シンプラル法律事務所
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論点整理(就業規則関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

★総論
■T 就業規則の法的効力 
●意義 ●1 就業規則の意義
「労働条件」と「職場規律」を定めた規則。
事業場単位で常時10人以上労働者がいる場合は、作成義務がある。
  ●2 就業規則の内容と形式
◎    ◎(1) 内容
規定 労基法 第89条(作成及び届出の義務) 
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
●  ●絶対的必要記載事項 (法89(1)〜(3)):
就業規則を作成する場合には、必ず記載しなければならない事項
@労働義務の枠組みに関する事項:
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項(法89(1))
A賃金(臨時の賃金等を除く)に関する事項:
賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項(法89(2))
B退職に関する事項:
退職に関する事項(解雇の事由を含む。)(法89(3))

任意退職、解雇、定年制、休職期間満了による自然退職等の労働契約終了事由に関する定め
●相対的必要記載事項:
その定めをする場合には、就業規則に必ず記載しなければならない事項
@退職金制度に関する事項:
退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項(法89(3-2))
A臨時の賃金等(退職金を除く一時金、臨時の手当など)及び最低賃金額に関する事項:
臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項(法89(4))
B食費、作業用品その他の負担に関する事項:
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項(法89(5))
C安全及び衛生に関する事項:
安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項(法89(6))
D職業訓練に関する事項:
職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項(法89(7))
E災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項:
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項(法89(8))
F表彰及び制裁に関する事項:
表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項(法89(9))
Gその他の当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合はそれに関する事項:
前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項(法89(10))
  ◎(2) 形式 
  ●3 労働条件を規律する法的規律の順位 
規定 労基法 第92条(法令及び労働協約との関係)
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
A行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
労基法 第93条(労働契約との関係)
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十二条の定めるところによる。
労働契約法 第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
  ●4 就業規則の効力
規定 労基法 第92条(法令及び労働協約との関係)
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
A行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
労基法 第93条(労働契約との関係)
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十二条の定めるところによる。
労働契約法 第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
労働契約法 第13条(法令及び労働協約と就業規則との関係)
就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
労働契約法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
◎抵触する場合 
@労働基準法等の法令>
A労働協約(労基法92条、労組法16条、労働契約法13条)>
B就業規則(労基法93条、労働契約法12条)>
C労働契約・任意法規的性格の判例・労使慣行
A労働協約:労働組合と企業らとの合意
B就業規則:企業が一方的に作成
判例:法令所定の周知方法(労基法106条)、意見聴取(同90条)、届出(同89条)を欠く就業規則であっても、労働者に実質的に周知されていれば効力を否定せず、その内容に合理性があれば、個々の労働者が現実に知っていたかを問わず、拘束力がある。

就業規則の(個別の)労働契約への拘束を、@実質的周知性とA内容の合理性を条件に肯定(労働契約法7条)。 
労働契約のうち、就業規則に定める(合理性+周知の要件を満たした)労働条件の基準に達しない部分は無効(強行的効力)。
無効となった部分は、就業規則に定める基準による(直接的効力、労基法93条、労働契約法12条)。
■     ■U 就業規則による労働条件の不利益変更
●1 労働条件の不利益変更の方法 
@就業規則の変更(新設)することによる不利益変更
A労働協約の締結
B労働者の個別同意
●2 就業規則による労働条件の不利益変更 
〜就業規則の個別の労働契約への拘束力を利用して、就業規則を変更することで労働条件を不利益に変更する方法。
就業規則の作成又は変更については、使用者は、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」の意見を効かなければならない(90条1項)。
「労働者の過半数で組織する労働組合」:当該事業場のすべての労働者(職種の違いを問わない)のうち過半数で組織する労働組合。
「労働者の過半数を代表する者」:当該事業場の労働者全員が参加しうる投票または選挙等の方法によって選出した代表者(労基則6条の2)
文字通り意見を聴けばよく(諮問)、同意を得るとか協議する必要はない。
「全面的に反対」との意見が述べられても、就業規則の効力には影響がない。
◎  ◎(1) 就業規則による労働条件の不利益変更は判例法理であること 
最高裁昭和43.12.25(秋北バス事件):
新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されない
but
労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則に性質

当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない

原則として一方的な労働条件の不利益変更の効力を否定しながら、合理性があれば例外的に肯定。
◎(2) 判例法理 
◎(3) 判例法理の労働契約法への踏襲 
労働契約法
 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
■    ■企業戦略と就業規則
●具体化 
服務規程:問題社員への行為規範として穴はないか
試用期間の定め:試用期間できちんと見極められる設計になっているか。
懲戒規定:適切な処分を迅速に適用できる設計になっているか。
休職規程:私傷病休職は手厚すぎないか。また、不必要な休職制度はないか。
人事異動:配転だけでなく子会社・関連会社への出向も可能な設計になっているか
   
