労働法（菅野）シンプラル法律事務所（大阪）（弁護士川村真文）

シンプラル法律事務所
〒530-0047　大阪市北区西天満２丁目６番８号　堂島ビルヂング８２３号室TEL(06)6363-1860
　　　

★★第３章　労働関係の展開に関する法規整（ｐ２２８）
★第１節　基本的法規制
第１款　労働基本法上の人権擁護規定
◆			◆１．均等待遇の原則

◆			◆２．不当な人身拘束の防止

◆			◆３．中間搾取の排除
	規定		労働基準法第６条（中間搾取の排除）何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
	意義		「業として」：営利の目的で同じ行為を反復継続すること。１回の行為であっても反復継続して利益を得る意思があればこれにあたる。
			「他人の就業に介入」：労働関係の当事者間に第三者が介在して、その労働関係の開始、存続等について媒介又は周旋をなす等その労働関係について、何らかの因果関係を有する関与をなす」こと。「他人の就業」という規定における「他人」とは、労基法の趣旨に照らして考察すれば「労働者」と解すべき⇒就業介入対象者が「労働者」であったか否かという点を明らかにすべき。
			「利益」：手数料、報奨金、金銭以外の財物等如何なる名称たるとを問わず、又有形無形なるとを問わない。
	説明		労働関係の開始への関与：①職業紹介、②労働者募集、③労働者供給の３種類の形態。これらを業として利益を得て行えば禁止された中間搾取となるが、同時に職安法の諸規定（４０条の募集者の報酬供与の禁止、４４条の労働者供給事業の禁止）にも違反しうる。
			人材派遣業による派遣は、業務処理請負または労働者派遣のいずれの形態による場合であれ、労働契約関係が派遣元との間に存在し、派遣先との間には存在しない ⇒派遣元が第三者として労働関係に介入したといえず、禁止された中間搾取には該当しない。
			労働関係の存続への関与として禁止される典型：手配師・労務係などにより賃金のピンハネ。

第２款　職場における労働者の人格的利益の保護（菅野１１補正ｐ２４０～）
◆			◆１．職場の服務規律上のj規制と労働者の人格的利益の保護
			職場の服務規律上の規整と労働者の人格的利益の衝突
◆			◆２．セクシャル・ハラスメント
	規定		雇用機会均等法　第11条（職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置）事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針（次項において「指針」という。）を定めるものとする。 3 第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。
			雇用機会均等法第16条（紛争の解決の促進に関する特例）第五条から第七条まで、第九条、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律（平成十三年法律第百十二号）第四条、第五条及び第十二条から第十九条までの規定は適用せず、次条から第二十七条までに定めるところによる。
			雇用機会均等法第29条（報告の徴収並びに助言、指導及び勧告）厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。 2 前項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。
			雇用機会均等法第30条（公表）厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
	●		セクシュアルハラスメント：「相手方の意に反する性的言動」
			雇用機会均等法１１条事業主に指針に従ったその防止と苦情処理のための雇用管理上の措置を義務付けるもの。
			厚生労働大臣の行政指導（法２９条）企業名の公表の制度（法３０条）都道府県労働局長による紛争解決の援助（調停も含めて）の対象（法１６条）
	指針		「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」（平１８厚労告６１５号）
			職場におけるセクシュアル・ハラスメントの内容を、 ①職場における性的な言動（性的関係の強要、腰・胸等に触る、等）に対する労働者の対応により当該労働者が解雇、配転や労働条件につき不利益を受ける「対価型」と ②職場における性的な言動（当該労働者に関する性的な情報の流布、ヌードポスターの掲示、等）により労働者の就業環境が害される（苦痛、就業意欲の低下、仕事が手につかない、等）「環境型」とに分類。
			事業者が講ずべき措置： ①セクシュアル・ハラスメントがあってはならない旨の事業主の方針の明確化とその周知・啓発 ②相談（苦情を含む）に応じ適切に対処するために必要な体制（相談窓口、担当者、人事部門との連携など）の整備 ③事後の迅速かつ適切な対応（事実関係の迅速・正確な確認、講師は・被害者に対する適切な措置、再発防止措置） ④相談や事後対応におけるプライバシーの保護、相談や事実確認への協力を理由とする不利益取扱い禁止の周知・啓発
			「職場」とは、通常就業している場所に限られず、職務を遂行する場としての取引先、飲食店、出張先、車中や職務の延長としての宴会なども含まれる。
	説明		セクシャル・ハラスメントは、①性差別行動としての性格を有しているばかりでなく、②より根本的に女性（ないし男性）労働者の人格権侵害の性格をもつ ⇒社会的・法的に広くかつ強く是正が求められる。
◆			◆３．パワーハラスメント（ｐ２４２）
	意味		政府の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」の報告（２０１２年１月）取組の対象としての事象を「職場のパワーハラスメント」と呼び、これには、上司から部下へのいじめ・嫌がらせのみならず、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも含めるとして、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義。
			行為類型： ①暴行・傷害（身体的な攻撃） ②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言（精神的な攻撃） ③隔離・仲間はずし・無視（人間関係からの切り離し） ④職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害（過大な要求） ⑤業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと（過小な要求） ⑥私的なことに過度に立ち入る（個の侵害）がある。
	裁判例		①労働者の政治的信条や組合活動を嫌悪して行われたハラスメント共産党の構成員・支持者に対して行われた監視・ロッカーの無断点検・仲間外し行為などがそれらの者の人格的利益を侵害する不法行為とされた事例組合専従者が復職した際のいじめを人格権侵害の不法行為とした事例
			②退職勧奨に応じない労働者に対する退職誘導行為としてのハラスメント～退職勧奨の限度の問題
			③上司が部下を注意・指導・叱責する過程で行う部下の人格感情を損なう言動「企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為」をした場合には、被害者の人格権を侵害する不法行為を構成（東京高裁H25.2.27）。違法な言動とされた事例：・上司の部下に対する電子メールでの「やる気がないのならやめるべき」などの言辞を含む叱咤督励につき許容限度をこえて名誉感情を侵害・部下が脊髄空洞症によって療養後の職場復帰の時期において、上司が仕事のミスを口汚く非難・叱責したことを違法と判断・酒を飲めない体質であることを知りながら出張先で飲酒を強要し、帰途気分が悪いのに車の運転を強要したこと、部下が出先から直帰したことを非難した怒りの伝言とメールを残したことを違法なパワハラと判断したもの他方で、上司による厳しい指導・指摘を上司がなすべき業務上の指導権限の範囲にとどまるものであるとした事例もある。
			④上司の部下に対するパワハラが当該部下のうつ病を引き起こしたことについて、不法行為責任を認める裁判例。ｅｘ．上司が、指示・注意に応えられず作業ミスを繰り返す部下に対し「新入社員以下だ、もうまかせられない」「なんでわからない、お前は馬鹿だ」等叱責し、そのためうつ病となった部下が休職して療養したいと希望したのに対しても、今休職すれば他の部署への異動はできなくなると述べて休職の先延ばしをもたらした～部下に対する注意・指導として許容される限度を超える不法行為。
			⑤パワハラうによるうつ病が当該労働者の自殺をもたらした事件ｅｘ．・仕事のミスが多い社員に対し社長がミスの度に暴言・暴行を行った⇒当該社員の心理的ストレスが増大し、急性ストレス反応で自殺。・高卒入社直後に顧客の事務所に赴き防火施設の保守点検を行う部下に対し、同行して指導する上司が半年にわたって「学ぶ気持ちはあるのか」「詐欺と同じ、３万円(点検料)泥棒したのと同じ」「会社は辞めた方が皆のためになるんじゃないか、やめてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのなら家でケーキでも作れば」「死んでしまえ」等々の言動を繰り返した結果、当該部下が自殺。～仕事のミスに対する叱責の域をこえて当該社員の人格を否定し威迫するものであり、経験豊かな上司から入社後１年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントの不法行為に当たる。
			⑥労働者の長時間重労働と上司の行過ぎた叱責とが重なってうつ病となり自殺ｅｘ．ある病院において、自殺前４週間には合計１７４時間４４分、その前の４週間は２０６時間４８分と、それ自体でうつ病等の原因となる長時間の時間外労働に従事する医師に対して、上司の医師が、１回目はこぶしで頭をこづき、２回目は「田舎の病院だとなめとるのか」、３回目は「給料分の仕事をしていない」と叱責したことは、社会通念上許容される指導または叱責の範囲を超え、当該医師の精神的負荷を増大させたとして、長時間労働と行き過ぎた叱責とが相まって当該医師のうつ病発症とそれによる自殺をもたらした ⇒不法行為責任を肯定。
◆			◆４．労働関係における個人情報の保護
	規制		個人情報の保護に関する法律（２００３年制定）個人情報：生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの「個人情報データベース等」を事業の用に供している者（「個人情報取扱事業者」）に対して、利用目的の特定（１５条）、利用目的による制限（１６条）、適正な取得（１７条）、取得に際しての利用目的の通知等（１８条）、データ内容の正確性の確保（１９条）、安全管理措置（２０条）、個人データを取り扱う従業者の監督（２１条）、個人データ取扱いの委託先の監督（２２条）、第三者提供の制限（２３条）、保有個人データに関する一定事項の本人への公表（２４条）、本人への開示（２５条）、本人による訂正等（２６条）、苦情の処理（３１条）の諸規制に関して、事業主の行うべき措置ないし留意すべき事項を具体的に列挙。
			労働者の健康情報の保護については、とくに機微にわたるもので、厳格に保護する必要がある。 ⇒ 利用目的の特定、情報収集にあたっての本人の同意、秘密の保持、本人への情報開示、第三者への提供に当たっての本人同意、特に配慮が必要な情報の取扱い（収集の原則的禁止等）など、事業者が留意すべき事項を通知。

