シンプラル法律事務所
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新注釈民法(相続)

★新注釈民法(19)  
 
 
     
     
     
     
     
     
     
☆885(相続財産に関する費用)  
    第八八五条(相続財産に関する費用)
 相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。〔本条の施行は、平三一・七・一〕
  ◆T 本条の意義 
     
  ◆U 相続財産に関する費用 
  ◇(1) 「相続財産に関する費用」に含まれるもの 
    「相続財産に関する費用」:
 相続財産を管理するために必要な費用、
相続財産の換価、
弁済その他清算に関する費用
相続財産の作成費用
相続人、相続管理人、破産管財人らた相続財産についてなすべき一切の管理・処分等に必要な費用。
     
  ◇(4) 葬式の費用(葬儀費用) 
    香典は、死者である被相続人に対する贈与ではない⇒相続財産ではない。
    近時の裁判例:
葬儀費用は、葬式の主催者である喪主が負担すべきであるが、喪主が形式的なものにすぎないときは、実質的な葬式主宰者が自己の債務として負担すべき。
学説:
A:葬儀費用は、喪主に支払われる相殺料や埋葬料をもって充てられるべきであるが、不足額については相続財産の負担とすべき

B:葬儀費用は相続財産の維持・管理のための費用という本来の意味では「費用」に該当しないものの、相続人保護の見地からこれを「費用」と同視すべきとするもの

C:葬儀費用は原則として遺産から支出されるべき性質のものであって、常に相続人や喪主が個人的に負担すべき費用であると考えることはできない

葬式の主宰者(喪主)が相続人である場合⇒相続人間に別段の合意・了解がなければ、葬儀費用は原則として相続財産の負担となるべき
葬式の主宰者が相続人でない場合も同様に介してよい。
vs.
D(潮見):
葬儀を実施した者が負担した葬儀費用は、遺産分割の手続外で、被相続人との生前の委任に基づく有益費用償還請求・代弁済請求(650条1項2項)または事務管理に基づく有益費用償還請求・代弁済請求(702条1項2項)として、相続人に対して請求すべきものであり、本条にいう「相続財産に関する費用」には当たらない。
     
     
     
     
☆898条(共同相続の効力) W 債権の共同相続(付・現金の共同相続)
     
     
  ◆1 不可分債権 
    不可分債権⇒遺産分割まで全共同相続人に不可分に帰属
    A:民法264条本文によって共同相続人間の準共有に服する
〇B:各共同相続人が直接不可分債権者になる(判例はこっち)

判例:
土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求の確定判決の事実審口頭弁論終結後に、相続開始によって請求者としての地位が3人の共同相続人に相続
被請求者が3人の共同相続人のうち1人から土地の共有持分を取得

他の共同相続人は429条の法意に従い、被請求者に対して権利を行使できる。

債権については、多数当事者の債権債務関係を規定している427条以下全体が264条ただし書にいう「特別の定め」に当たるとするのが適切。
     
  ◆2 可分債権 
    金銭その他の可分債権は、少なくとも一般論としては、共同相続人間での準共有に服するこtなく、遺産分割を経ることなく相続開始によって法律上当然に相続分に従って分割され、各共同相続人に確定的に帰属する(最高裁昭和29.4.8)。
(事案は不法行為に基づく損害賠償賠償請求権が共同相続されたというもの)

可分債権について共同相続人のうちの1人が自己の相続分を超えて、権限なく権利行使をした場合、他の共同相続人は問題の権利行使をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償請求権または不当利得返還請求権を有する(最高裁H16.4.20)。
当然分割の基準となる率分となる相続分:
具体的相続分ではない。

相続分指定(902条)がある場合、分割の基準となる率分は、法定相続分か指定相続分か?
A:指定相続分(潮見)

@分割債権の原則を定める427条がそもそも私的自治を前提にしている
A指定相続分は実体的権利と解すべき
     
  ◆3 預金債権 
  ◇(1) 普通預金債権 
    従来:
普通預金債権は可分債権に関する一般原則に福祉、相続開始によって相続分に応じて当然に分割され、共同相続人間での帰属が確定的に定めるとされていた(最高裁H16.4.20)。
    最高裁H28.12.19:
判例変更
普通預金債権は、契約上の地位の準共有という法律構成を介して、可分債権の一般則には服さないとして判例変更。

@預貯金が決済手段としての性格を強めている
A確実かつ簡易に換価できるという点で、現金との差がそれほど意識されないものになっている
B現金が、評価について不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産でるという事情は、預貯金についても当てはまる
普通預金債権は、
1個の債権として同一性を保持しながら、常にその残高が変更し得るものである。
この理は、預金者が死亡した場合においても異ならない。
すなわち、
預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、
その帰属の態様について検討すると、
上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとそして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。

共同相続人は、金銭債権そのものを承継するのではなく、普通預金契約上の地位を承継して準共有すると宣言することを介して、この決定は、普通預金債権は遺産共有の対象であり、したがって遺産分割を経てはじめて共同相続人間での終局的帰属が確定することを明らかにした。
  ◇(2) 定期預金債権等 
     