★各論 
■     ■服務規定 
●法的意味
労基法89条10号、相対的必要記載事項⇒制度化するなら、就業規則に明記する必要。
●戦略的意義
企業が労働者に求める行動の規範化⇒
@当該企業の文化が反映されるべき。
A必要な行動が規範として具体化されるべき。
●規定化の内容 
A:服務規律でまとめる例
B:別途まとめ、それを就業規則の「服務規律」の規定に定める。
重要な行為規範につちえは、「服務規律」の条文の中の1つとして入れるのではなく、独立の条文にする。
ex.秘密保持義務、ハラスメントの禁止、情報機器の私的利用の禁止等
◎秘密保持義務 
◎競業避止義務
◎情報機器使用規程
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
不利益変更の問題
but
その追加・変更の理由がそれなりにあれば、行為規範の変更が労働者に与える不利益は、賃金等の労働条件に較べれば軽い⇒合理性は肯定される。
■    ■採用及び試用 
●法的意味
労働者と労働契約を締結する際の手続等を規定⇒労基法89条10号「当該事業場の労働者のすべてに適用される定め」に該当しない⇒任意的記載事項
but
明記することでよりクリアーになる。
●戦略的意義
最高裁(大判昭和48.12.12):
本採用拒否がほとんどない企業における試用制度では、試用から本採用後は一本の労働契約で、ただ試用期間中は通常の解雇権より広い留保解約権がある。
●規定化の内容
ポイント:
@試用期間をどれくらいにするか
A延長規定を入れるか
B適格性がなければ、試用期間中に解雇されあるいは試用期間満了時に本採用とならないこと(留保解約権の行使)の明記
C試用期間の扱い
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
既得の労働条件の不利益変更とはならないのが原則⇒変更の必要性が生じたときは、企業は自由に変更してよい。
but
現在の内定者ないし試用期間中の者に対して試用期間を変更するのは、不利益変更の問題。
⇒その者を適用除外とする。
■     ■人事異動 
●法的意味 
配転:同一企業(甲企業)内の人事異動
出向:在籍関係は甲企業(出向元)、労務提供は乙企業(出向先)
転籍:在籍関係も労務提供も乙企業。
労働者全員に対し、企業が労働者の職務・地域等を変更できる旨の定め⇒労基法89条10号「当該事業場の労働者のすべてに適用される定め」に該当⇒相対的必要的記載事項
●戦略的意義 
法規制も裁判例も、企業に業務上の必要性があれば、労働者によほど不利益が生じない限り、企業の異動命令権を尊重(最高裁昭和61.7.14)。
出向⇒労働条件の不利益は不可避的に生じる(別企業なので、労働時間等の労働義務の枠組みや賃金体系等、本質的な部分が異なる。)。
転籍⇒決定的な不利益。一方的な転籍命令は不可。
●規定化の内容 
◎配転 
配転がありうることの一文で、企業の配転命令は根拠づけられる。
but
運用(配転命令の行使)が権利濫用法理によって規制。
◎出向 
@出向命令権は、人事異動の規定の箇所に正面から明記する必要
A出向者への出向発令、出向中の処遇、そして復帰に関し基本的な条件を明記する必要。
◎転籍
転籍を規定化しても、転籍命令権を創設することはできず、転籍時点で、個別に合意することで実施。
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
◎配転 
配転命令権新設によって労働者が受ける不利益はそれほどでもない⇒配転(命令権)を新設する何らかの必要があれば、容易に合理性は認められる。
労働者の不利益の考慮は、権利濫用法理(最高裁昭和61.7.14)で考慮。
◎出向 
@出向命令権の新設も、A出向の際の出向条件の変更も、
労働条件の不利益変更の問題となる。
@出向規定の合理性とA出向命令の権利濫用の問題。
■    ■休職
●法的意味
休職:ある労働者に労務への従事を不能(又は不適当)とする事由が生じた場合に、企業がその労働者に対し労働契約は維持しながら労務への従事を免除または禁止すること。
企業が人事管理の観点から創設した任意の制度で、様々な種類がある。
ex.私傷病休職、自己欠勤休職、起訴休職、出向休職、自己都合休職、組合専従休職、企業が必要と認めた場合の休職。
労基法89条10号に該当⇒相対的必要的記載事項。
but
休職期間満了で復職できないときに退職となる部分は、退職に関する事項⇒絶対的記載事項。
●戦略的意義 
◎私傷病休職 
会社は営利法人⇒(長期的な)営利目的に合致するかの観点。
福利厚生の観点。
◎その他の休職 
制度化してよいのは出向休職くらいで、あとは「企業が必要と認めた場合休職を命ずる」(包括的休職事由)を制度化。
●規定化の内容 
◎必ず規定化すべき事項 
@休職制度の対象者:
A休職期間:
B休職期間中の待遇:
◎規定化した方がよい事項 
C復職の条件・判断
Dリハビリ勤務期間の処遇
E通算規定
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
手厚すぎた私傷病休職制度の変更
・(休職の前提となる)欠勤期間や休職期間の短縮
・同期間の有給の廃止・減少
現に私傷病になって働けなくなっている労働者だけでなく、全労働者にとって、労働条件の不利益変更。
賃金等の変更に比べると、重要度はそれほど高くない労働条件の不利益変更。
but
休職命令発令の要件、休職期間、休職期間中の有給の廃止等は、大幅な不利益変更。
@現に私傷病で働けない労働者とAそうでない労働者では、不利益の程度が異なる。
Aにとっては、健康で働く限り、顕在化しない不利益変更。

