シンプラル法律事務所
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新注釈民法(15)


  長野説(p410)整理   
権利     回復     必要な限度で賠償
前払い
現実の回復 必要性  修補費用、治療費・手術費
  価値     補償   価値が賠償 価値的回復  確実性 物損の交換価値、逸失利益、慰謝料
権利         保全 ①と同じ 現実の回復 必要性 設計・施行者等の居住者等に対する責任
    利益     保全 ①と同じ 現実の回復 必要性 人損の介護費用、物損の代物賃料



★★新注釈民法(15)  
 
     
     
     
☆☆704条  
  ☆Ⅰ 立法の経緯と悪意の受益者の責任の根拠 
    悪意の受益者:受益に法律上の原因のないことを知っている者
    悪意の受益者は、利得の返還義務jを負うことを計算に入れておくべき⇒利得したものの返還義務を負うのは当然。
     
  ☆Ⅱ 悪意の受益者 
  ◆1 悪意の意味
  ◇(1) 悪意の受益者 
    悪意の受益者:
法律上の原因のないことを知りながら利得を得た者

「利得移動を基礎付ける事実」と「利得に法律上の原因のないこと」
を知っていること。
     
  ◇(2) 過失のある善意者 
    法律上の原因がないことを知らないことに過失がある場合
  ■(ア) 無過失を要求しない説
  ■(イ) 過失者は悪意者と解する説 
  ■(ウ) 重過失を悪意と同視する説 
  ■(エ) 法律上の原因のない事実を知れば悪意とする説 
     
  ■(オ) 判例の考え方
    直接に事実から悪意を認定できる場合は別として、
そうでないケースでは、一定の事実から受益者の悪意を推定し、反証のない限りは、悪意を肯定。
    前者の例:
売買契約が合意解除⇒前金の受領者は合意解除の時から、その返還義務を負うことを知っていたと考えることができる
合意解除時から悪意となり、704条が適用されて利息の支払義務を負う。
優先する抵当権の存在を知りながら、その抵当権の債権届出のないことを奇貨として、第三者に融資して経絡させた上で配当金の交付を受け取った
⇒優先権ある抵当権の存在を認識していた⇒悪意⇒民法704条の利息の支払義務を負う
     
     
     
     
  ☆Ⅲ 悪意の利得者の返還義務
  ◆1 「受けた利益」の返還義務 
     
  ◆2 利息の返還義務 
    我妻説:
現物返還の場合⇒果実・使用利益の返還で足りる
金銭の利得、価値賠償⇒利息の支払義務を負う
四宮説:
利息は最低限度の損害賠償義務⇒価格償還(価値賠償)の場合に限らず、現物・代位物を変換する場合にも利息の支払義務を負う。
    利率:
法定利息で、原則は民事の法定利息
but
受益者が商人で収益をあげた⇒商事利息となる。
but
貸金業者の顧客に対する金銭消費貸借による債権~商事債権
but
利息制限法違反の制限超過利息の支払による過払金の返還請求:
悪意の受益者である貸金業者の過払金の返還義務に対する利息は、不法行為債権⇒民事法定利息が適用。
 
  ◆3 損害賠償義務 
  ◇(1) 不法行為説と不当利得説
     
     
★★第5章 不法行為
☆☆709条(不法行為による損害賠償)(p259)
★A 不法行為に関する総説  
     
     
     
     
★B 不法行為の成立要件(p271) 
  ☆Ⅰ 総説 (p272)
  ◆1 一般的・基本的成立要件としての709条 
     
  ◆2 709条の不法行為の成立要件 
  ◇(1) 伝統的通説の成立要件論 
     
  ◇(2) 本条注釈の成立要件論
  ■(ア) 条文の文言に沿った成立要件論 
    ①行為要件
②権利・法益審が要件
③故意・過失要件
④損害の発生要件
⑤因果関係要件
     
     
  ◇(3) 責任判断の構造からみた要件ー効果(p275)
  ■(ア) 「要件ー効果」の二分論の限界 
  ■(イ) 責任判断の段階に応じた三分論
  不法行為制度が加害者に対する責任追及の制度

不法行為による損害賠償j責任の判断は、責任の成立、範囲、内容という3段階に区分できる。
    ①責任の成立:
まず、ある行為において不法行為責任(範囲・ 内容を捨象されたそれ)がそもそも成立するか否かが問われる。
権利・法益侵害要件
故意・過失位要件
    ②責任の範囲:
成立した不法行為責任がどれだけの範囲の結果にまで及ぶか。
後続侵害(最初の権利・法益侵害から波及して生じた権利・法益侵害)との相当因果関係など、
広い意味での因果関係の判断が中心となり、
行為に対する結果の帰属(結果帰属・その範囲を吟味。)
    ③責任の内容:
当該範囲の結果による不法行為責任が、どのような内容において現実化するかが判断される。
損害項目や損害額の決定など損害賠償それ自体に関する諸問題が属し、
侵害された権利・法益に対する損害賠償のあり方を判断。
     
  ◆3 成立要件論の基本構造・・・議論状況と私見の方向性 
  ◇(1) 伝統的通説 
     
  ◇(2) その後の議論状況 
     
  ◇(3) 私見の方向性 
  ■(ア) 「権利・法益侵害ー故意・過失」の二元的成立要件 
    被侵害利益の保護法益性(有無・程度)の判断と
加害者の責任原因の判断
の区別。
    不法行為制度は、①権利・法益保護を制度目的とし、また、②加害者に対する責任追及という性格をもつ。
「権利・法益侵害ー故意・過失」要件は、それぞれ①②に対応。
  ■(イ) 違法ー有責評価による責任判断 
    伝統的枠組みの延長上に、違法ー有責評価による責任判断を維持。
    違法評価に関しても、結果不法論を基調とし、違法性の実質を権利法益の侵害・危殆化にみる。
    有責性批判を加害者の責任原因(故意・過失)の根底に置いて、不法行為責任の責任根拠を意思責任に求めることができる。
    権利・法益の侵害行為に対する違法評価を通じて、不法行為責任ならびに差止め・正当防衛といった、違法な侵害に対する権利・法益保護の諸制度の相互連関を浮き彫りにすることができる。
  ■(ウ) 複数の責任類型への分化 
    加害構造面から複数の不法行為類型を区別し、各類型ごとに権利・法益侵害ー故意・過失要件の内容を定式化する(責任類型の分化)。
    権利・法益侵害要件との関連:絶対権侵害型と非絶対権侵害型
過失要件との関連:直接侵害型と間接侵害型
     
  ☆Ⅱ 行為要件(p280)
  ◆1 行為要件、行為概念 
  ◇(1) 議論状況 
    近年の学説は、そもそも行為を独立の成立要件とせず、行為概念にも立ち入らない傾向が強まっている。
     
  ◆2 自己責任の原則 
     
  ◆3 法人の不法行為(法人の709条責任論) 
     
  ◆4 不作為による不法行為 
  ◇(1) 不作為不法行為の責任成立要件
  ■(ア) 議論状況 
    近時の有力説は、。不作為不法行為の特別視に反対して、作為義務や不作為の因果関係は特別の問題を生じないとする。
    作為と不作為の区別の困難:
ex.消毒不十分なままでの注射行為は、一般に作為不法行為とされるが、消毒の不作為の問題ともいえる。
  ■(イ) 特別の責任判断枠組み 
     
  ◇(2) 作為義務違反要件 
  ■(ア) 議論状況 
  □(a) 伝統的理解(不作為の違法性) 
  □(b) その後の展開(過失要件との近接) 
    作為義務違反という特別の成立要件の地位は、その後、過失の現代的変容のために大きく揺らいでいる。

過失の客観化(行為義務違反)の下では、過失の不作為不法行為における作為義務違反(不作為の違法性)の問題は、過失要件と重なってくる。
  ■(イ) 作為義務違反の位置付け 
     
  ■(ウ) 作為義務者の判断基準 
     
    不作為不法行為の構造⇒作為義務判断の実質問題は、何らかの原因から権利・法益侵害に向かう因果系列に関する負担・リスクを誰に割り当てるべきかにある。
⇒作為義務の名宛人については、当該因果系列との「近さ」を基準とすべき。
具体的には、次の2つの基準。
    ①先行行為基準:
当該因果系列を自己の行為(先行行為)によって始動させた者は、因果系列に介入してその進行を阻止すべき作為義務を負う。
    ②支配領域基準:
当該因果系列(その始点たる危険源や終点たる被侵害権利・法益)を自己の支配領域に有する者も、作為義務を課せられる。
㋐危険源を自己の支払領域内に有する者は、その危険の制御を命じられる。
㋑自己の支配領域内に有する他人の権利・法益に侵害が差し迫っている場合には、その救助等を命じられる。
ex.医師が適切な治療措置をとるべき義務
㋒自己の支配領域内に有する他人の権利・法益が危険にさらされている場合には、危険に対する防御等を命じられる。
ex.担当教諭がクラブ活動中の生徒を保護すべき義務。
     
  ☆Ⅲ 権利・法益侵害(違法性)要件(総論)(p285) 
  ◆1 権利・法益侵害要件の成り立ち 
    民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
but
現在の文言と異なり、709条の原始規定は「他人の権利を侵害したる」ことを要件としていた。
  ◇(1) 「権利」侵害要件 
  ■(ア) 起草趣旨
    「不法行為というのは・・・既にある権利を保護する法」
  ■(イ) 当初の判例
    「権利」侵害要件を字義どおりに開始、現に承認されている具体的権利の侵害を要求。
  ◇(2) 権利・法益侵害要件 
  ■(ア) 判例による要件の緩和 
    判例は、ほどなく、具体的権利の侵害に拘泥する立場を改めるに至り、大審院大正14.11.28判決(大学湯事件)において、法律上保護される利益の侵害があれば足りるとの解釈を打ち出した。
  ■(イ) 現代語化改正 
    2004年の現代語化改正⇒709条の「権利」侵害要件に「法律上保護される利益」の文言が付加。
  ■(ウ) 709条と「権利」 
    不法行為制度は、ある利益が侵害された場合に防御的保護を与えるにとどまり、権利の名の下に積極的な利益享受・意思支配の力を付与する法技術とは性格を異にする。
⇒709条による保護は、「権利」に限らず、「法律上保護される利益」にも及ぼされてよい。
     
  ◆2 違法性の通説化
    「権利」の縛りを緩和した大学湯事件判決⇒学説上、違法性説が登場し、判例の立場を支持。
  ◇(1) 違法性説の登場まで
    起草者:
権利侵害が外部的行為(特にその結果面)に関するのに対し、故意・過失要件は行為者の内心に関する、という図式。
    制定後の学説:
権利侵害要件を客観的行為・その違法性に対応付けた。
  ◇(2) 違法性説 
  ■(ア) 権利侵害から違法性へ 
    このような理解をさらに進めて、端的に違法性を成立要件として構成したのが、違法性説。
違法性説:「権利」の侵害要件を「加害行為の違法性」要件に置き換えて読むべきとする。

不法行為の成立にとっては、権利侵害ではなく行為の違法性こそが本質的な用件である。
709条は、行為の違法性を象徴させるには権利侵害が最も適当であることから、行為の違法性を認識するための手がかりとして、権利侵害を成立要件とした。
  ■(イ) 相関関係理論
    「権利」侵害要件に代わるべき違法性要件は、それ自体としてはは抽象的⇒相関関係理論を通じて具体化。
当館関係理論:
違法性は、㋐被侵害利益の種類・性質と㋑侵害行為の態様との相関関係において判断される。

対世効が弱い権利や内容が漠然とした権利(ex.債権、営業権、名誉など)⇒侵害行為を特に考慮しなければならない。
侵害行為が刑罰法規違反、取締法規違反または公序良俗違反(ex.詐欺、会社による虚偽の公告・登記など)⇒行為の態様の面から(被侵害利益がそもそも権利でなくとも)違法性を認めることができる。
  ■(ウ) ドイツ法の影響 
  ◇(3) 伝統的成立要件の確立(p289)
    違法性説は、広く学説に浸透するところとなり、違法性ー故意・過失という伝統的成立要件論が確立。

「権利」侵害要件に代わる違法性要件は、単に「権利」の縛りを外すにとどまらず、独自の積極的役割を担っている。
相関関係理論⇒被侵害利益が強固でない場合には、違法性の要件の下で、侵害行為の態様が吟味されて不法行為の成否が定まる⇒不法行為の成立範囲を画定する独自の役割(成立要件としての法技術的機能)を果たす。
国賠法 第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
  ◆3 その後の展開(p289)
  ◇(1) 反対説の有力化 
  ■(ア) 違法性と過失の接近・融合 
    伝統的成立要件論:客観的違法性ー主観的有責性の対置に基づき、違法性ー故意・過失という二元的要件論。 
    but
高度経済成長を背景に交通事故・公害・製造物訴訟などが急増
裁判所は、行為の客観的内容や行為義務違反の観点から過失を判断(過失の客観化)
⇒過失要件は、その評価対象(行為態様)や評価内容(義務違反)において、違法性要件と交錯。
相関関係理論の下で侵害行為の態様(その非難性)が違法性要件の評価対象に取り込まれた。

違法性ー故意・過失の2要件は、両者の峻別・対置それ自体に疑いが生じ、違法ー有責評価による責任判断も自明のものではなくなった。
   
反対説は、違法性概念(違法ー有責評価による責任判断)を排除することによって、新たな動向への理論的対応を図った。((ウ)へ)
違法性概念(違法ー有責評価による責任判断)それ自体は支持する他と伊庭からは、行為不法論への転換を通じて、違法性と過失の関係について理論的整序が図られた。((イ)へ)
  ■(イ) 行為不法論への転換 
  □(a) 違法性と故意・過失 
  □(b) 違法性判断の位置づけ 
  □(c) 同系列の見解
  ■(ウ) 違法性概念・要件の排除 
  □(a) 違法性概念批判 
  □(b) 違法性要件の排除(過失判断への一元化) 
  □(c) 同系列の見解 
  ◇(2) 学説の混迷状況 
  ■(ア) 混迷とその背景 
  ■(イ) 現代語化改正 
  ◇(3) 判例に対する違法性説の影響力(p293)
    判例による「権利」の侵害要件の緩和⇒違法性説の登場。
    有形的利益(身体・物)の物理的侵害の場面、裁判例の圧倒的多数は違法性に言及しないが、無形的利益の侵害等の場面を取り上げれば、判例は、権利・法益が違法に侵害されたか否かによって不法行為の成否を決している
その違法な侵害の判断方法には、相関関係理論との対応関係を読み取ることができる。
最高裁H18.3.30:
ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが認められる。
最高裁昭和63.2.16:
氏名を正確に呼称される利益は、・・・その性質上不法行為法上の利益として必ずしも十分に強固なものとはいえない⇒不正確に呼称した行為であっても、当該個人の明示的な意思に反してことさら不正確な呼称をしたか、又は害悪をもって不正確な呼称をしたなどの特段の事情がない限り、違法性のない行為として容認される。
     
  ◆4 権利・法益侵害(違法性)要件の概況 
  ◇(1) 責任成立の限定機能
    現在の判例上、権利・法益侵害(違法性)要件は、2段階の絞りで、不法行為の成立を限定する機能を果たしている。
判例の現状では、権利・法益侵害要件が再生している。
  ■(ア) 権利・法益該当による限定 
  □(a) 権利・法益に該当しない利益 
    ある利益が「権利又は法律上保護される利益」に該当しない場合⇒それが侵害された場合にも、不法行為責任が成立しえない。
but
今日では、人格的利益を中心に不法行為法の保護法益が拡大
⇒判例上、不法行為の成立が全面的に否定される利益は必ずしも多くない。
    ①静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益
②公職選挙法150条の2に違反する言動がそのまま放映される利益
③内縁関係の実質を欠き、また、関係存続に関する合意もされていない婚姻外の男女関係の当事者は、その存続に関する法的な権利ないし利益を有しない
④いわゆる物のパブリシティ権(物の所有者がその物の名称等が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利)
  □(b) 権利・法益侵害なく財産的損害が生じた場合 
    ⇒Ⅳ2(5)
  ■(イ) 違法な侵害による限定 
  □(a) 権利・法益の違法な侵害
    ある利益が権利・法益に該当する場合にも、さらに、その利益が違法に侵害されたのでなければ、不法行為責任は成立しない。
有形的利益の物理的侵害の場合は別として、判例は、「権利又は法律上保護される利益を侵害した」という要件に「違法に」という字句を読み込み、侵害行為(特にその態様)の面から不法行為の成立に絞りをかけている。
        ①権利侵害によって不法行為が成立する。
but侵害行為が一定の要件を満たす場合には違法性が阻却される。
(名誉毀損)
②ある方法による法益侵害の程度が受忍限度を超える場合に、法益の違法な侵害とするもの。
(日照・通風妨害、私生活の平穏の侵害、みだりに自己の容貌等を撮影されない利益の侵害、テレビ番組の出演者による弁護士懲戒請求の呼びかけ)
③侵害される法益と侵害行為をする理由とを個別事例ごとに比較衡量し、前者が後者に優越する場合に、法益の違法な侵害とするもの。
(前科等に関わる事実を公表されない利益の侵害、プライバシーの侵害)
④侵害行為が刑罰法規・行政法規または公序良俗に違反する場合、あるいは侵害行為に実害がある場合に、法益の違法な侵害とするもの。
(景観利益の侵害、氏名を正確に呼称される利益の侵害)
権利行使・制度利用が不当であり、不当性について行為者に悪意または重過失がある場合に、権利行使・制度利用行為を違法とするもの。
(不当な訴えの提起、不当な弁護士懲戒請求、過払金の受領行為)
  □(b) 有形的利益の物理的侵害の場合
    身体・所有物などの有形的利益が物理的に侵害⇒判例は、違法な侵害を問うことなく当然に、権利・法益侵害要件の充足を認めている。
     