★第２節　過渡的労働関係・・・試用
◆			◆１　典型的制度とその法的構成










★第３節　非正規労働者（ｐ２９１）
第１款　非正規労働者問題・総説


第２款　有期契約労働者
◆			◆１．有期契約労働者の意義と機能

◆			◆２．有期労働契約の期間の長さ

◆			◆３．有期労働契約の締結理由の制限の是非

◆			◆４．有期労働契約が５年をこえて反復更新された場合の、無期労働契約への転換

◆			◆５．契約期間の満了による雇止めに関する判例法理の条文化（ｐ３２６）
	◇		◇(1)　契約期間の満了に関する民法上の原則
	◇		◇(2)　判例による雇止め制限の法理
		●	反復更新された常用的臨時工の労働契約関係は実質的に期間の定めのない契約と変わりがない ⇒更新拒絶の意思表示は「解雇」と実質的に同じ ⇒解雇に関する法規制が類推適用される。
			最高裁：「２か月の期間が満了しても真面目に働いていれば解雇されることはない。安心して長く働いて欲しい」などといわれて採用された「基幹臨時工」が、簡易な更新手続で５～２３回にわたって契約の更新をされたのちに雇止めされたケースについて、本件雇止めの意思表示は実質上解雇の意思表示にあたるので解雇に関する法理を類推すべきである、との高裁判断を是認。 ⇒余剰人員の発生等従来の取扱い（反復更新）を変更してもやむをえないと認められる特段の事情がなければ雇止めできない。
			～判例上、臨時従業員の短期労働契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合には、更新拒否には解雇の場合と相応の客観的で合理的な理由が必要とされ、もしそのような理由が認められなければ自動的に短期労働契約の更新が行われることとなった。
		●	企業の対応：更新の態様において期間の定めのない労働契約と同視できるようなケースは減少。
		●	有期契約が期間の定めのない労働契約と実質的に同視できない場合でも、雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性がある場合には、解雇権濫用法理を類推し、雇止めに合理的理由を求める。
			最高裁： 2か月の有期雇用を雇用を５回更新させた臨時工につき、更新のつど本人の意思を確認する手続がとられていた⇒期間の定めのない労働契約と異ならない関係にあるとはいえない。ｂｕｔ「その雇用関係はある程度の継続が期待され」たもの ⇒雇止めに際しては「解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用・・・に該当して解雇無効とされるような実関係の下に・・・雇止めをしたとするならば、期間満了後・・・・は従前の労働契約が更新されたとの同様の法律関係となる」と判断。
			解雇に関する法理の「類推適用」の意味は、 ①期間満了に伴う労働契約終了のためには、相応の理由のある更新拒絶の意思表示が必要であり、 ②更新拒絶の意思表示がないか、それがなされても相応の理由があるときは、短期契約の自動的更新が行われる。
	◇		◇(3)　判例の雇止め法理の条文化
		規定	労契法第19条（有期労働契約の更新等）有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。一　当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。二　当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
		説明	(1) ① 過去に反復して更新されたことがある有期契約であって、その契約期間の満了時に当該契約を更新せずに終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をして契約を終了させることと社会通念上同旨できると認められるか、または、 ② 当該労働者が当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該契約の更新を期待することについて合理的な理由があるものと認められる場合であって、 (2) 当該有期労働契約の契約期間が満了するまでの間に労働者が当該契約の更新の申込みをしたか、または当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込をしており、 (3) 使用者が当該申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

	◇		◇(4)　裁判例の判断基準
			裁判例では、①当該雇用の臨時性・常用性、②更新の回数、③雇用の通算期間、④契約期間管理の状況、⑤雇用継続の期待をもたせる言動・制度の有無等が考慮。
			①契約期間の満了によって当然に契約関係が終了する「純粋有期契約タイプ」 ②期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると認められる「実質無期契約タイプ」 ③相当程度の反復更新の実態⇒雇用継続への合理的な期待が認められる「期待保護（反復更新）タイプ」 ④格別の意思表示や特段の支障がないかぎり当然に更新されることを前提に契約を締結したものと認められる「期待保護（継続特約）タイプ」 ⑤ある程度の更新はあるが、更新限度条項などから、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っているとも、雇用継続への合理的な期待があるとも認められず、解雇権濫用法理の類推適用が行われないタイプ

◆			◆６．有期労働契約の期間中の解雇（３３３頁）
		規定	民法第628条（やむを得ない事由による雇用の解除）当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
			労働契約法第17条（契約期間中の解雇等）使用者は、期間の定めのある労働契約（以下この章において「有期労働契約」という。）について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
		説明	労契法１７条１項：上記の民法規定（６２８条）の定める契約期間途中の解除のうち、 ①使用者が労働者に対して行う解除、すなわち解雇について、「やむを得ない事由」がなければ解除できないとの規定は強行規定であること、 ②「やむをえない事由」の立証責任は使用者にあることを明らかにした規定。 ⇒ 契約期間途中の解雇に関して上記民法規定が定めているそれら以外の法理 ①「やむを得ない事由」による解除は「直ちに」可能であること、 ②過失有る当事者の損害賠償責任等は、以前として処理基準であり続ける。
			「やむを得ない事由」は、期間の定めのない労働契約における解雇に必要とされる「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる事由」（労契法１６条）よりも厳格に解すべき。～当該契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了せざるをえないような特別の重大な事由。


★第４節　賃金（ｐ４０５）
第１款　賃金の意義と体系
◆			◆１．「賃金」の意義

◆			◆２．賃金に関する民法の諸原則
	◇		◇(1)　賃金請求権の要件
		規定	民法第623条（雇用）雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
			民法第624条（報酬の支払時期）労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。 2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
			労基法第25条（非常時払）使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。
		●	民法：「労働に従事すること」とその報酬たる賃金は対価関係。労働者はその約した労働を終わった後でなければ報酬を請求できない。～労働と同時履行ではなく後払い。期間をもって定めた報酬は、その期間が経過した後でなければ請求できない。
	◇		◇(2)　労務の履行不能の場合の賃金請求権
		規定	民法　第536条（債務者の危険負担等）前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
		●	労務の履行が不能の場合：使用者の「責めに帰すべき事由」により履行不能⇒賃金請求権を有する（２項）使用者に帰責事由のない履行不能⇒賃金請求権を有しない（１項）
			解雇の場合の使用者の規制事由の有無：解雇に正当な理由があるか否か等として判断。
		●	労務の履行不能において使用者の帰責事由によって賃金請求権を取得するためには、労働者が債務の本旨に従った履行の提供をしていることが前提となる。
			判例：労働者が病気のため工事現場監督業務に従事できず内勤業務に従事させるように使用者に申し出て許否され、賃金を支払われなかった～労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合には、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、当該労働者を配置する現実的可能性のある他の業務への労務の提供を申し出ている場合には、なお債務の本旨に従った履行の提供がある。～労働者の病気についての使用者の配慮義務の作用として理解すべき。
			労働者が怠業や一部労働の許否のように瑕疵ある労務の提供 ⇒その瑕疵の内容・程度によっては債務の本旨に従った労務の提供といえないケースがある。～使用者は、受領を拒否しても賃金支払義務を負わない。
			使用者が受領拒絶の意思を明確に表明（ｅｘ．解雇の場合）⇒債務の本旨に従った履行の提供という要件が軽減⇒履行の意思と能力が客観的に認められることで十分となる。 ⇒ 履行の現実の提供までは必要ないが、履行の意思と能力は保持していなければ（転職をして新たな使用者の職務に専念しているという場合は保持しているとはいえない）、後に解雇が正当な理由なく無効とされても、解雇期間中の賃金請求権を認められない。
			長期間のストライキやロックアウトが解除された後の就労条件が折り合わず、不就労状態が続く場合、その不就労が使用者・労働者いずれの責めに帰すべきかによって賃金請求権の存否が判断される。
◆			◆３．賃金に関する労働法の規制

◆			◆４．賃金制度をめぐる諸問題
	◇		◇(1)　賃金制度序説
	◇		◇(2)　年功的賃金制度の主要な形態としての年齢給・職能給
	◇		◇(3)　成果主義の基本給制度
	◇		◇(4)　賞与
	◇		◇(5)　退職金（退職手当）
	◇		◇(6)　企業年金法制の再編成
	◇		◇(7)　確定給付企業年金
	◇		◇(8)　確定拠出年金