不利益の大きい労働者には、除外規定か経過規程を設けて救済する必要。
■     ■退職
●法的意味 
労基法89条3号⇒絶対的記載事項。
●戦略的意義 
一旦採用した労働者を退職させることは難しい⇒退職に関する事項を明記する必要。
◎定年 
◎辞職(あるいは合意退職) 
(1)辞職:
労基法は規制なし⇒民法の原則どおり、理由のいかん問わず(辞職の自由)、申入れから2週間経過時点で労働契約は終了(退職)(民法627条1項)
(2)合意退職(合意解約):
企業と労働者が労働契約を合意によって将来に向けて解消するもの(継続的契約の合意解約)。
お互い自由意思で合意⇒その合意内容に従って労働契約は解消。 
退職届⇒辞職
退職願⇒合意退職の申込み
(1)辞職〜@辞職の意思表示が到達した段階で撤回はできず、A2週間(就業規則で別段の定めがあればそれによる)で退職の効果が生じる(民法628条)。
(2)合意退職(合意解約)〜@企業の承諾の意思表示がない限り退職の効果は生ぜず、かつ、A承諾の意思表示があるまで労働者は撤回ができる。
どちらの意思表示かはっきりしない⇒労働者の退職の意思表示を慎重に認定する観点から、後者とするのが多い。
◎解雇 
企業からの労働契約の一方的解約。
手続的には30日前の予告又は30日分の予告手当金の支払、実体的には解雇理由が充分であることが求められ、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」となる(労働契約法16条)。
「退職に関する事項」を就業規則に定めるとき、「解雇の事由」も明記する必要(労基法89条3号カッコ書き)。
◎その他の退職事由 
「2週間以上欠勤して連絡がとれないとき」

長期無断欠勤者には普通解雇又は懲戒解雇が可能であるが、解雇は労働者にその通知が到達しないと効力が生じない(民法97条)。
●規定化の内容 
◎定年 
60歳未満の定年は無効(高年法8条)
65歳までの雇用確保措置である@定年延長、A継続雇用、B定年廃止のいずれかを採る必要(同法9@)。
Aの継続雇用を採る⇒労使協定を締結することで、再雇用対象者を選択することが可能(同法9A)。
多くの企業は、65歳までの雇用確保措置としては、A継続雇用を採り、かつ労使協定を締結することで再雇用対象者を選択。

@労使協定の締結
Aそれを踏まえた就業規則の定年規定の整備と定年後再雇用規程の新設が必要。
定年後再y雇用は「会社の業績が再雇用を許さない状況であったときは、この限りではbない。」との条文を入れておくことは重要。
←そうでないと、人員削減んが必要なのに、定年退職者を再雇用しなければならない矛盾が生じる。
定年後再雇用者の労働条件を定める就業規則の整備が必要。
←定年後再雇用者は、どうしても契約社員とは更新基準、処遇内容で違いがでる。
◎辞職(あるいは合意退職) 
◎解雇 
「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」と、包括(解雇)事由を入れるべき。
◎その他の退職事由 
長期の無断欠勤者に対する解雇。
慎重を期するなら、1か月といった、誰がみても解雇やむなしという程度の期間を設定した方が妥当。(←解雇ができない場合の補充的手段)
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
◎定年 
〇ア 定年年齢の引下げ 
退職時期が早まる⇒重要な労働条件の不利益変更⇒定年引下げに高度の必要性とその高度の必要性に見合った内容が相当なものである必要。
60歳未満の定年は無効(後年法8条)。
〇イ 雇用確保措置の変更 
後年法9条1項各号の雇用確保措置(@定年延長、A継続雇用、B定年廃止)のうちで、@やBを一旦選択した後にAに変更し、1年毎の有期雇用としかつ再雇用対象者を選択する制度に。
具体的には、中・長期的な経過措置を設けた不利益変更にする。
ex.
現在適用を受けている60〜65歳及び近い将来適用を受ける55歳以上には変更前の制度の適用を続け、それより近い労働者にはAの有期による継続雇用に移行。
ただし、その有期労働契約の内容を54歳とか53歳の労働者には、55歳以上の者とほぼ同様のものを保証し、暫次、内容を引き下げていく。
〇ウ 継続雇用対象者の基準の厳格化 
ex.A継続雇用を選択したが、これまで健康上問題がなければ本人の希望どおり再雇用していたのを、定年直前3年間の人事考課が平均以上でなければならない、と再雇用基準を厳格にする場合。

Aの措置を採っている企業では、法的には労働者は定年到達により退職となっている
⇒再雇用はあくまで新たな労働契約の締結であって、既存の労働条件の不利益変更の問題ではない⇒労働条件の不利益変更の問題ではなく、労働者の再雇用への期待への企業の不法行為(民法709条)の成否の問題。
〇エ 再雇用後の賃金等の変更 
◎辞職 
〇ア @辞職⇒合意退職、A合意退職⇒辞職 
@でも、企業が承諾しなければ、労働者は、(就業規則の手続ではなく)民法627条によって、辞職できる⇒不利益はない。
労働者が民法627条に基づいて辞職の意思表示をしたら、そのとおりの効力が生じる⇒労務管理上注意が必要。
Aも、企業の承諾が不要になるだけで、利益にはなっても不利益に変更されたとはいえない。
〇イ 辞職の予告期間を長くすること
退職時期が遅れる⇒転職の時期も遅くなり労働者の退職の自由(職業選択の自由)への規制も強くなる⇒不利益変更。
在職者は、使用者である当該企業への誠実義務の一環として当然に競業避止義務を負う。
在職中の転職は、それ自体が、債務不履行で違法。