  ◇(2) 学説の現況(p296)
  ■(ア) 権利・法益侵害要件の再評価 
  □(a) 違法性概念の新たな意味付け 
  □(b) 権利保護の制度目的からの再評価 
  ●(i) 潮見:
不法行為制度を個人の権利保障を目的とする制度⇒権利・法益侵害要件を故意・過失要件とともに不法行為制度の中核に位置付ける。 
不法行為法は、憲法の下で国家により個人への帰属が承認された個人の権利を基点とし、その保護を目的とする権利保障の体系。

権利・法益侵害にいう「権利」(「権利」「法律上保護される利益」ぼ区別に意味はなく、「法律上保護される利益」もまた「権利」の性質を持つ)については、憲法により保障された個人の権利が何かを基点として、権利の割当内容とその外延が確定されねばならない。(潮見Ⅰ9頁)
特に、加害者の権利と被害者の権利が相互に衝突する場面では、権利間の衡量・調整を通じて、権利の割当内容とその外延が画される。(潮見Ⅰ82頁)
個人の権利保障という制度理解を故意・過失要件にも及ぼし、過失判断では、憲法上保障された行為者の行動の自由(権利)と潜在的被害者の権利の間で衡量・調整が行なわれる。(潮見Ⅰ255頁、292頁)
     
  ■(イ) 違法性説の発展形(橋本:私見) 
    違法性説の発展を通じて、違法性と過失の接近・融合に対する理論的対応を図る。
具体的には、
(a)違法性説の意味での違法性を不法行為責任の判断の基礎におきつつも、
(b)成立要件論の次元では、違法性要件ではなく権利・法益侵害(権利・法益の違法な侵害)要件を立てる。
  □(a) 違法評価 
    違法性説の延長線上に、
(i)有責性に対置される意味での違法性評価を支持し、また、
(ii)違法性の実質に関して結果不法論に依拠。
他人の権利・法益を侵害する行為は、侵害が侵害禁止規範に違反する場合に違法評価を受けることになる。
  ●(i) 違法評価 
    不法行為責任の判断の基礎には違法評価が置かれるべき。

①権利・法益の違法な侵害を論じることは、違法な侵害に対する権利・法益保護の諸制度(不法行為責任による事後的保護と差止め・正当防衛による事前的保護)の横断的理解に資する。
②民法第3編第5章の題号「不法行為」は、元々、ドイツ民法典の章名に由来し、違法な行為を指している。
  ●(ii) 結果不法論 
    ×行為不法論への転換
vs.
①行為不法論は、もっぱら不法行為責任(その故意・過失要件)を念頭に置いており、差止め・正当防衛には適合しない。
②行為無価値に違法性の重点を置く限り、生命・身体の侵害行為を当然に違法として絶対的保護を実現することもできなくなる。
  □(b) 権利・法益侵害要件(p298)
  ●(i) 違法性要件の回避 
    成立要件論の次元では、違法性要件を建てない

①過失を行為義務違反とする現在の過失理解によれば、過失には違法要件が含まれることになり、違法性ー故意・過失という2要件の対置は、客観的違法性ー主観的有責性の対置と噛み合わない。
②違法性要件は、もはや違法評価と一対一の対応関係に立たず、間接侵害型の過失不法行為では、むしろ、過失要件が加害者の違法評価を担うことになる。
  ●(ii) 権利・法益侵害(権利・法益の違法な侵害)要件
    709条の文言に沿って、権利・法益侵害要件を成立要件とする。
    不法行為制度が権利・法益保護を目的とする⇒権利・法益侵害要件は、被侵害利益の保護法益性を判断主題とする。
その際、同要件の判断内容には、
当該利益がそもそも不法行為法上保護されるか否か(保護法益性の有無)だけでなく、
いかなる態様の侵害に対して保護されるかという問題(保護法益性の程度)
も含まれる。
保護法益性の程度の判断との関連では、(権利・法益)侵害という要件要素の下で、不法行為法の保護を付与すべき侵害態様であったか否かを判断。
あるいは、判例の現状に照らして権利・法益侵害要件を「権利・法益の違法な侵害」要件に書き改め、違法な侵害という要件要素においてその点を判断することでもよい。
後者の場合に、違法な侵害という要件要素は、抽象的・規範的要件要素として、(iii)の侵害禁止規範の違反となるような侵害態様を指す(すなわち、違法評価ではなく、違法な実体が類型化された構成要件要素を意味。)。
  ●(iii) 違法評価との関係 
    保護法益性の有無・程度の判断は、加害行為の側からみれば、侵害禁止規範違反の問題となる。
侵害禁止規範は、個々の利益の保護法益性の有無・程度に応じて、当該利益に対する特定の態様による侵害を禁じる。
個々の利益は、侵害禁止規範に違反した態様による侵害に対する関係で、不法行為法の保護を付与される⇒当該態様により当該利益を侵害する行為は、侵害禁止規範違反として(類型的な)違法評価を受ける
     
  ◆5 権利・法益侵害要件に関する特則 
    特別法上の責任成立要件には、709条と異なり、権利・法益侵害を要件としないものがある。 
  ①消費者保護分野:
金融商品販売法5条は、金融法品販売業者の説明義務違反や断定的判断の提供に関する。
同条は、契約締結の不当勧誘の一類型にあたる。 
    ②会社法分野
    ③経済法分野
    ④環境法分野
     
  ☆Ⅳ 権利・法益侵害要件(各論)(p300)
  ◆1 総説 
  ◆2 財産的利益の侵害 
  ◇(1) 物権の侵害
  ◇(2) 物権的利益の侵害 
  ◇(3) 債権の侵害
  ■(ア) 総説 
  ■(イ) 債権の帰属の侵害 
  ■(ウ) 給付の侵害(債権が消滅する場合)(p309)
  □(a) 
  第三者が債権の目的たる給付を侵害し(債権者の責めに帰することができない場合であるとする)、その結果、当該債権が履行不能になった消滅する類型。 
①特定物の引渡債務について第三者が目的物を毀滅した場合や
②なす債務について債務者を殺傷・監禁等した場合
  □(b)
    現在の学説は、加害者が債権の存在を認識していた場合にのみ不法行為の成立と認める。

第三者Yの債務者A(その所有者や身体)に対する物理的加害によって、債権者XがAに対する債権を侵害されるという特有の構造(間接被害)が反映。
①上記構造において、直接被害者(A)の所有物や身体をめぐる債権関係(債権者X)は多数かつ広範囲にわたりうる。そのため、物理的加害による債権侵害に対する責任については、その範囲に何らかの限定を付することが求められる。
②間接被害の構造の下で、XがYの不法行為責任を追及する場合には、YのAに対する所有権・身体被害の不法行為とは独立に、YのXに対する債権侵害の不法行為が成立しなければならない。そして、物や身体に向けられたYの行為は、債権の侵害まで行為の目的(方向)に含んでいた場合にはじめて、齋江kン侵害行為といえる(侵害禁止規範がそれを債権侵害行為として禁じる)。
  □(エ) 給付の侵害(損害賠償債権に転形する場合) 
     
  ◇(4) 営業の侵害(p312)
  ■(ア) 総説 
    営業は、顧客との取引行為の反復・継続を通じて収益を獲得することに向けられており、一定の収益力を備える。この点で、営業(現に存立しているか、開業の具体的準備段階にあるもの)も、不法行為法の保護が要請され、特定の態様による侵害に対して保護される(非絶対権侵害型)。
  ■(イ) 競業者間での営業侵害 
  □(a) 不公正な競争手段 
  □(b) 競争法の定める行為類型 
  □(c) 競争法に具体的規律がない場面
     
  ■(ウ) 間接被害の類型 
  営業の侵害には、Aの身体や所有物に対する物理的加害行為によって、Xがその営業を侵害されるという間接被害の類型も含まれる。
    これらの場合に、身体・設備に対する物理的加害行為は、Xの営業の侵害まで行為の目的に含んでいた場合を除き、営業侵害の不法行為とならない
     
  ◇(5) 総体財産の減少(行為態様面の違法性) 
  ■(ア) 総説 
  ■(イ) 詐欺、不当勧誘 
     
  ■(ウ) 不当な訴えの提起等
  □(a) 不当な訴えの提起(p316)
    裁判制度の自由な利用(裁判を受ける権利)の観点⇒当該訴えの提起は、「原則として正当な行為であり」、違法といえない。
例外的に、
「提訴者が、このこと(主張する権利が事実的・法律的根拠を欠くこと)を知りながら提訴したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くときに限」り、「訴えの提起が相手方に対する違法な行為」となる。(最高裁昭和63.1.26)
  □(b) 不当な弁護士懲戒請求(p317)
    弁護士懲戒請求(弁護58条)が事実的・法律的根拠を欠いていた場合に関しても、
判例は、
不当な訴えの提起と同様の基準によって、「違法な懲戒請求」・「不法行為」の成否を判断している。(最高裁H19.4.24)
     
     
     
  ◆3 人格的利益の侵害 
  ◇(1) 総説 
  ◇(2) 身体的利益の侵害(p320) 
  ■(ア) 生命・身体・健康の侵害 
  □(a) 総説 
    有形力の行使によって身体の完全性を損なう場合(負傷)が典型となるが、
身体への作用が無形的な場合(音響、脅迫、いやがらせなど)や
作用の結果が生理的機能の障害にとどまる場合(病気の発症・感染、精神的障害など)
も含まれる。
  □(b) 死亡の場合の被侵害法益 
   
  ■(イ) 延命利益侵害、生存の相当程度の可能性の侵害 
    不作為不法行為(特に医療過誤)との関係では、生命・身体とは別個に、その拡大ともいうべき身体的利益が不法行為法上の保護を受ける。 
①(医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば)一定期間、患者が延命したであろうという延命利益、および、
②(同じく)患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性(最高裁H12.9.22)

加害者の不作為と生命侵害との間の因果関係が確定されず、生命侵害の不作為の不法行為が成立しない場面で重要な実際的意義をもち、生命・身体の保護を前進させる役割を果たす。
  ■(ウ) 身体の自由、性的自由の侵害 
     
  ◇(3) 身体的自己決定権の侵害 
  ◇(4)  生活妨害、景観利益等の侵害
  ◇(5) 名誉・プライバシー、氏名・肖像権等の侵害 
  ◇(6) 家族関係、社会的交際関係の侵害 
  ■(ア) 家族関係の侵害 
   
  (b) 不貞行為の相手方による配偶者の権利の侵害 
     
   
     
  ◇(7) 精神的自由の侵害 
  ◇(8) 行為の期待・信頼の侵害 
     
  ☆Ⅴ 故意・過失要件(p325)
  ◆1 要件の伝統的理解
  ◇(1) 起草者の説明 
  ◇(2) 伝統的通説 
  ◇(3) その後の展開 
    判例上、過失の客観化(行為義務違反化)と言われる現象。 
     
  ◆2 故意(p327) 
  ◇(1) 故意の意義 
  ■(ア) 伝統的理解、判例
  ■(イ) 現在の学説 
     
  ◇(2) 故意の場合の責任加重(p328)
  ■(ア) 責任加重の諸場面 
   
    ①債権侵害のうち、第三者が債務者の債務不履行に加担する類型⇒不法行為の成立のために故意以上の内心的要素が要求される。
②間接被害としての債権・営業侵害の場面⇒加害者は、債権・営業侵害についての故意がある場合に限って責任を負う。
③精神的損害に対する慰謝料⇒故意の方が容易に肯定され(特別の愛着がある品物を損壊した事例)、慰謝料も高い。
     
  ■(イ) 故意不法行為の位置付け 
     
  ◆3 過失(総説)(p329)
  ◇(1) 伝統的理解 
  ◇(2) 過失の現代的変容 
  ■(ア) 過失の客観化(行為義務違反化) 
    交通事故・公害・製造物事故などが急増⇒判例では、過失の客観化(行為義務違反化)の動きが顕著に。
加害者が何々すべき注意義務を負うにもかかわらずその注意義務を怠ったことをもって過失とした。

主に加害者の客観的行為の次元で過失(不注意)を捉えて、加害者がした行為の内容が期待される行為基準(行為義務)に合致していたか否かにより、過失の有無が判断。
  ■(イ) 過失の客観化の背景 
    ①侵害の抽象的危険性が現実化して権利・法益の侵害に至る場面で、伝統的な過失理解がいう結果発生の認識(予見)可能性は、有用な判断基準となり得ない。
(認識可能性の判断は、具体的内容の認識を問うか抽象的内容のそれを問うかにより、両極端にぶれてしまう)
②侵害の抽象的危険が内在する活動については、危険の程度を社会相当な程度に制御することが課題となる。
このような危険制御にとっては、意思の緊張よりもむしろ、事故防止のための適切な行動基準を定めてそれを遵守することが重要となる。
③そのような行動基準の設定に際しては、目指すべき危険制御の水準をめぐって、諸因子の較量判断(特に加害者側の活動自由と権利・法益保護の要請との調整)が必要となる。
  ■(ウ) 過失の客観化と意思の緊張の欠如 
    「漫然と」
     
     
  ◇(3) 学説の展開 
  ■(ア) 反対説の有力化
    行為義務違反の要素を過失の中心に置く⇒過失が違法性と接近・融合⇒「違法性ー故意・過失」という二元的成立要件が崩れる。
  ■(イ) 行為不法論への展開
  伝統的通説と同じく「違法ー有責」の評価枠組みを支持する立場からの反対説:
前田:行為不法論への転換をもって過失の客観化を受けとめ、過失要件と行為義務違反・違法評価との間に必然的な結合関係を見出す。
  □(a) 過失要件と結果回避義務違反
    前田:
現代の高度技術化社会では、我々は、常に他人の権利を危殆化しており、侵害がやむをえない場合(社会相当な行為による侵害)もある
⇒「権利侵害=違法」という伝統的図式(結果不法論)は、もはや維持しがたい。
法は、むしろ、権利侵害の危険を社会相当な程度に抑える結果回避義務を命じるにとどまり、そのような義務に違反して権利侵害を生じさせる行為がはじめて違法と判断される(行為不法論)。
これが、結果回避義務違反として構成される過失。
  □(b) 有責性の不問
    前田:
過失は結果回避義務の違反(違法性)に尽きるとして、有責性を要求しない。
四宮:
有責性(人的非難可能性)に関しては、これを要求する立場を前提としつつ、一般的(通常人)基準によるかぎりで有責性判断が事実上空洞化される。
  ■(ウ) 違法ー有責の評価枠組みの排除 
    平井は、そもそも「違法ー有責」の評価枠組みを退ける立場から、判例分析を基礎に、過失要件の内容や実際的機能の分析に向かう。
  □(a) 判例に沿った過失の定式化(違法・有責評価批判) 
    平井:
意思の緊張の欠如という過失理解を退けた上で、過失を、予見可能性を前提とする損害回避義務に違反する行為として定式化する。
  □(b) 過失要件による一元的要件論 
    平井:
判例分析に基づき、過失要件による一元的構成を提唱。
上記のように定式化される過失要件は、判例上、不法行為が成立したか否かという判断一般を含む高度の規範的概念として機能してきた。
そこでは、
①損害発生の危険の程度と
②被侵害利益の重大さ
③損害回避義務によって犠牲にされる利益
の3つが、過失の判断因子となっている。
星野:
故意・過失をフランス法の「フォート」と同じ概念と解し、「故意・過失ー権利侵害」という二元的構成による。
もっとも、加害行為そのものの要素(侵害行為の態様を含む)は全て故意・過失要件に割り振り、責任の成否に関する主要な判断を同要件に担わせている。
     
  ◇(4) 過失理解の現況(p333)
  ■(ア) 過失の定式化 
  過失とは、結果の発生を予見して回避すべき注意義務の違反であるとされる。 
  ■(イ) 故意・過失要件の位置付け
    有責性非難の観点を基礎に置くものではない。
成立要件論の次元でも、「違法性ー故意・過失」とうい伝統的な成立要件論によるのではなく、709条の文言に沿って「故意・過失ー権利・法益侵害」という二元的要件論。
(平井は、過失要件による一元的要件論) 
権利・法益侵害要件を再評価する最近の学説からは、

権利・法益侵害要件(同要件の下で要求される違法性)が自由と権利の調整に関する制度的・抽象的な判断であるの対して、過失要件は個別具体的状況の下での調整を行うとの理解

権利・法益侵害要件が被害者の権利の保障にかかわるのに対して
故意・過失要件は加害者の権利(行動の自由)の保障にかかわるとの理解
が提唱されている。
  ■(ウ) 信頼責任 
    結果回避義務違反は意思非難と結びつかない。
有力な見解:
故意不法行為の帰責根拠は意思責任
過失不法行為については、信頼責任