★第５節　労働時間・休暇（１１版補正版ｐ４６０～）
第１款　労働時間・休日の原則
			賃金：制度の形成の額の決定も、基本的には労働契約や労使交渉に委ねられた労働条件。労働時間・休日・休暇：制度の枠組みも基準も、法による詳細な規制が施された労働条件。
			企業の労働時間：就業規則において、各労働日における所定の労働時間が、始業時刻から終業時刻までの時間と、この間の休憩時間を特定することによって定められる。始業時刻から終業時刻までの時間（＝「拘束時間」）から休憩時間を除いた時間＝所定労働時間。労働義務のない休日が、暦の上での週休日や祝日を考慮しつつ就業規則で定められる。労基法は、常時１０人以上を使用する事業については、これらの所定労働時間、休憩、休日を就業規則の必要記載事項としている。
			労基法は、これらの労働時間（所定内、所定外）、休憩時間、休日（休日労働も含め）について、まず原則的な基準を設定。そのうえで、事業や業務の性質に応じた様々な例外的ないし変則的規準を提供。
◆			◆１．労働時間の原則
			１週および１日の最長労働時間の設定で「法定労働時間」。法定労働時間は、労働時間の長さの絶対的な上限ではなく、それをこえる労働を一定の要件のもとに例外的に許容するという意味での原則的上限。
	◇		◇(1)　１週の法定労働時間
			週４０時間制（労基法３２条１項）。
	◇		◇(2)　１日の法定労働時間
			１日８時間。
	◇		◇(3)　法定労働時間の法的効果
	◇		◇(4)　事業場を異にして労働する場合
◆			◆２．休憩時間の原則（ｐ４６４～）
	◇		◇(1)　休憩時間の長さと位置
	◇		◇(2)　一斉付与の原則
	◇		◇(3)　休憩時間自由利用の原則
	◇		◇(4)　法定基準を上まわる休憩時間
◆			◆３．週休制の原則
	◇		◇(1)　沿革・現状
	◇		◇(2)　週休制原則の内容
	◇		◇(3)　変形週休制
	◇		◇(4)　休日振替の要件
◆			◆４．労働時間・休憩・休日原則の適用除外
	◇		◇(1)　適用除外の趣旨
			労基法第41条（労働時間等に関する規定の適用除外）この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。一　別表第一第六号（林業を除く。）又は第七号に掲げる事業に従事する者二　事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者三　監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
			適用除外の限度：「労働時間、休憩及び休日に関する規定」だけ⇒適用除外者についても「深夜業」の規制委に関する規定は適用され、「深夜業」となる場合には割増賃金を支払わなければならない（最高裁H21.12.18）。「労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない」年少者については、一定の事業・業務を除いては深夜業をすぁせることはできない。年次有給休暇（労基法３９条）も、この規定によっては適用を除外されていない。
	◇		◇(2)　農業、畜産、水産業に従事する者
	◇		◇(3)　管理監督者


	◇		◇(4)　監視・継続的労働従事者
◆			◆５．労働時間の概念
	◇		◇(1)　労働時間の定義
	◇		◇(2)　所定労働時間のくい違い
第２款　時間外・休日労働（ｐ４８３）
◆			◆１．時間外・休日労働の規制のあり方（ｐ４８３）
	◇		◇(1)　「時間外・休日労働」の意義
	◇		◇(2)　時間外・休日労働の法規制の変遷
◆			◆２．非常事由による時間外・休日労働（ｐ４８６）
◆			◆３．三六協定による時間外・休日労働（ｐ４８７）
	◇		◇(1)　緒説
	◇		◇(2)　協定に定める時間外労働の限度についての大臣告示基準
	◇		◇(3)　協定の有効期間・形式・届出
	◇		◇(4)　協定の締結・届出の効力
	◇		◇(5)　時間外・休日労働義務発生の要件
◆			◆４．時間外・休日・深夜労働の割増賃金（ｐ４９２）
	◇		◇(1)　概説
	◇		◇(2)　割増率
	◇		◇(3)　割増賃金の対象労働・基礎賃金
	◇		◇(4)　除外賃金
	◇		◇(5)　時間外・休日・深夜労働が重なる場合の割増率
	◇		◇(6)　法所定の計算方法によらない割増賃金
第３款　法定労働時間の弾力化・・・変形労働時間制




第４款　主体的で柔軟な労働時間制度（菅野１１補正版ｐ５１１～）
			従来：労働者が、使用者の定める所定労働時間に従って労働することを前提に、１日、１週の労働時間の上限を法定労働時間（ないしはその変形制）によって規制。ｂｕｔホワイトカラーや知的専門的労働者が増加 ⇒労働者が主体的に始業・就業時間を選択し、時間配分や業務遂行に対応する労働時間制度として、 ●労基法の１９８７年改正：労働者が始業・就業時間を選択するフレックスタイム制を制度化特別の専門職労働者についての裁量労働制を新設 ●同法の１９９８年改正：本社ないしこれに準じる部門の中核的ホワイトカラーを想定した新たな裁量労働制を制度化 ●２００３年改正：裁量労働制の部分的手直し ●２０１５年通常国会に提出された労基法改正案：フレックスタイム制を企画業務型裁量労働制の拡充を図る時間でなく成果で評価される高収入で高度に専門的な労働者のための労働時間規制の適用除外制度（高度プロフェッショナル労働制）を設けることを企図。
◆			◆１．フレックスタイム制
	◇		◇(1)　意義
			労働者が、１ヵ月などの単位期間のなかで一定時間数（契約時間）労働することを条件として、１日の労働時間を自己の選択する時に開始し、かつ終了できる制度。通常は、出退勤のなされるべき時間帯（フレキシブルタイム）が定められている。全員が必ず勤務すべき時間帯（コアタイム）を定めるものが多い。


◆			◆２　事業場外労働のみなし制
	◇		◇(1)　制度の趣旨
			労働者が労働時間の全部または一部について事業場施設の外で業務に従事した場合において、労働時間を算定しがたいときは、所定労働時間だけ労働したものとみなす。当該業務を遂行するためには通常所定労働時間をこえて労働することが必要となる場合⇒当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。この場合において事業場の労使協定あり⇒その協定に定める時間を当該業務の遂行に通常必要とされる時間とみなす。

	◇		◇(2)　「労働時間を算定し難い」事業場外労働
	◇		◇(3)　労働時間の一部のみの事業場外労働のみなし方
◆			◆３　裁量労働制
	◇		◇(1)　趣旨・沿革
			近年における技術革新、サービス経済化、情報化などのなかで、労働の遂行の仕方について労働者の裁量の幅（自由度）が大きく、その労働時価を一般労働者と同様に厳格に規制することが、業務遂行の実態や能力発揮の視点から見て不適切である専門的労働者（＝労働の量よりも質ないし成果によって報酬を支払われるのにより適している人々）が増加。
			１９８７年の労基法改正：１９９３年改正：対象業務を省令によって限定列挙することとし、従来通達で例示していた５業務を基本とした列挙を行う。（「専門業務型裁量労働制」）１９９８年改正：企業の本社等の中枢部門で企画、立案等の業務を自らの裁量で遂行する労働者について、事業場内で設けられる労使委員会が制度内容を審議し決議することによって裁量労働のみなし制を行えることとした。（「企画業務型裁量労働制」）２００３年改正：２０１５年通常国会提出の労働基準法改正案
	◇		◇(2)　みなし制の考え方
			裁量労働制は、法所定の業務について労使協定でみなし労働時間数を定めた場合には、当該業務を遂行する労働者についえては、実際の労働時間数に関係なく協定で定める時間労働したものと「みなす」という制度。
			ｂｕｔ裁量労働のみなし制においても、休憩、休日、時間外・休日労働、深夜業の法規制は依然として及ぶ。 ⇒みなし労働時価数が法定労働時間をこえる場合には、三六協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要。深夜時間帯において労働⇒割増賃金の支払が必要。

