⇒空港での事業に
予想しなかった幸運にぶつかって、すばやく積極的な行動を起こして機会を活かし企業戦略を一歩ずつ転換していった。
〜機会をつかまえて実験し、たまたまうまくいったにすぎない。
□意図しないまま金融サービスと旅行サービスに進出したアメリカン・エキスプレス(p240)
地域小荷物会社として発足⇒郵便為替の普及により現金輸送サービスへの需要が落ちる⇒自社の送金為替が予想外にヒット⇒旅行先で信用状を現金に換えるのに苦労⇒旅行小切手(金融サービスへ)(買ったときにサインをし、現金化の際にもう1度サインすればすむ)⇒現金の余裕(フロート)

顧客の問題を解決し、事業機会があればすぐに対応する企業文化⇒オフィスをつくると、旅行者が多数押し寄せ、小切手の換金だけでなく、郵便サービス、旅行案内、チケットの購入などを求める⇒旅行事業
アメックスはそうとは意図しないまま、「フロート」をつくりだした。
当初は750ドルにすぎなかったのが、1990年には40億ドルに達し、2億ドルの収入を生み出すまでになった。
〜事実上、(そして偶然に)新しい国際通貨をつくったことになる。
進化する種としての企業 (p243)
HPにとって決定的な時期になった1960年代、「2年から3年より長い期間の計画を立てたことはなかった」
コンピューター事業への進出にあたっても、戦略計画は何もなかった。
最初の小型コンピューターを設計したとき、計測機器の性能をあげることだけを考えていた。
ビジョナリー・カンパニーが計画をもったことがないと言うわけではない。
そうでなく、今日を築いた動きのなかに、計画以外のなんらかのプロセスによってもたらされたものが多いことが意外だった。

ビジョナリー・カンパニーは比較対象企業に比べて、BHAGに続く第2の種類の進歩として、、「進化による進歩」をはるかに積極的に促している。
BHAG:
@あいまいなところがない明確な目標を掲げる。(「あの山に登ろう」)
A思い切った飛躍をする。

