シンプラル法律事務所
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論点の整理です(随時増やしていく予定です。)
社外取締役・取締役会に期待される役割について 平成26年3月7日 (日本取締役協会) |
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●はコメント部分 | |||
前文 | 我が国の上場企業におけるコーポレート・ガバナンスは大きな転換点を迎えようとしている。上 場会社における社外取締役の選任が大幅に進み、増加した社外取締役に期待される役割に改めて焦点が当たっている。新たに選任された社外取締役が適切に職務を行うために、その整理は喫緊の課題といえる。 しかし、社外取締役に期待される役割には多様な考えがあり、なかには基本的な部分に誤解も存するように思われる。それが故に、いまなお社外取締役の選任や増員について経営者が躊躇していることはやむを得ない側面がある。 そこで、本提言は、社外取締役に期待される役割、社外取締役の果たすべき職務の中核的部分について、日本取締役協会の考えを明らかにするものである。 本提言は、社外取締役の主たる職務を経営者の「監督」と捉えた上で、その中核的部分を明らかにし、社外取締役に期待される役割や期待すべきでない役割を示すものである。 本提言の考えの多くは、世界で広く採用されている経営者の「監督」を重視した取締役会の形態である「モニタリング・モデル」と共通なものである。多くの誠実な経営者にとって、本提言の考えや「モニタリング・モデル」は、その経営を支えるものであり、決して経営に敵対的な仕組みではない。 なお、本提言の考えは、上場会社に共通して当てはまるものであるが、社外取締役に期待される役割の整理が喫緊の課題である監査役設置会社を主として念頭におくものである。 社外取締役に期待される役割、社外取締役が果たすべき職務についての正しい理解が、結果として、我が国における社外取締役の選任の増加や、取締役会に対する株主からの信頼の強化に繋がり、最終的には企業価値の増大をもたらすことを期待している。 |
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提言 | 1. 社外取締役・取締役会の主たる職務は、経営(業務執行)の意思決定ではなく、 経営者(業務執行者)の「監督」である。 |
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● | 「経営者」:業務執行の責任者や幹部(典型は社長やCEO) 「経営」:経営者が行う業務執行 |
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社外取締役は「経営者」ではなく、「経営」に従事する立場でもない。 | |||
2. 「監督」の中核は、経営者が策定した経営戦略・計画に照らして、その成果が妥当であったかを検証し、最終的には現在の経営者に経営を委ねることの是非について判断することである。 | |||
3. 具体的には、 (i) 経営者に対して経営戦略・計画について説明を求め、 (ii) 経営戦略・計画が株主の立場から是認できないものでないかを検討する。 (iii) そして経営の成果について、経営者から説明を求める (iv) 上記から、経営者を評価し、最終的には現在の経営者に経営を委ねることの是非について判断する。 以上を経営者の責務の観点から、言い換えれば経営者は、経営戦略・計画が合理的であり、また、その成果が妥当であることを、社外取締役を含む取締役会に説明し、納得させる責任を負う。 |
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4. 前記に加え、経営者の評価や投資家の投資判断の前提となる財務情報の重要性に鑑み、その信頼性を高める観点、経営者の報酬を成果に応じた合理的なものとする観点、経営者の利益相反行為の抑止、更には適切なリスク管理体制の構築などの観点からも、社外取締役による経営者の監督が期待されている。 | |||
5. 社外取締役・取締役会による経営者の「監督」とは、経営そのものではない。 会社法上求められる取締役会における重要な業務執行の決定についても、社外取締役は、経営者の提案が株主の立場から是認できるのか否かという観点で判断すべきであり、その意味で「監督」に近い性格を有するものである。そもそも、外部者である社外取締役は、経営者と比較すると、業務執行に関する専門的知識や情報が不足しており、個別の業務執行の決定ではなく、経営者や経営全体に関する評価が、その特性を活かし、企業価値を高める職務である。 |
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6. 取締役会では、社外取締役による「監督」に適合した事項について、十分な審議を行うべきであり、一方、個別の業務執行の決定は、経営者と会社との利益相反が生ずる場合を除き、法令で許される範囲で経営者に委譲するべきである。 | |||
7. 社外取締役・取締役会による経営者の「監督」とは、自ら動いて隠された不祥事を発見することではない。 社外取締役は、不祥事の発生を防止するリスク管理体制の構築を「監督」し、「監督」の過程で不正行為の端緒を把握した場合は適切な調査を行うべきであるが、隠された個別の不祥事の発見自体は社外取締役による経営者の「監督」の直接的な目的ではない。 |
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8. 経営者の「監督」の機能を果たすために、社外取締役には独立性が求められる。 社外取締役による経営者の「監督」の中核的部分が、経営者の評価にあることからすれば、経営者からの社外取締役の独立性は不可欠である。 ここにいう経営者からの独立性とは、経営者との間で利害関係を有しないことを意味する。 |
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9. 経営者の「監督」の機能を高めるためには、取締役会における社外取締役の数を増やし、その比率を高める必要がある。 また、少数の社外取締役に重要な役割や権限を与えるよりも、多数の社外取締役に委ねる方が、「監督」の質が高まり、またその安定にも資する。 |
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10. 多数選任された社外取締役に多様性が存することは望ましいが、「監督」の中核的な部分が経営者の評価にあることから、まずは、これに適した者、例えば他社の経営者やその経験者など、経営一般についての知見を有する者を社外取締役として確保することが合理的である。 | |||