社会共同生活では、各場面での各社会構成員にあらかじめ行為義務が設定されており、各人は、互いに、他人がその行為義務を遵守して振る舞うことを信頼。
過失(行為義務違反)のある加害者は、この信頼を裏切ったことにより責任を負う。
  ◇(5) 加害段階による類型化論(橋本:私見)(p334)
  ■(ア) 加害段階による類型化 
    過失の客観化に対する理論手的対応:
①「違法ー有責評価」による責任判断を前提に
②故意・過失要件を加害者の責任原因の判断を担う要件として位置づける。その上で
③加害段階の観点から過失の不法行為責任の2類型を区別し、類型ごとに過失要件の内容を組み立てる(責任類型の分化)。
    過失不法行為責任の類型化:
加害構造の構造(加害段階)面jからの対置に基づき、
(a)直接侵害(侵害段階)型と
(b)間接侵害(危殆化段階)型
を区別。
(a)直接侵害(侵害段階)型
~古典的な構造の加害行為を規律する責任類型であって、意思の緊張の欠如のとしての過失理解が当てはまる。
(b)間接侵害(危殆化段階)型
~新たな構造の加害行為の登場をうけて判例が創出した責任類型であって、行為義務違反としての過失理解があてはまる。
  □(a) 直接侵害(侵害段階)型 
  ●(i) 規律対象 
    他人の権利・法益を直接侵害する行為(行為とその結果たる権利・法益侵害が表裏一体の関係にある場合)を規律対象とする。
加害段階面からいれば、「直接侵害行為=侵害段階の行為」を意味する。

ex.
(漫然と)自転車をこいで歩行者にぶつかる行為
(前方を注視しないまま)自動車を運転して横断中の歩行者を轢いた行為
(犬の絵さと誤認して)ネズミ駆除用の毒餌を他人の犬に与えて死なせる行為
  ●(ii) 過失要件の内容 
    直接侵害型では、
権利・法益侵害要件が直接侵害行為(その結果面たる権利・法益侵害)を内容としており、過失要件は、そのような行為事実の認識可能性を内容とする。
注意を怠らなければ、当該行為によって権利・法益が直接侵害されることを認識して当該行為に出ないことができた(にもかかわらず、注意を怠ってそのことを認識しなかったために直接侵害行為に出た)ことである。

伝統的理解による過失(意思の緊張の欠如)と一致する。
  ●(iii) 違法ー有責評価 
    直接侵害型では、伝統的成立要件と同じく、
権利・法益侵害要件行為の違法評価を、
過失要件有責評価を担う。
権利・法益侵害要件が取り上げる直接侵害行為は、侵害禁止規範によって一般的に禁止されており、一般的に違法評価を受ける(違法性の実質は権利・法益の侵害に存する)。
過失要件の下で、権利・法益の直接侵害という結果(違法評価を受けるべき行為事実)の認識可能性は、当該行為に関する意思非難(有責評価)を基礎付け、加害者の責任原因となる。
     
  □(b) 間接侵害(危殆化段階)型
    間接侵害型:過失の客観化を通じて創出された責任類型であって、責任追及、それによる権利・法益保護を危殆化段階の行為(危殆化行為)にまで前倒しする。
  ●(i) 規律対象 
    他人の権利・法益を社会相当程度を超えて危殆化する行為(これが不運にも権利・法益の侵害に至った場合)を規律対象とする。

ex.
自動車の運転者がスピードを出して住宅地を走行する行為(その結果、突然前方に現れた子供に衝突した場合)
工場が許容量を超える汚染物質を河川に排出する行為(その結果、他の不利な条件も重なって下流域の魚を死滅させた場合)
危殆化段階の行為は、何らかの中間原因を介在してはじめて危険が現実化し、権利・法益侵害に至る⇒「間接侵害」
  ●(ii) 過失要件の内容 
    間接侵害型では、過失要件は
①危殆化禁止規範に違反して、他者の権利・法益を社会相当程度を超えて危殆化する行為(スピードを出して住宅地を走行する行為など)を、中心的内容とする。
~この要素は、行為医義務による過失判断と重なる(過失の客観化)。
そのような行為事実の認識または認識可能性も、過失要件の内容となる。
~当該行為によって他社の権利・法益が社会相当程度を超えて危殆化することを認識していたか、注意を怠らなければそれを認識することができた(にもかかわらう当該行為に出た)こと。

要素②については、訴訟上、加害者がその不存在の事実の主張・立証責任を負う。
←危殆化禁止規定は特定の危殆化行為を禁じるところ、そのような行為(要素①)は、特段の事情がない限り危殆化の認識・認識可能性(要素②)を伴う。
  ●(iii) 違法ー有責評価 
    間接侵害型では、過失要件の2要素の判断を通じて、危殆化行為が「違法ー有責評価」を受ける。
危殆化行為は、
危殆化の程度が社会相当性を超える場合に、危殆化禁止規範違反として違法評価を受ける(違法性の実質は権利・法益の危殆化に存する)。
②当該行為による社会相当程度を超える危殆化の認識・その可能性をもって、当該行為に関する意思非難が基礎付けられ、加害者の責任原因となる。
間接侵害型では、違法ー有責評価が前倒しされており、危殆化段階の行為が既に違法ー有責評価を受ける。
不法行為責任の成立のためには権利・法益侵害が要件となるが、同要件それ自体は行為の違法評価と関係しない。
     
  ■(イ) 伝統的理解との連続性 
  □(a) 違法ー有責評価による責任判断
     
  □(b) 結果不法論 
    私見は、結果不法論を基調とし、権利・法益の侵害または危殆化をもって違法評価を下す。
直接侵害型において故意・過失を違法評価に取り込まない点は、行為不法論と一線を画している。
  □(c) 故意・過失要件の位置付け(責任原因の判断) 
    私見は、伝統的成立要件論と異なり、故意・過失要件を有責性要件に読み替えることをしない。
←間接侵害型の過失不法行為責任では、過失要件は有責要素とともに行為義務違反という違法要素を含み、かつ、違法要素の比重の方が大きい。
成立要件論としては、
条文通りに権利・法益侵害ー故意・過失の2要件を立てた上で、
両要件の関係を、客観的違法性ー主観的有責性の対立ではなく、
判断主題の相違として理解すべき。

権利・法益侵害要件において被侵害利益の保護法益性を判断し、
故意・過失要件において加害者の責任原因を判断。
  □(d) 過失責任の責任根拠 
    違法ー有責評価を責任判断の基礎に置くとき、過失不法行為責任の帰責根拠は、加害者に対する有責性非難、すなわち意思非難にある。
but
①間接侵害型にでは、危殆化行為が違法ー有責評価を受ける⇒意思非難も危殆化段階まで前倒し。
②間接侵害型での意思非難は、意思の緊張の欠如よりもむしろ、知識・思慮の附則や判断の誤り(不相当な危険があるのに危険がないと判断したこと)に向けられる。
    意思責任論に対しては、行為者本人ではなく通常人を基準とする過失判断(抽象的過失)は有責性非難や意思責任の考え方と整合しないとの批判。
but
通常人を基準とする過失判断は、意思責任論の部分的制限にとどまるというべき。
具体的な行為者は、通常人と同水準の注意能力を備えることが通例であって、通常人を基準とする過失判断は、当該行為者の注意能力が劣後する例外的場面に限って、信頼の要素を取り込んだ擬制的な意思非難を行うにとどまる。
     
  ◆4 過失の構成要素(p338)
  ◇(1) 予見可能性と結果回避義務 
  ■(ア) 予見可能性 
  □(a) 総説 
    予見可能性:権利・法益侵害という結果の発生に関するそれ。

結果発生が予見されたはじめて当該結果の回避が可能になる⇒予見可能性の要素は、結果回避義務の前提という位置づけ。
  □(b) 調査研究義務による緩和 
  ■(イ) 結果回避義務 
  □(a) 総説 
    結果回避義務:権利・法益侵害の発生を回避する作為・不作為の行為義務。
不文の義務であって、義務の成否・程度の判断は裁判所にゆだねられる。
  □(b) 公害事件での結果回避義務
  ◇(2) 各種の責任類型における過失(私見) 
     
  ■(ア) 作為による絶対権の直接侵害(侵害段階) 
    加害者が作為によって絶対権を直接侵害する類型
    権利・法益侵害要件:直接支配性・排他独占性を備えた権利・法益を直接侵害する行為を内容(そのような行為は侵害禁止規範の違反となる。)。

過失要件:当該行為によって絶対権が直接侵害されることの認識可能性(ひいては、直接侵害を認識して当該行為に出ないようにできたこと)を内容
  ■(イ) 作為による非絶対権の直接侵害
    加害者が作為によって直接支配性・排他独占性を備えない権利・法益を直接侵害する。
    権利・法益侵害要件:侵害禁止規範に違反して、特定の態様により非絶対権を直接侵害する行為を内容。

過失要件:当該行為によって非絶対権が直接侵害されることの認識可能性を内容とする。
   
責任成立を限定する機能は主に権利・法益侵害要件が担っており、過失要件が果たすべき役割は小さい。

権利・法益侵害要件が充足される場合には、それと事実上(または当然に)連動して過失要件も充足される。

侵害禁止規範が禁じているような非絶対権の直接侵害行為は、直接侵害の認識を伴うことが通例。
禁止の対象が意図的な侵害行為である場合には、そのような行為は必然的に直接侵害の認識を伴う。
学説には、この類型では故意・過失要件が権利・法益侵害(違法性)要件に吸収されて責任成立要件が一元化するとの理解も有力。
  ■(ウ) 作為による間接侵害(危殆化段階) 
    加害者が作為によって権利・法益を社会相当程度を超えて危殆化する(この危険が現実化して権利・法益の侵害に至る)という構造。
    過失要件:
①危殆化禁止規範に違反して、他者の権利・法益を社会相当程度を超えて危殆化する行為、および
②当該行為によって他者の権利・法益が社会相当程度を超えて危殆化させることの認識または認識可能性
②については、加害者の側にその不存在の主張・証明責任がある。
   
  ■(エ) 不作為不法行為 
    何らかの原因から権利・法益侵害に向かう因果系列(㋐その始点たる起点源または㋑終点たる被侵害権利・法益)を支配領域内に有する者が、当該因果系列の進行を放置するという加害構造をとる。
    過失要件:
①当該因果系列を自己の支配領域に有する者が、作為義務に違反して、当該因果系列を不作為により放置することを内容。

㋐社会相当程度を超える危険をはらむ危険源を自己の支配領域内に有する者がその管理・監督を怠る場合(管理・監督過失)
㋑侵害の危険が迫っている他人の権利・法益を自己の支配領域内に有する者がその救助・防御を怠る場合。
②当該因果系列を自己の支配領域内に有することの認識可能性

㋐社会相当程度を超える危険をはらむ危険源を自己の支配領域内に有することの認識または認識可能性
㋑侵害の危険が迫っている権利・法益を自己の支配領域内に有することの認識可能性

要素②は結果(事故)発生の予見可能性。
     
  ■(オ) 過失による物理的幇助 
     
  ◆5 過失判断の基準・指針
  ◇(1) 注意の基準(抽象的・類型的基準) 
     
  ◇(2) 行為義務の判断因子 
  ■(ア) ハンドの定式 
    行為義務の成否・程度は
㋐当該行為から生じる結果発生の危険の程度
㋑当該行為によって侵害されるであろう利益(被侵害利益)の重大さに対し、
㋒行為義務を課すことによって犠牲にされる利益
を比較考量することによって決せられる。
Probability㋐×Loss㋑>Burden㋒
の場合に過失あり。
     
  ◇(3) 複数関与者間での行為義務の分配
     
     
  ◆6 故意・過失の阻却事由 
  ■(ア) 違法性阻却事由の誤信に相当の理由がある場合 
   
  ■(イ) 法解釈が確立していない場合
     
  ■(ウ) 義務遵守の期待可能性がない場合 
     
  ◆7 故意・過失要件に関する特則 
  ◇(1) 重過失を要件とする特則 
  ■(ア) 失火責任法による責任軽減
  ■(イ) その他 
     
  ◇(2) 故意・過失要件を緩和する特則 
  ■(ア) 無過失責任を定める責任成立要件 
  ■(イ) 過失の証明責任を転換する責任成立要件 
     
  ☆Ⅵ 損害発生要件 
  ◇(1) 何らかの損害の発生 
  ◇(2) 損害発生要件が機能する場面 
  ■(ア) 伝統的学説から
    伝統的学説は、金何円として現実化した金銭的不利益を損害と捉える立場(損害=金銭説)⇒損害発生要件について、現実的な損害の発生を要求。
判例:「被害者に生じた現実の損害」を要件。(最高裁昭和42.11.10)
  ■(イ) 近年の学説から 
    損害を、金銭ではなく、被った不利益という事実(例えば人の死亡・負傷等の事実)の次元で捉える立場。
     
     
     
  ☆Ⅶ 因果関係要件 (p354)
  ◆1 総説 
  ◇(1) 因果関係要件 
  規定 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
  ◇(2) 因果関係要件の始点・終点
    始点:加害者の行為
終点:損害発生
  ■(ア) 因果関係の始点 
    過失を加害者の心理状態に見出す伝統的理解⇒権利・法益侵害行為が、因果関係の始点
過失を行為義務違反と捉える近年の理解⇒行為義務違反の意味での過失行為が因果関係の始点
  ■(イ) 因果関係の終点 
    伝統的理解:損害の発生
but
成立要件論:
①損害要件とは別に権利・法益侵害が要求される⇒加害者の行為と損害発生との間の因果関係は、必ず、権利・法益侵害を経由
②権利・法益侵害要件に対する関係で、今日、損害発生要件は独自の成立要件としての意義を失っている

責任成立要件上、因果関係要件の終点としては、
権利・法益侵害(一連の加害過程で最初に生じた第一次損害であるそれ)
  ■(ウ) 加害段階における類型化論から 
    ①直接侵害(侵害段階)型:
権利・法益を直接侵害する行為(直接侵害行為)を捉えて不法行為責任を追及。

権利・法益侵害要件と別個に因果関係要件を立てることができない。
(因果関係の始点となる権利・法益侵害行為と終点となる第一次侵害とは、ともに、直接侵害行為の構成要素(原因行為の側面と行為結果の側面)であり、かつ、両者が表裏一体。
    ②間接侵害(危殆化段階)型:
権利・法益を危殆化する行為(危殆化段階の行為)を捉えて不法行為責任を追及
⇒因果関係要件として、加害者の危殆化行為(行為義務違反の意味での過失行為)と権利・法益侵害(第一次侵害)との因果関係が要求。 
  ◇(3) 因果関係の総体と因果関係要件(p355)
  ■(ア) 因果的展開の広がり 
    加害者の過失行為に始まる因果関係それ自体は、権利・法益侵害(例えば身体侵害)で終わるものではなく、権利・法益侵害をこえてさらに展開し、個々の損害項目(入院治療費、逸失利益など)にまで至る。
また、権利・法益侵害は、複数のものが順次連鎖する場合があり、最初に生じた権利・法益侵害(第一次侵害)から因果的に波及してさらなる権利・法益侵害(後続侵害)が生じることになる(ex.事故による複雑骨折⇒医療ミス⇒生命侵害)
権利・法益侵害(第一次侵害)を終点とする因果関係要件は、因果関係判断の一部を取り出して成立要件論に位置付けるものにとどまり、
因果関係判断の残りの部分は、効果論(損害賠償の範囲の判断など)で行われる。
  ■(イ) 因果関係の区分 
  □(a) 責任成立・責任範囲の因果関係 
    不法行為責任における因果関係判断:
①責任成立(責任設定)(=法律要件=最初の「によって」)の因果関係と
②責任範囲(責任充足)(=法律効果=2番目の「によって」)の因果関係
とに区分。
    民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
  ◎(i) 第一次侵害による区分 
    加害者の行為から第一次侵害まで:責任成立の因果関係
第一次侵害から後続侵害や各種の損害:責任範囲の因果関係

第一次侵害の前後で責任画定基準が異なる。
  ◎(ii) 権利・法益侵害と損害(損害項目)の区分
    権利・法益侵害(第一次侵害であれ後続侵害であれ)まで:責任成立の因果関係
権利侵害から損害(損害項目)まで:責任範囲の因果関係

後者が損害項目や損害額の決定など損害賠償それ自体の問題であることを踏まえている。
  □(b) 責任判断の3段階から(p357)
    責任判断を、①成立、②範囲、③内容の3段階に区分する立場
⇒因果関係についても3区分がふさわしい。
①加害者の行為から第一次侵害までの因果関係(責任成立の因果関係)
②第一次侵害から後続侵害までの因果関係(責任範囲の因果関係)
③各々の権利・法益侵害から生じた損害(損害項目)(責任内容の判断)
  □(c) 因果関係要件の位置づけ
    加害者の行為から権利・法益侵害(第一次侵害)までの因果関係について判断する因果関係要件は、因果関係の2区分jないし3区分のうち、責任成立の因果関係を取り上げる。
     
  ◇(4) 相当因果関係と因果関係要件(p357)
  ■(ア) 相当因果関係の三分論 
    不法行為責任における因果関係の判断(成立要件としての因果関係に限らず、効果論における因果関係の判断を含む)にあたり、
判例:相当因果関係の有無を吟味。
    平井:
①事実的因果関係の判断(加害者の行為と損害(平井は死傷などの事実を想定≒権利・法益侵害))⇒事実認定の問題
②保護範囲の判断⇒どの範囲の損害までを賠償すべきかについての規範的判断
③損害の金銭的評価⇒裁判官の創造的・裁量的判断
法的性質の面でも相違:
①事実的因果関係の判断:加害者の行為と損害(内実からすれば権利・法益侵害)との間の因果関係を、事実の平面で確定するもの。
②保護範囲の判断:事実的因果関係がある損害のうち、加害者がどの範囲までを賠償しなければならないか(賠償すべき損害の範囲)を画定
③損害の金銭的評価:金銭賠償のため、保護範囲内にあるとされた損害を金銭に評価する作業

相当因果関係の三分論は、
各段階の判断を法律構成上も明確に区別して位置づけること、および
因果関係要件(法技術的意味での因果関係概念)を事実的因果関係として構成すること
を提唱。
   