進化による進歩:
@目標はあいまい。(「いくつもの方法を試していけば、いつかうまくいくものにぶつかるだろう。それが何なのかは、いまの段階ではわからないが」)
Aはじめはそれまでの事業の延長戦上にある小さな一歩(言うなれば突然変異)にすぎず、予想外の機会をすばやくとらえた動きにすぎないが、そこから、大きな、ときには意図しなかった戦略的な転換が生まれている。
進化による進歩は、計画のない進歩。
■ダーウィンの進化論はビジョナリー・カンパニーにもあてはまる(p246)
ダーウィンの進化論:
だれに指示されたわけでもなく変異(「遺伝子の突然変異」)が起こり、それが自然淘汰されて種が進化していく。
「繁殖し、変異し、強いものが生き残って弱いものが死に絶える」
進化の過程は、「枝分かれと剪定」に似ている。
木が十分に枝分かれし(つまり、変異を起こし)、枯れた枝をうまく剪定すれば(つまり、淘汰のなかで選択すれば)変化を繰り返す環境のなかでうまく成長していくのに適した健康な枝が十分に持つ木に進化していく。
ジョンソン&ジョンソン:
いくつもの新しいものを試し、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものはすぐに捨て去っている。
@権限の分散を進めて、個人の創意工夫を促し、社員が新しいアイデアを実験できるようにして、変異を促進している。
A同時に、厳しい選択の基準を設けている。多数の試みのなかで、収益性を実証し、会社の基本理念に合っているものだけが、事業の一部として残されることになる。
ウォルマート:
父が偉大な戦略家で、天性の才能によって複雑な計画をつくりあげ、それを着々と実行に移したと書かれているのを読むと、社内の人間はみな、くすくすと笑っている。父は変わり身の早さが身上で、どんな決定をも金科玉条にしたりはしない
ウォルマートのシステムができあがった主因は、経営の天才が戦略計画を立てたことにあるわけではない。
変異と選択とうい進化の過程にこそある。
「繁殖し、変異し、強いものが生き残り、弱いものが死に絶えた」結果。
「当社のモットーは、『なんでもやってみて、手直しして、試してみる』だ。どんなことでも試してみて、うまくいったら、それを続ける。うまくいかなければ、手直しするか、別のものを試してみる」
環境に見事に適合したビジョナリー・カンパニーは、主に賢明な洞察力と戦略的な計画の結果であると考えるよりも、主に以下の基本的な過程の結果だと考える方が、はるかに事実に合っていると思われる。つまり、多数の実験を行い、機会をうまくとらえ、うまくいったもの(そして、基本理念に適合するもの)を残し、うまくいかなかったものを手直しするか捨てるとうい過程。
企業には、目標を定め、計画を立てる能力がある。
ビジョナリー・カンパニーは、実際に、目標を定め、計画を立てている。
ウォルマートも、BHAGと進化の過程の両方を同時に使ってきている。
BHAGを設定し、どの山に登るのかを決め、頂上に登る道を探るにあたって、進化の過程を利用している。
GE:
「計画のもとでの臨機応変」
ウェルチは、詳細な・・・・戦略計画に基づいて命令を下していくのではなく、すべての事業に通じる明確な目標をいくつかだけ設定すべきだと考えている。そのうえで、この目標を達成する機会があれば、各人がそれぞれの状況に合わせて、自由に機会を利用できるようにすべきなのだ。・・・(この「計画のもとでの臨機応変」が)固まったのは、19世紀のプロイセン軍の参謀総長、モルトケ将軍についての論文を読んだからであった。将軍に影響を与えた有名ない軍事思想家、カール・フォン・クラウゼビッツは、状況は必ず変わるので、綿密な作戦計画のを立てても、失敗に終わるのが通常だと指摘している。
人が作る組織では、意識的な淘汰が可能
基本理念の範囲内で望ましい目標を掲げ、それに向けた進化の過程を意識的に促すことができる。
「目的のもとでの進化」
進化の過程は、それをよく理解し、積極的に利用すれば、進化を促す強力な方法になる。そして、ビジョナリー・カンパニーは比較対象企業に比べて、進化の過程の利用にはるかに積極的
■3M・・・ミネソタの突然変異製造機がいかにしてノートンをつきはなしたか (p253)
ビル・ヒューレットが特に尊敬し、手本にしている企業
「3Mだ。これは断言できる。3Mが次にどう動くのか、だれにもわからない。本当にすごいのは、3M自身、次にどう動くのかが、たぶんわかっていないことだ。しかし、次の動きを正確に予想することができなくても、同社が今後も成功を続けていくことは、確実だと言える」
研磨材原料の採掘に失敗⇒サンドペーパーと砥石車の製造に事業を変更。
必死の生き残り策として、3Mは鉱業をあきらめ、研磨剤の製造を始めた。
□ウィリアム・マックナイトの登場(p254)
会計士から営業マンに転じた読書好きの物静かな若者の主張で、製品の手直しと改善。
マックナイトは、生来の「時計づくり」⇒倉庫を研究室にして、接着剤用の水槽を買い、実験と試験を行わせた。
外見は内気で控え目だが、好奇心の固まりであり、常に前進を求める意欲が強烈
週7日働くこともしばしばあり、新しい事業機会を常に探していた。
問い合わせに対する素朴な質問。
「オーキー氏はどうして、このサンプルがほしいのか。」
⇒オーキー氏は革命的な耐水性のサンドペーパーを発明していた。
⇒3Mはこの発明の権利を買い、「ウェッドドライ」というブランドで新しいサンドペーパーを発売。そして、オーキーを社員として雇った。
■3Mでの「枝分かれと剪定」 
設立の当初、当社ではタマゴをすべて、ひとつのカゴに入れていた。・・・製品を多角化すれば、・・・競争の激化で製品のすべてが打撃を受けるとは考えにくいし、いつでも、事業のうち少なくとも一部は、収益があがるだろう。
常に内部で変異を遂げていく組織をつくり、従業員をそれぞれの創意工夫によって前進していく仕組みをつくろうとした。
独創的なアイデアを持っている人の意見に耳を傾けよう。そのアイデアがはじめは、どんなにばかげていると思えたとしても。
激励しよう、ケチをつけるな。アイデアを出すよう、皆に奨励しよう。
優秀な人材を雇い、自由に仕事をしてもらう
・部下の周りにフェンスをめぐらせば、部下は臆病になる。必要なだけの自由を与えよう
思いつきの実験を奨励しよう。
試してみよう。なるべく早く
個々人の創意工夫を奨励すれば、進化の過程の前提になるばらばらの変異が生まれることを直感的に理解していた。
「(個々人に自由を与え、自主的に考え、行動するように促せば)誤りも出くる。しかし・・・長期的にみれば、経営陣が独裁的な指揮命令体制をつくり、従業員の一挙一動を指示していて犯す誤りに比べれば、個々の従業員の誤りはそれほど深刻にはならない。従業員が誤りを犯したときに、経営陣が雷を落としていると、従業員が自主性を発揮できなくなる。そして、当社が成長を続けていくためには、自主性を発揮する従業員が多数いることが不可欠なのだ。」
本物の3M社員ならだれでもそうするように、ドリューは自分で開発した。
⇒3Mマスキング・テープ。
「問題」という形をとった機会(それも、幾度となく繰り返されているもの)に対応して、3Mはサンドペーパー以外の分野に一歩踏み出すことになった。
5年後、耐水性の梱包用テープを探しているという企業の要請にこたえて、ドリューはマスキング・テープの技術を利用し、スコッチ・セロファン・テープを発明。
「変異と淘汰」の戦略
アイデアを生み出し、そして試験する力強い(体制を)築かなければならない。・・・考え出されたアイデアはすべて、その真価を問う機会を与えられなければならない。その理由はふたつある。
第1に、それがいいアイデアであれば、採用したい。
第2に、いいアイデアでなかった場合にも、それが実際的ではないと証明できれば、一種の保険になり、安心できる。
アイデアを評価し、淘汰する際の基準として、あと2点:
@採用するアイデアは本質的に新しいものでなければならない。
A社会のニーズに合致したものであることを証明しなければならない。
「少量生産し、少量売る」「小さな一歩を大切にしよう」
「どんな市場でも、どんな最終製品でも、小さすぎるとばかにしてはならないという単純な原則」

大型商品が小さな一歩から生まれることが少なくない点を3Mは理解している。
3Mのすばらしさは、マックナイト、オーキー、ドリュー、カールトンらの草創期に活躍した人たちを乗り越えて成長してきたこと。
何かに偶然ぶつかることがあるが、ぶつかるのは、動いているから。
ポストイットの開発には偶然の積み重ねという部分があったとしても、その開発を可能にした3Mの環境は、偶然の産物ではない
進歩を刺激する仕組み(3M)
・15%ルール
・25%ルール(1993年から30%ルール)
・ゴールデン・ステップ賞
・ジェネシス基金
・技術共有賞
・カールトン・ソサエティ
・「自分のビジネス」として運営する機会
・「デュアルラダー」の進路
・新製品フォーラム
・テクニカル・フォーラム
・問題解決派遣チーム
・ハイ・インパクト計画
・小規模の独立した事業部と事業単位
・利益配分制度を早くから導入
□ノートンとのあざやかな違い(p267) 
3M:「試してみよう。なるべく早く」〜常に進歩を求め、行動を絶やさなかった。
ノートン:がちがちの中央集権による官僚体制を確立し、「杓子定規と停滞」が特徴に。
3Mやカーボランダムと比較して株価収益率が低下⇒ノートンは事業を多角化し、前進するために全力をあげるようになった。
but
3Mとは違って、新規事業を進化によってではなく、戦略計画と買収によって達成しようとした。
ノートンは、ボストン・コンサルティング・グループにとって初めての本格的な顧客となり、その「ポートフォリオ・マネジメント」手法を取り入れる。