11. 本提言の考えの多くは、「モニタリング・モデル」と共通なものである。 「モニタリング・モデル」は、社外取締役を含む取締役会に期待できる基本的な役割が、業務執行の決定ではなく、役員の選解任を中心とした業務執行の監督とする取締役会の仕組みである。1970年代に米国で誕生して以降、米国の上場企業の多くで採用され、米国以外にも広く浸透しつつある。 「モニタリング・モデル」は、多くの誠実な経営者にとっては、決して経営に敵対的な仕組みではなく、社外取締役を通じて経営への株主からの支持を得る仕組みとなりえ、結果として、経営に正統性を与え、経営者を後押しする効果がある。 |
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12. 社外取締役の職務や取締役会の在り方には、多様な選択がありえ、また、会社によっても異なる。 「モニタリング・モデル」といっても「監督」の主眼をどこに置くのかには差異がありえるし、そもそも取締役会の在り方は「モニタリング・モデル」だけには限られない。 しかし、いずれの選択をした場合も、「モニタリング・モデル」としての特徴や、「モニタリング・モデル」との差異を説明することが、自社のコーポレート・ガバナンスに対する株主や投資家の理解を深めるために重要である。 |
社外取締役ガイドライン 2013年(平成25年)2月14日 日本弁護士連合会 |
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はじめに | 法務省法制審議会の「会社法制の見直しに関する要綱」では,社外取締役が有用であるという方向性が示された。 社外取締役がそれぞれの知見を踏まえ,広く社会通念・一般常識に基づき,ブランド価値・レピュテーション等の社会的評価を含めた企業価値の最大化という視点で経営をモニタリングすることの意義は大きいと言えよう。 現時点でも相当数の社外取締役が企業に就任しているが,今後,更に多様な経歴,専門性を持つ者の就任が見込まれ,当連合会の会員もその給源となることが想定される。しかるに,社外取締役は,会社法上の役割を負う者であるから,この点について十分承知して就任することが望まれる。 このような状況において,法律専門家の団体である当連合会が,取締役の善管注意義務の法的分析・整理を踏まえ,社外取締役への就任から退任まで,社外取締役が果たすべき役割等についてのベストプラクティスをガイドラインとしてコンパクトに取りまとめることには,以下のような意義がある。 第一に,多様な経歴を持つ方々が,本ガイドラインを参考とすることで,会社法上の取締役として,その就任から退任まで,役割を果たすために押さえておくべき一定の留意事項の全体像を把握できる。また,社外取締役である経営者・OBの方々も,多忙な中で,実務経験を法的観点から改めて点検できる。 第二に,社外取締役を迎える企業の経営トップや社内者の取締役・事務局や法務部門の者にとっては,社外取締役を活かすためのヒントとなりうる。 第三に,当連合会会員である弁護士に対しては,本ガイドラインを通覧し,研修等で研鑽を積むことにより,十分に役割を果たせることを示し,社外取締役就任への不安や疑問を解消することができる。 上記の取りまとめの趣旨に鑑み,本ガイドラインが広く,社外取締役の方々や,社外取締役を迎え入れる企業側等,各方面で参考とされることを願うものである。 |
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★第1 社外取締役にはどのような者がふさわしいか | ★第1 社外取締役にはどのような者がふさわしいか | ||
■ 1 社外取締役に望まれる資質 | ■1 社外取締役に望まれる資質 | ||
● | ●(1) 社外取締役に望まれる資質 | ||
社外取締役は,それぞれの経歴や専門性を背景に,社会における一般常識,会社経営に関する一般的常識,及び取締役及び取締役会のあり方についての基本的理解に基づき,取締役の業務執行について,ブランド価値・レピュテーション等の社会的評価を含めた企業価値を最大化し,かつ企業不祥事等による企業価値の毀損を避けるため,内部統制を含めたガバナンスや法令遵守等経営全般のモニタリングを行い,また業務執行に関与しない範囲でアドバイスを行うことが期待されている。 そこで,社外取締役には,それぞれの専門性のほか,以下の資質が望まれていると考えられる。 ア 様々な事業への理解力,資料や報告から事実を認定する力,問題及びリスク発見能力,応用力,説明・説得能力 イ 取締役会等の会議において,経営者や多数の業務執行取締役等の中で,率直に疑問を呈し,議論を行い,再調査,継続審議,議案への反対等の提案を行うことができる精神的独立性 |
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● | ●(2) 社外取締役の候補者 | ||
以上の資質を備える者としては,以下の者が考えられる。 ア 会社の経営者もしくは経営者OB イ 弁護士 ウ 公認会計士 エ その他有識者 |
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■2 客観的独立性について | ■2 客観的独立性について | ||
● | ●(1) 社外取締役の客観的独立性に関する基準の開示 | ||
社外取締役の独立性については,会社法,金融商品取引法,金融商品取引所規則等において開示が義務づけられている。 ところで,社外取締役については,各会社に応じて求められるものが異なることも多く,必要とされる独立性についても自ずから異なってくる。また,投資家等様々なステークホルダーもまた,独立性について様々な基準や考え方を持っている。 そこで,会社法,金融商品取引法,金融商品取引所規則等の法令等(海外子会社等については当該国の法令・規則が含まれる)及び会社と取引先の関係その他の事情を踏まえ,各社の実情を考慮して社外取締役の客観的独立性に関する基準等を定め,当該基準を開示することが望ましい。 |
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● | ●(2) 会社の重要な取引先等の関係者等の場合 | ||
銀行等会社の重要な取引先の役職員を兼任する者や出身者等も社外取締役の候補者となることがある。これらの者も社外取締役になれば,会社に対して守秘義務,善管注意義務及び忠実義務を負うため,取引先ではなく会社の利益を最優先しなければならない。そのため,かかる社外取締役においては,兼任・出身先と会社の間の取引等に関する意思決定に際して,関係先と会社の板挟みとなるおそれがあることに留意する必要がある2。 | |||
■3 専門性について | ■3 専門性について | ||
● | ●(1) 社外取締役と専門性 | ||