辞職の予告期間を延ばすことの不利益性は、直裁に退職の自由への強い規制で合理性が認められない不利益ではないか、という問題提起。

予告期間を長くすることで退職を遅くする企業の利益は何かを分析して、その企業の利益(営業の自由)と労働者の退職の自由とを相関的総合的に検討して判断。
◎解雇・・解雇事由の追加 
当該就業規則の解雇規程がその合理的解釈からして事由を限定していない⇒不利益変更の問題ではない。
◎その他の退職事由・・退職事由の追加 
本来解雇されてもやむを得ない労働者の不利益はさほどでなく、他方で中途半端な状態を解決する企業の必要性はあり、内容も、「2週間欠勤して連絡がごれない」状態であれば相当(慎重を期すなら「1か月」。)。
■    ■労働時間・休憩・休日 
●1 法的意味 
労基法89条1号の絶対的必要記載事項⇒必ず記載する必要。
●  ●2 戦略的意義 
労働者の労働義務の枠組み⇒毎日何時間働かされるかを規定。
労働義務:
@毎日同じ枠組で働かせる場合(原則)
A変形した枠組で働かせる場合
B労働者の裁量を前提にみなしの労働時間で働かせる場合、又は事業場外労働のみなし制を適用する場合
ABについて、法規制に合致しないと、その変形ないしみなしの効果が生じず、@原則規程(労基法32条、同37条)が適用されて膨大な人件費が発生するリスク。
●3 規定化の内容 
◎所定労働時間等の規定化 
1週間40時間、1日8時間を超えての労働は不可。
〜法定労働時間。
1週間:日曜日から土曜日までのいわゆる暦週
1日:午前0時から午後12時までのいわゆる暦日
継続勤務が2暦日にわたる場合は、暦日を異にする場合でも一勤務として取扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とされる。
所定労働時間は、始業終業の時刻を特定する必要。
休憩時間、休日については、特定は不要。
but特定が望ましい。
◎変形労働時間制、変形休日制の規定化 
□変形労働時間制 
労基法:
@1か月以内単位
A1年以内単位
B1週間以内単位
の3種類
@Aが基本。
労基法の変形労働時間制の定め(要件):
法定労働時間(1週間40時間、1日8時間)を弾力化(週平均40時間が確保されていればよい)するのを適法(免罰的効果)にするためだけの要件。
労働者に変形制による労働を義務化するには(=私法的効力を持たせるには)、労働協約、就業規則又は労働契約上の根拠が必要。
〇  〇(1)1か月以内単位:
@労使協定(有効期間の定め、労基署長への届出が必要)、又は就業規則その他これに準ずるもので、
A1か月以内の期間を平均して一週の法定労働時間(40時間)を超えないよう、各労働日の所定労働時間を定めた時(ただし、当該期間の起算日の定めは必要)
に、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超えても労働させられる。
適するのは、1か月以内単位で業務の繁閑のある事業(ex.銀行等金融機関)。
a.労働日を変形させる規定例
b.始業終業時刻を変形させる規定例
〇(2)1年以内単位 
労使協定(有効期間を定め、労基署長への届出が必要)で、
@対象労働者の範囲
A対象期間(1週を平均して法定労働時間を超えないよう定める一年以内の単位期間。起算日の定めが必要。)
B対象期間における労働日(対象期間が3か月を超えるときは、1年当たり280日以内)とその労働時間(1日10時間、1週間52時間以内。対象期間が3か月を超えるときは、修の限度時間がさらに制限される)
C有効期間を定めたとき
は、法定労働時間を超えても労働させられる。
適するのは、1年以内単位で業務の繁閑のある事業。
ex.百貨店、ゴルフ場、学校など。
〇(3)1週間単位 
@繁閑の差が著しく就業規則等で各日の労働時間を特定することが困難案事業で、常時使用する労働者数30名未満の事業場において
A労使協定(労基署長への届出が必要)で1週間を平均して法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超えない旨定めたとき
⇒1日10時間まで労働させることができる。
1週間の各日の労働時間緒通知は、当該1週間の開始する前に書面により当該労働者に通知する必要。
適するのは、小規模(労働者30名未満)なホテル、旅館、飲食店、販売店等
□変形休日制 
起業は、労働者に週1回の休日を付与する必要(週休制の原則)。
but
4週間を通じて4日以上の休日を付与⇒週休制の適用なし(変形休日制)。
変形休日制を導入するときは、4週間の起算日を明示する必要。
◎裁量労働制の規定化
□専門業務型 
専門業務型裁量労働制は、
労使協定(有効期間を定め、労基署長への届出が必要)で
@対象業務(労規則で定める業務のうち、労働者に就かせるものとして特定した業務)
Aみなし労働時間
B企業が労働者に具体的指示をしないこと
C健康・福祉を確保するための措置
D苦情処理措置
E有効期間
FCDの記録を、Eの期間及び満了後3年間保存すること
を規定