内部の進歩を刺激する仕組みを確立するのではなく、ぴったりの企業を買収しようとした。
「ノートンは、ほとんどの投資家がポートフォリオの管理に使うような方法で、事業を経営している。」
対する3Mは常に事業の「ポートフォリオ」を持ち、それが、どんな経営コンサルティング会社でも手放しで称賛するようなすばらしいものになっている。
3Mの事業ポートフォリオは、みごとにい計画によるもののように見えるが(ちょうど、種が全知全能の創造主によってつくられたと見えるように)、実際には、大部分が、変異と淘汰による方向性のない進化の過程によるものなのである。
3Mの例にも、創造主のような戦略計画の見方をしていると、「なぜ(成功したのか)」「どのようにして(それが作られたのか)」が混同されやすいことがみごとに示されている。 
マトリックスでは、3Mの事業ポートフォリオがどのようにしてつくられたのかは、まったく理解できない。
3M:個人の創意工夫を奨励することで、次々と新しい分野に進出(まったく予想外の分野へに進出したことも、少なくなかった)。
ノートン:コンサルタントからわたされた調査結果と戦略計画モデルに依存。

3M:計算ずくではなく、かなりの部分、偶然によって新しい市場を開拓できる状況をつくって、前進を促す
ノートン:「計画こそが命」

3M:「科学的な遊びの精神」を大切に
ノートン:自社の経営戦略の手法は、「すべて軍事的な作戦計画から導き出されたもの」

3M:社内で次々に実り、雪だるま式に増えていく研究の成果のなかから、とくに有望な一歩を選ぶ方法を主に使って多角化を進める
ノートン:企業買収に頼る(←社内の研究開発では機会に限度がある)

1990年になって、
3Mでは、売上が130億ドルを突破し、数百の革新的な新製品が発売されていった。
ノートンは敵対的買収の標的になり、独立企業としての地位を失った。
■CEO、経営幹部、起業家にとっての教訓(p272)
@「試してみよう。なるべく早く」:
疑問があれば、方法を変え、考え方を変え、問題を解決し、機会をとらえ、実験し、何か新しいことを試す(もちろん、基本理念に従って)。
何かをやる。ひとつが失敗したら、次を試してみる。
A「誤りは必ずあることを認める」:
進化の過程には誤りと失敗がつきもの。
ダーウィンの進化論の中心は「繁栄し、変異し、強いものが生き残って、弱いものが死に絶える」
「もし、秘訣があるとするなら、失敗の事業はそうとわかった時点でなるべく早く捨てることだ。・・・しかし、失敗にも、ある意味で価値がある。・・・成功から学ぶこともできるが、それはたいへんな努力が必要だ。失敗からなら、はるかに容易に学べる。」
B「小さな一歩を踏み出す」:
企業の戦略的な大転換を図りたいのであれば、「一歩ずつの革命」を起こし、小さな目に見える成功による力を利用して、会社全体の戦略に影響を与える方法がある。
マクナイトがオーキーに素朴な質問をしたことが、大きな成功につながる。
アメックスでは、金融サービスへの小さな一歩から会社の事業の柱が育つ。
ウィリアム・ダリバの小さな実験から旅行サービスへの進出という革命的な変化が起こった。
C「社員に必要なだけの自由を与えよう」:
社員にはるかに業務上の自主性を認め、はるかに権限分散が進んだ組織になっており、これが、計画によらない変異を可能にする基本となっている。
社員があくまで自説を主張できるようにすべき。
ポストイットの開発者は、中途半端な接着剤のついた小さな紙切れが役立つことを社内で説得するのに苦労したが、そんなばかげたことはやめろとは、だれも言わなかった。
D重要なのは仕組み。着実に時を刻む時計をつくるべき:
3Mの仕組みは、どれも、きわめて具体的で、進歩を促す一貫したメッセージを社員に送っている。
ムチも用意(新製品による売り上げを30%以上にする目標を達成しなければ、立場がなくなる。)。
企業経営者はDの重要性を過小評価することが多く、自らの意図を具体的な仕組みの形にすることを怠ることが多い。
進化のための行動を常に促し、強化する仕組みをつくらなければならない。
してはならないこと:
恐怖政治
ほとんどの時間を会議に費やす