  ◆4 金銭 
    多額の現金を残して相続開始があり、共同相続人の一部の者がその現金を保管しているという事例において、他の共同相続人が現金を保管している共同相続人に対して、遺産分割前に法廷相続分に応じた額の支払を請求

共同相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできない旨、宣言。
(最高裁H4.4.10)
     
★第2節 相続分  
☆900(法定相続分)T 本条の趣旨 
 
  ☆900(法定相続分)U 「相続分」の多義性
  ◇(1) 相続分 
    相続分:一般には、相続財産全体に対して各共同相続人が有sるう権利義務の分数的割合。
    903条1項や904条の2第1項の「相続分」:具体的相続分
    905条1項の「相続分」:相続人としての地位
     
  ◇(2) 指定相続分(902条) 
    指定相続分:
被相続人が、遺言で定めた相続分または遺言で委託した第三者によって定められた相続分。
     
  ◇(3) 具体的相続分 
    具体的相続分:
特別受益(903条)ないし寄与分(904条の2)によって法廷相続分が修正されて算定された相続分。
     
     
☆903条(特別受益者の相続分)V 遺贈・贈与の持戻し(1項)
     
     
     
     
   
   
  ◆3 特別受益財産 
     
     
     
  ◇(5) 生計の資本としての贈与 
     
  □(ウ) 使用利益 
    使用貸借も法形式は贈与ではないが、経済的利益を提供⇒特別受益性が肯定される。賃料相当額について特別受益性を肯定。
     
  □(エ) 被相続人の死亡を原因とする財産給付 
    生命保険金(最高裁H16.10.29)
    死亡退職金、遺族給付についても、生命保険金に関する上記裁決の影響もあってか、
特別受益性は原則否定、
著しい不均衡がある場合には例外的に肯定する見解が有力化
     
  ☆903条(特別受益者の相続分)X 持戻し免除の意思表示(3項) (p278)
  ◆1 意義 
    特別受益の持戻しは、共同相続人間の不均衡の是正を目的とする。
被相続人は、通常、共同相続人間の不均衡を望まないだろうという、被相続人の意思の推定に基礎を置く。
反対に、被相続人が共同相続人間の不均衡の是正を望まないという意思を有するのであれば、そのような意思を尊重していい。
     
  ◆2 意思表示の方法 
    生前行為であるか遺言であるか、明示であるか黙示であるかを問わない。
     
  ◆3 意思表示の方法 
    実務では、被相続人が明示的に「持ち戻しを免除する」という意思表示をしていなかったとしても、遺言の文言や被相続人の生前行為の内容から、被相続人の持戻しの免除の意思表示の有無を推認することが広く行われている。
     
  ◆4 遺留分との関係 
     
  ◆5 手続き 
     
     
     
     
     
     
☆904の2(寄与分) V 寄与の要件(p295) 
     
     
  ◆1 寄与の態様 
     
  ◇(3) 被相続人の療養看護 
    高齢社会⇒寄与分の主張の主流に
    親族関係にある寄与者と被相続人が同居⇒看護するのは当然(730条、752条)⇒同居の親族として通常の監護をしたのであれば、寄与とは評価されない。
    当該看護によって、被相続人の財産が維持された(あるいは減少しなかった)ことが必要。 
     
  ◆2 被相続人の財産の維持または増加 
     
  ◆3 その他 
  ◇(1) 無償性 
     
    寄与者が被相続人から(生前・死因)贈与や遺贈を受けており、それによって寄与が評価され尽くされている⇒改めて寄与を認定する必要はない。
but
贈与や遺贈を寄与者の特別受益と見て持戻しをさせてしまうと、寄与分が特別受益といわば相殺されてしまう⇒持戻しの意思表示(903条3項)を推認するなどの対応が必要。
    寄与者が被相続人から、謝礼や小遣いなど、相当の対価とは言えない程度の金品を受領していた場合や、寄与者が被相続人所有の住宅に同居して、住居費の負担を免れていたとか、被相続人に生活費を負担してもらっていた
⇒個別具体的にその対価性を検討 
     
  ◇(2) 特別性 
     
     
  ◇(3) 継続性・専従性 
     
     
     
     
     
☆907(遺産分割の協議又は審判等)Z 一部分割の可否(p400)  
  ◆1 一部分割の意義 
   
     
  ◆2 協議・調停による一部分割の際の留意点 
    協議・調停による一部分割が有効であるためには、「相続人間における残余財産の帰趨が先行する当該一部分割の効力に影響を及ぼさないこと、換言すれば当該部分を残余部分から分離独立せしめることの合意が存在していること」が必要とされる。
     
    一部分割協議が先行⇒残余財産の遺産分割においては、一部分割がなされた遺産は分割審判の対象から除外され、残余財産だけが分割の対象となる。
    残余財産を対象とした遺産分割において、先行の一部分割の結果を考慮すべきか? 
A:一部分割と残部分割とはまったく独立させて個別に決着をつけるべきものとする方法
B:残余財産の分割の際、一部分割した遺産も現存するものとして具体的相続分を計算し、一部分割分も含めて不均衡にならないように分割する方法
東京家裁昭和47.11.15:
一部分割の際の当事者の意思表示の解釈の問題とし、特段の意思表示がないときは後者と解すべき。
     
  ◆3 審判による一部分割