  ■(イ) 因果関係要件の構成
    上記三分論は、学説上広い支持
⇒本書でも、因果関係要件には、もっぱら①事実的因果関係の判断を位置づける。

②の保護範囲の判断:
むしろ後続侵害(責任範囲の因果関係)との関連で重要な問題⇒損害賠償の範囲(CⅢ3)で論じる。

③損害の金銭的評価の問題:CⅣ3以下で検討。
     
  ◆2 事実的因果関係 
  ◇(1) 総説 
    加害者の行為(過失行為ないし権利・法益侵害行為)と権利・法益侵害(第一次侵害)との間の事実的因果関係を判断内容とする。
事実的因果関係は行為への結果帰属の基盤となるべきものであり、この点で、因果関係要件(事実的因果関係)の判断は、責任の基本的判断にあたる。
  ◇(2) 条件公式(「あれなければこれなし」公式) 
  ■(ア) 条件公式による因果関係判断
    事実的因果関係:
事実の平面で「特定の事実が特定の結果発生を招来した関係」をいう(最高裁、東大ルンバール事件)
    条件公式(「あれなければこれなし」の公式)によって判断。
当該の行為がなかったならば、当該の(当該の時点・場所・態様での)結果が発生しなかったであろう場合には、当該行為と当該結果との間に事実的因果関係が存在。
    条件公式が指示される理由:


③条件公式によれば、ある事実が結果発生の必要条件の1つとなっていれば因果関係が肯定され、それが唯一の原因であったことは確定されなくてよい。
  ■(イ) 複数原因の競合と条件公式 
    複数の原因が競合して結果が発生した場面:
条件公式⇒必要条件にすぎない原因について因果関係を認めることを可能にする。
but
条件公式による判断に例外を認めざるを得ない場合が登場。
    ①A・Bいずれも、それ単独では当該結果を生じさせない場合(必要的競合:A<P、B<P、A+B>Pの場合):
条件公式の適用で肯定。
    ②A・Bいずれも、それ単独で当該結果を生じさせうる場合(重畳的競合:A>P、B>Pの場合):
条件公式を機械的に適用⇒A・Bいずれも事実的因果関係を否定。
but
単独であれば事実的因果関係が認められることとの均衡(あるいは、より排出量が少ない①の場合との均衡)⇒条件公式の例外として事実的因果関係が肯定。
    ③A単独でも当該結果が生じるが、B単独では生じない場合(A>P、B<Pの場合):
条件公式⇒Bの事実的因果関係が否定
but
条件公式の例外として事実的因果関係が肯定。
  ◇(3) 外界変化の因果的連鎖 
  ■(ア) 外界変化の因果的連鎖と因果法則 
    条件公式の適用・その例外という説明に満足せず、因果関係の内実をさらに追究する立場:
事実的因果関係の本質は、
①当該の原因行為から当該結果に至る諸事情の継起(外界変化の連鎖)と
②そこにおける法則的連関(因果関係)
とに存する。

事実的因果関係の存否は、現実に生じた事象経過を解明し、それを因果法則と照合する方法によって確定するほかない。
  ■(イ) 行為への結果帰属の観点から 
    外界変化の因果的連鎖をもって因果関係要件の内容(事実的因果関係)とする理解は、
行為への結果帰属という観点からも適合的。
    外界に生起した事象(ある結果)を人(行為者)の意思の所産とみて、ある行為に帰属させるためには、外界を支配操縦する意思の力が当該事象にまで及んでいなければならない。
行為から結果に至る外界変化の因果的連鎖は、まさに、意思的行為による外界への支配操縦を当該結果まで媒介⇒そのような関係に基づき、当該結果を人の行為に帰属させることができる。
     
  ◇(4) 割合的(部分的)因果関係論 
     
     
  ◆3 因果関係の特殊類型 
  ◇(1) 総説 
    外界変化の因果的連鎖という意味での因果関係は、全ての類型にあてはまるものではない。
①加害者の行為が不作為による場合
②因果経過に人の意思決定が介在した場合

その構造上、加害者の行為と結果との間に外界変化の因果的連鎖が存在しない
⇒因果関係要件の下でいかなる関係を吟味すべきか問題となる。
因果関係要件が行為への結果帰属の基盤となるべきもの⇒端的に、行為への結果帰属を基礎付けるような関係を問うべき。
     
  ◇(2) 不作為不法行為の因果関係 
  ■(ア) 従来の議論状況
  □(a) 学説の理解 
  □(b) 判例による定式化 
    最高裁H11.2.25:
「医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係」を
「医師の右不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと、換言すると医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうこと」として定式化。
「患者が右時点の後いかほどの期間生存し得たかは、主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき事由であり、前記因果関係の存否に関する判断を直ちに左右するものではない」

診療行為の不作為がなければ当該時点での患者の死亡という結果が生じなかったという「あれなければこれなし」の関係を言い換えたもの。
  ■(イ) 不作為への結果帰属の観点から(私見) 
  □(a) 条件関係と結果帰属 
    前述(1)の観点⇒不作為不法行為における因果関係判断は、不作為への結果帰属の問題として把握すべき。
  □(b) 因果系列における支配操縦力 
    不作為の不法行為の加害構造
⇒ここでの結果帰属は、何らかの原因(自然力、第三者の行為、被害者の行為など)から権利・法益侵害に向かう因果系列を、当該因果系列を放置する不作為(作為義務違反)に帰属させるというかたちになり、このような結果帰属の成否こそが吟味されなければならない。

そのような因果系列の進行に対して不作為による支配操縦(義務内容たる作為における支配操縦力)が及ぶか否か、すなわち、仮に作為義務を遵守して介入していれば当該因果系列の進行を阻止することができたか否かを、判断内容とすべき。

医師の不作為責任の例:
適切な診療行為が行なわれていれば患者が当該疾病により死亡しないで健康を回復したであろう場合にはじめて、生命侵害についての因果関係が肯定される。
     
     
  ◇(3) 心理的因果関係(p363) 
    因果関係要件の内容は、因果経過に人の意思決定が介在する類型でも問題。
  ■(ア) 人の意思決定が介在した因果関係 (p363)
    ある者Yの言動が契機となって第三者Aや被害者Xがある行為を行い、当該行為がXの権利・法益の侵害をもたらす(ex.最高裁昭和47.5.30は、バイクが突進してきたのに驚いた歩行者がその場に転倒したが、バイクとの接触はなかった事案で、相当因果関係を認めた):
外界変化ではなく内心の意思決定が問題となり、また、人の意思決定には因果法則があてはまらない⇒外界変化の因果的連鎖を論じることができない。

行為への結果帰属の観点からは、Yの行為が動機となってA・Xが当該行為を決意したという内心の意思形成過程をもって因果関係要件の内容としてよい。

そのような関係があれば、Yの行為による支配従属がA・Xの行為にまで及ぶといえ、結果帰属の基盤となり得る
  ■(イ) 違法な意思決定が介在した場合(p364) 
    A・Xが自由意思によって違法な行為を決意した場合:
一般に、その行為は、もっぱら本件A・Xの意思の所産というべきであって、Yの行為への結果帰属を認めがたい。

違法な意思決定が介在した場合では、違法な行為の容易化や意思決定の自由の制約といった特別の事情が付け加わった場合にはじめて因果関係要件を肯定することができる。
ex.
①Yが誤った記載内容の証券を発行したところ、Aがそれを悪用してXから金員を騙取した事例
②交通事故の被害者Xが意識不明で倒れている間にAが財布を盗取した事例
③交通事故の被害者Xがうつ病に罹患の上で自殺した事例

過失による幇助(709条または719条2項)または後続侵害の帰責の成否が問題
事例①は過失要件または幇助要件の観点から
事例②③は高められた危険の現実化基準の観点からも取り上げられることができる。
違法な意思決定が介在した場面での因果関係要件は、結果帰属に関わる他の要件(過失・幇助要件や高められた危険の現実化基準)と同時・一体的に判断すべき。
   
  ◆4 因果関係の特則など 
  ◇(1) 719条1項前段・後段 
  ◇(2) 権利・法益の拡大による要件の切下げ 
    医療過誤や公害・環境侵害事件との関連では、因果関係の終点の前倒しによって因果関係要件を切り下げられる構成もみられる。
生命・身体侵害より前段階で権利・法益の侵害を捉える⇒因果関係要件として生命・身体侵害までの事実的因果関係を確定することは必要でなくなる。
   
  ■(ア) 医師の不作為との因果関係(p365) 
    医療過誤との関係では、医師の不作為と患者の生命侵害(死亡)との間の因果関係が確定されない⇒延命利益または生存の相当程度の可能性の侵害において権利・法益侵害を捉えて医師の不作為不法行為責任を追及する余地。 
適切な診療行為が行われていれば患者が健康を回復したでろうという関係が証明されない場合にも、
患者が一定期間延命されたという関係
⇒延命利益侵害の不法行為が成立。
    「医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうこと」が証明されない場合にも、
「医師がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在」が認められれば、生存の相当程度の可能性を侵害する不法行為が成立。(最高裁H12.9.22)
  ■(イ) 不可量物の作用との因果関係 
    公害・環境侵害事件との関係:
騒音・排ガスの作用との因果関係のある身体・健康侵害の発生が証明されない

生活妨害(生活利益の侵害)または平穏生活権の侵害において権利・法益侵害を捉えて、発生源の不法行為責任を追及することができる。
     
  ◆5 故意・過失と権利・法益侵害との関連性 
  ◇(1) 因果関係要件の関連問題 
    過失の客観化以前には、成立要件上、故意・過失(要件)と権利・法益侵害(要件)との間の関連性を特に取り上げて判断するまでもなかった。
←故意・過失は、そもそも、権利侵害という結果の発生に関連付けられていた。
but
過失を行為義務違反とみる現代的理解
⇒過失(行為義務・その違反)と権利・法益侵害との間の対応関係・関連性を特に吟味すべき必要が生じる。
    第一次侵害としての権利・法益侵害(責任成立の因果関係)を念頭に、この問題について説明する。
後続侵害についてはCⅢ
  ◇(2) 結果回避義務と権利・法益侵害との一般的対応関係 
  ■(ア) 相当因果関係(判例)
    加害者が違反した結果回避義務と権利・法益侵害(第一次侵害としてのそれ)との間には、まず、一般的な対応関係・関連性がなければならない。
    判例において、この点の吟味は、相当因果関係を内容とする因果関係要件が担ってきた。
最高裁昭和43.6.27:
偽造の登記済証を用いて無効の所有権移転登記⇒これを信頼したXが登記名義人と取引(国賠法1条により国の責任が追及)

登記官吏の違法行為(過失行為)とXの損害との間には「通常生ずべき相当因果関係がある」とした。

この判断の内実は、義務規範の保護目的(⇒(イ))の観点にも沿う。
結果回避義務と権利・法益侵害との間の関連性が問題となった判決には、結果発生の予見可能性の有無をもって相当因果関係を肯定・否定したものも少なくない。
(肯定:クラッチ洗浄行為と狼狽して投げ捨てたガソリン缶の炎上による火傷、肯定:二輪車の右折と後続車の暴走衝突)(否定:教師による違法な懲戒と生徒の自殺)
  ■(イ) 義務規範の保護目的(学説) 
    近年の学説:
相当因果関係の三分論

結果回避義務と権利・法益侵害との間の一般的な対応関係の判断を、因果関係要件ではなく、義務規範の保護目的の問題とする。

義務範囲の保護目的の判断では、加害者が違反した義務規範(結果回避義務)が、当該の権利・法益侵害の阻止を含むかが、吟味される。
保護目的の範囲は広く解されるが、例えば、当該の義務の違反とは無関係な別の原因による事故は保護目的の範囲外となる(ex.クラクションの故障した自動車を運転中に事故を起こしたが、事故の原因は速度超過にあった)。
   
  ◇(3) 結果回避義務違反と権利・法益侵害との間の個別具体的関連性 
  ■(ア) 結果回避可能性(判例・通説) 
    結果回避義務違反(過失)と権利・法益侵害(第一次侵害としてのそれ)との間には、さらに、当該事案の下での個別具体的関連性が要求される。
    ex.速度超過で走行中の自動車が急に飛び出した子どもを轢いたが、仮に制限速度を遵守していても子どもを避けることができなかった事例。
判例:
仮に結果回避義務を遵守していれば当該の権利・法益侵害が回避されたであろうことを要求する立場。
(刑事の過失犯に関する判例は、明確に、結果回避可能性を要求(最高裁H15.1.24))
この問題を論じる学説も、過失(結果回避義務違反)と権利・法益侵害との間の因果関係(条件関係)として、当該状況の下での結果回避義務を遵守していれうば結果が発生しなかったことを要求する。
  ■(イ) 義務違反がはらむ危険の現実化(私見) (p367)
    義務規範の保護目的

結果回避義務違反(過失)と権利・法益侵害との間の個別具体的関連性としては、むしろ、当該の事案で、当該の結果回避義務違反のはらむ危険性(結果回避義務に違反する部分の危険性を指す。結果回避義務が制御しようとしてのはこの部分の危険性である)が当該の権利・法益侵害の発生において現実化したという関係を、要求すべき。
作為による間接侵害型の不法行為に関する限り
危殆化禁止規範違反(過失)と権利・法益侵害との間の個別具体的関連性としては、
危殆化禁止規範の違反(それがはらむ危険性)が当該の結果発生に寄与したという関係があれば足り、危殆化禁止規範の遵守によって結果が回避されたという関係までは必要ない。
     
  ★C 不法行為の効果(p369)
  ☆Ⅰ 序(p370)
  ☆Ⅱ 損害の意義(p375) 
  ◆1 損害論と不法行為の要件・効果論 
  (a) 
  (b)
  (c)
    A:差額説:加害行為によって被った不利益を金銭的な差額として表現したものを損害と捉える考え方。
B:損害事実説:加害行為によって被った不利益として主張された事実を損害として捉える考え方。
    A:差額説⇒被害者が負傷して後遺症が残っても、①後遺症という不利益が収入の減少という金銭的な差額として現れなければ、少なくとも後遺症についての財産的損害は発生していないことになる(最高裁昭和42.11.10)。
B:損害事実説⇒②後遺症という事実が損害として認められ、あとは、これをどのように金銭的評価(損害額の算定)jをするかの問題として扱われる。
判例は、①を基本としつつ、②寄りの判断をするものもある。
    「因果関係の立証」や「損害額の算定」に関して:
医療過誤と死亡損害との「因果関係」の証明については、
①医療事故がなければ相当程度の期間は延命できなかったことを立証しなければ死亡損害との因果菅家の立証にならない
②医療過誤がなければその時点では死亡しなかったことの立証をすれば足りて、どの程度の期間延命できたかは「損害の額の算定」(損害の金銭的評価)で考慮される問題にすぎない。

差額説⇒①に、損害事実説⇒②に、結び付きやすい。
  ◆2 損害と損害項目
  ◇(1) 損害・損害項目と賠償範囲・損害額の算定 
  ■(ア) 損害範囲と損害額の算定の区別・・・その1 
  □(a) 
    判例:
①交通事故と自殺よる「死亡」という最上位ないし抽象的な「損害」との相当因果関係を問題とする一方、
②死亡による仏壇購入費用等の支出(最高裁昭和44.2.28)や、負傷による近親者の帰国費用の支出(最高裁昭和49.4.25)といった、下位ないし具体的な「損害項目」(個別の金銭的差額)との「相当因果関係」も問題として、
賠償範囲とされた「損害項目」について、「損害額の算定」をしている。
  □(b)  
    平井説:
死亡や負傷という最上位の「損害」のみが、賠償範囲(義務射程)の判断の対象となって、
下位の「損害項目」については、「損害の金銭的評価」の一資料をなすにすぎない。
    but
判例の差額説を批判し、損害事実説寄りの立場をとる論者においても、「損害項目」を「賠償範囲の問題」として、支出の「必要性」ないし「不可避性」など、(「損害」の賠償範囲とは別の)「損害項目」特有の賠償範囲の基準を提示する見解も有力。
  ■(イ) 賠償範囲と損害額の算定の区別・・・その2 
  □(a) 
    判例:滅失した中古船の交換価格が口頭弁論終結時までに変動した場合の損害額について、高騰時に転売できた特別事情の予見可能性があったかどうかという、「金銭的差額」との「相当因果関係」の問題としている。
近時の判例:
有価証券報告書に虚偽記載がされた株式の購入について、「取得したこと自体」を「損害の発生」の問題とするかのような(損害事実説寄りの)判示をしつつ、
「損害額の算定」に関しては、「金銭的差額」との「相当因果関係」を問題とする差額説の立場を堅持。
  □(b)  
    損害事実説をとる平井説:
①中古船が滅失したという「事実」が「損害」であって、
②その事実が賠償範囲と判断された後は、
③裁判官がどの時点の市場価格を選択するかという「損害の金銭的評価」の基準時の問題。 
  ■(ウ) 賠償範囲・損害額の算定の区別と損害賠償理論 
    どこまでを①「賠償の範囲」の問題とし、
どこからを②「損害額の範囲(損害の金銭的評価)」の問題とするかは、
次のような差異をもたらす。
    ①は加害行為への帰責を要し、制限賠償主義の考え方がとられる。
②は加害行為への(直接的な)帰責を要せず「不法行為がなかったときの状態に回復させる」(最高裁H9.7.11)という原状回復の考え方が参照される。
   
  ◇(2) 損害項目と個別損害項目積み上げ方式 
    差額説の判例:賠償範囲とされた損害項目ごとにその額を算定し、それを積算することで、損害全体の損害額を算定する「個別損害項目積み上げ方式」
    損害事実説(平井説):「損害」の金銭的評価の一資料として「損害項目」が参照される。
     
  ◇(3) 損害の種類と損害小目 
  □(a) 
  □(b) 
    「財産的損害」

「財産以外の損害(非財産的損害)」(710条)(ex.入院慰謝料、後遺障害慰謝料)
    民法 第710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
    「積極的損害」(ex.治療費、付添いのための近親者の交通費、後遺障害が残った場合の介護費・住宅改造費など)