顧客は不機嫌でも、反乱を起こさないようにしている
(3Mでは、顧客の問題は進化の機会

部下の動きを抑える
トップダウンの官僚的手法
「ばかげている。それしか報告することがないんだったら、これ以上聞きたくない」
シティバンクでは、同じ時期、「指揮命令系統がしっかり固まっておらず、混乱のきわみと言えるほど創造力が発揮されて、前進し、・・・適者生存の企業版とも言える状況」で、優秀な人材が革新的なアイデアを実行に移して、高い報酬を得ていた
■「基軸から離れない」ではなく、「基本理念から離れない」(p279)
トム・ピーターズ:「エクセレント・カンパニー」
「基軸から離れない」
「自分たちがよく知っている事業からそれほど遠くない事業にとどまっている企業のほうが、卓越した業績をあげる可能性が高い」
vs.
3M。
ジョンソン&ジョンソンは、消費財の販売になんの経験もないまま、ベビー・パウダーを売り出す。
マリオットは、まったく経験のないホテル事業に進出。
ヒューレッド・パッカードは、はじめてコンピューターを発売したとき、コンピューター事業の専門知識は全くなかった。
ディズニーはテーマパーク事業の経験はまったくないまま、ディズニーランドを建設。
ボーイングは、民間航空機についてほとんど経験がなかった。
アメックスが小口貨物輸送という基軸から離れなければ、会社は残っていなかっただろう。
ノートンやゼニスは基軸に固執して没落。
基本理念こそが「基軸」である。
□基本理念を維持し、進歩を促す(p280)
E進化による進歩を促す際に、基本理念を維持することを忘れてはならない。
進化には、変異だけでなく、淘汰が不可欠。
3M:
淘汰の2つの基準
@うまくいくのかどうか
A基本理念に従ったものであるか
3Mは、社会のニーズに合致した革新的な技術を生み出すことを目標にしてきた。
新しく、役に立ち、信頼性があるものでなければ淘汰。
ウォルマートでは、顧客にとっての価値を高めない実験が淘汰の過程で選ばれることはない。
マリオットでは、どんな機会があっても、「自宅から離れている人たちが、友人に囲まれ、心から歓迎されていると感じられるようにする」という会社の目的から外れるものであれば、ほかの機会を探す。
自然界では種がどんなに変異し、進化しても、遺伝コードには変化がないように、ビジョナリー・カンパニーでは変異を重ねていっても、基本理念には変化がない。
基本理念⇒目的と精神がある。
  ★第八章 生え抜きの経営陣(p286)
■  ジャック・ウェルチ
これからは、(後継者を選ぶことが)わたしの決定のなかで、もっとも重要なものになる。ほとんど毎日、この点を考えることにかなりの時間を費やすことになる。 
ガルビン(モトローラ):
経営者としてとりわけ重要と考える責任のひとつは、有能な経営陣が継続するようにすることである。われわれは常に、いつでも後を継げる有能な候補者を用意し、とくに優秀な候補者のために移行研修制度を設け、(後継計画について)きわめてオープンにすることで、成功を収めてきた。・・・経営陣の継続性はきわめて重要だとわれわれは考えている。
ウェルチのような経営者がいるのは、すばらしいことだ。
1世紀にわたってウェルチのような経営者が輩出し、その全員が生え抜きであるのは、すばらしいというにとどまらない。GEがビジョナリー・カンパニーだと言える主な理由のひとつである。
■社内の人材を登用し、基本理念を維持する(p292)
ビジョナリー・カンパニーは比較対象企業よりはるかに、社内の人材を育成し、昇進させ、経営者としての資質を持った人材を注意深く選択
後継者の育成を、基本理念を維持する努力の柱にしている。
ビジョナリー・カンパニーの延べ1700年の歴史のなかで、社外の人材が最高経営責任者になった例は4回しかなかった。
重要なのは、優秀な経営陣の継続性が保たれ、基本理念が維持されていること
@経営幹部育成・後継計画⇒A社内の有力な後継候補⇒B社内の人材による優秀な経営陣の継続性⇒C基本理念の維持・進歩の刺激⇒@
□後継者不足に苦しんだコルゲートと、人材が山なすプロクター&ギャンブル(p295) 
コルゲート:
ピアースは「事業拡大熱」に浮かされ、・・・巨大なコングロマリットをつくる夢を追い、失敗した。
コルゲートの基本理念を踏みにじり、とくに、小売店、顧客、従業員との関係を公正なものにするという基本的な価値を踏みにじった。
⇒薬局が離れたことは、手痛い打撃になった。
その後、ワンマン経営者が続き、後継者が育たないようにした。
プロクター&ギャンブル:
デプリーは会社の性格を守り、それを次の世代に伝えていくうえで、決定的な役割を果たした。
経営幹部を常に育成して、どのレベルでも引き継ぎにあたって断絶が起こらないようにし、基本理念を会社全体で維持することを重視している。
P&Gの経営幹部育成計画は徹底しており、一貫しているので、同社にはどのレベルでも、どのポストでも常に人材が山をなしている」
「将来の経営者になる人材の育成は・・・・景気がよいときも悪い時も、1年も止まることなく続けていく。そうしていなければ、何年かたって、断絶が生じる。経営陣の断絶には、当社は耐えられない」
□経営の引き継ぎに失敗したゼニスと、控えに豊富な人材を持つモトローラ
ガルビン(モトローラ):
ひとつの世代から次の世代へ経験を伝えていくのは、毎日の作業であり、それ何年も続く。
ひとりのCEOが経営にあたるという常識をくつがえして、複数による「チーム」で主席業務執行室をつくることにした。
それを、中間管理職レベルにまで広げ、通常2人か3人のチームで管理にあたる体制をとって、会社全体で経営幹部を育成し、経営の継続性を保証する仕組みの中心にしている。
モトローラは設立から60年、ゼニスと違って、1度も経営者の断絶に苦しんでいない。
常に事業の性格を変えているが、基本的価値観をしっかりと持つ優秀なトップ経営陣の継続性が断ち切られたことは1度もない。
経営陣が突然辞任する予想外の事態が起こっても、継続性が保たれている。
□経営陣の混乱と企業の没落(p304)
メルビル:
経営者が悪いと、業績が急激に悪化することに気づいて、仰天した。
⇒立て直しのために外部からCEOを招聘しようと検討したが、途中で外部から経営者を招くことの愚に気づき、将来性のある生え抜きの若手を育成することにした。
ダグラス:
息子のドナルド・ダグラスは、適切な準備ができていなかった。
社内の敵と考えた人物(父親の時代の経営幹部のほとんど)に報復し、・・・経営豊富な幹部をクビにし、自分の取り巻きを後釜に据えた。
⇒能力のある幹部は次々にやめていき、ボーイングとの競争に対応できなかった。
R・J・レイノルズ:
社外取締役のJ・ポール・スティクトが、すでに決まっていた後継者への後継計画を覆すのに一役買い、そのあとにうまく立ち回って社長になった
⇒経営陣のほとんどを部外者に入れ替え。
⇒ロス・ジョンソンが次にCEOになり、失敗。
エームズ:
創業者一族が招聘した部外者によって、会社が没落。
ディズニー:
社外からマイケル・アイスナーとフランク・ウェルズを経営者として迎えた。
部外者を選ぶにあたっても、基本理念の維持をはっきりした目標にして最善を尽くした
「アイスナーはウォルト以上にウォルト的だった」