ア 社外取締役の職務の遂行において,専門性は不可欠なものではないが,専門性を活用したモニタリングや業務執行に関与しない範囲でのアドバイスは,有用である。 専門性として,以下のような分野が考えられる。 (ア) 会社経営一般にかかわる会計,経理,財務,税務,人事,労務,IT,法律などの専門分野に関する知見 (イ) その会社の営業の分野に関する専門的知見(例えば,医薬品製造販売会社における医学的ないし薬学的知見や医薬業界に関する知見等) イ 取締役会の審議においては,社外取締役の専門性に関する分野の議題であっても,その社外取締役の意見やアドバイスにのみ依拠するような審議は避け,専門性を有していない取締役も含め,すべての取締役が議論できるような審議方法(説明と資料の充実,事前に業務執行をサポートする外部の専門家の意見を複数求める等)に配慮する。 |
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● | ●(2) 社会通念・一般常識に基づくモニタリングの重要性 | ||
ア 社外取締役としては,専門性を活用するだけでなく,社会通念・一般常識からみればどのように評価されるかを念頭に置きつつモニタリングを行う。 イ 取締役会の議案が専門分野に係る場合,その分野の専門性を有しない社外取締役は,社会通念・一般常識に基づいて質問し説明を求めることによって,議案の理解に努め,取締役としての職務を遂行する。 |
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● | ●(3) 専門性と社外取締役の責任 | ||
専門性のある社外取締役も,業務執行に関与しない社外取締役としての義務や責任を持つ者であることは他の社外取締役と変わらないが,取締役の注意義務の水準について「とくに専門的能力を買われて取締役に選任された者については,期待される水準は高くなる」とする考え方もあるので3,専門性に関連する事柄について,その者の専門的能力に応じて専門性のない社外取締役よりも期待される水準が高くなることにより,責任が重くなる可能性があることに留意する。 | |||
★第2 社外取締役の善管注意義務の法的分析 | ★第2 社外取締役の善管注意義務の法的分析 | ||
■ 1 取締役の善管注意義務の概略 |
■1 取締役の善管注意義務の概略 | ||
● | ●(1) 取締役の善管注意義務 | ||
株式会社とその取締役との関係は委任に関する規定に従うとされていることから(会社法第330条),取締役は,その職務を遂行するに際して,善良な管理者としての注意義務(いわゆる善管注意義務)を負う(民法第644条)。 | |||
● | ●(2) 善管注意義務違反が具体的に問題となる場合 | ||
取締役の善管注意義務違反が具体的に問題となる場合としては,大きく分けて,以下の2つの場合が挙げられる。 ア 取締役自身の業務執行に関する判断に誤りがあった場合 イ 他の取締役・使用人の業務執行に対する監視・監督等を怠った場合4 ただし,取締役の業務執行によって会社に損害が生じた場合に常に取締役の責任を問うことは必ずしも適切でないことから,裁判例においては,経営判断の原則(主にアの場合に問題となる。)や信頼の原則(ア・イ双方で問題となる。)等の基準により,当該責任が一定程度限定されている。 @ 経営判断の原則 具体的な法令違反がある場合又は会社の利益を図る目的でない場合若しくは取締役の個人的利害関係が存する場合等の例外的な場合を除き,取締役自身の業務執行に関する判断に誤りがあった場合における善管注意義務違反の有無を判断するに際しては, (ア) 行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか (イ) その状況と取締役に要求される能力水準に照らし著しく不合理な判断がなされなかったか という基準が採用され,これが充たされていれば,取締役の判断が一定程度尊重される傾向にある5。 A 信頼の原則 取締役自身の業務執行の場合の経営判断の原則の適用に関して,情報収集・調査・検討等に関する体制が十分に整備されていれば,取締役は,当該業務を担当する取締役・使用人が行った情報収集・調査・分析等の結果に依拠して意思決定を行うことに当然に躊躇を覚えるような不備・不足があるなどの特段の事情がない限り,当該結果に依拠して意思決定を行えば足りる6。 また,他の取締役・使用人の業務執行に対する監視・監督等の場合も,リスク管理等に関する体制が十分に整備されていれば,他の取締役・使用人の業務活動に問題のあることを知り又は知ることが可能であるなどの特段の事情がある場合に限り,これを看過した時に善管注意義務違反が認められる7。 B 善管注意義務に違反した場合の責任 ア 会社又は第三者に対する損害賠償責任 取締役が,善管注意義務に違反し,会社又は第三者に損害を与えた場合には,当該会社又は第三者に対して,損害賠償責任を負う場合がある(会社法第423条第1項,第429条第1項)。 イ 免責が認められる場合 このうち,会社に対する損害賠償責任は,原則として総株主の同意がなければ免除することができない(会社法第424条)。ただし,例外として,当該取締役が職務を行うにつき善意かつ重大な過失がない場合であって, (ア) 株主総会の決議を得た場合(会社法第425条) (イ) 定款の規定に基づき取締役会の決議を得た場合(会社法第426条) (ウ) 社外取締役であって,定款の規定に基づき責任を限定する旨の契約を締結した場合(会社法第427条) のいずれかの要件を満たす際には,一定の限度で免責が認められている。 |
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■2 社外取締役の責任 |
■2 社外取締役の責任 | ||
● | ●(1) 善管注意義務の水準 | ||
社外取締役の善管注意義務の程度,他の取締役に対する監視義務の水準は,一般の取締役と異ならない。 ただし,社外者であること8,業務遂行に関与しない立場であること9が考慮される。なお,専門性との関係については,前記第1,3(3)を参照。 |
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● | ●(2) 社外取締役の職務と責任 | ||