	◇		◇(3)　専門業務型裁量労働制
	■		■(ｱ)　対象業務
			「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」（労基法３８条の３第１項１号）労基則２４条の２第２項 ⑤放送番組、映画等の制作のプロデューサー・ディレクターの業務（イベントのプロデューサーもこれに入る） ⑥その他「厚生労働大臣の指定する業務」
	■		■(ｲ)　要件
		●	事業場の労使協定において、 ①上記(ｱ)の対象業務に該当する業務を特定のうえ、 ②当該業務に遂行の手段・時間配分の決定等に関して具体的な指示をしないこととする旨、 ③当該業務に従事する労働者の労働時間の算定については当該協定の定めるところにより一定時間労働したものとみなす旨を定めることを要す。
			２００３年労基法改正 ⇒ 労使協定においては、 ④対象労働者の健康・福祉の確保のための措置と ⑤苦情処理方法も記載すべき。
			協定は、労働協約の形式（労組１４条）を満たす場合を除き、有効期間の定めを要する。
			みなし労働時間が法定労働時間をこえる⇒所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。
		●	～専門業務型裁量労働制の導入には、事業場の過半数組織組合ないし過半数代表者の同意が必要。 ←この集団的な同意によって制度内容の妥当性を確保しようとした。
		●	労使協定の締結は、専門業務型裁量労働制を労基法上適法とするためのもの。同制度を労働契約関係において実施するためには、なお対象労働者に関する、労働協約、就業規則あｍたは個別労働契約において労働協定の内容に従った規定を整える必要。
			対象労働者への制度の適用においては、適用対象者たる労働者個人の同意は必要とされていない。ｂｕｔ同制度が労働者の主体的な働き方を可能にしてその能力発揮を促進しようとの趣旨に出ている⇒本人の同意は制度の円滑な実施のための実際上の要件。
	◇		◇(4)　企画業務型裁量労働制
	■		■(ｱ)　前提的要件
			「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」（労基法３８条の４第１項１号）に、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」（同項２号。指針は、「３年ないし５年程度の職務経験」を判断の留意事項としている）が就く場合にのみ採用できる。




★第６節　安全衛生（ｐ５４６）
◆			◆１．　労安衛法の制定と発展

◆			◆２．　労安衛法の基本的枠組み
	◇		◇(1)　法の目的と性格
			この法律は、労働基準法（昭和二十二年法律第四十九号）と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。（法１条）
		●	●労安衛法の諸規定の私法上の効力
			労安衛法の諸規定は、労働災害の防止、労働者の健康の増進、快適な職場の形成などのために事業者（使用者）のみならず、労働者、関係業者等に対して広範で多種・多様な規制や要請。このような労安衛法の性格と、同法が、同じ労基法の附属法である最賃法（４条２項）と異なり労基法の直律的効力（労基１３条）を規定しなかった⇒労安衛法の諸規定は事業主と労働者間の労働契約関係について直律的効力をもたないと解さざるを得ない。ｂｕｔ同法の諸規則のなかには強行的効力をもって労働契約の内容や使用者の業務命令などを規律する（違反の契約や命令を無効とする）ものがあると考えられる。また、同法の労働関係における安全衛生の基準や要請は、事業主や元請業者の安全配慮義務の内容となって私法上の効力を認められる場合も多い。
			最賃法第４条（最低賃金の効力） 2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
			労基法第13条（この法律違反の契約）　この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

	◇		◇(2)　基本概念
	◇		◇(3)　労働安衛法の関係者の責務

◆			◆３．　安全衛生管理体制
	◇		◇(1)　総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者
	◇		◇(2)　安全委員会、衛生委員会
	◇		◇(3)　産業医
◆			◆４．　労働者の危険または健康障害を防止するための措置
	◇		◇(1)　事業者に対する規制
	◇		◇(2)　労働者に対する規制
	◇		◇(3)　請負関係についての規制
	◇		◇(4)　その他の関係業者に対する規制

◆			◆５．　機械等および危険物・有害物に関する規制

◆			◆６．　労働者の就業に当たっての措置

◆


◆			◆７．　健康の保持・増進の措置（ｐ５６０）
	◇		◇(1)　作業環境管理

	◇		◇(2)　作業管理

	◇		◇(3)　健康管理
	■		■(ｱ)　定期健康診断・特殊健康診断
		規程	労働安全衛生法　第六六条（健康診断）事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断（第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。）を行わなければならない。 2事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。 3事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。 4都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。 5労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
			労働者の健康管理については、事業者は、労働者に対する定期的な一般健康診断（６６条１項）と、一定の有害業務に従事する労働者に対する医師による特殊健康診断（同条２項）ないし歯科医師による特殊健康診断（同条３項）を実施しなければならない。
			事業者はこれらの健康診断の結果を受診した労働者に遅滞なく通知しなければならず（６６条の６、労安衛則５１条の４）、また健康診断個人票として記録し５年間保存しなければならない（６６条の３）。

			労働安全衛生法が事業者に実施を義務付ける健康診断（６６条１項～３項）：一般労働者： ①雇入れ時（労働安全則４３条）および ②定期（年１回（同則４４条））深夜業などの特定業務従事者は年２回（同４５条）の通常の健康診断一定の有害業務従事者（労安衛令２２条）に対する特殊健康診断都道府県労働局長は労働者の健康保持のため指示する臨時の健康診断（６６条４項）



★第９節　労働災害の保障
第１款　序説


第２款　労働保険法の概要
◆			◆１．労災保険制度の仕組み
◆			◆２．業務災害に関する保険給付
	◇		◇(1)　「業務災害」の概念
			「業務災害」とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」（労災保７条１項１号）
			「業務上」とは労基法上のそれを同じものが想定されており（同１２条の８第２項）、「業務上」といえるためには、当該労働者の業務と負傷等の結果との間に、当該業務に内在または随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が肯定されることが必要。
	◇		◇(2)　事故に夜負傷・死亡の業務上判断
	■		■(ｱ)　「業務遂行性」と「業務起因性」の定式
	■		■(ｲ)　業務遂行性の判断
	■		■(ｳ)　業務起因性の判断
	◇		◇(3)　「業務上の疾病」
	◇		◇(4)　脳・心臓疾患（過労死）の業務上認定
	◇		◇(5)　精神障害の業務上認定
	◇		◇(6)　精神障害による自殺の業務上認定
	◇		◇(7)　石綿による疾病の業務上認定
	◇		◇(8)　保険給付の内容
◆			◆３．通勤災害にう関する保険給付
◆			◆４．労災保険給付の手続
第３款　法定外補償




★第１０節　企業秩序と懲戒（ｐ６４９）
第１款　企業秩序
◆			◆１．服務規律
	◇		◇(1)　服務規律の内容
	◇		◇(2)　服務規律の概念

◆			◆２．企業秩序
	◇		◇(1)　企業秩序の概念
	◇		◇(2)　判例の企業秩序論
	◇		◇(3)　企業秩序の限界

◆			◆３．　労働者の内部告発の保護
	◇		◇(1)　懲戒処分等の判断枠組み
			内部告発が企業組織内で秘密とされる情報を企業外の第三者（捜査当局、マスコミ、消費者、議員等）に明らかにする態様で行われる場合には、労働契約上の誠実義務との衝突が生じ、服務規律（企業秩序）においても就業規則上の漏洩を禁止する規程や、企業の名誉・信用棄損を戒める規程などに違反。
			裁判所：当該内部告発の内容、目的、態様、その他諸般の事情を総合的に勘案して、服務規律との衝突にもかかわらず保護に値する行為か否かを判定。
	◇		◇(2)　公益通報者保護法

第２款　懲戒
◆			◆１．懲戒処分の意義
◆			◆２．懲戒権の根拠と限界
	◇		◇(1)　懲戒権の根拠
	◇		◇(2)　懲戒権の限界

◆			◆３．懲戒の手段
	◇		◇(1)　けん責・戒告
	◇		◇(2)　減給
	◇		◇(3)　降格
	◇		◇(4)　出勤停止
	◇		◇(5)　懲戒解雇

◆			◆４．懲戒の事由
	◇		◇(1)　経歴詐称
	◇		◇(2)　職務懈怠
	◇		◇(3)　業務命令違反
	◇		◇(4)　業務妨害
	◇		◇(5)　職場規律違反
	◇		◇(6)　従業員たる地位・身分による規律の違反

◆			◆５．懲戒処分の有効要件
	◇		◇(1)　懲戒処分の根拠規定の存在
	◇		◇(2)　懲戒事由への該当性
	◇		◇(3)　相当性



第１１節　人事
第１款　教育訓練（ｐ６７６）







第４款　休職（ｐ６９７）
◆			◆１　休職の意義と種類

◆			◆２　法規制
◇			◇(1)　傷病休職
			休職期間中に傷病が治癒⇒復職治癒せず休職期間が満了⇒自然退職または解雇

			裁判例：傷病休職期間の満了時において、従前の業務に復職できる状態ではないが、より経緯な業務には就くことができ、そのような業務での復職を希望する者に対しては、使用者は現実に配置可能な業務の有無を検討する義務がある。休職期間満了者に対して、そのような検討によって軽減業務を提供せずに、退職扱いや解雇⇒それらを就業規則上の要件不該当ないし解雇権濫用として無効。

			職種（業務）が限定されている労働者についても、直ちに従前業務に復帰できないとしても、比較的短期間で復帰することが可能である場合、 ⇒短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとったりすることが信義則上求められる⇒そのような措置をとることなくされた解雇を無効。

			傷病休職については、休職期間満了時の回復が当該労働者の本来業務に就く程度には回復していなくても、ほどなくそのように回復すると見込まれる場合 ⇒裁判例上、可能な限り軽減業務に就かせる義務が健康配慮義務の一環として樹立されている。