経営者を外部から招かなければならなくなった場合に、基本理念にぴったり合った候補者を探すべき
GE、モトローラー、P&G、ボーイング、ノードストローム、3M、HPなどが繰り返し示しているように、ビジョナリー・カンパニーには、変革をもたらし、新しい考え方を取り入れるために経営者を社外から招く必要はまったくない
■CEO、経営幹部、起業家へのメッセージ(p309)
@社外から経営者を招いていては、先見性が際立つ企業になることも、その座を守ることも、きわめて難しい。
A生え抜きを昇進させることと大きな変化を促すことが両立しえないとは、絶対に言えない。
経営のトップが変化と前進の先頭に立つようにするには、社外から経営者を迎えるしかない・・・と考えるのは落とし穴であり、この罠にひっかからないようにすべき。
カギになるのは、健全な変化と前進をもたらしながら、基本理念を維持するきわめて有能な生え抜きの人材を育成し、昇進させること。
大手企業の経営者や取締役:
経営幹部育成のための制度を設け、長期的な後継計画をつくって、ひとつの世代から次の世代への移行が円滑に進むようにすべき。
経営幹部や中間管理職:
企業内でビジョナリー(先見的な)事業部門、 部署、グループをつくっているのであれば、やはり、幹部の育成と後継計画を考えることができる。
(自分がバスにはねられたら、だれが自分の後を継ぐのか。)
自分にぴったり合っているビジョナリー・カンパニーに勤めているのであれば、転職するよりも、その企業のなかで自分の能力を伸ばすことを考えてみるべき。
中小企業経営者や起業家:
実際に経営を引き継ぐはるか以前に後継計画を立て、経営幹部を育成する。
ビジョナリー・カンパニーを築くという観点に立つなら、問題はいまの世代で会社をどこまですばらしいものにするかだけではない。
決定的な点は、次の世代で会社がどうなるか。その次の世代でどうなるか
ビジョナリー・カンパニーは、何世紀にもわたって前進を続け、個々の指導者が活躍できる年数をはるかえに超えて、その目的を追求し、基本的価値を貫いていく。
  ★第九章 決して満足しない(p313)
ウィリアム・フォークナー:
同世代の人たちや過去の世代の人たちに勝とうなどと考えることはない。自分自身に勝つことを考えるべきだ
J・ウィラード・マリオット・ジュニア:
父はいつもこう言われてきた。
「本当にすばらしい仕事をしてきたじゃないか。ここらで一服してもいいはずだ」
父の答えは、いつも同じだった。
「とんでもない。もっともっと前進して、もっといい仕事をしなければ」
ビジョナリー・カンパニーでは、もっとも大切なことは、「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるのか」
この企業がすばらしい行動をとり、実績をあげているのは、最終目標を達成しているからというより、常に改善を進め、将来のために投資する終わりのない過程の結果、自然に成果が生まれてくるから。
ビジョナリー企業では、最終的なゴールがあるわけではない。「目標を達成できた」と喜ぶことはない。
ビジョナリー・カンパニーが飛びぬけた地位を獲得しているのは、将来を見通す力が優れているからでも、成功のための特別な「秘密」があるからでもなく、主に、自分自身に対する要求が極めて高いという単純な事実のため。
昔ながらの厳しい自制猛烈な仕事ひとりよがりと自己満足に陥ることへの本能的とも言える嫌悪感が、いやというほど必要。
マリオット・シニア:
世の中でいちばん大切なものは、自己を律することである。自己を律することがなければ、人格は形成されない。人格が形成されなければ、進歩はない。・・・逆境は成長への機会になる。そしてなんのために働くかで、成果は変わってくる。問題があり、それを克服できれば、人格が養われ、成功をもたらす質を獲得できる。
「不断の改善」
■現状を不十分と感じるようにする仕組み(p317)
安心感は、ビジョナリー・カンパニーにとっての目標ではない。それどころか、ビジョナリー・カンパニーは不安感をつくり出し(言い換えれば、自己満足に陥らないようにし)、それによって外部の世界に強いられる前に変化し、改善するよう促す強力な仕組みを設けている。
偉大な芸術家や発明家がそうであるように、ビジョナリー・カンパニーも不満を栄養に成長する。不満がなくなれば、自己満足に陥り、自己満足に陥れば、勢いが衰えるしかない
会社が成功を収め、業界でトップになったとき、どのようにすれば、自らを厳しく律していくことができるのか。人々が奮い立ち、決して満足せず、常に改善の道を求めるよう「内側から燃える火」をいつも絶やさないためには、どうすればいいのか。
P&G:
P&Gのブランド同士が直接に競争するという提案
市場に十分な競争がない⇒内部で競争する仕組みをつくり、どのブランドも栄光に安住するわけにはいかないようにすればいい。
自社内で激しい競争を繰り広げるブランド・マネジメント構造を実施に移し、これが変化と改善を内側から刺激する強力な仕組みになった。