@ 社外取締役の職務 取締役会の権限事項(会社法第362条第2項,第362条第1項第2号)を,会議体である取締役会の一員として行うことである。 A 社外取締役の責任の種類 ア 一般の取締役と同様,法的責任と経営責任がある。 イ 法的責任は,会社に対する忠実義務・善管注意義務違反による損害賠償責任等,法的効果に基づくものである。 ウ 経営責任は,経営の結果に対する責任であり,法的な効果を持たないものである。 B 社外取締役の経営責任 ア 社外取締役も取締役として経営責任を負う。 イ 経営責任の取り方は,社外取締役の職務,期待される役割(経営のモニタリング等)に応じたものでなければならず,その経営責任の取り方には,退任,辞任,報酬の返上・減額等がある。 C 社外取締役の法的責任 会社に対する忠実義務・善管注意義務を果たすため,社外取締役は,下記の職務を行う(なお,社外取締役は,以下の法的義務を果たすだけではなく,後記第3,3の経営のモニタリングの役割を果たすことが重要である)。 ア 取締役会の上程(付議)事項に関して (ア) 審議の過程について 説明や資料に基づき,必要な調査と検討が行われているか,合理的な手続が行われているかという観点から審査を行う。 (イ) 決議の内容について 取締役会の決定が,その業界における通常の経営者の経営上の判断として著しく不合理でないかという基準から検討する。 イ 取締役会の上程(付議)事項以外について (ア) 取締役相互間で役割の分担がなされ,相応の内部統制システム,リスク管理体制に基づいて職務執行に対する監視が行われていれば,次の(イ)の場合を除き,担当取締役の職務執行が適法であると信頼することが許容される。 (イ) 社外取締役は,特に他の取締役の職務執行が違法であることを疑わせるような特段の事情がある場合10には,適切な措置(監査役への報告等)をとる必要がある。 ウ 内部統制システムの構築・運用等について (ア) 社外取締役は,就任後のなるべく早期に,会社法上の内部統制リスク管理体制の構築,整備について,会社の状況,業界の水準に応じた合理性を有する内容となっているか11,点検しておくことが推奨される。 (イ) 財務報告に係る内部統制については,独立監査人の監査証明を受けた内部統制報告書において有効であるとされている場合には,その後に粉飾決算等の財務計算に関する特段の不祥事等が現実に発生していない限り,報告時点において有効に整備,運用されていると信頼してよい(社外取締役が,公認会計士である等会計についての専門性を有する場合にも同様。前記第1,3(3)を参照。)。 (ウ) 会社に損失を発生させる事態,粉飾決算、反社会的勢力との取引等の不祥事が現実に発生した場合,又は,財務報告に係る内部統制報告書において開示すべき重要な不備があるとされている場合には,社外取締役は,内部統制,リスク管理体制の見直しを行うプロセスの監督責任を有する。 D 社外取締役と株主総会 ア 株主総会への出席 社外取締役も,原則として,株主総会に出席するべきである。 イ 社外取締役の説明義務 (ア) 社外取締役も,取締役として, 株主総会における株主の質問に対し,取締役として説明義務を負う。 (イ) 具体的な説明の必要性については,議長の判断,指名に従う。 E 責任限定契約,会社役員賠償責任保険(D&O保険) ア 社外取締役は,就任に当たり,会社との間で,責任限定契約の締結を要請することを検討する。 イ 社外取締役が希望する場合には,自己の負担で会社役員賠償責任保険(D&O保険)12へ加入できるようにすべきである。 |
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■3 情報入手の在り方についての善管注意義務 |
■3 情報入手のあり方についての善管注意義務 | ||
● | ●(1) 信頼の原則 | ||
社外取締役は,取締役会の構成員であり,監査役のように独自の権限を行 使するのではなく,取締役会に出席し,報告事項及び議案について審議を行 い,採決を行う権限が中心である。 そのため,社外取締役としては,以下のとおり,取締役会における審議及び採決に関連した情報収集を中心に,善管注意義務を尽くすことになる。こ の情報収集については,取締役会やその事前説明における,役職員の報告や 説明に依拠することになり,信頼の原則に基づき,それで善管注意義務を充 たせることになる(第2,1(2)A「信頼の原則」参照)。 |
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● | ●(2) 例外となる場合 | ||
ただし,役職員による報告や説明について疑問,齟齬,不自然な事項,その 他の特別な事情があった場合には,これを疑い,更なる調査,報告を要求する 必要がある。 そして,取締役会での報告,従業員からの事前説明や報告,内部通報その他 の方法により,通常でない事態を把握した場合,まず,監査役に当該事実を報 告する義務がある(会社法第357条)。その後は,随時,どのような対処がな されているかの情報について,業務執行取締役や監査役,従業員,又は必要に 応じて会計監査人等との間で情報を交換する必要がある。 |
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★第3 社外取締役の具体的活動の指針 | ★第3 社外取締役の具体的活動の指針 | ||
■1 就任検討時における留意事項 | ■1 就任検討時における留意事項 | ||
● | ●(1) 経営陣の社外取締役への期待 | ||
社外取締役就任にあたって,経営陣が社外取締役に何を期待しているのか(期待される視点・発言,所属する委員会,報酬や条件等)を確認する。 | |||
● | ●(2) 自社株保有についてのルール等の確認 | ||
社外取締役の自社株保有については,これを積極的に是とする考えと社外性の観点から非とする考えとがある。会社より保有ルール,インサイダー取引防止のための自社株売買ルールについて,提示を求める。 | |||
● | ●(3) 能力・資質・独立性の自己確認 | ||
@ 社外取締役にふさわしい能力・資質の確認 取締役,取締役会のあり方についての基本的理解や社外取締役としての精神的独立性を有しているか否かの自己確認が必要である。このうち,率直に疑問を呈し,議論を行い,提案を行うことができるか否か,という精神的独立性の確認が特に重要である(第1,1参照)。 A 独立性の確認 会社から独立性のルールの提示を受け,このルールの適切性を確かめた上で、これに照らして自らの業務内容や会社との取引の状況を確認すると共に,会社に対して独立性判断に必要な情報を提供する13。 |
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● | ●(4) 会社概況の把握 | ||
会社の概況を把握する手段,内容としては,以下のようなものがある。最終的には経営陣と面談して就任の可否を判断する。 @ 情報獲得手段 ア 会社法上の開示書類14 イ 金融商品取引法上の開示書類15 ウ その他16 A 把握内容 時間的な制約等によって入手できる情報量や種類が限定される場合もある。 ア 業界状況17 イ 社業の確認18 ウ 取締役,監査役(会),会計監査人等の状況の把握19 エ 経営姿勢20 |
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■ | ■2 内部統制部門,監査役(会)・会計監査人等との連携の留意事項 | ||
● | ●(1) 連携の重要性 | ||