第４章　労働関係の終了に関する法規制（ｐ７０３）
第１節　解雇以外の終了事由
◆			◆１　期間の定めある労働契約における期間の満了
◆			◆２　合意解約
◆			◆３　辞職
◆			◆４　定年制
◆			◆５　当事者の消滅（ｐ７１３）
	◇		◇(1)　当事者の死亡
	◇		◇(2)　使用者である法人の解散
◆			◆６　企業再編成と労働契約（ｐ７１６）





第２節　解雇
◆			◆１　概説
◆			◆２　労基法に夜労働災害療養者・産前産後休業者の解雇制限
◆			◆３　労基法により解雇の予告義務
◆			◆４　労働契約法上の解雇権濫用規制（ｐ７３７）
	◇		◇(1)　解雇濫用法理の明文化
			労働契約法第16条（解雇）解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
		●	●解雇権濫用の主張立証責任
			権利濫用という要件は法的評価を表す規範的要件 ⇒ 権利濫用という評価を基礎づける事実（評価根拠事実）は同評価を主張する側が主張立証する責任を負い他方で、同評価を争う相手がどう評価を妨げる事実（評価障害事実）を主張立証する責任。ｂｕｔ解雇権濫用を判断する訴訟実務について、解雇正当化事由説（解雇にはそれを正当化する事由が必要との説）とほとんどかわりなく、解雇を行った使用者に解雇を正当化する事実の主張立証責任を負わせる運用がなされているとの理解。 ⇒ 被解雇者の側：解雇権濫用の評価根拠事実といっても、平素の勤務状況に特に問題がなかったこと、ないしは格別落ち度なく勤務していたこと、を概括的に主張（立証）すれば足り、解雇を行った使用者が、評価根拠事実として、解雇の「客観的に合理的な理由」を組成する具体的事実を主張立証することを要し（被解雇者もこれに反論する事実の主張立証を行う）、「社会通念上の相当性」は、事案に応じて、被解雇者と使用者がそれぞれ評価根拠事実と評価障害事実を主張立証し合う。
	◇		◇(2)　解雇の合理的理由・概説
			解雇の「客観的に合理的な理由」
			①：労働者の労働提供の不能や労働能力又は適格性の欠如・喪失。
			②：労働者の職務規律（企業秩序）の違反の行為。
			③：経営上の必要性に基づく理由であり、合理化による職種の消滅と他職種への配転不能、経営不振による人員整理（整理解雇）、会社解散などの事由
			④：ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求
			「相当性の要件」について、裁判所は、一般的には、解雇の理由が重大な程度に達しており、他に解雇回避の手段がなく、かつ労働者の側に宥恕すべき事情がほとんどない場合にのみ解雇相当性を認めている。
	◇		◇(3)　私傷病により復帰不能となった者に対する解雇
			労働者が業務に従事したことに起因する傷病の場合⇒療養期間中の解雇の制限規定（労基１９条）
			私傷病により業務遂行が困難 ⇒ 企業（特に長期雇用慣行の企業）は、業務内容・勤務時間の配慮や、傷病欠勤（休暇）・傷病休職などの休業制度により療養の便宜と機会を与え、傷病の回復・改善を待つのが通例。 ←使用者の安全（健康）配慮義務（労契５条）の要請。ｂｕｔ療養による回復・改善の機会を十分に与えても、業務を遂行できるような回復がない ⇒ 就業規則の該当解雇事由（「心神虚弱のため勤務に耐えない場合」、「心身の故障のため、職務の遂行に耐えない場合」等）に基づき、解雇を検討せざるをえない。
			傷病休職期間満了による退職扱いの是非：「治癒」したといえるかどうかが問題。近年の裁判例：休職前の業務を支障なく遂行できるほどの完全な回復はしていないが、業務内容や勤務時間等において使用者が対応可能な勤務軽減を行いながら段階的に職務復帰すれば、完全復帰が可能であるような場合には、健康配慮義務の履行としてそのような配慮を行うことを求める。解雇についても、同様の対応の仕方が求められる。
			２０１３年の障害者雇用促進法改正によって、障害者に対する事業者の合理的な配慮が事業者に義務づけられた⇒心身の傷害をもつ労働者に対しては、障害の内容に応じた合理的な配慮を行なうことによって雇用を維持できる場合には、解雇は認められない。

	◇		◇(4)　勤務成績不良者に対する解雇
	◇		◇(5)　整理解雇
	●		●(ｱ)　整理解雇の意義
			整理解雇：企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇。
			①使用者の経営上の理由による解雇 ②長期雇用慣行が一般的なわが国 ⇒解雇権濫用法律の適用においてより厳しく判断すべきものと考えられている。
	●		●(ｲ)　整理解雇の判断基準
			正規従業員の雇用の尊重を基本原則とする我が国の大企業・中堅企業の長期雇用システム：景気の後退や経済変動に際しての雇用調整は、組合との労使協議のもとに、残業規制、中途採用停止、配転、出向、新規採用の縮減・停止、非正規従業員の雇止め、一時休業などの手順を踏んで行われる。これらの手段によっても対処できないほどの人員削減が必要 ⇒退職金の上積みしての希望退職の募集が行われ、解雇は原則として行われないのが普通。
		◎	◎①：人員削減の必要性～人員削減措置（これを内容とする企業の縮小、整備、合理化計画）の実施が、不況、斜陽化、経営不振などによる企業の経営上の十分な必要性に基づいていること、ないしは「企業の合理的な運営上やむをえない措置」と認められること。
		〇	〇人員削減の必要性の程度
			裁判例の多く：債務超過や赤字累積に示される高度の経営上の困難から当該措置が要請されるという程度足りる。その必要性の存否につき、当該企業の経営状態を詳細に検討ｂｕｔ結論として大部分の事件ではその要件の具備を認めている。～裁判所は、人員削減の必要性に関する経営専門家の判断を実際上は尊重。
			必要性を否定する裁判例の典型：財務状況の見積りが不正確と認められたり、人員削減措置の決定後間もなく、大幅な賃上げや多数の新規採用や高率の株式配当を行うなど矛盾した経営行動がとられたりした場合。ｅｘ．泉州学園事件（大阪高裁H23.7.15）：生徒数の減少などで赤字となった学校法人が、経費削減のために７名の教員を整理解雇し、他方では同数の若い教員を新規採用～人件費の安い者との入れ替えを狙った整理解雇であり、解雇の必要性を認めるべきでないとされた。
			人員削減措置が黒字経営のなか経営合理化や競争力強化の戦略として行われる場合、企業の合理的経営上の必要性は満たしたとしても、人員削減は配転・出向や退職金上積みの希望退職募集などで実現すべきであり、人員削減の必要性と解雇回避努力義務のいずれかを満たさないとされることが多い。（東洋酸素事件（東京高裁昭和54.10.29）は、求人に恵まれた当時の転職市場等によって整理解雇が有効とされた特殊な事案）
		◎	◎②：人員削減の手段として整理解雇（指名解雇）を選択することの必要性～人員削減を実施する際には、使用者は、配転、出向、一時帰休、希望退職の募集など他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務（「解雇回避努力義務」）を負うとされている。配転、希望退職の募集など他の手段を試みずにいきなり整理解雇⇒ほとんど例外なくその解雇は解雇権の濫用とされている。
			ｂｕｔ指名解雇を回避するためにどのような手段をどのような手順で試みるかについては、個別状況を離れた画一的要件を設定すべきではなく、裁判所は、企業が選択した手段と手順が当該人員整理の具体的状況のなかで全体として指名解雇回避のための真摯かつ合理的な努力と認められるか否かを判断すべき。ｅｘ． ①経営危機に瀕しての緊急避難型整理解雇と、 ②積極的リストラとしての経営戦略型解雇では、 ②の方が当然に解雇回避の努力は手厚くなされるべきことになる。
		〇	〇解雇回避策としての配転・出向・転籍をめぐる問題
		◎	◎③：被解雇者選定の妥当性～何名かの労働者の整理解雇がやむなしと認められる場合にも、使用者は、被解雇者の選定については、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用することを要する。
			基準をまったく設定しないでした整理解雇、裁判所が客観的かつ合理的なものではないとみなした基準による整理解雇⇒無効。
		〇	〇合理的な解雇基準
		◎	◎④：手続の妥当性
			労働協約上、解雇一般または人員整理について、使用者に組合との協議（場合によっては同意を得ること）を義務づける条項⇒具体的な人選の基準や当否について十分な協議を経ないでなされた解雇が協約違反として無効。
			そのような協約上の規定がない場合にも、使用者は労働組合または労働者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき納得を得るために説明を行い、さらにそれらの者と誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負う。
	●		●(ｳ)　整理解雇の判断傾向
			従来：これらの４つの事項を、整理解雇が有効となるためにすはすべてを満たすべき「４要件」と解してきたｂｕｔバブル崩壊後の長期かつ深刻な経済変動のなかで、従来にない広がりと多様性をもって人材削減が行われた様相 ⇒ それら４つの事項を整理解雇の有効性を判断する４つのポイント（要素）と理解し、整理解雇はそれら要素に関する諸事情の総合的な判断によるとの判断枠組みを採用する裁判例が増加。
		〇	〇最近の裁判例の判断内容
			日本経済の長期低迷を背景とした企業の事業再構築の進展⇒ 裁判例は４要件説から４要素説へ各要素の判断内容においても、整理解雇規制を部分的に緩和する傾向
			①人員削減の必要性：企業の経営判断を尊重して司法審査を控える裁判例が多く企業が全体として経営危機に陥っていなくても、経営合理化や競争力強化のために行う人員整理に必要性を認める例が増えている。
			②解雇回避努力義務：各種の回避措置を画一的に要求する判断は後退。希望退職者募集につき、同募集によって有能な従業員の退職や従業員に無用の不安をもたらす場合には、募集の必要性を否定する例。解雇回避措置を基本としつつも、それが困難な場合は経済的補償や再就職支援措置で足りると判断する例。小規模企業ゆえに配転等の回避措置が困難として解雇（雇止め）有効と判断した例。
			ｂｕｔこれらの傾向が、整理解雇法理の全面的な規制緩和をもたらしているわけではない。４要素説の枠組みでも、いずれかの要素に問題がある事案では、それを理由に整理解雇が無効とされている。解雇回避措置についても、配転・出向や希望退職者募集を行うことを使用者に期待できる限りは尽くすべき措置とされている。被解雇者選定の妥当性や協議・説明義務も整理解雇の重要な要素として維持されている。～総じて裁判例は、市場競争の激化や企業再編等の新たな動向をふまえて整理解雇法理を適宜修正しつつ、使用者の恣意的な解雇をチェックする姿勢を堅持している。