自己満足の病と戦うには、不安感を生み出すなんらかの仕組みが必要。
ビジョナリー・カンパニーを見ていくと、じつにさまざま仕組みが使われている。
メルク:
差別化が難しくなり、利益率が下がった製品のシェアを意識的に落としていき、業績をあげ、成長していくには、革新的な新薬を開発せざるを得なくなる戦略を採用。
モトローラ:
技術革新を進めなければ死に絶える仕組み。
売上高に占める比率が高い成熟した製品から撤退して、その穴を新製品で埋めるしかないようにする方針。
(テレビやカーラジオから撤退)
売上の穴を埋める新製品の開発にあたっては、「技術道路地図」と呼ぶ高度な手法を使い、今後10年間に予想される競争相手の動向と市場のニーズを基準に、自社の技術の進歩を検討
GE:
「ワークアウト」
従業員が改善提案をまとめ、管理職は、全員の前で、その場で、提案について回答
ボーイング:
「敵の視点」
競争相手の立場に立って、ボーイングを壊滅させる戦略を立案
それに基づいて、ボーイングがとるべき戦略を考えていく
ウォールマート:
「過去を乗り越えよう」と呼ぶ表。
ノードストローム:
SPH(1時間当たり売上)のランキングは、同僚との比較で成功を測る
「顧客の意見を真摯に聞いてみると、顧客が心から満足していることはない。どこに問題があるのかを話してくれるので、改善を進めていかなければならなくなる。いちばん困るのは、頭が鈍くなることだ。当社のサービスやさまざまなことについて、マスコミにさかんに取り上げられ、当社の社員もそれを信じるようになり、顧客より自分たちの方が正しいと考えるようになる。そうなったら、頭がまったく鈍くなってしまう。」
HP:
部門ごとのランキング。
ランクの最上位から最下位まで、全員が合意するまで議論が続く。
HP:
「現金払い」
長期負債を禁止。
無借金経営⇒HPは年20パーセントを上回る成長のための資金を、なんとか社内でひねりださねばならない⇒資金繰りにいつも苦しむ小企業にしか見られないほど、簡素で効率的な組織をつくりあげる結果
比較対象企業:
意識的に楽な道を選び、ときとして、長期的な将来を犠牲にして、短期的な利益を追求。
■将来のために投資する・・・そして短期的にも、好成績をあげる(p323) 
HP:
第二次世界大戦終了⇒軍の発注が激減(1946年)
社員は減らしたが、社内でもとくに給料水準が高い優秀な技術者は解雇せず、長期的な見通しに打撃を与えないようにした。
「事業は苦しくなっていたが、戦争中に政府の資金で研究を続けていた研究所から、優秀な若い技術者を雇うことにした。」

ヒューレッドもパッカードも、戦後に、優秀な人材を活用できるほど事業環境がよくなるかどうか、まったくわかっていなかった。
事業が急成長の軌道に乗ったのは、ようやく1950年になってから。
HP:長期的利益も短期的利益も大事
TI:
1946年には、政府の研究所で働いていた優秀な研究者を雇っている。
but
ハガーティが引退した後、50年間の視野を保ちながら、当期に優れた業績を達成する難しい課題を重視しなくなっていく。
大幅値下げで、消費者向け製品で品質を犠牲に⇒巨額の赤字をだし、評価を落とす

規模の拡大の短期的な成長を追求するあまり、優秀で革新的な製品を生み出す基礎と伝統を崩してしまい、長期的な見通しに深刻な打撃が及ぶ。
ビジョナリー・カンパニーの経営幹部は、短期的な業績または長期的な成功の二者択一が必要だという考え方を受け入れない。何よりも長期的な成功(=50年)を目指しながら、同時に、短期的な業績についても高い基準を掲げている。
ビジョナリー・カンパニーにとって、安心感は目標ではない。
□長期投資に力をいれるビジョナリー・カンパニー(p327)
将来のための投資が多い
@売上高に対する設備投資の比率が高い
A配当性向が低く、毎年の利益のうち、会社に留保する部分の比率が高い
B売上高に対する研究開発費の比率が高い(比較対象企業の1.3倍)
C人材に対する投資もはるかに積極的で、採用、研修、能力開発に力をいれる(「大学」や「教育センター」に巨額を投資)
D技術ノウハウ、新技術、新し経営技法、革新的な事業慣行などの面でも、積極的に投資を進める
モトローラー:
何年かたって重要になると予想される新技術に投資
ゼニス:市場の力によって迫られるまで、新技術の導入を遅らせてきた
ウォルト・ディズニー:
常に新しい映画技術に投資して、それを利用
競合各社:新技術に落とし穴はないかと検討にばかり時間を費やしてきた
シティコープ:常に新しい方法に早い時期に投資
フィリップ・モリス:投資
R・J・レイノルズ:浪費
マクドネル・ダグラス:短期的な利益に細心の注意を払い、将来のための飛躍ができなくなっている。
(ボーイングの「明日への飛躍」)
■マリオット対ハワード・ジョンソン・・・アメリカの偉大なチェーンの没落 (p333)
マリオット:厳しく自らを律して、不断の改善を続けていった
ハワード・ジョンソン:自己満足に陥っていた。