社外取締役は,モニタリングを有効に行うため,通常は,担当取締役等を通じて情報を得ていくことになるが,当該連携は,有事の場合にはそのあり方が相当程度異なるので,分けて考えるべきである(有事の場合については(5)参照)。 | |||
● | ●(2) 内部統制,コンプライアンス部門との連携について21 | ||
社外取締役は,内部統制部門が経営陣に行った内部監査結果報告について,取締役会等で担当取締役を通じて確認することが有用である。その際,疑問点があれば,担当取締役に質問し,疑問を解消する。 | |||
● | ●(3) 監査役(会)と社外取締役の役割分担を踏まえた連携について22 | ||
監査役(会)は,常勤監査役を有し,会社法上様々な調査権能等を与えられており,またスタッフも充実している会社が少なくない。このため社外取締役よりも情報入手が容易な環境であることが多いので,取締役会の場以外でも,監査役(会)と随時情報交換を行うことは有用である。 | |||
● | ●(4) 会計監査人の役割・機能を踏まえた連携について | ||
社外取締役が,取締役会等で,会計監査人からの指摘事項の有無や内容を担当取締役等から聞き,必要があれば当該担当取締役等を通じて追加の情報を求めることも有用である。 | |||
● | ●(5) 有事の連携 | ||
社外取締役は,会社で不祥事の発生又は具体的な不祥事発生兆候を知ったときには,違法性を監査する役割の監査役(会)に報告すべきである(第357条)。 また,社外取締役は,有事においては,正確な情報を把握するために,内部監査部門,監査役(会),会計監査人等が有する情報を適時に把握できるように,緊密なコミュニケーションをとる必要があり,会社の対応が不十分であると思われる場合には,取締役会で発言するだけでなく,監査役(会),会計監査人と必要な連携を取る。 さらに,第三者委員会の設置が必要と思われる場合には,他の取締役に対して進言するほか,社外取締役が第三者委員会の設置及び委員の選任手続きに積極的に関与すべきである(第3,6参照)。 |
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■3 取締役会でのモニタリング時の留意事項 |
■3 取締役会でのモニタリング時の留意事項 | ||
● | ●(1) 付議事項の内容把握 | ||
@ 付議事項の事前の確認 社外取締役は,事前に資料等を精査し,事務局の事前説明を求め, 不足があれば,更に説明を求め,取締役会において質問をし,十分に内容把握をした上で取締役会決議や報告に臨む必要がある。 A 日常的な情報収集 日常的に,会社の開示事項等を把握するなどの努力や,他の役員,業務執行者とのコミュニケーションを行う。 |
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● | ●(2) 審議における質問(発言)の重要性 | ||
@ 社外者の視点からの質問(発言)の重要性 社外取締役は,取締役会の席で,積極的に質問をし,社外, 一般社会,一般株主の視点からの合理的な説明を求める。 A 社内者に期待しにくい質問(発言)の提起 社外取締役には,特に,社内の取締役の場合には上下の関係もあって質問しにくい事柄,企業価値の向上や一般株主の利益という視点からの質問をすることが要請される。 |
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● | ●(3) 採決時の留意事項 | ||
@ 賛否のみならずその他発言の重要性 ア 決議事項については,賛成,反対,棄権を明確にする。 イ 賛成する場合にも,問題点があると思えばそれを指摘し,その他改善点があれば指摘する。 (ア) 専門家の意見聴取を行った方が良い場合には,それを行うことを条件として賛成する。 (イ) 当該案件を支持するような場合でも,単に賛意を表するだけでなく,社外の立場から積極的な意見を述べる。 A 説明等が納得できない場合の対応 説明等が不合理であり,納得できない場合や疑問が残る場合には,納得できるまで質問等を行い,かつ,他の取締役と十分に議論を尽くし,それでも不十分と判断すれば,当該決議に反対または棄権をすべきである。 |
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● | ●(4) 議事録の記載についての留意事項 | ||
@ 議事録の記載事項と署名の重要性 取締役会の議事録には,「議事の経過の要領及びその結果」を記載するが(会社法第369条第3項第4号),反対または留保付きで賛成した場合や,棄権した場合には,その旨を議事録に記載させる(議事録に異議をとどめなければ賛成したものと推定される(同第5項)。)。 A 記載の誤りや記載が不十分な場合の対応 ア 議事録には,出席した取締役,監査役は署名または押印をしなければならないが(同第2項),反対の意思表示が記載されていないなど議事録の内容に誤りがある場合や,留保等の発言の記載がなかった場合には,その旨を記載するように求め,応じなければ署名を拒否する。 イ 自分が述べた意見で重要と思ったことはその旨の記載を求める(会社法施行規則第124条第4号ロでは社外役員の「取締役会における発言状況」を事業報告に記載される)。 |
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■ 4 取締役会でのモニタリングの項目 |
■4 取締役会でのモニタリングの項目 | ||
● | ●(1) 取締役会の決議事項について | ||
@ 企業価値向上のための視点からのモニタリング ア ブランド価値,レピュテーション等の社会的評価を含めた企業価値を最大化するものか イ ステークホルダー間の利益の均衡がどの程度とれているか ウ 株主共同の利益(一般株主の利益)を損なわないか A 法的責任を果たすための判断基準 ア 法令,上場規則等により求められる開示等を含めて違法性がないか イ 会社と取締役との間に利益相反がないか ウ 事実とリスクの調査と検討は十分か エ 意思決定は合理的な過程(手続)に基づいているか オ その業界における通常の経営者の経営上の判断として著しく不合理でないか |
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● | ●(2) 経営者に関するモニタリング | ||
