シンプラル法律事務所
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民法(債権法)改正レジュメ

★1 意思能力・意思表示(公序良俗を除く)
  ◆1 制定の経緯
  ◆2 制定後の法改正の経緯と概要
     
★2 公序良俗(90条)  
     
     
★3 代理  
     
     
★4 無効・取消し  
     
     
★5 条件・期限  
     
     
★6 消滅時効  
     
     
★7 債権の目的・債務不履行等の責任  
  ◆第1 契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして
  ◇ 1 条文(代表的な条項)
    第95条第1 項(錯誤) .
「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして」

第40 0条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照ら して」

第412条の2第1 項(履行不能)
「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照ら して」

第415 条第1 項但書(債務不履行による損害賠償)
「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照ら して」

第478 条(受領権者としての外観を有する者に対する弁済) , 同504 条−2 項(債権者による担保の喪失等)
「取引上の社会通念に照らして」 .

第483 条 (特定物の現状による引渡し)
「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照ら して」

第541 条但書(催告による解除)
「その契約及び取引上の社会通念に照らして」

第542条第1 項第3号, 同4号, 同5号(催告によらない解除)
「契約をした目的」

第562条第1 項(買主の追完請求権) など
「契約の内容に適合しない」

第636条(請負人の担保責任の制限) など
「契約の内容に適合しない」
     
  ◇ 2  解説(「実務解説民法改正」 keyword 34.4〜349頁)
  ■(1) はじめに
    改正民法では, 「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」 ( 「その他の債権の発生原因」 は法定債権を意味する補足的な表現なので, 「契約及び取引上の社会通念」がが重要となる。) という表現, またはこれとよく似た表現が散見される。
現行民法でも 「契約をした目的」 (第566条第1 項) と「契約」を基準とする表現は存在したが, この「契約及び取引上の社会通念に照らして」は, 改正民法の特徴の一つとなっている。
  ■(2 ) 要点@ : 「契約に照らして」
    立法段階での議論からは, 「契約の内容(契約書の記載内容等) のみならず、契約の性質(有償か無償かを含む。)、当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる
一切の事情を考慮し、取引通念をも勘案して、評価・認定される契約の趣旨に照らして」 を意味すると理解されている。

このこと.自体は, あまり違和感はないと思われる。 注意を要するのは,「契約書」 を偏重することを意味するものではないことである。

「契約に照らして」 とは, 当該契約の基礎や背景にある「契約の目的, 契約締結に至る経緯その他の事情を基礎に据えて, そして取引上の社会通念を考慮に入れて導かれる契約その他の当該債権の発生原因の趣旨に照らして判断される。」. (法制審「部会第9・0 回議事録」39 頁) ことを意味する。
   (3)要点A: 「契約」と 「社会通念」の関係
    文言上は, 「契約」と「社会通念」が 「及び」により結ばれていることをどのように考えるべきか, この両者の関係が問題となる。

すなわち, 並列されていることから「契約」と「社会通念」が同等の意義.(重み) を持つと解することもでき, 「契約に照らして」解明された合意が、「社会通念に照らして」、その内容が変更されることが.ありうるのではないかとも考えられるからである。

<例>
売買契約において, 債務者が債権者に目的物を引渡すまでの注意義務について, 「契約に照らして」 自己の財産に対するのと同一の注意義務を合意したものであると認められた。 しかしながら, 当該取引の 「取引上の社会通念lこ照ら.して」判断すると, 善良なる管理者の注意義務が相当であると認められる。 この場合, 「契約に照ら.して」 認められた自己物と同一の注意義務は, 「取引上の社会通念に照ら して」, 変更され, 善管注意義務が認められるのか。
  □ア 立法段階での理解
    この点については, 立法段階では, 「契約」と「社会通念」が並列されたのは, この関係を正確に表現する立法技術がなかった制約によるものであり, 「契約」が「社会通念」により変更(上書き) されることは考えていない。

法制審の議論でも, このことは共通認識として形成されており, 改正民法の文言は, あくまで「契約」の解釈の考慮要素との一つとして「取引上の社会通念」 も含まれることを, 明記したに過ぎないと考えている。
したがって, 「取引上の社会通念」は, 「契約」の内容を解明する際の要素の一つであり, 当事者が契約をした目的, 契約締結に至る経緯を初めとする契約をめぐる一切の事情と同じように, 「契約」 の解釈に取り込まれるものであると理解されていることに, 十分に注意する必要がある。
  □イ 解釈の余地
    上記のとおり立法段階では, 「契約」と「社会通念」の関係は上記のように理解されていた。 また, 現時点での学説の理解も上記の理解となっている。.