「消極的損害(逸失利益)」(ex.休業損害、後遺障害による逸失利益など)
  □(c) 
    710条にいう「財産以外の損害」には、精神的苦痛以外の「無形の損害」が含まれる⇒法人の名誉毀損に対する損害賠償請求を認めるのが判例(最高裁昭和39.1.28)。
    「無形の損害」には、実質的には財産的損害に相当するものが含まれている。
but
精神的損害と同様に、損害額の算定根拠を主張立証することができないために710条の「財産以外の損害」に位置付けられた。

710条の「財産以外の損害」の法技術的な意味は(財産的損害は損害額の算定の具体的根拠を示す必要があるのに対し)損害額の主張・認定に当たって算定の具体的根拠を示す必要がない、という点に求めるべき。
(平井は、損害事実説の下、財産的損害の金銭的評価についても裁判官の裁量を広く認める⇒上記区別にあまり意味を認めない。) 
     
  ☆Ⅲ 損害賠償の範囲(p379) 
  ◆1 序
  ■(ア) 「損害賠償の範囲」と「事実的因果関係」・「損害の金銭的評価」との区別 
  □(a)
    平井説の登場

相当因果関係は
①加害行為と損害発生との「事実的因果関係」の問題
②それが認められた損害のどこまでを賠償の対象にするのかの「損害賠償の範囲(ないし保護範囲・賠償範囲)」の問題
③賠償範囲とされた損害をどのように金銭に評価するのかの「損害の金銭的評価(損害額の算定)」の問題
に区別。
but
判例には、近時においても、②③を区別せずに、損害額算定で金銭的差額との相当因果関係を問題とする判断が見られる。
   
  □(b) 
    平井説(損害事実説)では、
②の賠償範囲は「損害」についての問題となり、「損害項目」は③の「損害の金銭的評価」の問題を判断する一資料にすぎない。
but
判例は、「損害」のみならず「損害項目」についても、②の問題に含めており、学説でもそのような立場が少なくない。
     
  ■(イ) 「損害賠償の範囲」の問題
    加害行為と事実的因果関係(あれなければこれなしの関係)を有する損害は無限に広がりうる⇒制限賠償主義の下加害者に責任を負わせるべき損害の範囲を規範的判断で限定する必要がある。

①いかなる基準で賠償範囲を制限するか

それ以外にも
②加害者が故意・過失によって権利法益を侵害した直接の被害者以外にも、損害が拡大する場合
③「損害賠償の範囲」と「損害の金銭的評価」との関係
     
  ◆2 相当因果関係=416条説の形成
  ◇(1) 相当因果関係=416条説(鳩山説)登場前 
  ■(ア) 起草者の見解 
  ■(イ) 初期の学説 
     
  ◇(2)  相当因果関係=416条説(鳩山説)登場後
  ■(ア) 鳩山説 
    ①416条を相当因果関係を規定したものと位置づけ
②不法行為には特に(債務不履行のような)規定はないものの、「理論上両者が範囲を異にするの理」はなく、「不法行為についても限なく因果関係の連鎖を認むるは法典の趣旨に反する」
③債務不履行・不法行為とも相当因果関係=416条によるべきものとした
  ■(イ) 富喜丸事件判決 
    ①不法行為によって生ずる損害は「自然的因果関係より論する」ときは「責任の範囲広きに過ぎ」「無限の責任に服せしむるに至り」「吾人の共同生活に適せず」
②「共同生活の関係」において加害者の責任を問うに当たっては、「加害者をして一般的に観察して相当と認め得る範囲においてのみその責に任せしめ」「其の以外において責任を負わしめざるをもって法理に合し」「民法709条以下の規定の精神に適したるものと解す」
③「民法第416条の規定は」「共同生活の関係において人の行為とその結果との間に存する相当因果関係の範囲を明らかにしたるものに過ぎずして」「ひとり債務不履行の場合にのみ限定せらるべきものにあらざるをもって」「不法行為に基づく損害賠償の範囲を定むるについても同条の規定を類推してその因果律を定むべき」である。
but
判決の争点は、中間最高価格の問題⇒平井節の整理では金銭的評価の問題となる。
  ■(ウ) 相当因果関係=416条説の通説化(p383)
  □(a) 
  □(b) 
    我妻:
①因果関係ある損害、すなわち、不法行為なかりせばしょうじなかったであろう関係に立つ損害は、意外な範囲に及ぶことが少なくなく、その全損害を賠償せしむることは甚だしく公平に反する
②実際上の因果の進展を一定の法律理想に従って切断しなければならず、損害賠償制度の理想たる衡平の概念を標準として右の切断を行うべきである
③我々は社会生活において一定の事実あれば通常生ずるであろうと考えられる結果を予想して行動し、その一定の事実とういのは我々の知り又は知りうべき事情を伴った一定の事実であるので、これを前提に各人の義務を認めることが最も公平に適する
④相当因果関係の内容を以上のように解するときは、第416条と同一に帰着する

相当因果関係=416条説を指示。
~損害の公平な分担」の見地から相当因果関係による限定を基礎付けている。
  □(c) 
     
  ◆3 相当因果関係説への批判と近時の学説
  ◇(1) 平井説の登場 
  ■(ア) 北川説の影響 
    北川:
①ドイツの損害賠償理論は、裁判官による損害賠償決定の自由裁量を狭め法的安定性を確保する目的の下、「責任原因」の存否が確定されると因果関係さえあればその有責性の程度と峻別された賠償義務を問うという「完全賠償主義」に立っていた
②相当因果関係理論は、上記をサポートする機能を有していても、賠償を制限する機能は十分に果たさない⇒「規範の保護目的」や「違法性関連」の理論のように、相当因果関係理論が捨象してしまった「責任原因」の分析へ向かう方向が認められる。
  ■(イ) 平井説(p385)
    ①ドイツの「完全賠償主義」=「責任原因と損害賠償の範囲との切断」を支えるために、相当因果関係という「特殊=ドイツ法的な法技術」が生じた。
②成立要件である責任設定因果関係と、範囲に関する責任充足因果関係との区別は、後者には「過責」による制限が及ばないとする点に意味があるのであり、「完全賠償主義」=「責任原因と損害賠償範囲との切断」から帰結される。
他方
③416条の判例上の実際の機能

1項は予見可能性の主張を必要としない場合を通常損害と法律構成したもので、予見可能性の立証責任を権原下訴訟法的な意味を有するにとどまり、同条の実体法的な意味は全体として予見可能性の限度で賠償範囲を制限したものということに尽きる
④416条が損害の予見可能性を問題⇒いかなる態様でその損害が生じたかという責任原因の探求がなされなければならない
⑤それはまさに、ドイツ完全賠償主義が否定した「責任原因と賠償範囲との直結」であり、そのような「制限賠償主義」をとる日本では、相当因果関係説をとることや責任設定因果関係と責任充足因果関係との区別をすることの理論的意味はない。
⑥従来の相当因果関係概念
vs.「事実的因果関係」「保護範囲」「金銭的評価」の3つの問題を明確に区別していない。
⑦判例は責任原因と賠償範囲とを直結さえせている(債務不履行では416条につき債務者の予見可能性が問題とされているのに対し、不法行為では当該加害者の予見可能性ではなく通常人の予見可能性が問題とされていることが多い)ものの、予見可能性が賠償範囲の画定基準としてその機能を十分に果たしていない。
⑧過失不法行為の保護範囲については、過失の判断基準としての行為義務(損害回避義務)の及ぶ範囲(「義務射程」)の損害に限られるべき。
     
  ◇(2) 平井説以後の状況(p386) 
  ■(ア) 概要 
    不法行為の賠償範囲については
A:なお、416条を類推する説
B:危険性関連を基本にして新たな基準を提示する説
C:義務射程説や危険性関連説による新たな判断基準の提示に懐疑的な説
D:相当因果関係概念の有用性を再評価しつつ416条の類推適用には反対する説
  ■(イ) 危険性関連を基本とする説(p387)
  □(a) 石田説
    「損害」=「権利侵害」=「法的保護に値する利益の侵害」と定義するとともに、
第一次損害(権利侵害)につき故意・過失を有していれば不法行為は「成立」し(責任設定因果関係の問題)、
後続損害(権利侵害)については故意・過失の対象とならない。
後続損害については、第一次損害と「危険性関連」を有するもののみが「賠償責任」に入り(責任充足因果関係の問題)、偶然的な結びつきしかない場合や被害者の危険な行為が関与していたときは賠償の対象とならない。
この判断構造を416条に盛り込むことは可能⇒同条を類推適用
  □(b) 前田説
    義務射程説は第一次的な法益侵害ないし損害については有力だが、後続するものについては疑問。
第一次的な権利侵害については義務射程説と同様に考えるが、後続の権利侵害についえては「危険性関連」で判断する点で、石田説と共通の発想。
  □(c) 四宮説(p388)
    第一次権利侵害についてのみ、義務射程と同様の「規範の保護目的」の範囲(義務規範の範囲)であることを要して、後続侵害については危険性関連で判断。
危険性関連の判断に当たり、「特別の危険」「一般生活上の危険」かを区別して前者の実現についてこれを肯定
損害を
①権利侵害と不可分の関係にある「侵害損害」(物の毀損、死傷(さらに医療費・逸失利益・精神的損害などの損害項目に分かれる)など)
②権利侵害が被害者の総財産に波及した効果にすぎない「結果損害」(転売利益・家族の旅費・弁護士費用等)、
第一次侵害が原因となって同一被害者または第三者に生じた更なる権利侵害である「後続侵害」とに分類。
①には故意・過失が及ぶ(義務射程の範囲内である)ことが必要
②には「確実性」「必要性」等の要件が必要
③には危険関連が必要
後続の権利侵害は、
前田説では、第一次的な権利侵害との危険性関連による帰責の問題(成立の問題)と位置付けられるのに対し、
四宮説では、直接の故意・過失を欠いたまま帰責される点においては責任充足的(範囲の問題)であるとしつつ、危険性関連による違法性判断を受ける点においては責任設定的(成立の問題)であると説明。
  □(d)
    危険性関連を基本とする説は、近時においても有力な支持を得ている(潮見等)。

債権法改正に向けた試案において
「契約上の債務不履行以外の理由による損害賠償の場合には、責任を基礎付ける規範が保護の対象としている損害およびその損害の相当の結果として生じた損害が賠償される」という提案。
改正案では採用されなかったが、
416条2項の「予見することができた」という現行規定が「予見すべきであった」という規範的概念に改められている。
  ■(ウ) 義務射程説・危険性関連説による新たな判断基準の提示に懐疑的な説
    義務射程説・危険性関連説に対し、新たな抽象的な基準の提示に懐疑的であり、個別の公平判断によらざるを得ない面を強調。
  □(a) 森島
    義務射程説
vs.
予想外の経路をたどって予想外の主体に損害が生じた場合や、
予想外の異主体に損害が波及した場合は、
その主体との関係で損害回避義務を負っていたかを問題とする限りでは正しい。
but
同一主体に予想外の損害が拡大した場合は問題の有効な解決ができない。
平井説
vs.
賠償範囲の問題の多くが裁判官の自由裁量の金銭的評価の問題に放り出されてしまう。
危険性関連説
vs.
①同一主体に損害が拡大した場合を主な対象とするが、異主体に損害が波及した場合も同一の危険性関連の基準による点
②第一次侵害と後続侵害とがはっきり区別できない点
③危険性関連という概念が説得の道具としてはともかく、概念それ自体から結論は直接的には出てこない点
を批判。
  □(b) 加藤 
     
  ■(エ) 相当因果関係説を再評価する説 
  □(a) 
    澤井のいう相当因果関係説ないし「相当性説」:
完全賠償主義に立ちつつその不公正(不公平)を是正するために、損害項目や賠償額について、以下の3つの判断を行う。
第1:損害項目について、
事実的因果関係(あれなければこれなし)では捨象されてしまう、相当因果関係における「反復性」・「蓋然性」の要件により、偶然(ありえない異常な出来事)を排除する。
第2:第1をクリアした損害項目について、「相当性」による検証を加えるが、その重要な準則として、「規範が抑止しようとした特別の危険性の実現」であるか、「単なる日常的危険の実現」であるかによる点は、四宮節と類似。
第3:上記の検証を経た損害項目の賠償額についても、「相当性」による検証を加えるが、「確実性」・「必要性」などで判断点は、前田説・四宮節と類似。
  □(b) 澤井 
    相当因果関係説をとる大きな実益として、事実的因果関係(あれなければこれなし)と賠償範囲の問題を峻別しきれない場合もあり、相当因果関係をもって因果関係の濃淡と賠償範囲を一体として公平判断する必要もあることを強調。㉙判例。
     
  ◇(3) 若干の検討 
  □(a) 
    平井説の問題提起は画期的であった(事実的因果関係・賠償範囲・金銭的評価を区別する判断枠組みが大方の支持を受けた)が、賠償範囲の義務射程説について、学説の支持はあまり得なかった。

①制限賠償主義に立つからといって、平井説のいうように責任原因(過失の判断基準たる行為義務)と賠償範囲とを結合させなければならない訳ではなく、制限する基準を責任原因以外にも求め得る。
平井説の抽象的・包括的な損害概念を前提とすれば、裁判官の裁量としての損害の金銭的評価に多くを任せることになる分、義務射程による賠償範囲の画定には余り困難が生じないが、
裁判実務の損害概念を前提とすれば、個別具体的な損害項目について賠償範囲の判断をすることになり、そこまで個別具体的に義務射程を観念することに困難が生じる。
③過失判断が賠償範囲の判断に直結することによる過失要件の負担過重
事前の視点からの行為規範を踏まえた過失(行為義務)の判断と、事後的な視点に立った評価規範の賠償範囲の判断は、本来、性質を異にする判断であり、特に交通事故の被害者の自殺などの後続侵害について問題が顕在化する。
     
  ◆4 判例・裁判例の動向(p392)
  ◇(1) 序 
    判例・裁判例には、
①416条の「通常」や、「特別事情」の「予見」(可能性)などを判断枠組みで用いたり、富喜丸事件判決を引用するなど、相当因果関係=416条説をとることが明確なものもある(「特別事情」の「予見」(可能性)を問題とするものは少ない)一方、
②「特別事情」ではなく、結果についての予見(可能性)を問題としたり、
③単に「相当因果関係」の有無を問題とするだけで、「通常」や「予見」(可能性)を特に問題としないものが見られる。
  ◇(2) 相当因果関係=416条説を比較的明確にとるもの 
  ■(ア) 概要 
    最高裁の不法行為判決で、相当因果関係=416条説をとっていることが判決文中比較的明らかなもの。
①富喜丸事件判決を引用⇒滅失当時の交換価値で評価すべき
②貨物自動車の休車による損害=通常損害
③クラッチの洗浄中に引火炎上したガソリン缶を投げ捨てて作業を補助していた者に大火傷を負わせて死亡させた⇒予見可能性のある損害
④不法伐採による損害額⇒適正伐採時期における収穫を予見できたとしてその時期の価額で算定
⑤登記官の過失で無権利の登記名義人と取引きして代金を支払った損害=通常損害
⑥弁護士への委任を通常として弁護士費用の相当因果関係を肯定
⑦仏壇購入費等:相当な範囲で通常損害
⑧不当仮処分による逸失利益について、予見可能性のない特別事情による損害
⑨管理状況から窃盗が通常とはいえない自動車による事故について、相当因果関係を否定
⑩負傷被害者の近親者の帰国費用=通常損害
⑪無効な農地買収・売渡処分により農地を時効取得されて所有権を喪失した者の損害⇒時効完成時の価格=通常損害
⑫不当仮差押えにより供託した仮差押解放金の借入金の通常予測しうる範囲内の利息と自己資金の法定利息=通常損害
⑬西武鉄道株の有価証券報告書の虚偽記載による株主の損害で、ろうばい売りの集中による過剰な下落による金銭的差額=虚偽記載判明から「通常生ずることが予想される事態」⇒相当因果関係肯定
   
  ■(イ) 個別の検討 
    「特別事情」の予見可能性を明確に問題とするものは少ない。
損害項目の金銭的評価に関するもの:
①富喜丸事件判決を引用⇒滅失当時の交換価値で評価すべき
④不法伐採による損害額⇒適正伐採時期における収穫を予見できたとしてその時期の価額で算定
⑪無効な農地買収・売渡処分により農地を時効取得されて所有権を喪失した者の損害⇒時効完成時の価格=通常損害
⑬西武鉄道株の有価証券報告書の虚偽記載による株主の損害で、ろうばい売りの集中による過剰な下落による金銭的差額=虚偽記載判明から「通常生ずることが予想される事態」⇒相当因果関係肯定
損害項目の賠償範囲に関するもの:
②貨物自動車の休車による損害=通常損害
⑤登記官の過失で無権利の登記名義人と取引きして代金を支払った損害=通常損害
⑥弁護士への委任を通常として弁護士費用の相当因果関係を肯定
⑦仏壇購入費等:相当な範囲で通常損害
⑧不当仮処分による逸失利益について、予見可能性のない特別事情による損害
⑩負傷被害者の近親者の帰国費用=通常損害
⑫不当仮差押えにより供託した仮差押解放金の借入金の通常予測しうる範囲内の利息と自己資金の法定利息=通常損害
損害の賠償範囲に関するもの:
③クラッチの洗浄中に引火炎上したガソリン缶を投げ捨てて作業を補助していた者に大火傷を負わせて死亡させた⇒予見可能性のある損害
⑨管理状況から窃盗が通常とはいえない自動車による事故について、相当因果関係を否定
  □(a) 「特別事情」の予見可能性を判断したもの
    ③クラッチの洗浄中に引火炎上したガソリン缶を投げ捨てて作業を補助していた者に大火傷を負わせて死亡させた⇒予見可能性のある損害