経営に関するモニタリング事項は以下のとおりである。 @ 事業計画等の策定及び評価について ア 中長期経営計画,年度事業計画,経営戦略等の策定について (ア) 揺籃期か成長期か収穫期か等の会社のビジネス状況と中長期経営計画等が適合しているか (イ) 経営指標の選択は適切か (ウ) 数値目標の予測に根拠や妥当性等があるか (エ) 特に上場企業の場合,ROE等や株主の資本コスト(期待収益率)を意識し,(ア)に応じた成長戦略に適合した計画となっているか イ 達成状況の評価について (ア) 月次,四半期,年度の(決算)報告が経営目標の達成状況の評価のために活用されているか (イ) 経営目標の評価,見直しが適切にされているか a 数値目標の達成状況の評価が適切か b 数値目標未達の場合の原因の分析,対応策の検討が適切か A 新規事業参入,事業撤退について ア 新規事業参入や新規投資の可否の判断について,資本コストを上回るリターンが得られることが意識されているか,その予測は適正か イ 事業継続,撤退の判断が収益性,成長性を踏まえた合理的観点から行われているか B 剰余金の処分について ア 合理的な配当政策の方針を定めているか イ 株主を意識した株主還元策(自己株式の取得を含む。)をとっているか C 役員報酬について ア 役員報酬の決定に達成状況の評価やガバナンスの視点が反映されているか イ 報酬議案については,報酬総額,種類(金銭・非金銭,ストック・オプション,業績連動型)の妥当性,取締役に十分なモチベーションを与える内容か ウ 取締役会において取締役報酬の「算定方法の決定に関する方針」23を策定する場合には,具体性,合理性(報酬の内容及び金額を,各役員の達成状況の評価に見合ったものとする効果があるか) エ 社外取締役が取締役報酬の決定により強く関与するためには,任意の報酬委員会を設置し,その委員に就任することが考えられる。 D 取締役候補の指名について ア 会社が作成した取締役選任議案について,内部昇進の場合には社内での実績,再任の場合には中期経営計画等の達成状況等に基づき,株主の信任が得られるかという観点も考慮に入れて,その妥当性を検証する。 イ 代表取締役社長(CEO)の在任期間について,3期6年等の慣例がある場合にも,その適用が株主の信任が得られる状況か。 ウ 社外取締役が取締役人事の決定により強く関与するためには,任意の指名委員会を設置し,その委員に就任することが考えられる。 E 経営陣交替への関与について 業績の著しい悪化,不祥事の発生等の場合に,ブランド価値,レピュテーションへの影響を含め株主の信任が得られるかという観点も踏まえ,経営陣の続投の可否,責任の取り方について,助言する。 F 親会社・取締役等との利益相反取引について 会社法や社内の付議基準に基づいて上程される利益相反取引等の承認議案については,次の観点等から審査を行う。 ア 利益相反の内容(経営者,親会社等) イ 会社に与える可能性がある損害の内容及び程度 ウ 特別利害関係取締役の有無 |
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■5 組織再編等の株主共通の利益に影響が及ぶ事項 |
■5 組織再編等の株主共通の利益に影響が及ぶ事項 | ||
組織再編等において経営陣または支配株主と一般株主との利害が対立することが想定される場面では,独立した立場にある社外取締役が,以下のような視点から株主共通の利益を最大化するための意見を述べることが期待される。 (ア) 企業価値の向上に資する意思決定か。 (イ) 株主共通の利益に配慮した手続がとられているか。 (ウ) 一般株主に十分な説明または情報提供がなされているか。 また,独立委員会が設置される場合には,その委員の選任及び構成に留意する他,場合によっては社外取締役が自ら委員となり,中立で客観的な意思形成に積極的に関与する。 株主共通の利益に影響が及ぶ各事項の留意点は以下のとおりである。 |
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● | ●(1) M&A等の組織再編の場合 | ||
ア 目的の合理性及び手法の相当性 イ デューデリジェンスにより抽出された問題点の検討及び解消状況 ウ 買収価格(比率)とその決定プロセスの公正性24 エ 費用(コンサルタント費用を含む)の相当性 |
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● | ●(2) 新株発行の場合 | ||
ア 新株発行の必要性及び相当性25並びに調達資金使途の合理性 イ 株価算定根拠及びその他の発行条件の合理性 ウ 有利発行の非該当性判断及び判断におけるプロセスの公正性 エ 割当先選定の妥当性及び相当性26 |
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● | ●(3) 支配株主との取引の場合27 | ||
ア 取引目的の合理性 イ 価格及びその他の取引条件の相当性及び決定プロセスの公正性28 |
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● | ●(4) MBOの場合29 | ||
ア MBOの背景事情を踏まえた目的の合理性 イ 買付価格の相当性とその決定プロセスの公正性及び透明性 ウ 利益相反関係にある取締役の範囲及び関与(遮断)の程度 |
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● | ●(5) 敵対的買収防衛策の導入及び発動の場合 | ||
ア 買収防衛策導入の必要性及び相当性 イ 買収防衛策発動の正当性30 ウ 一般株主が買収の是非を判断するための情報及び時間の確保 |
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■ 6 不祥事発生時の対応策 |
■6 不祥事発生時の対応策 | ||
● | ● (1) 不祥事発生時に社外取締役に期待される役割 | ||
不祥事が発生した場合,社外取締役には,次の点が期待される。 ア 不祥事を客観的に分析し,社内取締役とは異なった視点から意見を述べること イ 発生した不祥事に対して,誰がどのような責任を負うべきかにつき,公平かつ中立的な判断をすること |
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● | ●(2) 社外取締役に不祥事の情報が持ち込まれた場合 | ||
情報提供者が,不祥事の情報を社外取締役に持ち込んだ場合,社外取締役は, 会社法第357条の規定を踏まえ,その情報を直ちに監査役に報告し,監査役 を通じた会社による不祥事対応を促す。 |
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● | ●(3) 初動対応 | ||
ア 社外取締役は,会社から不祥事が発生した旨の報告を受けた場合,会社が行おうとしている不祥事対応を正確に把握し,法令,上場規則等により求められる開示等を含めてその対応に問題がないかにつき検討し,必要な意見を述べる。 イ 社外取締役は,日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を参考に,第三者委員会設置の必要性を検討し,必要な場合には,第三者委員会の設置及び委員の選任手続に積極的に関与する。 |