しかし, この両者の関係が「及び」 という文言で条文化されたことにより, この並列されていることを強調すると異なる解釈の余地も残されている。
例えば, 「社会通念」は「契約」に解消されうるものなのかとの指摘や, 「契約」の解釈の中で取り込めなかった「契約締結時のそれだけではなく, 不履行が生じた段階での取引上の社会通念も出てきます。 そうすると, 『契約の趣旨』とか, 契約解釈ということで必ずしも取り込めなかった, 契約時はそうでも, 現時点において, 取引上の社会通念からみるとこうなのだというようなところが入ってくる可能性があります。」
との指摘がある。
     
  3 今後の実務への影響
    実務上, 変更の影響はない。 ただし, 「契約」と「社会通念」の関係について注意する必要がある。
理論の重要度 ★★★
契約実務での重要度 ★★☆2
債権管理実務での重要度 ★☆☆
訴訟.実務での重要度 ★☆☆
2 従来の実務を変更するものではない。 しかしながら, 契約内容が「契約に照らして」, すなわち, 「当事者が契約をした目的, . 契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情を考慮して」解釈されることが特記されたことになる。

その解釈指針となる 「目的」, 当事者の「合意」の内容が明確になるよう契約書の文言を検討する必要がある。 例えば, 旧法下での「目的物に瑕疵がある場合」などの契約文言を, 「契約の内容に適合しない。」に置 換するだけは不十分である。 どのような場合が適合しないと判断するのかについて, 契約目的, 性状合意などを明確tこ した契約書の作成を心がける必要がある。
     
  ◇ 4 債権関係における貢任の考え方のパラダイムシフト
  ■(1) 伝統的な考え方
    伝統的な考え方では、債権関係における責任は、大きく@「過失」とA 「瑕疵」の2つを, その正当化の根拠として考えられてきた。

すなわち,
「損害賠償責任が生じるのは, 損害を与えた者に過失があるからである、
「瑕疵のない物を給付する義務がある以上., 瑕疵があるのであれば, その損害は賠償されなければならない。 」
という理解に見られる考え方である。

この伝続的な考え方に特徴的なのは, 「過失」(注意義務違反) や「瑕疵」 (瑕疵なき物の給付義務違反) という 「…すべきであったのに怠った。 」と いう一般的な水準を基準とする義務違反から責任を考える点にある 。
  (2) 改正民法の基本的な視座
     改正民法では, この伝統的な考え方にパラダイムシフトがある。
責任の有無を探求するにあたって, 一般的な義務違反の有無から判断するのではなく, 当該契約での合意内容に照らして, すなわち「当該契約では何が求められていたか。」から判断することになる。
この点について, 潮見佳男教授は, 「契約上の債務につき, 債務者の 行動自由の保障を基礎に据えた過失責任の原則は, もはや損害賠償責任を正当化する原理としての地位を滑り落ちる。 それに代わって, ここでは,契約の拘束力を損害賠償責任の正当化原理と して基礎に据え『債務の本旨
に従った履行をしなかった債務者は、 契約を守らなかったことを理由に、 債権者に生じた損害を賠償する責任を負わなければならない』と言うのが 適切である。」3と指摘している。
改正民法では, 「過失がない」から免責されるという説明ではなく, 「契約で想定されていない」 から免責されるとの説明になる。

そのため, 改正民法では, 「その不履行のリスクはどちらが負担すると合意されていたか」
という契約の解析が, 現在にもまして重要となる。 .
このように,改正民法は, 合意(契約) を重視することから, 「契約を守っていれば, 契約時に想定外であったことに対する責任は負わない。」 との予測が可能な規律となっているともいえる。
他方, 社会常識などに依存し契約を曖味にしていると, 契約の目的, 経緯, 取引上の社会通念を要素とした, 「契約に照ら して」その意味内容を判断されるというリスクを負うことになる。
     
  ◆第2 特定物の引渡しの場合の注意義務 
     
  ◆第3 法定利率 
     
  ◆第4 中間利息の控除 
     
  ◆第5 金銭債務の特則 
     
  ◆第6 不能による選択債権の特定 
     
  ◆第7 履行期と履行遅滞 
     
  ◆第8 履行不能 
     
  ◆第9 受領遅滞 
     
  ◆第10 受領遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由 
     
  ◆第11 履行の強制 
     
  ◆第12 債務不履行による損害賠償 
     
     
  ◆第13 損害賠償の範囲 
     
     
     
  ◆第14 過失相殺 
     
     
     
     
     
★8 損害賠償の予定  
     
     
★9 代償請求権  
     
     
★10 債権者代位権  
     
     
★11 詐害行為取消権jの改正事項の概要  
     
     
★12 詐害行為取消権(前編)  
     
     
★13 詐害行為取消権・否認権 条文対照表