加害者Bがガソリンでクラッチを洗浄する際、電気コードのボルトナットに接触しないよう注意を払わないで操作した点について注意義務違反を認めた上で、その結果「引火炎上したガソリン缶を車外に投げ捨てそれがたまたま他人に突当ってその衣服を炎上させ、その故に火傷を負わせて死に至らしめた」場合は、「当然に因果関係あるものと判断することは相当でない」が、被害者Aが修理作業を助けて電灯を照射していたのだから「炎上のガソリン缶がAに突き当りその作業服に燃え移り大事に至るであろうことはBにおいて予見し得た」として、(相当)「因果関係」を認めた。

加害者にとって(やや異常な)結果について加害者の「予見可能性」と問題としたものとみることもできる。
平井は、過失判断の予見可能性とのオーバーラップを指摘。
⑧不当仮処分による逸失利益について、予見可能性のない特別事情による損害

銀行融資の担保として予定していた物件への不当な仮処分によって事業の東京進出が遅れたことによる逸失利益・慰謝料の損害について、
416条の類推適用を問題とした上で、
「本件仮処分の執行によって通常生ずべき損害」ではなく、「特別の事情によって生じたもの」であり、加害者において「本件仮処分の申請およびその執行の当時、右事情の存在を予見または予見することを得べかりし状況にあったものとは認められない」
とした原審の認定判断を是認。
富喜丸事件判決の特別事情の予見可能性の判断枠組みを用いたことが比較的明らかなのは、
⑧判決以外は、不当伐採の損害額について「適正伐採期における右流木の収穫を取得しうることを(加害者が)予見しまたは予見しえられた」と推察して、「416条2項による範囲の損害額を肯認した原審判決を是認した④判決のみであり、
いずれも富喜丸事件判決と同様に物の転売や利用による「逸失利益」が問題とされている。
  □(b) 
    ⑩負傷被害者の近親者の帰国費用=通常損害:
1968年に交通事故で負傷した被害者に対する付添監護のためにウィーンへの留学途上から帰国した長女の往復旅費について「必要性」等に照らして「社会通念上相当」だとして「通常生ずべき損害」と認めたもの。

当時の加害者にとっては予期しないことかもしれないが、被害者側の事情と社会通念に照らして「通常損害」と認めたもの。
     
  ◇(3) 事故や死亡などの結果について予見可能性を問題とするもの
  ■(ア) 概要 
    特別事情ではなく事故や死亡などの結果(最上位の「損害」)について、加害者の「予見可能」性を問題とした最高裁判決:
⑭虚偽の出生届による精神的損害について予見可能性を否定
⑮他車の暴走を誘発したことによる事故について予見可能性を肯定
⑯体罰による自殺について予見可能性を否定
  ■(イ) 個別の検討 
  □(a) 
    ⑯体罰による自殺について予見可能性を否定:
最高裁昭和52.10.25:
教師Bから体罰をされた高校生Aの自殺について、「Bが教師として相当の注意義務を尽くしたとしても、Aが右懲戒行為によって自殺を決意することを予見することは困難な状況にあった」として相当因果関係を否定した原審判断を是認。
    ⑮他車の暴走を誘発したことによる事故について予見可能性を肯定:
急に左車線から右折したY運転のバイクを避けようとした右車線の後続のA車が、バイクに接触して暴走し、対向の自転車に衝突してXが負傷
自動車が他車との衝突・接触により・・・暴走を誘発し、第三者に損害を与えることがしばしばあることは、・・・運転する者にとって容易に認識しうる」ので「Xの自転車に対するA車の本件衝突は、・・・運転する者の通常の注意をもってすれば予見可能の範囲内にある」といえ、
「Y車の前記右折行為とA車・自転車との衝突との間には、・・・A車の無謀運転にかかわらず、相当因果関係がある」
  □(b) 個別の検討 
    ③判決や⑯判決:「当該加害者」の予見可能性を問題
⑮判決は、運転する「通常人」について予見可能性を問題
~過失の予見可能性との「オーヴァラップ」を指摘できる。
     
  ◇(4) 単に相当因果関係の有無を問題とするもの
  ■(ア) 概要
    単に、相当因果関係の問題とするもの
⑰土地に無権原で建物を所有する者から建物を賃借・占有しても、権利者が土地を使用できないこととの間に、特段の事情がないかぎり、相当因果関係はない
⑱共同不法行為者は各自と相当因果関係がある損害について連帯責任を負う
⑲個人企業の企業損害について相当因果関係を肯定
⑳被害者たる歩行者に接触しなくても車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係がある
㉑親権者の義務違反と責任能力ある子の不法行為との相当因果関係を肯定
㉒中古車両の損傷と相当因果関係のある損害額
㉓不貞行為と相手方配偶者の子の精神的損害との相当因果関係を否定
㉔相当因果関係ある弁護士費用
㉕不作の不法行為と相当因果関係ある損害
㉖心因的要因がある場合の相当因果関係ある入院期間
㉗電通社員の過労自殺について相当因果関係を肯定
㉘親権者について責任能力ある子の不法行為と相当因果関係ある義務違反を否定
㉙交通事故の被害者の自殺についての相当因果関係を肯定
㉚近親者の付添看護による付添看護費用相当額の損害賠償を肯定
  ■(イ) 個別の検討 
  □(a) 
    損害項目の金銭的評価に関する判決:
㉒中古車両の損傷と相当因果関係のある損害額
損害項目の賠償範囲に関する判決:
⑲個人企業の企業損害について相当因果関係を肯定
㉓不貞行為と相手方配偶者の子の精神的損害との相当因果関係を否定
㉔相当因果関係ある弁護士費用
㉖心因的要因がある場合の相当因果関係ある入院期間
㉚近親者の付添看護による付添看護費用相当額の損害賠償を肯定
損害の賠償範囲に関する判決:
⑰土地に無権原で建物を所有する者から建物を賃借・占有しても、権利者が土地を使用できないこととの間に、特段の事情がないかぎり、相当因果関係はない
⑱共同不法行為者は各自と相当因果関係がある損害について連帯責任を負う
⑳被害者たる歩行者に接触しなくても車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係がある
㉑親権者の義務違反と責任能力ある子の不法行為との相当因果関係を肯定
㉕不作の不法行為と相当因果関係ある損害
㉗電通社員の過労自殺について相当因果関係を肯定
㉘親権者について責任能力ある子の不法行為と相当因果関係ある義務違反を否定
  □(b)
    ㉙交通事故の被害者の自殺についての相当因果関係を肯定
最高裁判決H5.9.9:
交通事故の被害者Aの自殺について
①本件事故の態様がAに大きな精神的衝撃を与え、しかもその衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因とって、Aが災害神経症状態に陥り、更にその状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったこと
②自らに責任のない事故で傷害を受けた場合には災害神経症状態を経てうつ病に発展しやすく、うつ病にり患した者の自殺率は全人口の自殺率と比較してはるかに高いこと
などの事実関係を総合すると、
本件事故とAの自殺との間に「相当因果関係がある」
(自殺の心因的要因の寄与を理由にに8割を減額)

⑯判決は、被害者の自殺について当該加害者の(事前の)予見可能性を問題としたが、
㉙判決は、そのよな判断枠組みをとらずに、被害者側の事情を中心に、病気の発生や自殺に関する経験則を踏まえた、交通事故と自殺との関連性の「事後的・回顧的な評価」として、自殺を交通事故に帰責しうると判断
  ◇(5) 判例・裁判例の総括 
  □(a) 
    最高裁判決に過失の義務射程による判断をしたものはない。
but過失の予見可能性との「オーヴァラップ」をみせるものがある。 
  □(b)  
    下級審裁判例には、「義務射程」による判断をしたものが1件ある。
C型肝炎訴訟判決(㉛東京地裁)は、「製薬会社についての適切かつ十分な指示警告を行うべき注意義務の義務射程は適応外使用を行った者に対しても及ぶべきである」としたうえで、
適応外使用についても、「製剤が使用された状況について、指示・警告が意味を持たないような特異な事情が認められない限り、相当因果関係は否定されない」とした。
    学説(内田)から、義務射程説による説明が可能なものとして紹介されている判決
㉜大阪地裁:
小学生AがBの飼犬Cに襲われた⇒道路に飛び出し、自動車に衝突された
「Aが本件道路上に飛び降りたのは誠にやむを得ない成り行きであ」り、「その原因は挙げてC側にあったものというべきであり、しかもかかる状態で道路上に飛び降りた者が交通事故に遭遇することも犬の占有者にとって通常予測しえないことではない」として、CがAに吠えつき襲いかかったことと事故との「相当因果関係」を肯定。

犬の占有者の「通常」の「予測」を問題としている点では、過失の予見可能性判断と「オーヴァラップ」ともいえるが、⑮判決ほど「注意義務」との直結が明確とはいえない。
  □(c)判例の傾向 
    (i) 富喜丸事件判決の特別事情の予見可能性の判断枠組みを用いたことが明らかなのは、⑧判決であり、他に④判決もそのように理解される。
いずれも、富喜丸事件判決と同様に、物の転売や利用による「逸失利益」が問題とされている。
    (ii) 近親者の帰国費用の損害項目について「通常損害」として⑩判決は、当該加害者の予測を超えることであっても、被害者側の必要性と社会通念に照らして相当因果関係を認めている
    (iii) 事故や死亡に対する当該加害者(③⑯判決)や通常人(⑮判決)の(事前の)予見可能性を問題とする点で、過失判断との「オーヴァーラップ」をみせる判決もある。
    (iv) 上記(iii)に対し、その後、交通事故の被害者の自殺について、被害者側の事情を中心に、事後的・回顧的に相当因果関係を判断する㉙判決がでて、⑯判決とは隔絶している。
    (v) 上記(iii)(iv)に対し、当該加害者の特別事情に対する予見可能性が明確に問題とされているのは、上記(i)の問題である。
    (vi) 上記(iii)(v)以外では、(iv)と同じく、被害者側の事情を中心に、相当な範囲であるかを判断するものが多い。
     
  ☆Ⅳ 損害額の算定(損害の金銭的評価)(p399)
  ◆1 総論・・その1:差額説。・損害事実説と判例 
  ◇(1) 差額説と損害事実説 
  ■(ア) 差額説 
  □(a) 
    差額説:侵害行為がなかったとしたらあるべき財産状態(利益状態)と、侵害行為がなされた現在の財産状態(利益状態)の差を金銭で表示したものを損害として捉えるもの。
  □(b)
    1⃣「損害」とは、財産状態(利益状態)の「差」が「具体的な金額」で示されたもの
⇒権利法益が侵害されても、その前後で「具体的な金額の差」が生じなければ「損害」は発生していない。
2⃣「損害」は、加害行為に「よって」生じた「具体的な金額の差」⇒侵害行為と「具体的な金額の差」との間の「因果関係」についてまで証明されなければ、「損害」の発生が認められない。
3⃣「具体的な金額」の「算定」までできて、初めて「損害」が証明される。
4⃣相当因果関係ある「損害」の「確定」と「損害額の確定」は区別されず、算定における裁判官の裁量的・創造的・規範的作用は排除され、基本的に事実認定の問題とされる。
     
  ■(イ) 損害事実説 
    損害事実説:「不利益を構成する事実」が「損害」であって、金額の算定は「損害の金銭的評価」という別のレベルの問題であるとする。
    1⃣「損害」とは「不利益を構成する事実」
⇒その事実が証明されれば、「具体的な金額」の「差」を主張できなくても、「損害」の発生が証明されたことになる。
2⃣加害行為を起点とする因果関係の終点は「不利益を構成する事実」であって、
加害行為と具体的な金額との間の因果関係は問題とならない。
3⃣「具体的な金額」の「差」を主張できなくても、「不利益を項壊死する事実」としての「損害」を金銭的に評価する「損害額の算定」は可能。
4⃣「不利益を構成する事実」の発生による「損害の確定」⇒「事実認定」の問題

「損害額の算定」⇒不利益を構成する事実を金銭化する「評価」の問題⇒証明責任の観念を容れる余地はなく、当事者による具体的な金額の主張は「評価を基礎づける資料の提出」。
金銭的な「評価」は裁判官による裁量的・創造的・規範的作用。
     
  ◇(2) 判例・裁判例の検討(p400)
  ■(ア) 差額説の1⃣について
  ■(イ) 差額説の2⃣について 
  かつての下級審裁判例の大勢:
癌の治療などで意思に注意義務違反が認められたとしても、その注意義務違反がなければ患者が相当長期間生きることができたはずであるという立証ができない限り、医師の注意義務違反によ「因る」患者の「死亡」という損害を認めることができないという、差額説の2⃣の考え方に立っていた。

医師の注意義務違反が認められながら上記のような立証ができない場合について、
①延命利益の侵害、②適切な治療を受ける機会の喪失、③適切な医療を受ける期待権の侵害といった様々な理論構成の下に、死亡による損害賠償を認めることができないかわりに、一定の慰謝料額を認める工夫。
    最高裁H11.2.25:
「医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の右不作為と患者の志望との間の因果関係は肯定され」、患者の生存期間は、「得べかりし利益その他の損害の額の算定」で考慮されるべき事由である、とした。

損害事実説に近い立場を示した。
     
  ■(ウ) 差額説の3⃣について 
  □(a)
    最高裁昭和39.6.24:
死亡した幼児の逸失利益について、その額を「算定不可能として一概にその請求を排斥し去るべきではな」く、「裁判所は被害者側が提出するあらゆる証拠資料に基づき、経験則とその良識を十分に活用して、できうるかぎり蓋然性のある額を算出するように努め、ことに右蓋然性に疑がもたれるときは、被害者側にとって控え目な算定方法・・・を採用することにすれば、・・・より客観性のある額を算出することができ」る、とする。
  □(b) 
    経済的損害に関しても、入札談合に関する裁判例では、損害額(想定落札価格との差額)の算定について、民訴法248条の適用により証明責任が緩和されている。
  ■(エ) 差額説の4⃣について(p403)
  □(a) 
    判例は、滅失した中古船の交換価格が口頭弁論終結時までに変動した場合の損害額について、高騰時に転売できた特別事情の予見可能性があったかどうかという、「金銭的差額」との相当因果関係を問題としている。
    近時の判例は、有価証券報告書に虚偽記載がされた株式の購入について、「取得したこと自体」を「損害の発生」の問題とするかのような判示をしつつ、損害額の算定に関しては、金銭的差額との相当因果関係を問題とする立場を維持(最高裁H23.9.13)。
  □(b) 
    最高裁H9.1.28は、不法行為で後遺症の残った不法残留外国人の逸失利益が問題となった事案で、「我が国における就労可能期間は、来日目的、自己の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労◇の有無、就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して、これを認定するのが相当である」とした。

逸失利益の蓋然性の判断において、不法就労であることを「規範的」に考慮して、収入が多い日本における就労期間を通常の蓋然性よりも短い期間で算定⇒損害事実説の4⃣に近い側面。
   
  ◇(3) 小括(p404)
    判例・裁判例は、個別損害項目積み上げ方式を維持しつつ
(a)「損害の発生」に関しては、差額説から損害事実説へのシフト
(b)「損額学の算定」に関しては、
①人身損害⇒損害事実説へのシフト
②経済的損害⇒金銭的差額に着目する差額説の考え方を基本的に維持
    (i) 
    人身損害:
差額説におけるい「具体的な金額の差」としての「損害」よりも、抽象的・定型的な「死亡」「労働能力の喪失」などの形で「損害の発生」を把握し、かつ、「損害額を算定」する傾向
経済的損害:
「損害の発生」の場面では、損害事実説的な捉え方がみられるものの、
「損害額の算定」の場面では、「具体的な金額の差」に着目する差額説の考え方が堅持
    (ii)
    人身損害:
「(その時点で)死亡しが事実」との因果関係が立証⇒「損害」との因果関係が認められ、
後は、その「損害」についての「損害額の算定」がされる。
「具体的な金額の差」との因果関係の立証までは要求されない。
経済的損害:
「具体的な金額の差」との「相当因果関係」が問題とされている。
    (iii) 
    人身損害:
「具体的な金額」の「差」が、必ずしも証明責任論の支配する厳密な形で立証されなくても、損害およびその算定が認められている。
経済的損害:
入札談合に関する裁判例では、損害額(想定落札価格との差額)の算定について民訴法248条の適用により証明責任が緩和されている。
    (iv) 
    損害額の算定は、必ずしも事実問題としてもっぱら客観的な蓋然性に基づく判断がなされているわけではなく、規範的作用もみられる。
     
  ◆2 総論・・その2:近時の議論(p405)
  ◇(1) 序 
    損害論は、「損害の発生」、「損害との因果関係」、「賠償範囲」、「損害額の算定(損害の金銭的評価)」と密接な関係。
そもそも「権利法益侵害」によって生じた不利益を「損害」として把握し、その賠償によって不利益を回復させる点で「権利法益損害」と表裏一体の関係にある。
  ◇(2) 損害事実説・死傷損害説とその後の損害論の全体的な傾向 
     
  ◇(3) 包括的算定や権利保障に着目する説(評価段階説・生活保障説) 
     
  ◇(4) 規範的損害説 
  ■(ア) 学説
    差額説や損害事実説⇒損害の捉え方は異なるものの、損害の要件を基本的には事実問題と解していた。
but
損害を規範的に(も)捉えようとする見解が有力
  ■(イ) 裁判例
    医師の不適切な説明によって重い障害を負った子を産むことになった⇒その子が生まれたことを損害と解してよいか?
    第1審:否定
控訴審:介護費用等を損害として認めたとしても、それは両親の負担を損害と評価するものであってAの「出生、生存自体」を「損害として認めるものではない」
     