1975年 ハワード・ジョンソン・ジュニア:
「当社は現実に対応していく姿勢をとっている。将来を予想しようとはしていない。この業界では、長い将来を見通せるわけではない。2年がせいぜいだ。」
⇒標的とするセグメントを絞り込んでレストランやホテルに投資することはせず、気付いたときには「希望のないセグメントに押し込められていた」
マリオット・ジュニア:
質素な暮らしぶり。
「モルモン教の勤労観」に導かれて、週に70時間働き、自社の施設を年に200か所訪問し、ほかの経営幹部にも同じように各地を飛び回るよう求めていた。
マリオットの進歩を促す仕組み:
・「顧客サービス指数(GSI)」
・従業員全員を対象とした年次勤務評定・・・時間給の従業員も、管理職も、全員が対象になる。
・コーヒーショップ店長に至るすべての管理職を対象として報奨ボーナス制度・・・コスト効率に加え、サービス、品質、清潔さが評価対象に。
・すべての従業員を対象とする利益分配制度・・・対象になるのは、給料の10パーセントまでを利益分配信託に投資し、会社の成長と個人の経済的な安定とを具体的な形で結び付けた従業員。
・優秀な人材を雇用するための採用と選別の重視
・経営幹部と従業員の研修制度
・本格的な「学習センター」への投資
・「覆面調査員」
■CEO、経営幹部、起業家へのメッセージ(p336)
常に改善を求めて自らを律しているかどうかは、ビジョナリー・カンパニーと比較対象企業の違いのなかでもとくに鮮明。
問いかけ
・どのような「不安をもたらす仕組み」をつくるのか。
将来のための投資を進めながら、同時に、たったいまの業績をよくするため、何をしているのか。
不景気にどう対応するか。
・安心感が目的でないこと、働きやすい職場ではないことを社員は理解しているか。
良いニュース:
ビジョナリー・カンパニーになるための基本的な要素はきわめて単純。
@昔ながらの厳しい自制
A猛烈な仕事
B将来のための絶えざる努力
悪いニュース:
@ABがいやと言うほど必要。

近道はない。
魔法の薬はない。
抜け道もない。
成功を収めても、それが終点になることはない。
■黒帯の寓話 
「黒帯は出発点です。常に高い目標を目指して、終わることなく続く修行と稽古の旅の出発点です」
「修業はこれから始まる。」
★    ★第十章 はじまりの終わり(p342) 
経営理念などを文書にしただけで、必ずビジョナリー・カンパニーになれるわけではない。
ビジョナリー・カンパニーの神髄は、基本理念と進歩への意欲を、組織のすみずみにまで浸透させていることにある。
目標、戦略、方針、過程、企業文化、経営陣の行動、オフィス・レイアウト、給与体系、会計システム、職務計画など、企業の動きのすべてに浸透させていること。
ビジョナリー・カンパニーは、一貫した職場環境をつくりあげ、相互に矛盾がなく、相互に補強し合う大量のシグナルを送って、会社の理念と理想を誤解することはまずできないようにしている。 
「一貫性」:基本理念と目標とする進歩のために、会社の動きのすべての部分が協力し合っていること。
ビジョン=@長期にわたって維持される基本理念と、A将来の理想に向けた進歩の2つの組合せ、。
■一貫性の力・・・フォード、メルク、ヒューレット・パッカード 
□フォード(p344)
経営陣が作成した「使命・価値観・指導原理(MVGP)」:
利益より人々と製品を大切にする
品質の改善、従業員の参加、顧客の満足を重視する
統計的な品質管理の手法を導入。
部品や材料が悪かった場合にはラインを止める権限を現場の責任者に与えた。
部品メーカーにまで品質管理を徹底させるため、「Q1制度」を設けて、品質についての評価とともに、統計的品質管理を取り入れているかどうかも基準にして、部品メーカーを選別。
部品メーカー向け研修セミナー
従業員参加制度⇒生産ラインの従業員が品質改善のための努力の中心に。
参加型経営プログラム⇒管理職や現場主任に、従業員参加制度を支援する方法を教えた。
昇進を判断する基準〜参加型経営の技術に力点
利益分配制度〜会社の業績が従業員にとって重要な意味をもつようにした
完全に新しい乗用車を製造するBHAG
以上、フォードは、大小さまざまの数百の仕組みをつくって、MVGPを日常業務に反映させ、実現していった。
□メルク(p346) 
1920年代後半に同社のビジョンの骨格をつくりあげた:
誠実さ、社会への貢献、顧客と従業員への貢献、品質と卓越差の飽くなき追求という基本的価値に基づいて、世界のトップ・クラスに入る製薬会社を築き上げ、医薬品の分野での技術革新によって人類に貢献する事業を進める。
優れた業績は、ビジョンを追求した副産物
メルク・キャンパス
基礎研究の成果を秘密にするのではなく、専門誌に研究成果を発表するよう研究者に促し、優秀な研究者を引き付ける決め手になった。
優れた学者を取締役に迎え入れ、研究者は管理職に昇進しなくても給与面で不利な扱いを受けないようにする「二重階段」の昇進制度
「研究の目的と方法について最大限の裁量権を与え、有望な研究テーマの追求について最大限の自由を保証。研究やテーマが売り上げや利益に・・・どれほど結びつかないものであっても構わない。」
常識には反するものの同社にとってはまったく正当な方針:
研究開発の計画や管理のための手段として予算を使うことを、はっきりと否定。
予算を割当てられているのは、個々の社員で、チームのリーダーは、チームに加わって、それぞれが持つ資源をチームのために使うよう、さまざまな社員を説得しなければならない。