	●		●(ｴ)　転職市場型企業における整理解雇

	◇		◇(6)　就業規則上の解雇事由の列挙とその意義
	◇		◇(7)　解雇理由の証明書
			労基法第22条（退職時等の証明） ②労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
	◇		◇(8)　解雇の無効
	◇		◇(9)　解雇期間中の賃金
			民法第536条（債務者の危険負担等）前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
			合理的理由なく解雇された労働者が解雇無効の判決（または仮処分決定）得て職場に復帰 ⇒解雇されてから無効判決を得るまでの間の賃金は、その間労働契約関係が存続していたものとして、双務契約における一方債務の履行不能の場合の反対給付請求権（民法５３６条）の問題として処理。
			客観的に合理的理由のない（または相当性のない）解雇を行った使用者 ⇒解雇による労働者の就労不能につき原則として「責めに帰すべき事由」あり ⇒労働者は解雇期間中の賃金請求権を失わない（同条２項）。
			その額：当該労働者が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額。〇基本給、諸手当、一時金 ×通勤手当のように実費補償的なもの ×残業手当のように現実に残業に従事して初めて請求権が発生するもの
		●	●解雇期間中の賃金と中間収入
			労働者が解雇されてから解雇無効判決を得るまでの期間に他の事業所で働いて収入を得ていた場合に、使用者はこの中間収入を労働者に遡及支払すべき賃金額から控除できるか？ ①中間収入は反対給付を受ける債務者（被解雇者）が償還すべき「債務を免れたことによって」得た利益（民法５３６条２項）といえるか？ ②仮にいえるとしても、使用者がそれを償還請求の方法によることなく直接に遡及賃金から控除すること（遡及賃金と相殺すること）は賃金全額払いの原則（労基２４条）に違反しないか？ ③解雇期間中の就労不能も「使用者の責に帰すべき事由による休業」として休業手当請求権（労基２６条）を生ぜしめるが、これが①②の論点にどのように影響するか？
			労基法第26条（休業手当）使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
			判例：解雇された労働者が解雇期間中に他の職について収入を得た ⇒その収入が副業的であって解雇がなくても当然に取得しうるなどの特段の事情がない限り、債務を免れたことにより得た利益としてこれを使用者に償還すべき。（論点①）ｂｕｔ他方で、被解雇者は雇用期間について平均賃金の６割以上の休業手当を保障されている ⇒解雇期間中の賃金のうち平均賃金の６割までの部分については利益償還の対象とすることは許されない。（論点③）被解雇者・使用者間の訴求賃金支払と利益償還（中間収入控除）の決済手段を簡便に ⇒平均賃金の６割をこえる賃金部分については中間収入を償還請求の方法をとらずに直接控除することは適法。（論点②）
			被解雇労働者に解雇期間中の中間収入がある場合：労働者は解雇期間中の平均賃金の６割までは遡及賃金の支払を確保されるとともに、その額をこえる解雇期間中の賃金については中間収入控除の対象とされる。６割をこえる賃金のなかに解雇期間中の一時金が含まれている場合には、この一時金も中間収入控除の対象とされる。ｂｕｔこのようにして控除し得る中間収入は、その発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることを要し、ある期間を対象として支給される賃金からそれとは時期的に異なる期間内に得た収入を控除することは許されない。
	◇		◇(10)　懲戒解雇と解雇規制
	◇		◇（11）　解雇と不法行為
			解雇権濫用にあたる解雇⇒不法行為として使用者に損害賠償義務を生ぜしめうる。～権利濫用にあたる解雇は、使用者に故意・過失のあるかぎり労働者の雇用を保持する利益や名誉を侵害する不法行為となりえる。ｂｕｔ故意・過失、損害の発生、因果関係など不法行為の成立要件を吟味したうえで結論を出すべきであり、権利濫用にあたる解雇が当然に不法行為になると解すべきではない。（解雇は解雇権濫用で無効とし、地位確認・賃金請求を認容しつつ、不法行為にならないとした裁判例）
		●	●解雇が不法行為にあたる場合の逸失利益：
			本来、解雇権の濫用にあたる解雇は無効⇒労働者は解雇期間中の賃金請求そのものをなすべき。ｂｕｔ権利濫用の解雇をされた労働者が解雇をした企業には見切りをつけつつ、解雇についてはその不当性を明らかにすべく損害賠償を請求 ⇒ 事案上適当な期間（たとえば当該職種・職歴の者であれば通常再就職に要する期間）の得べかりし賃金相当額を逸失利益として認めるのが実際上妥当な決着方法。
			裁判例：被解雇者が客観的にみて当該企業での就労意思を喪失したと認められる事実（当該事件では予告手当の請求）がある場合には、労働契約関係は解雇の意思表示と相まってその時点で終了。 ⇒ 被解雇者はその時点からは逸失利益として再就職に通常要する期間（その事案では３ヵ月間）の賃金相当額を請求できると判示したもの。
◆			◆５　特別事由による解雇制限
◆			◆６　変更解約告知

★★★第３編　個別的労働関係法
★★第１章　個別的労働関係法総説（ｐ１４１）
★第１節　労働契約の意義と特色



◆			◆．４　労働契約の権利義務の体系（ｐ１４８）
	◇		◇(1)　労働力の提供と報酬の支払いの関係における権利義務
	◇		◇(2)　組織的労働の関係における権利義務
	◇		◇(3)　誠実・配慮の関係における権利義務
			労働契約においては、その人的・継続的な性格に由来しての信頼関係が要請される。
			労働契約法第３条（労働契約の原則） 4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
			使用者：
			労働者：営業秘密の保持義務、競業避止義務、使用者の名誉・信用を毀損しない義務
			競業避止義務：（ｐ１５３）労働者は、労働契約の存続中は、一般的には、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務。 ⇒ そのような行為が行われた場合には、就業規則の規定（「会社の利益に反する不都合な行為」など）に従った懲戒処分や損害賠償請求がなされうる。
			労働契約の終了後：労働者に職業選択の自由がある⇒労働契約存続中のように一般的に競業避止義務を認めることはできず、当該措置の法的根拠と合理性を問題ごとに吟味。
			同業他社に転職した物に対する退職金の減額ないし没収：退職金規程にその旨の明確な規定が存在することが必要。同規定の合理性と当該ケースへの適用の可否が、退職後の競業制限の必要性や範囲（期間・地域など）、競業行為の態様（背信性）等に照らして判断される。
			退職後の競業行為の差止め：退職者の職業選択の自由を直接侵害する措置 ⇒競業制限の合理的理由が認められ、合理的なに行い得る。
			損害賠償請求：前使用者に重大な損害を与える態様でなされた場合（顧客の大掛かりな簒奪、従業員の大量引き抜き、等）には、上記のような特約に基づいて認められるし、前使用者の営業権を侵害する不法行為としても認められうる。
			最近の裁判例：退職後の競業避止特約に基づく損害賠償請求について、労働者の職業選択の自由に照らして、特約における制限の期間・範囲（地域・職種）を最小限にとどめることや一定の代償措置を求めるなど、厳しい態度をとる傾向。
			退職後の競業を制限する規則や特約が格別存しない企業から退職した者の競業行為が、当該企業に対する不法行為を構成するか？～退職者の職業選択の自由とは別の、退職者の営業（取引）の自由の限界の問題。退職従業員が同業他者を設立し、前使用者の取引先と取引を開始したことにつき、前使用者の営業秘密を用いたり、その信用をおとしめるなどの不当な方法を用いていない⇒自由競争の範囲をこえていないとされた事例。
			競業行為が秘密保持義務に反する行為でもある場合：同義務に基づく行為の差止めや損害賠償請求も可能。