@対象業務に従事する労働者は、
A労使協定で定めた労働時間労働したものとみなされる。
専門業務型裁量労働制による労働を義務として課すためには、労働協約、就業規則又は労働契約の根拠が必要。
□企画業務型 
企画業務型裁量労働制は
労使委員会(構成は労使半数)の委員の5分の4以上の多数による決議(有効期間を定め、労基署長への届出が必要)で
@対象業務
A@につかせる労働者の範囲
Bみなし労働時間
C健康・福祉を確保するための措置
D苦情処理措置
E当該労働者の同意外必要であることと不利益取扱の禁止
F有効期間
GCDEの同意の記録をFの期間及び満了後3年間保存すること
を規定

@対象業務にA従事する労働者は
B同決議で定めた労働時間労働したものとmなされる。
対象業務となる企画業務:
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務
□事業場外労働のみなし制 
事業場外労働のみなし制は、
@労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、
Aその労働時間を算定し難いときは
「所定労働時間」労働したものとみなし、ただ、当該業務を遂行するためには通常「所定労働時間」を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に「通常必要とされる時間」労働したものとみなすもの。
労使協定(有効期間を定め、労基署長への届出が必要、法定労働時間以内なら届出不要。また、三六協定の届出に付記することでこれに代えることも可能)によってその協定で定める時間を「通常必要とされる時間」とできる。
対象:
@事業場外で業務に従事し、かつ、
A企業の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務である場合
次の場合は、事業場外で業務に従事する場合でも企業の具体的な指揮監督が及んでおり、労働時間の算定が可能⇒みなし労働時間制の適用はない。
@何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理kをする者がいる場合
A事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
B事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示通りに業務に従事し、その後事業場にもどる場合
●4 規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
◎(1) 所定労働時間等の変更
◇ア 所定労働時間を増やす等時間数を変更する場合 
□所定労働時間緒増加(延長)
□休憩時間の増減 
〇休憩時間の増加 
〇休憩時間の減少 
□休日の増減 
〇休日の増加 
〇休日の減少 
◇イ 所定労働時間等の枠組を変える場合 
□所定労働時間等の枠組の変更 
□休憩時間の枠組みの変更 
◎(2) 変形労働時間制、変形休日制の変更 
◎(3) 裁量労働制の変更 
   
  ■時間外・休日労働 
●1 規定化の法的意味
時間外・休日労働自体は、労働義務の枠組みではない
but
全ての労働者を対象に時間外・休日労働を義務付け⇒
労基法89条1項10号「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合」(相対的必要記載事項)に該当⇒制度化する場合は、就業規則への明記が必要。
●2 規定の戦略的意義 
時間外・休日労働は、三六協定を締結し労基署長にとどけでても、それでは私法的効力は生じない。
労働契約上の根拠が必要⇒就業規則に明記。
●3 規定化の内容 
●4 規定変更(新設)による労働条件の不利益変更 
   
  ■出退勤 
●1 規定化の法的意味
自己の雇用する労働者の出退勤を管理することは通達からも企業の義務であるとともに、就労請求権を有する企業の権利でもある。
その管理は、企業と労働契約を締結する全労働者に対してする⇒
労基法89条1項10号「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合」(相対的必要記載事項)に該当⇒制度化する場合は、就業規則への明記が必要。
●2 規定の戦略的意義 
●3 規定化の内容 
労基法が労働時間、休日、深夜業務について規定を設けている⇒使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。
通達が定める企業の「労働時間の適正な把握のために」必要な措置:
@企業が始業・終業時刻を確認し、記録すること
A原則として、次のいずれかの方法によること
・企業が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
・タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
B
C労働時間の記録に関する書類は、労基法109条に基づき3年間保存すること
●4 規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
   
  ■年次有給休暇 
●1 規定化の法的意味
労基法89条1号「・・・休暇・・に関する事項」
⇒絶対的記載事項
●2 規定の戦略的意義 
●3 規定化の内容 
●4 規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
   
  ■その他の法定休暇・法定休業 
●1 規定化の法的意味
労基法89条1号「・・・休暇・・に関する事項」
⇒絶対的記載事項
●2 規定の戦略的意義 
有給が保障されていない法定休暇・法定休業:
労基法の定めるもの:
@公民権行使
A産前産後休業
B育児時間の請求
C生理休暇
労基法以外の法律が定めるもの:
@育児休業
A介護休業
Bこの看護休暇
C介護休暇
●3 規定化の内容 
●4 規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
   
■  ■任意の休暇・休業 
■災害補償
■表彰および制裁
■  ■安全衛生 
★賃金規程
  ■T 賃金 
□      □1.給与の計算等
規定  第24条(賃金の支払) 
A賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
●法的意味 
労基法89条2号⇒絶対的必要記載事項
●戦略的意義 
労働者に気持ちよく、やりがいを持って働いてもらうためには、設計・支払方法をよく考えることは、最も重要。
「給与の計算等」:いつからいつまでの期間の労働を区切って、いつ支払うかという、計算に関する事項
「毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」(労基法24条2項本文)