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● | ●(4) 会社の不祥事対応に問題があると判断される場合の対応 | ||
ア 社外取締役は,会社が行う不祥事対応について,継続的かつ適切な時期に報告を受け,不適切な兆候を感じた場合は,さらに情報の提供を求め,必要な是正のために積極的な意見を述べる。 イ 社外取締役は,これらの状況を是正するために,取締役会で必要な発言をして議事録に記録させるほか,監査役,会計監査人とも必要な連携を行う。 ウ これらの取組にもかかわらず,孤立するような事態に至った場合,社外取締役は,辞任を含め,毅然とした対応を取る。 |
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● | ●(5) 不祥事対応の最終段階における対応 | ||
社外取締役は,会社が不祥事対応を適切な形で終えるよう,以下の点に注意し,必要な意見を述べる。 ア 不祥事の原因が的確に分析され,その原因を踏まえた再発防止策が策定され,実行に移されていること イ 不祥事の責任を負うべき者に対して,適切な処分,あるいは責任追及を行っていること ウ 不祥事により会社が被害を与えた相手に対して,適切な措置を取っていること エ 必要な対外的対応を取っていること |
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■7 任期及び退任に当たっての留意事項 |
■7 任期及び退任に当たっての留意事項 | ||
● | (1) 任期 | ||
@ 法令上の任期 会社法上,取締役の任期は原則2年以内である(会社法第332条第1項)。 ただし,定款または株主総会決議によって,任期を1年とする会社等も存する。 A 再任の可否と期間 会社の個別的な諸事情にもよるが,一般的に言えば,2期ないし3期の期間を見込むことが望ましい。 社外取締役について任期の保証はないが,社外取締役が就任後会社の営業の内容,ガバナンスの状況等について知識等を深める期間を考慮すると,1期のみで社外取締役の評価を決めるのは早急に過ぎる。 他方,再任が長期間継続した場合,会社との癒着といった問題に配慮する。 |
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● | ●(2) 退任に当たっての留意事項 | ||
社外取締役が,任期中に辞任を求められ,または,株主総会決議により解任される場合,その理由について監査役,会計監査人,株主等から説明を求められることがある(会社側が隠ぺい工作のため解任を請求しているのではないか等)。社外取締役は,事実を簡潔に偏りなく説明する。 任期途中の解任で,正当の理由が無い場合には,取締役は,会社に対して損害賠償請求ができる(会社法第339条第2項)。 在任中に受領した資料等は,退任後も会社に対する守秘義務を負うと考えられるので,会社に返還するか,もしくは会社の同意のもとに適切に処分する。 ただし,自己に対する責任追求のおそれがある場合には,防御のために有用な資料を,情報漏えい等が起こらないよう保管方法に注意して,取締役の法定責任についての時効期間である10年程度は保存する。 |
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■8 監査・監督委員会設置会社(仮称)における同委員会所属の社外取締役 |
■8 監査・監督委員会設置会社(仮称)における同委員会所属の社外取締役31 | ||
● | ●(1) 監査・監督のための内部統制システムの整備・運用 | ||
ア 監査・監督委員である社外取締役は,監査・監督委員会を通じて,監査・監督委員としての職務を遂行するために必要な内部統制システムの整備・運用状況について監査する。32 イ 必要があれば取締役会における審議を通じて,相当な内部統制システムの整備・運用を求める。 |
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● | ●(2) 内部統制システムを利用した監査の方法 | ||
ア 監査に必要な情報について,内部統制部門,内部監査部門,会計・経理部門等を統括する取締役から定期的な報告を求める。 イ 職務の遂行にあたり必要があれば,いつでも内部統制部門,内部監査部門,会計・経理部門等に対して具体的な指示を出し,その報告を受ける。 |
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● | ●(3) 監査・監督委員である社外取締役に求められる監査機能 | ||
ア 監査・監督委員会を通じて,取締役会が株主総会に提出しようとする議案等を監査し,法令違反等を認めた場合には株主総会に報告する。 イ 取締役の会社に著しい損害を生ぜしめる恐れのある違法行為を認めた場合には,単独で,その差止請求を行うことができる。 ウ 監査・監督委員会として遂行する監査及び監督における独立性を保持しうるよう,委員間におけるコミュニケーションに努める。 |
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● | ●(4) 監査・監督委員である社外取締役に求められる監督機能 | ||
取締役会構成員としてのモニタリングに努め,必要があれば,監査・監督委員会を通じて,以下の監督機能を果たすことが望ましい。 ア 監査・監督委員である取締役以外の取締役の選解任及び報酬につき,株主総会で意見を述べること イ 監査・監督委員である取締役以外の取締役と会社との利益相反取引につき,事前承認の可否を検討すること |
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● | ●(5) 監査・監督委員会に所属しない社外取締役 | ||
ア 監査・監督委員会設置会社において,監査・監督委員会に所属しない社外取締役の活動指針は,監査役(会)が存在しないことを除けば前項7までに述べたところと同様である。 イ 監査・監督委員会設置会社において,監査・監督委員会に所属しない社外取締役が選任されることは,社外取締役によるモニタリングの向上に役立つ。 |