  ◇(5) 損害賠償の「権利追求機能」を重視する説(p409)
    損害を規範的に把握するだけでなく、損害額算定に関するより具体的な評価規範の探求をしたのが、潮見説とこれに続く(6)の長野説。
□(a)
    潮見説は、「損害概念」として「事実状態比較説」(加害行為により生じた事実状態の差を損害とする)を採用し、
「その差を原状回復の方向で、権利追求(本来的権利・利益内容の形を変えた実現)という観点から規範的に評価する」ことを基本として、
人身損害については「被害者の享受する生活利益の総体を回復するという視点で損害を評価す」べきだとする。
こうして把握された損害を評価算定する際は、
①「個別損害項目積み上げ方式を維持しつつ」
②「個々の損害項目について、最小限の損害としての権利・利益の客観的価値を賠償させるべく、抽象的損害計算を許す」一方、
③「具体的損害計算は、それを超える・・・加算の方向でのみ許」すべきとする。
  □(b) 
    近時の潮見説は、財産権侵害を主に念頭において次のように論じる。
    「損害賠償請求権は本来の権利・法益の価値の代替物としての性質を有する」⇒損害の「規範的評価」は、「原状回復の理念」の実現のために、「被害者の権利・法益の有する価値の実現・回復という観点」からされるべき。
    ①「当該客体の有する価値(交換価値・使用価値・担保価値など)を金銭で実現・回復してやれば、少なくともその限りで、当該権利・法益の有する価値が被害者に実現・回復される」が、
②それだけでは、「当該権利・法益の有する価値が被害者に実現・回復されたといえない場合」がある。
「被害者が社会生活のなかで自己に帰属する権利・法益の客体を用いて人格を自由に展開すること(財産管理・処分の自由を含む・・・)を通じて財産的利益を享受している場合」は、かかる自由が憲法で保障されている

「権利主体に対し、当該客体の価値だけでなく、当該客体を用いた行動がこの者の総体財産にもたらしたであろう利益」(「権利主体が当該客体を用いてみずからの行動を展開することにより得ることが許容された財産的利益」)の「実現・回復もせれてはじめて、当該権利・法益の有する価値が実現・回復されたということができる」。
「生命・身体侵害の場合のように、当該客体そのものの価値を算定することに無理がある場合でも、そうである」。
    ①「抽象的損害計算」は、「権利・法益として承認」された以上、「権利・法益に対する侵害があったならば、具体的被害者の損害いかんにかかわらず、少なくとも、その権利・法益が客観的・類型的に有する価値(客観的・類型的価値)を被害者に対して賠償として保障すべきである(最小限の損害)との理念」を実現するもの。

これに対し、
②「具体的損害計算」は、「個別具体的被害者の財産状態を原状回復すべきであるとの理念」を実現するものであり、
①②のいずれも「合理性があ」る。
     
  ◇(6) 「権利の保障内容」の観点から損害額算定に関する規範群を探求する説 
    潮見説(権利追求機能)と平井説(損害事実説)を基本に、「権利の保障内容」の観点から損害額算定に関する規範群を探求しつつ、従来の裁判実務や学説の算定論を再統合する試みが、長野説。 
    平井説に依拠して、
①「どこまでの権利侵害について帰責されるか」という「責任範囲論」(事実的因果関係・保護範囲)と、
②「帰責された権利侵害の事実について加害者がいかなる内容の責任を負うべきか」という「責任内容論」を区別して、
②について、「どのような規範に基づいて確定するか」という「責任内容確定規範」を明らかにしようとするものであり、
損害要件を独立に定立するこてゃ否定的。
    (i) 責任内容確定規範には、以下のものがある。 
①「侵害された権利の完全性を回復するために支出された費用は、必要な限度で賠償されなければならない(権利回復規範)。そのための前払いも認められる」。
②「侵害された権利が保障する権限ないし地位またはそこから得られたであろう利益が損なわれた場合には、それらの価値が賠償されなければならない(価値補償規範)」
③「権利の侵害を回避するために費用が支出された場合についても、①と同様に賠償される(権利保全規範)」。
④「侵害された権利が保障する権限ないし地位から得られたであろう利益の喪失を回避するために費用が支出された場合についても、①と同様に賠償される(利益保全規範)」
    (ii) 
①の「権利回復規範」:物損における修補費用や、人損における治療費・手術費などに対応・
④の「利益保全規範」:人損における介護費用など、物損における代物賃料に対応。
②の「価値補償規範」:物損における目的物の交換価値、人損における逸失利益など、慰謝料に対応。
③の「権利保全機能」:建物の基本的な安全性に関する設計・施行者等の居住者等に対する責任に対応。
    (iii)
①権利回復規範、③権利保全規範、④利益保全規範
~現実の回復を目指す「対抗措置規範」
~支出の「必要性」が問題となる。

②価値補償機能
~現実の回復ではなく「価値的回復」であり、逸失利益に関しては「確実性」が問題となる。
    (iv)
規範的損害論の人損における「原状回復の理念」として、「一次的に念頭に置かれる」のが「手術費用、リハビリ費用、介護費用」などの「一定の措置による具体的な回復」であることは、
「対抗措置規範」の発想に基づくもの。
     
  ◆3 人身の侵害(p411)
  ◇(1) 個別損害項目積み上げ方式と包括・一律請求 
  ■(ア) 個別損害項目積み上げ方式の問題点と包括・一律請求、死傷損害説 
     
  ■(イ) 包括・一律請求に関する裁判例の概略 
     
  ◇(2) 死亡と財産的損害(p413)
  ■(ア) 序 
     
  ■(イ) 積極的損害 
  ■(ウ) 消極的損害(逸失利益)概説
  ■(エ) 就労可能年数(稼働可能期間) 
  ■(オ) 生活費控除・中間利息控除
  ■(カ) 基礎収入・・・その1:概説 
  □(a) 被害者が現実に収入を得ていた⇒それが基礎収入の基準となる。
    (i) 給与所得者⇒死亡当時の給与額が基準。
昇給等による収入の増加については、「証拠に基づいて相当の確かさをもって推定できる場合」には、「控え目に見積もって」、これを基礎に収入源を算出することができる。
(最高裁昭和43.8.27は、将来の賞与や退職金についても同様の判断を) 
    (ii) 自営業者:
実収入が申告所得額を超えることが立証されない限り、申告所得額が基準。
    (iii) 企業主:
    (iv) 年金受給者 
    (v) 一時滞在外国人
     
  □(b)  被害者が現実に収入を得ていない⇒以下の区分。
    (i) 年少者のうち、
男子:⇒男子は、男子労働者の学歴計・全年齢平均賃金を基準とする。
女子:かつては、女子労働者の平均賃金を基準。but男女格差是正⇒近時は、男女を併せた全労働者の学歴計・全年齢平均賃金を基準。
    (ii) 専業主婦
    (iv) 無職者
     
     
  ■(キ) 基礎収入・・・その2:年金等 
  ■(ク) 基礎収入・・・その3:女子年少者(p417)
  □(a)  
    かつて、女性の平均賃金を用いた上で、男女格差を是正するために、女性の生活費控除の割合を少なくする傾向
vs.
それでもかなりの男女格差が残っていた。

男女を併せた全労働者の平均賃金を算定の基礎とする、下級審裁判例。
vs.
近年のデータの動向を見る限り、近い将来格差がなくなるとは言い難い。
  □(b) 
    東京高裁H13.8.20:
  □(c) 
    その後、東京・大阪・名古屋の各地裁において、男女を併せた全労働者の平均珍技による算定をすることで見解の統一
⇒現在の実情は、男女を併せた全労働者の学歴計・全年齢平均賃金を用いる見解でほぼ固まった。

このような立場をとった場合、女子年少者について、高校卒業時まで上記の基準による説もあるが、同学年に就労者がいない中学卒業時までを原則とすべき。
(それ以降は大学進学の蓋然性を問題とすべき。)
 
   
  ■(ケ) 基礎収入・・・その4:障害者 
     
  ◇(3) 負傷・健康被害と財産的損害(p419)
  ■(ア) 序 
     
  ■(イ) 積極的損害・・・その1:概説 
     
  ■(ウ) 積極的損害・・・その2:将来の治療費の確率的算定(C型肝炎訴訟) 
     
  ■(エ) 消極的損害・・・その1:休業損害(p420)
    治療中の休業損害:
①現実に収入を得ていた場合⇒それを基礎収入として治療に必要な期間について算定。
②現実に収入を得ていなかった場合⇒死亡に関する説明に準じる。
     
  ■(オ) 消極的損害・・・その2:後遺障害による逸失利益 
  □(a)
    最高裁は、後遺障害による逸失利益について損害事実説寄りの姿勢を見せつつも、なお実損害(現実の収入減)による算定を原則とする立場を維持する(最高裁昭和56.12.22)一方、
「労働能力の一部喪失による損害」を問題とするものもみられる(最高裁H8.4.25)。
  □(b)
    下級審裁判例:逸失利益に関する限りで、労働能力の全部または一部の喪失自体を損害と把握した上で、失われた稼働能力に応じた算定をする労働能力喪失説の考え方に立つものが一般的。
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間ー中間利息」の考え方に基づいて、
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数」で計算。
    (i) 基礎収入と中間利息の控除:⇒死亡に関する説明に準じる。
    (ii) 労働能力喪失期間:⇒症状固定時以降について、これも死亡における就労可能期間に関する説明に準じる。
    (iii) 死亡の場合と異なり、生活費控除はされない。
口頭弁論終結前に別の原因で死亡⇒損益相殺の要件である原因の同一性を満たさないので生活費控除はされない(最高裁H8.5.31)。
労働能力をほとんど喪失した重度後遺障害であっても、生活費がかかるとして、控除しないのが裁判例の傾向
  ◇(4) 人身侵害と精神的損害(p421)
  ■(ア) 序 
    当事者双方の「諸般の事情」を参酌して算定すべきものとする(最高裁昭和40.2.5)が、近時の裁判実務は、交通事故のみならず他の不法行為類型においても定型的な算定をする傾向にある。
    裁判例には、制裁的慰謝料は否定しつつ、慰謝料額の算定にあたり、上記の当事者双方の諸般の事情の一環として、「侵害の態様(故意か過失か、過失の程度、悪性の程度等)」を考慮したものがみられる。
  ■(イ) 死亡慰謝料 
     
  ■(ウ) 後遺障害慰謝料(p422) 
    後遺障害の等級に応じたきじゅんがくによって、ある程度定型的に判断されている。
    長崎じん肺判決(最高裁H6.2.22)は、
①「慰謝料額の認定は原審の裁量に属する事実認定の問題であり、ただ右認定額が著しく不相当であって経験則又は条理に反するような事情でも存するならば格別」であるとする判例(最高裁昭和38.3.26)について「留意」を要するとして、
②「他に財産上の請求をしない旨を・・・訴訟上明確に宣言し」ている場合は、原審の「裁量におのずから限界があり」、「社会通念により相当として認容され得る範囲にとどまる」としたうえで、
③原判決の認定は「低きに失し、著しく不相当」であるとして破棄差戻し。

慰謝料の補完的機能として実質的に財産的な要素が含まれていることを踏まえた判断。
  ■(エ) 入通院慰謝料 
     
  ■(オ) 関連問題:「相当程度の生存可能性」侵害と慰謝料
     
  ◆4 その他の人格的利益の侵害・・・名誉・プライバシーを中心に(p423) 
  ◇(1) 名誉・プライバシー侵害等の慰謝料額の算定方法 
■    ■(ア) 判例・裁判例 
  判例:慰謝料(財産以外の損害)について、その数額は事実審の裁判所が「各場合における事情を斟酌し自由なる心証をもって」量定すべきものであり、
その「性質上」原告が「損害額を証明せざるも」裁判所が「諸般の事情をしん酌してこれを定」めるべきものとする。
慰謝料額一般について、「当事者双方の社会的地位、職業、資産、課外の動機および態様、被害者の年齢、学歴等諸般の事情」をしん酌して算定すべき。
近似の判例:
名誉毀損の慰謝料額に関して、「事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情を斟酌して裁判所が裁量によって算定するもの」であり、諸般の事情には、「被害者の・・・人格的価値について社会から受ける客観的評価が当該名誉毀損以外の理由によって更に低下したという事実も含まれる」とする(名誉毀損後に被害者に有罪判決を受けた事実を斟酌して慰謝料の額を算定しうるとした)。
  近似の高裁レベルの裁判例:
名誉毀損の慰謝料額の算定で考慮すべき要素:
(1)名誉毀損の内容、表現の方法と態様、流布された範囲と態様、流布されるに至った経緯、加害者の属性、被害者の属性、被害者の被った不利益の内容・程度、名誉回復の可能性など諸般の事情
(2)「真実性」または(誤信)「相当性」の程度
(3)事後的事情による名誉回復の度合
を挙げるもの。 
プレイ橋―侵害の慰謝料額の算定:
個人情報の流出に関する判示として、
「個人知きめつ情報」か「個人的、主観的な価値」に結びつくような種類かといった「情報の性質」、「流出の態様と程度」、「2次被害の有無」などを考慮要素とするもの。
■    ■(イ) 学説等 
  近似の学説:
被侵害利益の種類・性質、加害行為の態様、被害者の年令・職業・収入、加害者側の事情
などの諸般の事情w挙げるもの。
慰謝料が「無形の損害の填補」⇒特に支障の場合を念頭に、加害者側の事情として、加害者が「事故後に示した態度」を考慮することに批判的な見解。
「名誉感情」の侵害のように、被害者の主観的・感情的な精神的苦痛に対する填補が中心となる場合⇒不法行為後の謝罪等の態度を考慮してもよい。
名誉毀損のような客観的な社会的評価の低下を核心とする場合についても、主観的な精神的苦痛を伴う⇒加害者の個人的な謝罪等を考慮することは不当とはいえず、加害者の公の謝罪によって被害者の社会的評価が一定程度回復される場合は当然に考慮されるべき。
  名誉毀損の慰謝料額の算定に関する実務家の見解:
加害者側の事情:
(1)「加害行為の動機・目的の悪質性の程度
(2)加害行為の内容の悪質性の程度
(3)加害行為の真実性の欠如の程度
(4)加害行為の相当性の欠如の程度
(5)加害行為の法法と範囲
(6)加害行為によって加害者が得た利益
被害者側の事情:
(7)被害者の社会的地位(職業・経歴)
(8)社会的評価の低下の程度
(9)被害者が被った営業上の不利益の程度
(10)被害者の社会生活上の不利益の程度
(11)被害者の過失
(12)加害行為後の被害者の救済の程度
(13)被害者の請求態様
などの諸要素
     
  ◇(2) 2000年頃からの名誉毀損等の慰謝料額の再検討 
■    ■(ア)序 
    最高裁の大橋裁判官の補足意見:
名誉毀損に対する損害賠償は、それが認容される場合においても、しばしば名目的な低額に失するとの非難を受けているのが実情と考えられ、これが本体表現の自由の保障の範囲外ともいうべき言論の横行を許す結果となっている。

2000年頃から、裁判官らを中心として、名誉毀損の慰謝料額の算定基準を再検討して、高額化・定型化を試みる議論。
  ■(イ)名誉毀損 
     
  ◆5 財産的利益の侵害(p428)
  ◇(1) 序・・・近時の問題 
  ■(ア) 不法行為制度の目的論と利益吐き出し型賠償 
  ■(イ) 福島原発事故賠償の中間指針と再取得費用
     
  ◇(2) 所有権等の侵害・・・その1:物の滅失 
  ◇(3) 所有権等の侵害・・・その2:物の損傷
  ◇(4) 所有権等の侵害・・・その3:物の不法占有 
  ◇(5) その他の経済的損害 
  ■(ア) 有価証券報告書の虚偽記載と株主の損害 
  ■(イ) 価格協定・入札談合と損害 
  □(a) 
    民訴法248条制定前の判例であるが、独禁法違反の石油カルテルに関する鶴岡灯油事件(最高裁H1.12.8):
①元売業者の違法な価格協定の実施によるい商品の購入者が被る「損害」は、「当該価格協定のため余儀なくされた支出分」として把握されるとしたうえで、
②現実購入価格よりも「安い購入価格が形成されていたといえること」を「被害者である最終消費者において主張・立証すべき」であることろ、
③「価格協定が実施されなかったとすれば形成されたであろう・・・想定購入価格」は、「現実には存在しなかった価格であり」、「現実に存在した市場価格を手掛かりとしてこれを推計する方法が許されてよい」が、
④価格協定実施時から購入時までに「当該小hンの小売価格形成の前提となる経済条件、市場構造その他の経済的要因等に変動」があったと認められる本件については、直前価格のみから想定購入価格を推認することはできず、前記②の要件は立証されていない。

直前購入価格を想定購入価格と推認して請求の一部を認容した原判決を破棄。

損害事実説的な「損害」の把握の仕方ではなく、「余儀なくされた支出分」という金銭的差額を「損害」かつ「損害の額」と捉えていた。 
  □(b) 淡路説
    損害事実説は、民訴法246条のもとでより有利に援用されうるとした。
すなわち、
(i)「損害」について、
①価格協定の場合は、「価格協定によって形成された価格で商品を購入せざるを得なかった事実自体」を、
②入札談合の場合は、「(入札)談合によって形成された落札価格で発注せざるを得なかった事実自体」を、それぞれ「損害」として把握すべきだとした上で、
(ii)「金銭的評価」について、
①については、最高裁が「点実に存在した市場価格による推認」を一般論として認めたことは妥当であるが、立証責任の支配する問題ではなく、また、あくなでんも合理的計算方法の1つにすぎないことに留意すべきであると主張し、
②については、談合がなかった他の入札事例における予定価格と落札価格の差の割合(平均落札率)から推認する方法などを主張。
  □(c) 
    入札談合に関する近時の高裁判決:
なお(想定落札価格との)差額を損害と捉える考え方が根強いが、民訴法248条の適用による損害額の算定を認めている。
同条の適用については、
①証拠資料からここまでは確実に存在したであろうと考えられる範囲に抑えた「控えめ」(謙抑的)な認定をすべきだとする抑制的算定説と
②存在する資料等から合理的に考えられる中で実際に生じた損害額に最も近いと推測できる額を積極的に認定すべきだとする合理的算定説
に分かれていて、①が優勢だが、いずれも平均落札率を基本に算定するものが多い。
     