就業規則で1か月単位で賃金の計算期間(例えば、前月16日から当月15日など)を定め、かつ、一定の固定した日(例えば、当月25日など)を支払日と定める必要。

また、その計算期間中に欠勤したり遅刻した場合、あるいは途中で入社したり退職した場合の賃金の計算の仕方(控除するか否か、するとしてどういう計算になるか)を定める必要。
●規定の内容 
◎ア.賃金の計算期間・支払日 
1か月単位で設計。その区切り方は、企業の裁量。
A:当月1日〜末日までの計算期間で、当月25日支払

25日〜末日までは先払いとなり、25日以降欠勤したときに欠勤控除するには、次月の支払日に次月の賃金から控除(調整的相殺)

B:前月16日〜当月15日までの計算期間で、当月25日支払
その他の支払方法も、労基法24条2項に反しない限り、企業の裁量に委ねられる。
◎イ.欠勤等控除 
完全月給制⇒当該1か月の期間内に欠勤等(遅刻、早退)があっても、賃金は控除しない。
but
日給月給制⇒当該1か月の期間内に欠勤等があれば、その分の賃金を控除(ノーワーク・ノーペイ)
but
日給で計算した以上に控除⇒全額払原則(労基法24条1項本文)違反
控除の計算:
通常は基準内給与を、当該月の所定労働時間か1年間から月単位の平均の所定労働時間のいずれかを分母にして割り、控除する単位の賃金(日又は時間)を算出し、実際の控除額を算出。
◎ウ.公租公課等の控除 
所得税等の税金や健康保険料等の公的保険料は、その根拠となる法令によって賃金から控除が可能。
but
法令上の根拠がないのに賃金から控除するのは、全額支払原則(労基法24条1項)違反。

控除の必要があるときは、
@強行法的規制を解除するため、労使協定を締結し、
A私法的効力として控除するため、就業規則等の私法上の根拠規定を定める
必要。
労基法 第24条(賃金の支払) 
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
◎ア.賃金の計算期間・支払日の変更 
A⇒B
半月分が1か月遅くなるだけで、実額が減るわけではない⇒不利益変更の程度は重大ではない。
but
移行時点だけ瞬間的に、これまでの支払日での支給額が従前の半分になる⇒これまでの支払を予定していた労働者にとっては、旬科的に大きな不利益。

移行時点で、遅れる半月分の賃金に相当する金額を融資し、それを1年以内に賞与等で返済するという、経過措置。
変更の必要性があればOK。
◎イ.欠勤等控除 
完全月給制⇒日給月給制で欠勤・遅刻・早退があれば、それに相当する日数や時間数を控除。
賃金は労働の対価であり、労働しなければ発生しない(ノーワーク・ノーペイ)の考えは、労働家役の双務有償性に照らし合理的な考え方。
⇒賃金という重要な労働条件に関することであるが、不利益の程度はさほどない。
従業員間の公平感。
◎ウ.公租公課等の控除の拡大
〇公租公課の控除の拡大:
公租公課の控除は、法令に基づくもの⇒控除額の変更は労働条件の不利益変更ではない。
〇それ以外
社内融資の返済等、労使関係に基づく控除の変更(拡大):
全額払原則(労基法24条1項本文)の法的規制の解除は、賃金控除協定(労使協定)を締結することで実現できるが、問題は、私法的効力を獲得するための就業規則の変更で、これに合理性があるか。
企業からの融資は自分の意思⇒その結果、毎月分割払となっても、労働者に不利益とはいえない⇒社内融資制度の新設による分割払の開始は、合理性はある。
チェックオフ(組合費を企業が労働組合の便宜を図って(便宜供与の1つ)代わりに採りたてるもの。)
組合員の同意が必要。
労働条件ではない⇒就業規則に定めるものであな⇒そのことを就業規則に(一方的に)定めても労働者に効力は及ばない。
  □2.基準内給与 
●法的意味 
労基法89条2号(「賃金の決定・・・に関する事項」)の絶対的必要的記載事項。
●戦略的意義
労基法は、賃金の支払い方法については一定の規制(全額払、通貨払、直接払、月1回払(労基法24条))をしているが、賃金の内容については、最低賃金の定め(最低賃金法)の他は、労使自治に委ねている。
年功型賃金制度⇒能力(成果)主義賃金制度
〜労働条件の不利益変更の問題となる。
「基準内給与」:毎月定額で支払を予定する給与
「基準外給与」:毎月支払の有無・支払う場合に金額が変動しうる給与
●規定の内容 
◎ア.設計(規定化)にあたっての典型的な考え方 
A:年功型人事制度で年功型賃金制度:

年功的な基本給与(年齢給、勤続給中心)
生活保障的な諸手当(家族手当、住宅手当等)

賞与:考課査定はないか、あってもその額への反映はごくわずか。
退職金:年功的に上昇した退職時の基本給与をベースに、年功的に上昇した支給係数を掛けて算出
B:能力(成果)主義人事制度で能力(成果)主義賃金制度:

所定賃金:担当する職務に対する給与(職務給、職務等級賃金)を基本とし、職務と関係のない生活保障的な諸手当は導入せず(あるいは廃止)

賞与:月例給与をベースとすることなく、業績配分の考えのもと考課査定の結果で各人の額が決定

退職金:廃止するか、存続するとしても各勤務時期ごとのポイント・金額を積み上げる等によって算出。退職時の基本給与をベースに算出することはしない。
保守的で各個人の能力の発揮があまり期待されない企業文化の下では、ドラスチックに能力(成果)主義賃金制度を導入しても、人事政策的にうまくいかない。

各企業の文化をよく分析し、

年功型賃金制度の@メリット(生活の安定、安心感)、Aデメリット(仕事をやっても賃金が同じ⇒モチベーションの低下)、

能力(成果)主義賃金@のメリット(モチベーションが高まる)、Aデメリット(個人プレーに陥りやすい、短期に結果を求める、考課者の考課査定能力が追いつかない)

を踏まえ、制度を検討。
◎イ.規定化の例 
資料2の1:年功型賃金制度に職能資格賃金制度を加味した賃金設計
〇A.基本給の設計 
年功型賃金を反映⇒年齢給・勤続給
職能資格賃金制度の反映⇒職能給
職能資格賃金制度:職務遂行能力を段階的に分割し、それぞれに賃金を対応させることで、能力の発揮を促すもの。
but
実際は、年功型賃金が形を変えて運用されるに等しいものが多い。
能力(成果)主義賃金制度の下での賃金設計:
基本給の構成は職務給中心となり、年齢給、勤続給というものは登場しない。
@年齢給:
A勤続給:
B職能給:
〇B.手当の設計 
仕事手当(@役付手当、A職務手当、B皆勤手当)と生活手当(@家族手当、A住宅手当)に分類。
a.仕事手当
@役付手当:部長、課長等の職位に対応
A職務手当:特殊な仕事に対する手当
B皆勤手当
b.生活手当
@家族手当
A住宅手当
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
年功型賃金制度(資料2の1)を能力(成果)主義賃金制度(資料2の2(年功型を一定限残したもの),3(徹底したもの))に変更。
賃金制度を年功型から能力(成果)主義型に変更

労働者によっては賃金額が低下⇒労働条件の不利益変更の問題
賃金は最も重要な労働条件であり権利⇒その変更は高度の必要性と、それに基づいた内容の相当性が求められる。

具体的には、その賃金制度が変更されることで労働者にどれだけの不利益が現実的に生ずるのかを慎重に分析し、他方において、企業が賃金制度を変更する必要性が高度にあるのか、あるとしても、その「高度の必要性」に基づいて変更される就業規則の内容が、それに見合った相当なものかを見極め、その他労働組合等との協議等を総合考慮して、合理性の有無を判断。
◎ア.資料2の2(年功型の要素を一定限残した規程)への変更の場合
〇a.労働者が受ける不利益の程度 
〇b.変更の必要性、変更内容の相当性 
〇c.総合考慮 
◎イ.資料2の3(徹底した能力(成果)主義型)への変更の場合 
〇a.労働者が受ける不利益の程度 
 〇b.変更の必要性、変更内容の相当性 
〇c.総合考慮 
□     □3.基準外給与 
●法的意味 
労基法89条2号(「賃金の決定・・・に関する事項」)の絶対的必要的記載事項。
●戦略的意義
基準外給与:毎月支払の有無(支払ったとしても)支払額が変動する賃金。
変動賃金の設計にも、企業の設計自由が妥当。
but
法定労働時間を超えた労働と法定休日労働の賃金については、労基法により規制(一定率以上の割増賃金の支払、労基法37条、労基則19〜21条)がある。
●規定の内容 
◎ア.時間外・休日労働に対する給与 
労基法37条、労基則19〜21条の規制:
法定労働時間(同法32条、1週40時間、1日8時間)を超えた労働(「時間外労働」)
法定休日(同法35条、1週1日の休日)の労働(「休日労働」)
深夜労働(同法37条4項、午後10時〜翌日午前5時)
に対し、一定の割増率(休日労働は35%、その他は25%、ただし、時間外労働が月60時間超は50%)を規定。
◎イ.通勤手当
労働義務は、持参債務(民法484条)⇒営業所に行くまでの費用である通勤費は、労働者の負担。
but
よい人材を集めるため、多くの企業では企業が負担。
各月定額で支払うのではなく、通勤して初めて発生(欠勤期間が長ければ、発生しない)。
その金額も、労働者それぞれにかかる費用をそのまま賃金におきかえるか、現物(定期券)を支給。
◎ウ.その他の変動給与
営業職に成果や出来高に応じて支給する手当を導入し、具体化。
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
◎ア.時間外・休日労働に対する給与 
労基法37条、労基則19〜21条によって算定した額を下回る⇒違法で無効(労基法92条)。
強行法規に違反しない⇒不利益変更の問題。
〇法令を上回っていた割増率を下げる場合 
休日労働をしたときに支払われる賃金が下がる⇒労働条件の不利益変更。
高度の変更の必要性が必要。
〇定額払を廃止して、法令所定の計算にした場合 
定額払の目的は、時間外・休日労働の支払実務を簡易にするためで、想定された時間外・休日労働の時間数に達しなくても賃金を支払うこと自体が目的ではない。
⇒時間外・休日労働が同金額に達しない月は、その余分の(労働者が取得する)金額は、反射的利益。
⇒客観的状況変化等により、時間外・休日労働の定額払制度を廃止する必要性は高度にある。
but
定額払が元々基本給の一部だったのを分割したような経緯⇒実質、基本給の引下げに⇒典型的な賃金の不利益変更の問題⇒合理性は厳格に判断。
◎イ.通勤手当
通勤手当は、実質的には労働の対価ではない。
他企業や社会通念に照らして当該上限金額が不合理でなければ、合理性は認められる。
◎ウ.その他の変動給与
変動給与の目的に照らした合理的な設計変更の結果であれば、必要性も内容の相当性も認められる。
but
変動給与の金額が大きいときは、必要性と内容はさらに慎重に判断。
□     □4.昇給 
●法的意味
労基法89条2号(「賃金の・・・昇給に関する事項」)の絶対的必要的記載事項。
●戦略的意義
年功型賃金制度では、少なくとも慣行として行われる。
能力(成果)主義賃金制度では、毎年1回の定期昇給という考え方自体否定する傾向。
●規定化の内容
◎年功型賃金制度:
基本給に賃金テーブルを作成し、それを別表として付け、毎年〜号以上は昇給する、として運用。
多いのは、職能資格賃金制度を加味して、数段階の職能資格等級を定め、かつ、各職能等級毎に号俸の階段を賃金テーブルとして定める。
◎能力(成果)主義制度:
賃金は、職務内容の重要度とその成果に応じて昇給(あるいは減給)
⇒定期昇給という考え方自体、なじまない。
毎年、賃金は上下し、増える場合でも、テーブルがあるわけではなく、妥当と思える金額だけ増える。
⇒賃金テーブル自体存在しない。
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変更
◎ア.不利益変更の問題になり得る場合 
能力(成果)主義賃金制度では、昇給が権利として成立していない⇒不利益変更もない。 
年功型賃金制度でも、定期昇給はゼロの年もあり、能力(成果)主義を加味していれば、昇給が権利として確立しているとはいえない。⇒昇給の停止・廃止は不利益変更の問題とはならない。
毎年必ず、例えば、○号俸は昇給するという場合(就業規則や労働協約あるいは労働契約あるいは労働契約の内容で、昇給することが具体的な場合)⇒「必ず○号俸は昇給する」限りで、昇給請求権が成立。