	◇		◇(4)　労働者の損害賠償責任

★第２節　個別労働関係法の構造・適用範囲・効力（１１版ｐ１５７～）
			◆１．個別的労働関係法の構造（法源）
◆			労働者と使用者の合意によって内容を定めらる契約関係として構成。個別的合意の関係に対して、民事法規としての労働契約法とそれをおぎなう判例法理（労働契約判例）が諸種の準則（ルール）を設定。労働協約と就業規則がそれぞれ労働組合法、労働契約法の規定（労組16条、労契7条・10条）に基づき契約内容を規律する。労働基準法とその付属法に定められた労働条件の最低基準が、罰則と労働基準監督行政によって労働契約関係に対して強制され、また民事（権利義務）上も強行的直律的効力を及ばす。（労基13条）雇用機会均等法j、パート労働法その他の労働政策立法も、労働契約のさまざまな強行的準則を設定しつつ、行政機関の助言・指導や紛争解決援助などの行政上の取り組みの仕組みを備えている。
◆			◆２．労働契約法・労働基準法の適用範囲
	◇		◇(1)　労働契約法・労働基準法の適用範囲（それらの異動）
			労働契約法：労働契約の関係における労働者と使用者の権利義務の理念や規範を定めるものであるが、適用対象の「労働者」と「使用者」を、それぞれ、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」と定義。（法2条1項、2項）適用範囲という観点からは、相手方当事者が一方当事者に「使用されて労働し」、相手方当事者が一方当事者に「賃金を支払う」という契約関係かどうか、を判断。
			労働基準法：労働関係における労働者の保護のために労働関係の基本原則と最低労働条件の定立を目的とした法律。適用対象である「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事業所（「事業」）に使用される者で、賃金を支払われる者」(労基法9条）同法の規制の名宛人である「使用者」を「事業主又は事業の経営担当者その他の事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」と定義（労基法10条）「賃金」を「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対賞として使用者が労働者に支払うすべてのもの」（労基法11条）
			労基法の適用範囲を画する基本概念は「労働者」であるが、その基本的要素は、 ①事業に使用されること、及び ②「使用され、賃金をしはらわれる」という関係にあること。 ②の要件は、労働契約法の適用範囲を決める「使用されて労働し」、「賃金を支払われる」関係にあることという要件と同一。
			労働契約法は、国家公務員及び地方公務員には適用されない。（19条1項） ←それらの者は、国家公務員法・地方公務員法による任用関係にあって労働契約関係にはない。同居の親族のみを使用する場合の労働契約には適用されない。（同条2項） ←親族間の労働契約関係にまでは立ち入らないこととした。船員については、船員法という特別法があるので、労働契約法では特例が規定されている。（法18条）
			労基法は、現業国家公務員および現業・非現業の地方公務員に対し全面的ないし部分的に適用される。 ←最低労働条件の国家的な保障同居の親族を使用する事業のみならず家事使用人にも適用されない（116条2項） ←罰則と行政監督を伴う
	◇		◇(2)　労基法の「事業」への適用
			「事業又は事業所」（「事業」）に使用される労働者の労働関係を労働者保護の見地から規制する仕組み。 ← 国の労働主務官庁の地方組織として全国に配置された労働基準監督署が、管轄区域内の事業所を物理的に把握して同法の労働条件の基準を遵守させる、とう労働基準監督行政の体制に対応した仕組み。
			事業とは、「工場、鉱山、事務所、店舗御等の如く、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をい」う（昭和22.9.13発基17号）。個人が一時的に大工、植木職人を使用する場合、民法の雇用ないし労働契約法の労働契約とはなりえても、「事業に使用される」とはいえない。
			日本国外で営まれる事業については、属地主義の原則により、その事業が日本人ないし日本法人であっても適用されない。
		■	■労働契約の準拠法
			日本人が国内外の外国ｊ企業に雇用される場合や、外国人が日本企業に雇用される場合などの国際的労働関係については、いずれの国の労働契約法理が適用されるか。
			「法の適用に関する通則法」で規定契約の成立及び効力については、当事者が契約時に選択した地の法により（法7条）この選択がなされないときには契約当時において当該契約と最も密接な関係のある地の法による（8条1項）
			労働契約については、上記の選択により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係のある地の法意義あの法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係のある地の法中の強行規定を適用すべき旨の意思表示を使用者に対し表示したときは、その強行規定の定める事項については、その強行規定も適用する。（法12条1項）同規定の適用にあたっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法（労務を提供すべき地を特定できない場合には当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法）を当該労働契約に最も密接な関係のある地の法と推定する。（同条2項）上記の選択がないときは、当該労働契約において労務を提供すべき地の法（これを特定できないときは雇入れ地の法）を当該労働契約に最も密接な関係のある地の法と推定する（同条3項）
	◇		◇(3)　労働契約法理・労働基準法・関連法の適用範囲
			最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、賃確法、などの労基法の附属法は、適用対象を各法に定めているが、基本的には、労基法に定義する「労働者」を保護の対象となる。
◆			◆３．労働契約法・労働基準法の適用対象である「労働者」
	◇		◇(1)　問題の所在
		規定	労働契約法第二条（定義）この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
			労働基準法第九条（定義）この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所（以下「事業」という。）に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
			労働契約法：その適用対象である「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義している。（法2条1項）同法の適用がある労働関係か否かは、そこで働く者が同法で定義された「労働者」といえるか否かで判断する。
			労基法：同法の保護の対象者としての「労働者」を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義。（法9条）労働契約法の「労働者」の定義と基本的に同一で、それに「事業に使用される」という加重要件を付したもの。
			⇒労働契約法および労基法（その附属法・関連法）の適用があるか否かについては、「使用されて労働し、賃金を支払われる」者としての「労働者」といえるか否かが、共通の基本的判断事項。
	◇		◇(2)　「経営者」か「労働者」か（ｐ１７０）
			「取締役」や「監査役」などの役員が業務執行以外の労務を担当し、これに対して役員報酬以外の報酬を受けている場合。（使用人兼務役員）この場合は、「労働者」であり、労基法や労働契約法理の適用を受ける。
			従業員兼務か否かが不明確な場合、報酬が基準・額・支払方法などにおいて純然たる役員報酬と認められるか、従業員としての勤務管理を受け、従業員としての業務に従事しているか、などを総合的に判定する。
	◇		◇(3)　「個人事業者」か「労働者」か（ｐ１７５）
		●	「雇用」ではなく「委任」または「請負」の契約の形式。労働時間や労働場所についての拘束がなく、就業規則の適用が排除され、労働保険にも入れられない。特定企業のために専属的に労働力を提供する場合には、「労働者」か否かが問題となる。
			請負・委任契約による労務供給者が「労働者」か否かは、契約の形式によって決められるのではなく、労働関係の実態において事業に「使用され」かつ賃金を支払われていると認められれば、「労働者」といえる。いかに契約の文言を委任ないし請負として整えたとしても、労働関係の実態において事業に使用され賃金を支払われていると認められれば、そのような労働関係についての強行的な規制は免れない。
		●	「使用され」＝指揮命令下の労務の提供を意味する。「賃金」＝「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」（労基法１１条）労働基準の監督行政や裁判例では、両基準を合わせて「使用従属関係にあること」と概括的に表現したうえで、労働関係の様々な要素を吟味し、それらを総合して同条の労働者性を判定。 ①仕事の依頼への許諾の自由 ②業務遂行上の指揮監督 ③時間的・場所的拘束性 ④代替性 ⑤報酬の算定・支払方法 ⑥機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性 ⑦専属性等
			「使用され」るといえる典型仕事依頼に対する許諾の自由がなく、業務の内容や遂行のし方について指揮命令を受け、勤務の場所や時間が規律され、業務遂行を他人に代替させえない
			報酬が賃金と言えるか否か額、計算方法、支払い形態において従業員の賃金と同質か、それとも零細事業者の契約代金か源泉徴収の有無、雇用保険、厚生年金、健康保険の保険料徴収の有無
			当該企業の業務に専属的に従事しているとしても、当該業者に零細なりとはいえ自己の計算において事業を営む者としての要素（機械・器具・経費の負担、剰余金の取得、危険や責任の引受、他人の雇用など。このような場合は、報酬も相応の額や定め方となり、また納税上も事業所得として自己申告がなされる）が存在すれば、労働者とは認められない。そのような要素がほとんど存在せず、他人に使用されて労働の対価を得ているにすぎないと認められれば、労働者といえる。
		●	最高裁H8.11.28： ①業務用機材であるトラックを自己所有しガソリン代、修理費、高速料金を負担 ②運送業務遂行に必要な指示以上の指示命令は受けなかった ③時間的場所的拘束がゆるやか ④報酬が出来高払いで、事業所得扱い ⇒「労働者」にあたらない。
			最高裁H19.6.28： ①当該大工が工務店から指揮命令を受けていたとは評価できず ②報酬は仕事の完成に対して支払われていた ③自己使用の道具を持ち込んでいた ⇒「労働者」性を否定。
			◇(4)　専門的裁量的労働供給者
			医師、弁護士、一級建築士など高度の専門的能力、資格を持つ者も、職務の内容や質量において使用者の基本的な指揮命令の下にあって労務を提供し報酬を得ているという関係にあれば、「労働者」といえる。
◆			◆４．使用者
	◇		◇(1)　労働契約上の使用者
			共同使用型（２人の弁護士が共同で事務所をもつ場合の事務員の共同雇用）： ①同一労働者について複数の者が共同で１個の労働契約の使用者となる場合 ②複数使用者との複数の労働契約が同時進行していく場合
			企業グループが応募者を企業グループとして募集・採用し、グループ内で共通に人材を活用していくグループ採用：グループ内の中心企業ないしは複数企業が単独ないし共同で使用者となる。 ←法人格のない企業グループが使用者となることは法的に認められない。
		●	労働者が労働契約上の使用者の事業場においてではなく、他の事業主の事業場において労働に従事する労働関係： ①業務処理請負 ②労働者派遣 ③出向
			①業務処理請負：労働者は注文主たる企業の事業場において、請負業務の処理に従事するが、作業の指揮命令は請負企業自身によって行われる。 ⇒ 労働契約上の使用者は請負企業。
			②労働者派遣：派遣労働者は、派遣先企業においてその指揮命令を受けて業務に従事するが、労働者派遣法上、労働契約上の使用者は派遣元企業のみであって、派遣先企業は使用者ではないとされている。（労働者派遣法2条1号）
			③出向：出向労働者は、出向元企業との基本的な労働契約関係に加えて、出向先企業との間にも部分的な労働契約関係が成立し、出向先企業もその限りでは労働契約上の使用者となる。
		●	●社外労働者と受入企業間の黙示の労働契約の成否
			社外労働者が受入企業の事業場において同企業から作業上の指揮命令を受けて労務に従事しても（この意味で使用従属関係が存在しても）、それだけで黙示の労働契約関係が成立するわけではない。労働契約は、①使用者が労働者に賃金を支払い、②労働者が使用者に労務を提供することを基本的な要素とする ⇒ 実質的に見て ①社外労働者に賃金を支払う者が請負（派遣）企業ではなく受入企業であり、しかも ②社外労働者の労務提供の相手方が請負（派遣）企業ではなく受入企業であるといえる場合にのみ、社外労働者と受入企業間に労働契約関係の基本的要素が整うこととなる。
			①社外労働者の賃金が、実質上受入企業によって決定され、請負（派遣）企業を介して受入企業自身によって支払われているとみなしうることが必要。ｅｘ．社外労働者の受入れを生ぜしめる契約の代金が実際上受入企業によって決定され、しかも実質上社外労働者の賃金額（プラス請負（派遣）企業の手数料）として定められる場合。 ②受入企業が社外労働者に対して労務給付請求権を有すると認められることが必要。受入企業が社外労働者に対し作業場の指揮命令や出退勤の管理を行っていることが必要であるが、これらのみでは十分ではない。 ← 請負（派遣）企業がこれらを受入企業に委ねつつも、なお社外労働者の配置・懲戒・解雇等の権限を明確に保持している場合には、基本的な労務給付請求権はなお請負（派遣）企業に存すると考えられる。社外労働者の採用が実際上受入企業によって決定されていたという事実や、社外労働者が受入企業によって賃金額を決定され、受入企業の労働者と同一の作業を渾然一体となって行っているといった事情は、労務提供の相手方を受入企業とする方向に働く。