  ◆6 弁護士費用(p440)
  ■(ア) 序 
  ■(イ) 判例と実務 
     
     
  ☆Ⅴ 損害賠償額の減額・調整・・・概観と損益相殺(p442)
     
  ☆Ⅵ 損害賠償請求権(p465)
     
     
★D 不法行為の類型 (p490)
  ☆Ⅰ 名誉毀損・プライバシー侵害等
  ◆1 名誉毀損・総論・・・名誉とは何か
    民法 第七〇九条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第七一〇条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
第七二三条(名誉毀き損における原状回復)
他人の名誉を毀き損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
刑法 第二三〇条の二(公共の利害に関する場合の特例)
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
◇    ◇(1) 問題の所在 
   
 
  ◇(2) 「人格」概念を援用する判例
  ■(ア) 名誉の定義と差止請求 
     
    名誉:人格的価値について社会から受ける客観的評価 
「名誉権」が「人格権」であるがゆえに「排他性」を有する⇒名誉権に基づく差止請求を認める。
     
  ■(イ)723条が適用される名誉毀損・・・名誉感情との違い 
     
  ■(ウ)710条が適用される名誉毀損・・・慰謝料額の算定
    「被害者の人格的価値を毀損させられたことによる損害の回復の方法」として慰謝料を捉える。 
     
■    ■(エ) 小括 
     
  ◇(3) 「人格」概念を援用しない判例・その1・・・団体・法人や多数の人々の名誉感情 
  ■(ア) 団体・法人の名誉毀損(p493)
  □(a) 権利能力なき社団 
     
●    ●(i) 名誉毀損の判断基準・・・新聞記事の場合(p493)
    「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味」に従って、
     
     
     
  ■(ウ) 検討
  □(a) 団体や法人の名誉の主体・・・自然人との共通性 
     
  □(b) いわゆる「信用毀損」の問題 
     
◇    ◇(4) 「人格」概念を援用しない判例・その2・・・前科の公表と名誉との関係 
     
  ◇(5) 「人格的」価値にかかわる「社会的」評価が「客観的」であるということの意味
     
     
  ◆2 名誉毀損・各論・・・表現の自由との調整(p508)
  ◇(1) 事実摘示型の名誉毀損 
■    ■(ア) 最高裁の定式化 
□    □(a) 「署名狂やら殺人前科」事件
    名誉棄損については、その行為が(①)公共の利害に関する事実に係り(②)もっぱら公益を図る目的に出た場合には、(③)摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しない・・・(④)もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意がなく・・・不法行為は成立しない・・・(このことは、刑法230条の2の規定の趣旨からも十分窺うことができる。)」
  □(b) 真実性と相当性の判断基準時 
    摘示された事実の真実性⇒違法性判断にかかわる
真実と信ずるについての相当性⇒故意・過失の要件にかかわる
    摘示された事実の重要な部分が真実であるかどうかは、行為者の認識にかかわらず客観的に判断すべき⇒判断基準は口頭弁論終結時。
    行為者の名誉毀損行為時の認識内容が問題となる相当性⇒行為時に存在した資料に基づいて判断される。
  ■(イ) 公共利害性と公益目的性 
  □(a) 公共利害性(p510)
  ●(i) 犯罪に関する事実
    特段の事情がない限り公共の利害に関する事実とされることが多い

ある裁判例は、犯罪は「一般社会における正当な関心事」であり、「その事実を公衆に知らせ、これに対する批判や評価の資料とすることが公共の利益増進や役立つ」からと判示(名古屋高裁H16.5.12) 
  ●(ii) 私人の私生活上の行状 
    著名な芸能人の近所付き合いに関する言動のような、私的な市民生活上の出来事は、一般社会における「正当な」関心事とはいえず、公共利害性は否定される。
but
私人の私生活上の行状であっても、その社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度によっては、当該行状が、当該私人の社会的活動に対する批判や評価の資料となりうる⇒公共利害性が肯定される。
    犯罪容疑者の場合:
公衆の批判にさらすことが公共の利益増進に役立つという点から判断されるべき
⇒犯罪事実に密接に関連する行状でなくても、容疑者の社会的地位や社会への影響力などによっては、公共利害性が認められることがある。
     
  □(b) 公益目的性(p511)
  ●(i) 公共利害性との関係
    摘示された事実について公共利害性が肯定される⇒事実を摘示する記事等の公益目的性が肯定されることが通常。
    「犯罪に関する事実や裁判の経過に関する事実は・・・・公共の利害に関する事実であるから、これについての記事等も、特段の事情のない限り、公益目的の存在が確認される」(名古屋高裁)
特段の事情:
執筆態度が著しく真摯性を欠く場合や、私怨を晴らしまたは私利私欲を追及する意図がある場合など。
    主要な動機が公益のためであれば、多少私的な動機が混入しても「もっぱら」公益を図る目的があるといえる。 
  ●(ii) 意見・論評型の名誉毀損との関係 
     
■    ■(ウ) 真実性 
  □(a) 「重要な部分」についての真実性の証明 
    摘示された事実の「重要な部分」や「主要な部分」が真実だと証明されれば足りるというのが裁判例の傾向
    「主要な部分の補足的なものにすぎない」箇所が真実でなかった場合に新聞社の責任を否定
(1)新聞記事の場合は、「新聞報道が本来有する表現の自由、迅速性の要請」を無視すべきではない
(2)X病院の医師Yらが、精神科等で行われている治療内容を捜査機関に告発し新聞記者にも公表した事例では、「私人は専門の捜査機関ではないのであるから、告発事実全体が細部に至るまで悉く客観的事実に完全に一致することを求めるのは過酷に過ぎ」る⇒告発の違法性を否定。
(3)「重要な部分について真実であることが証明されれば足りる」として記者への公表について名誉毀損を認めなかった裁判例。
□    □(b) 「重要な部分」かどうかの判断基準 (p512)
  (i)新聞記事の場合
    新聞記事が名誉を毀損するかどうかの判断基準と同様に、「一般読者の普通の読み方」が基準とされることが多い。
     
  ■(エ) 相当性 
  □(a) 裏付け取材の要否(p513) 
    Yが依拠した資料や取材源の信頼性が低い⇒裏付け取材が必要になる
(Xと離婚し他の男性と再婚した元妻の供述以外に報道の裏付けとなる資料がない場合に相当性を認めなかった
治験統括医X自身の発言をもとに、その裏付け取材もした上で、Xが一部の製材メーカーに配慮して治験を遅らせた旨の記事⇒相当性あり)
   
□    □(b) 無罪推定原則と相当性 
     
  □(c)取材源の秘匿と相当性 
     
  □(d)先行報道と相当性(p513)
    ある者に関する犯罪の嫌疑が繰り返し報道され社会に知れ渡ったとしても、それだけでは相当性の抗弁にプラスの影響を与えない。
←先行報道がされても、真実その罪を犯したことの証明とはならない。
     
  □(e) 事実の陳述の仕方
     
  □(f) 新聞社が通信社から配信サービスを受けている場合 
     
◇    ◇(2) 意見・論評型の名誉毀損(p515) 
  ■(ア) 最高裁の定式化 
     
■    ■(イ) 事実摘示型の名誉毀損の免責事由との比較 
  □(a) 真実性・相当性の証明の対象
     
  □(b) 意見・論評の域を逸脱していないこと(p517))
     
     
  □(c) 事実摘示型の名誉毀損との区別
     
  ■(ウ) コモン・ローの「フェア・コメント」法理とその後の動き 
     
     
◇    ◇(3) 「虚名は保護に値しない」という学説について 
     
  ◆3 プライバシー侵害(p526)
  ◇(1) はじめに 
     
◇    ◇(2) 私的空間への侵入から保護され平穏に私生活を送る利益の侵害 
     
  ◇(3) 判断枠組みの変質から保護され平穏に社会生活を送る利益の侵害(p533) 
■    ■(ア) 判断枠組みの変質とプライバシー侵害 
□    □(a) ノンフィクション「逆転」事件 
    沖縄で実刑判決を受けたXが、仮出獄後、新しく人間関係を形成していた(前科を秘匿したまま都内の会社に就職し結婚もしていた)ところ、Yがノンフィクションの中でXの実名を使ってXの実名等の事実を明らかにした事件。
ある者が「有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待される⇒その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する」 

Xの秘密がYによってばく露されたことが問題というよりも、むしろ、仮出獄後、社会の人々とのコミュニケーションを通じて一定の社会的役割を獲得し自己像を提示してきたXが、ノンフィクションの出版によって、異なる判断枠組み(社会学にいわゆる「フレーム」。認識している状況に一定の解釈をもたらす基盤)から解釈・認識されたことが問題。
この結果、Xは、従前と同様の社会生活(「逆転」事件判決は「私生活」という言葉を用いていないことに注意)を営むことが困難となってしまっている。
プライバシーという言葉こそ用いていないが、他者とのコミュニケーションを通じて、積極的な関係を形成している個人の社会的プライバシーを論じていると考えられる。
     
□  □(b) 判断枠組みの変質をもたらすもの
     
     
  □(c) 他者の利益・自由との比較衡量 
  ●(i) 実名の使用 (p534)
    最高裁H6.2.8(ノンフィクション「逆転」事件):
ある者の前科等にかかわる事実は、刑事事件や刑事裁判という「社会一般の関心あるいは批判の対象となるべき事柄にかかわるもの」⇒実名の公表が許される場合もあり、その者の社会的活動の性質や影響力などによっては「社会的活動に対する批判あるいは評価の一資料として」「前科等にかかわる事実が公表されることを受忍しなければならない場合もある」(判決は名誉毀損に関する「公共ノ利害」にかかわる最高裁判例を引用)、
不法行為の成否は「その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には」精神的苦痛の賠償を求めることができる。

判断枠組みの変質行為について、他者が利益や自由(社会の人々の正当な関心や批判・評価の自由、著作者Yの表現の自由)を有する場合もあり、判決は、このとき「利益の優越」論によって、両者のバランスを図っている。
(結論として、判決は、YがXの実名を使用して前科等の事実を公表したことは正当化できない。)
  ●(ii) 推知報道 
    最高裁H15.3.14:
Y社発行の週刊誌が、犯行時少年であったX(刑事裁判係属中)の犯行態様・経歴等の実名類似の仮名を用いて掲載ケースで、プライバシーという言葉を用いつつ、判決(i)を引用しながら、同様の比較衡量を行うべき。
(Xのプライバシーに属する情報が伝達される範囲など、推知報道に特有の事情も考慮するほか、判決(i)が重視した被害者の「その後の生活状況」に代えて、Xの犯行当時の年齢を衡量の一要素としている。) 
     
  ◇(4) 個人情報の取得、利用、第三者への提供とプライバシー 
  ■(a) 早稲田大学江沢民講演会事件 
     
□    □(i) 「自己が欲しない他者」との関係から生じるプライバシー 
     
□    □(ii) 「情報コントロール権」構成の不採用 
     
  □(iv) 比較衡量論の不採用 
    本判決:YがXらの情報をAに地供することの有用性や必要性を顧慮しない。

警察への情報提供についてYがXにあらかじめ知らせることが容易であり、それさえしておけば(警察に情報を知られたくなかったXらは講演会に参加しないことを選択し)警備するあぐぁにむしろメリットが生じた可能性があるという事案の特殊性。
一方当事者にプライバシー侵害という不利益をあえてもたらすことによって、他者の利益が増進するという、上記比較衡量論の前提にある典型的な事情が、本件には存在しなかった。
     
■    ■(b) 第三者への情報提供が社会全体の利益を増進させる場合 
     
☆    ☆Ⅱ 医療事故
  ◆1 はじめに 
     
  ◆2 医療過誤の損害賠償の法的構成 
     
◆3 医療事故の損害賠償責任法理
  ◇  ◇(1) はじめに
  ◇  ◇(2) 権利または法律上保護されるべき利益の侵害 
  ■(ア) 生命・身体侵害
     
  ■(イ) その他の利益侵害 
     
     
  ■  ■(ウ) 自己決定権侵害・説明義務違反 
    説明義務を履行せず、承諾を得ないで治療を実施したという場合、たとえこうした治療により、患者の健康状態を改善したとしても、医師のなした医療行為は、患者の有効な承諾を得ないものと評価⇒患者の自己決定権侵害に対しては、損害賠償が命じられる。
   
  ■  ■(エ) 情報漏えい、プライバシー侵害 
   
  ◇(3) 過失・義務違反をめぐる課題(p567)
  ■  ■(ア) 医療関係者が患者に負う義務 
  ■(イ) 医療技術上の過誤(技術過誤) 
     
  ■(ウ) 転送義務違反
     
  ■  ■(エ) 説明義務違反 (p574)
  □  □(a) 説明義務違反の根拠
     
     
  □  □(b) 説明の分類とそれぞれの問題 
    ①承諾を得るための説明
②療養指導としての説明
③顛末報告としての節ン名
  ●  ●(i) 承諾を得るための説明(p577) 
     
  ●  ●(ii) 療養指導としての説明 
    治療当時の実践としての医療の説明
     
  ●  ●(iii) 顛末報告・治療後の説明・死因解明説明 
     
     
  □  □(c) 「同意書」の扱い 
     
  ■  ■(オ) 患者以外の第三者の権利・利益保護 
     
  ■  ■(カ) 過失の特定の程度 
     
  ■  ■(キ) 証拠の隠蔽など 
    独立の不法行為として慰謝料の根拠となる
     
  ■(ク) 診療類型別の事例群
  □(a) 分類のための視角(p585)
     
  □(b) 診療過程からの分類(p585)
     
  □(c) 疾患別の分類(p590) 
     
  ◇(4) 因果関係の問題(p600) 
  ■(ア) 総説
     
  ■  ■(イ) 事実的因果関係の存在の必要性(p600) 
     
  ■(ウ) 作為・不作為
     
  ■(エ) 説明義務違反と因果関係 
     
    患者が侵害されたのは情報を提供されることで選択の機会があったところ、それを侵害されたという選択権の侵害にとどまる⇒慰謝料⇒賠償額も100万~300万
     
  ■  ■(オ) 因果関係の立証が果たされなかった場合の処理 
     
  ■(カ) 損害の範囲についての因果関係について
     
  ◇(5) 損害の発生とその評価 
     
     
     
☆    ☆Ⅳ 公害・環境侵害 
     
     
     
  ◆7 その他の問題(p710)
  ◇(1) 複数汚染原因者の責任 
     
     
  ■  ■③ (p711)
    西淀川第1次訴訟判決以降、多くの大気汚染公害訴訟判決が出され、同判決の論理が維持。
    「重合的競合」 について、719条の類推適用を考え方。
    個々の発生源だけでは全部の結果を惹起させる可能性がなく幾つかの行為が積み重なってはじめて結果を惹起するにすぎない場合(「重合的競合」)で、結果の全部または主要な部分を惹起した者を具体的に特定できないことがある。
その場合、まったく救済しないのは不当⇒一定の要件が備わっておれば719条を類推適用して公平・妥当な解決が図られるべき。 
その要件:
「競合行為者の行為が客観的に共同して被害が発生していることが明らか」であること
「競合行為者数や加害行為の多様性など、被害者側に関わりのない行為の態様から、全部又は主要な部分を惹起した加害者あるいはその可能性のある者を特定し、かつ、各行為者の関与の程度などを具体的に特定することが極めて困難であり、これを要求すると被害者が損害賠償を求めることができなくなるおそれが強い」こと
「寄与の程度によって損害を合理的に判定できる場合」。

特定された被告は原則として連帯責任を負うが、その連帯責任の範囲は結果の全体に対する被告らの寄与の割合を限度としたもの。
     
     
     
     
  ☆Ⅴ 交通事故(p727)
  ◆1 自動車事故 
     
     
     
     
  ◆2 鉄道事故 
     
     
     
     
  ☆ 
     
★ 一般不法行為の要件事実(p836)  
     
     
☆☆710条(財産以外の損害の賠償) (p861)
  ☆Ⅰ 本条および771条の意義と本条の位置づけ 
     
     
     
     
     
     
     
     
  ☆Ⅴ 慰謝料額の算定(p884) 
  ◆1 慰謝料額の算定に関する概観
     
  ◆2 被害者に関する事情 
  ◇(1) 身体侵害等の不法行為において考慮される被害者の事情 
     
     
  ◇(2) その他の個別事情 
    個別具体的な不法行為ごとに、当該事案における特殊事情が、被害者の苦痛の大きさに影響を与えるものとして考慮されることはある。
事故によって続けることができなくなった職業あるいは趣味が被害者にとって有する意味、あるいは、滅失・毀損した物が被害者にとって有する意味といったものは、そこでの個別事情を考慮して、被害者の苦痛を測るほかない。
   
  ◇(3) 名誉毀損における慰謝料の算定要素 
     
  ◇(4) 被害者の過失等と慰謝料の決定 
     
  ◆3 加害者に関する事情(p889)
   
    不誠実な態度が、それ自体として独立して慰謝料の対象となるような精神的苦痛をもたらすものとして評価できることが必要な簿ではないだろうか。
福岡高裁H24.7.31:
交通事故の加害者側が、自らに過失があること前提に示談の提案をしながら、訴訟において、当初自身の責任を認めながら、その認否を撤回し、過失を争うに至った場合について、その態度は不誠実のそしりを免れない⇒慰謝料の算定の際に考慮することは許容される。
   
  ◆4 慰謝料算定の基準時 
     
     
  ☆Ⅵ 慰謝料請求権の一審専属性 
     
     
☆☆711条(近親者に対する損害の賠償)(p892)