昇給の停止・廃止は不利益変更となる。
◎イ.不利益変更の合理性の判断
賃金という重要な労働条件に関すること⇒昇給の停止・廃止という不利益変更に合理性が認められるためには、そのことに(企業側に)高度の必要性と、その必要性に見合った内容(停止・廃止措置の具体的内容)の相当性が必要。
他方、労働者の不利益がどの程度か(賃金水準、それまでの昇給の幅、金額、経過措置の有無等)その他を総合考慮することで、判断。
■     ■U 賞与 
●法的意味
労基法89条4号(「臨時の賃金等・・・の定めをする場合においては、これに関する事項」、相対的必要記載事項)に該当。
それを制度化するには、就業規則への明記が必要。
●戦略的意義
@賃金後払
A業績・成果配分
B将来の勤労意欲の維持・向上
どのような戦略的意義づけをするかによって、制度設計(規定化)と運用(計算、支払)が大きく異なる。
年功型賃金制度⇒@賃金後払を色濃く設計
能力(成果)主義賃金制度⇒A業績・成果配分を色濃く設計
長期雇用システムを採り賃金制度も年功型の企業でも、賞与だけは両者の中間的設計・運用
⇒@賃金後払、A業績・成果配分、B将来の勤労意欲の維持・向上の要素を加味して運用。
●規定化の内容
賞与制度は任意の制度(労基法89条4号参照)⇒その設計は当該企業の裁量の問題であり、労働者に当然に賞与請求権が認められるものではない。
⇒支給日在籍要件(賞与の支給対象期間に在籍していても、支給対象期間後の支給日に在籍しなければ支給されない旨の要件)も、適法(最高裁昭和57.10.7)。
賞与を@年功型賃金と位置付けるかA能力(成果)主義賃金と位置づけるかも、当該企業の裁量。
but
@の位置付け⇒賞与請求権が肯定される方向。
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変
具体化(権利として確立)していなければ、労働条件の不利益変更の問題とはならない。
具体化⇒既存の賞与請求権という賃金の一種(労基法11条の「労働の対償」tなる)の不利益変更の問題。
就業規則(賃金規程)に支給条件、支給日が具体的に規定⇒自動的に金額が計算でき、各年各賞与の支給日も特定⇒就業規則の定めに基づいて、賞与請求権は発生。
その場合、賞与は労働の対償として賃金(労基法11条)になる⇒変更には高度の必要性とその必要性に基づいた内容の相当性があるかが、厳格に判断。
★退職金規程 
●法的意味
●戦略的意義
●規定化の内容
●規定変更(新設)による労働条件の不利益変