◆			◆５．労働基準法の効力
◆			◆６．労働基準監督行政


★第３節　就業規則の意義と効力
◆			◆１．就業規則の意義
◆			◆２．就業規則の作成・変更に関する労働基準法の規制
	◇		◇(1)　作成・届出義務
		規定	労基法第89条（作成及び届出の義務）　常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。一　始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項二　賃金（臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。）の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項三　退職に関する事項（解雇の事由を含む。）三の二　退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項四　臨時の賃金等（退職手当を除く。）及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項五　労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項六　安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項七　職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項八　災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項九　表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項十　前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
			「１０人以上」は事業単位で計算 ← 労基法が法の適用単位を企業ではなく事業場とし、就業規則作成・変更手続においても労働者代表の意見聴取を事業場単位で行わせている。
	◇		◇(2)　記載事項
	◇		◇(3)　労働者の意見聴取義務
		規定	労基法第90条（作成の手続）使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。 ②使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
	◇		◇(4)　周知義務
	◇		◇(5)　法令・労働協約の優越


◆			◆３．就業規則の労働契約に対する効力・・・判例法理
◆			◆４．就業規則の労働契約に対する効力・・・労働契約法による明確化
	◇		◇(1)　就業規則の労働契約に関する労働契約法の基本的立場
	◇		◇(2)　就業規則の最低基準効
			労契法第12条（就業規則違反の労働契約）就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
	◇		◇(3)　労働契約の締結における就業規則の労働契約規律効
	■		■(ｱ)　労働契約規律効の立法化
			労契法第７条労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
			～労働契約当事者間に就業規則より有利な、個別的な特約が定められないかぎり、合理的な労働条件を定める就業規則が労働契約の内容を規律する（労働契約の内容は就業規則の定めによる）。
	■		■(ｲ)　労働契約規律効の要件
			第１の要件
			（１）使用者が当該就業規則を「労働者に周知させていた」こと。
			（２）就業規則の作成について労基法が要求する届出（89条）または意見聴取（90条）の手続を踏んでいない就業規則については、この労働契約規律効が生じるか？
			①就業規則の変更の場合の労働契約規律効については、これらの手続を踏むべきことが規定されているが（労契１１条）、労働者の採用の際の労働契約規律効については規定されていない。 ②採用に際しての就業規則の労働契約規律効は、就業規則が採用の際に労働者に事実上受容されたという状況のもとでのその法的効力に関するもの。 ⇒ それらの手続の履践は労働契約規律効の取得には必要ない。
			第２の要件


	◇		◇(4)　労働契約の変更における就業規則の労働契約規律効
	■		■(ｱ)　概説
	■		■(ｲ)　就業規則による労働契約の変更による合意原則
			労契法第８条（労働契約の内容の変更）労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
			労契法第９条（就業規則による労働契約の内容の変更）使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
			就業規則の変更による労働条件の不利益な変更も、労働者との合意があれば可能であり、就業規則それ自体やその変更の合理性は必要とされない。 ← 労働契約法が労働契約の最も基本的な原則として合意原則を一貫して規定しており、本条もその一環。
			but 就業規則の不利益変更に対する労働者の合意（同意）は慎重に認定すべきであり、その旨の労働者の自由な意思を首肯させる客観的事情が認められる場合にのみ肯定すべき。
			大阪高裁H22.3.18：就業規則の不利益変更に対する労働者の同意は、労働者が就業規則を提示されて異議を述べなかったというだけで認定すべきではないとして、退職金を大幅に減額し、次いで廃止する２回の就業規則変更について、労働者の同意を認定できないと判断。
			有利な変更⇒就業規則の最低基準効（１２条）が働くので、当事者の合意の有無にかかわらず、就業規則で新たに定められた有利な労働条件が事業場の最低基準として労働契約の内容を規律。
	■		■(ｳ)　合理的変更の場合の労働契約規律効
			労契法第10条使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

	■		■(ｴ)　合理性の判断要素と判断手法

	■		■(ｵ)　合理的変更の手続的要件


			１１条は、労働基準法上の届出の意見聴取の履践が、変更された就業規則が労働契約を規律するための絶対的要件ではないが、変更の合理性の判断要素である「その他の就業規則変更に係る事情」の１つとして考慮されることを明らかにしたものと解する。～意見聴取と届出をしたことが合理性判断におけるプラスの材料になるということ。

	■		■(ｶ)　合理的変更の効力


	■		■(ｷ)　変更の合理性が認められない場合の就業規則の効力
			就業規則の変更に合理性が認められない⇒就業規則上の当該労働条件は労働契約を規律する効力は認められない⇒従前の労働契約上の労働条件が効力を持続。
			ｂｕｔ変更の合理性が認められなくても、変更後の就業規則が無効とされたり、その存在が否定されたりするわけではない。変更の合理性が否定された就業規則も、その変更に対して同意を与えた労働者に対しては、合意原則によって労働契約上の効力を取得する（８条、９条）。変更の合理性は否定ｂｕｔ当該労働条件そのものには合理性が認められる⇒変更後に採用された労働者に対しては労働契約規律効を認められる（７条）。