適者生存の淘汰が行われ、とくに優れたプロジェクトが資源をひきつけ、劣ったプロジェクトは死に絶える。
様々なBHAG
□ヒューレッド・パッカード(p352)
「当社の主要な任務は、科学の発展と人類の幸福のために、きわめて優秀な(電子機器)を設計、開発、製造することである。われわれはこの任務を果たすために、一心不乱に努力する」
ビル・ヒューレット:
「4つの義務」
@収益性を高く保って成長を続ける
A利益は技術の進歩への貢献による
B従業員の人間としての価値を認め、従業員と会社の成功を共有
C社会のなかで責任ある企業市民として活動
労働組合を組織しようという動きは何度もあったが、そのたびにみじめな失敗に終わった。
従業員が企業経営の一翼を担っていると感じている企業、寒い日に組合を組織しようピケをはっていると、経営陣が休憩時間に温かいオフィス内でコーヒーとドーナツをふるまうような企業に、組合が入り込めるはずがない。
横並びの製品やコピー製品は、市場にどれほどの潜在力があっても、日の目をみないようになっている。
当社の経営幹部の会議に出席する機会があれば、発売するにしては技術の進歩への貢献が足りないとされて、実に多くの案が葬り去られているのがわかるはず。
HPが何をやっているかと同じくらい重要な点は、何をやっていないか。
そのときどきに流行した経営理論や気まぐれを安易に受け入れない姿勢をとってきた。
財務理論では「非合理的」だとされても、無借金経営を貫いてきている。
←借金をすれば厳しく自らを律する企業家精神が損なわれる。
ベンチャー・キャピタルなどの外部投資家を避ける方針
←外部投資家は、実力以上に成長するよう圧力をかける。そして、成長が早すぎると、価値観が失われていく。
1970年代に、「学習曲線・市場シェア」の企業戦略理論が一世を風靡。
市場シェアが拡大すればコストが下がり、いずれ利益が増えるとの理論⇒幅広い業者のきわめて多数の経営幹部が競って採り入れた。
but
HP:
学習曲線理論を否定し、違った基準を守りぬいた
「発売1年目に十分な粗利益が出るほどのよい製品でないのなら、その製品には技術的にみて十分な利点がないのであり、ヒューレット・パッカードが製造する理由がないこれについて、議論の余地はない」
「ビルとデーブがわたしのために働いてくれているのであって、逆ではないような印象を持つ」
■CEO、経営幹部、起業家のための一貫性の教訓(p361)
  一貫性を達成するには、働き続けるしかない。
□  □一 全体像を描く
重要なのは、繰り返すこと。
重要なのは、驚くほど広範囲に、驚くほどの一貫性を、長期にわたって保っていくこと。
圧倒的とも言えそうな数のシグナルと行動によって、常に基本理念を強化し、進歩を促していく。
□  □二 小さなことにこだわる(p363)
従業員に強い印象を与え、力強いシグナルを送るのは、ごく小さなこと
社会的認知の調査によるなら、従業員は職場環境にあるシグナルなら、大きなものでも小さなものでもすべてを認知し、自分がどのように行動すべきかを考える材料にしている。
些細な点を見逃さない。
□  □三 下手な鉄砲ではなく、集中砲火を浴びせる
全体として強力な連続パンチになるように、仕組みや過程を集中している。
1個ではなく10個のスピーカーがあって、それぞれが音を増幅し合いながら、前からも左からも、床からも天井からも、いっせいに一貫したメッセージを流し続けている。
□四 流行に逆らっても、自分自身の流れに従う。
自社の基本理念と理想こそが現実をとらえる際の指針にならなければならない
ジョンソン&ジョンソン:本社ビルをニュージャージー州の荒廃した俊に移す決定。
ボーイング:航空機の設計にあたって、競争相手よりはるかに厳しい安全基準を設けている。
3M:急成長している小企業ならひとつの事業に集中すべきだという経営の常識に従わなかった。
学習曲線と市場シェア理論は、HPにとっては意味のない理論でしかなかった。
正しい問いの立て方は、「これはよい方法なのか」ではなく、「この方法は当社に合っているのか、当社の基本理念と理想に合っているのか」である。
□五 矛盾をなくす
一貫性を達成するには、新しいものを加えていけばいいわkではなない。
同時に、基本理念からの乖離をもたらしたり、進歩を妨げたりする矛盾を見つけ出し、粘り改めていく終わりのない努力が必要。
ビジョナリー・カンパニーで変えてはならない聖域は基本理念だけ。
□  □六 一般的な原則を維持しながら、新しい方法を編み出す
@基本理念の存在
A進歩への意欲の維持
B基本理念を維持し、進歩を促すよう、すべての要素に一貫性が必要
ビジョナリー・カンパニーが基本理念を維持し、進歩を促すために使う具体的な方法は、変化し、進歩していく。
BHAG
カルトのような文化
実験による進化
生え抜きの経営陣
不断の改善
 □ □これは終わりではない
4つの概念:
@時を告げる預言者になるな。時計をつくる設計者になれ。
A「ANDの才能」を重視しよう
B基本理念を維持し、進歩を促す
C一貫性を追求する
  ★おわりに
■自分たちの会社をビジョナリー・カンパニーにしたいと考えているが、何からはじめればいいのか 
■CEOでない立場で、何ができるのか(p378)
■歴史はあるがビジョンのない大企業にも、希望はあるのか(p380)
■ビジョナリー・カンパニーの地位を失いかけているようにみえる企業、たとえばIBMに、どのような助言を与えるのか
■ビジョナリー・カンパニーを築くには適していない人はいるのか
■この調査結果は、非営利団体にも適用できるのか
■この本は、「エクセレント・カンパニー」などのほかの経営書とどういう関係にあるのか
■これは過去を調査した結果だが、21世紀になれば時代遅れになってしまう恐れはないか(p387)