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1 自らまたは自らが現在または過去において所属する組織との取引への影響も独立性に影響しうる ことに留意する必要がある。 2 かかる議案の審議については取締役会を退席して審議・議決に加わらない等の対応が考えられる。 3江頭憲治郎「株式会社法第4版」(有斐閣)403 頁 4 会社法上,明文の規定は存しないが,取締役は,一般に,他の取締役等の業務執行一般につき,こ れを監視し,必要があれば,取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じ て業務執行が適正に行なわれるようにする等の義務(いわゆる監視義務)を負うと解されている(最 判昭和48 年5 月22 日民集27 巻5 号655 頁)。 5 東京地判平成14 年4 月25 日判時1793 号140 頁(長銀初島事件),東京地判平成14 年7 月18 日判 時1794 号131 頁(長銀イ・アイ・イ事件),東京地判平成16 年3 月25 日判時1851 号21 頁(長銀 日本リース事件),東京地判平成17 年3 月3 日判時1934 号121 頁(日本信販事件),最判平成22 年 7 月15 日資料版商事316 号166 頁(アパマンショップHD株主代表訴訟事件)等 6 東京地判平成14 年4 月25 日判時1793 号140 頁(長銀初島事件),東京地判平成16 年12 月16 日 資料版商事250 号233 頁・東京高判平成20 年5 月21 日資料版商事291 号116 頁(ヤクルト本社事 件)等 7 大阪地判平成12 年9 月20 日資料版商事199 号248 頁(大和銀行事件),東京地判平成16 年12 月 16 日資料版商事250 号233 頁・東京高判平成20 年5 月21 日資料版商事291 号116 頁(ヤクルト本 社事件)等 8 大阪高判平成10 年1 月2 日判タ981 号238 頁(ネオ・ダイキョー自動車学院事件) 9 東京地方裁判所商事研究会編「類型別会社訴訟T(第三版)」(判例タイムズ社,2011 年12 月)252 頁 10 東京高判平成20 年5 月21 日資料版商事291 号116 頁(ヤクルト本社事件) 11 最判平成21 年7 月9 日資料版商事308 号268 頁(日本システム技術事件)等 12 基本部分の保険料は会社負担となり、株主代表訴訟補償特約保険料は自己負担となる。 13 なお,弁護士が社外取締役となる場合には,弁護士職務基本規程にも留意する。 14 計算書類,事業報告等 15 有価証券報告書,四半期報告書等 16 株主通信,事業報告書,ホームページの開示情報,前任社外取締役からのヒアリング等 17 業界における競争の程度,取引先や顧客との関係等 18 事業の概況,当該企業の評判,当該企業の事業所の所在地,当該企業の企業グループの構成やグループ各社の位置づけ,主要な取引先,株主構成,ガバナンス機構,主要な投資計画,メインバンクの把握を含めた資金調達構造,関連当事者との人的・資本的関係等 19 取締役,監査役(会),会計監査人の構成,過去に任期途中で辞任・解任された役員等の有無及びその理由等 20 企業理念や行動指針,過去に発生した不祥事の対応方法,経営陣の事業に対する考え等 21 会社法上,内部統制,コンプライアンス部門は取締役会が監督しているのであるから,社外取締役 がこれらの者にアクセスし情報収集を行うことは妨げられるものではない。 22 監査役と取締役の連携について,会社法では,監査役に,取締役会出席義務,意見陳述義務を課し(第383 条),また,有事には取締役会への報告義務も課し(第382 条),更に,取締役の会社に著しい損害を生ぜしめる恐れのある違法行為の差止請求権を与えている(第385 条)。また,取締役も有事においては監査役(会)への報告義務がある(第357 条)。 23 有価証券報告書等の記載事項となる(開示府令第2 号の2 様式記載上の注意(57)(d)等) 24 買収価格(比率)については,デューデリジェンスの結果を踏まえ独立した機関による算定がなされることが望ましい。特に,株価に一定のプレミアムを加算して買収価格(比率)を決定する場合,プレミアムが組織再編に伴うシナジー効果(コスト・シナジー及びレベニュー・シナジー)に見あうかの検証は重要である。特に,支配株主との取引の場合には,注24 参照。 25 金融商品取引所の規則で定められている企業行動規範においては,上場会社が第三者割当を行うにあたり,希釈化率が25%以上となるとき又は支配株主が異動するときは, @経営陣から一定程度独立した者(第三者委員会,独立役員等)による三者割当の必要性及び相当性に関する意見の入手,または,@株主総会の決議等による株主の意思確認を行うべきとされている。 26 反社会的勢力に関係しないことの調査を含む。 27 支配株主の有無,名称,議決権割合,支配株式との取引を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針は,「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載項目となっており,また,東京証券取引所規則においては,支配株主との重要な取引等に際しては支配株主との利害関係を有しない者から意見を入手することが義務づけられている。 28 独立した当事者との間の取引条件が参考となる。 29 MBO においては,株主の利益を代表すべき経営陣たる取締役が一般株主から株式を取得するという構造的な利益相反関係や,会社に関する正確かつ情報を有している経営陣と一般株主との間に情報の格差が生じるという問題がある。 30 敵対的買収に対する防衛策は,企業価値を損なう買収提案から株主の利益を守るものでなければならない。防衛策が被買収会社の経営陣の保身のために濫用されると,一般株主にとって望ましい買収を阻害し,また株主平等原則に反することになりかねない。経済産業省・法務省が2005 年に公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(企業価値防衛指針),及び経済産業省の企業価値研究会が平成20 年に公表した「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」が参考となる。 31「会社法制の見直しに関する要綱」において,定款の定めにより監査・監督委員会を置く株式会社(以下,「監査・監督委員会設置会社」という)の創設が予定されている。監査・監督委員会設置会社では,監査役(会)は置かず,3名以上の取締役で構成される監査・監督委員会が設置される。そして,同委員会構成員の過半数は社外取締役でなければならないため,監査・監督委員会設置会社では,2名以上の社外取締役が就任することになる。 監査・監督委員会設置会社においては,監査・監督委員会が監査及び経営全般についての監督機能を果たすことが求められる。したがって,監査・監督委員である社外取締役には,監査及び監督において,委員会設置会社における監査委員会の構成員と同様の役割が期待される。なお,監査・監督委員会設置会社においては,必ずしも常勤の監査・監督委員を置くことを要せず,同委員会は,原則として内部統制システムを利用して,取締役の職務執行を監査し,監査報告を作成する。したがって,監査・監督委員である社外取締役も,委員会の構成員として,内部統制システムを利用した監査の遂行に努める。 32 監査役(会)設置会社における監査役監査とは異なり,監査・監督委員会設置会社の監査は各監査・ 監督委員が単独で行うものではなく,組織として行うことが原則である。 |