シンプラル法律事務所
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新版注釈民法(相続)

★新版注釈民法(26)  
 
☆885 
    第885条(相続財産に関する費用)
相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
2 前項の費用は、遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しない。
  ◆T 相続財産に関する費用:相続財産の管理や精算に必要な費用
  ◇(1) 
    相続財産の管理:
・相続の承認放棄前・放棄後、財産文理の請求後における相続財産保尊のための遺産管理
・限定承認、財産文理または相続人不存在の場合における清算のための管理
・遺産分割目の共同相続財産の管理

相続人・相続財産管理人等が相続財産についてなすべき一切の管理・処分に必要な費用が、本条によって相続財産の負担となる。
    分割までの共同相続財産の管理費用についえてゃ、民法物件編共有の規定によって(253)、各相続人の負担となると解することもできるであろうが、理論的には、本条によって相続財産の負担となると解される。
  ◇(2) 
    相続税・葬式費用
〜相続財産に関する費用に含まれる。 
  ■相続税
  ■葬式費用 
    A:先取特権が認められている(306、309)⇒相続財産の負担。
B:現行相続法が祭祀財産の証券を相続から別除⇒故人の葬式も喪主(相続人に限らない)の負担
←葬式費用の一部負担とみられる香典が喪主に帰属するという解釈
   
  ◆U 相続財産に関する費用が相続財産の負担という意味? 
    A:相続財産から支弁(遺産自体の負っている負担)
vs.
限定承認・財産分離・相続財産の破産などを除いては実現する方法がない。

B:遺産債務に準ずる
単純承認の場合:
A⇒
遺産分割以前:債権者は全額を相続財産に対してのみ請求
分割後:分割された遺産に追及しなければならない

B⇒
相続分に応じた範囲内では、各相続人の固有財産にも執行が可能
    Bの場合、相続財産の管理費用を遺産分割手続において清算することができるか?
過分の遺産債務は法律上当然に分割され遺産分割の対象とならない⇒管理費用は遺産分割の対象から除外。
     
  ◆V 本条が除外される場合 
  ◇(1)
  ◇(2) 遺留分の減殺によって得た財産(1031)をもって、相続財産に関する諸費用を支弁する必要がない。 
    遺留分の減殺によって得た財産を諸費用の引き当てにしなくてもよいという意味。
では誰が負担するのか?
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
☆903 特別受益者の相続分  
    民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
   
  ◆U 特別受益者
     
     
  ◆X 特別受益財産の範囲 
  ◇(1) 遺贈 
     
  ◇(3) 生前贈与(p201)
    生前贈与については、具体的ケースに応じて多様であって、いかなる受益をもって持ち戻されるべき贈与とみるかは認定困難な問題。
   
     
  ■(イ) 持ち戻されるべき贈与に該当するか否かの認定基準 
    当該生前贈与が相続財産の前渡しとみられる贈与であるか否かを基準にしながら、相続人間の衡平を考慮して判断されるべき。
同時に、被相続人の生前の資産、収入、家庭状況に照らして、総合的に決定されるべきことになる。
    特別受益財産を「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」財産に限られる(本条1項)。

生前贈与のなかの特定の贈与についてのみ特別受益

@あらゆる贈与を特別受益とみなすと、計算が複雑になる
A被相続人の通常の意思を推察すると、少額の贈与は特別受益とはみなされるべきではない
     
  □(a) 
     
  □(b) 生計の資本としての贈与 
     
  □(d) 持ち戻しに服する贈与物の果実 
    これらの果実のうち、相続開始の時までの分⇒持戻しの対象にならない。
but
相続開始の時からの果実⇒他の共同相続人の利益を考慮し、その果実を加算したものを持ち戻しすべき。
but
特別受益財産を相続開始時に評価する通説では、このようなことは問題にならない。
     
  □(e)  
     
  □(f) 学資 
     
  □(g) 扶養料(p207) 
   
     
     
     
  ◇(6) 居住利益・使用利益等(p213) 
    寄与分の主張との調整
あるいは、特別受益性を否定するか、
特別受益だとしても、持戻免除の意思表示があったものとする。 
    大阪家裁での審判例:
相続人が被相続人の自宅の隣地(被相続人所有)の上に自宅を建設し、そこで生活

被相続人の考えに沿うものであり、被相続人の意識として、当該相続人による土地の無償使用を遺産の分割において特別受益として扱うことは予定していなかったものと推認されるとしたもの。
     
     
     
     
☆904の2  
     
     
     
  ◆ 寄与行為の要件(p249)
    @特別の寄与行為
A寄与の態様(類型)
Bこれらの行為の結果、被相続人の財産の維持または増加をもたらした
     
  ◇(1) 特別の寄与行為 
  ■(ア)
    相当な対価を得て有償⇒契約関係で決済
    有償であるが対価が少ない
無償だが相当の謝礼をもらっている

決済されているかどうかを実質的に判断。
    被相続人と同居している者による寄与⇒住居や生活費などの提供が対価の一部とみなされる余地がある。
     
  ■(イ)
    特別な寄与行為でなければならない。 
    夫婦間:
直系血族や兄弟姉妹間:互いに扶養する義務(877T)
直系血族や同居の親族間:互いに扶け合いの義務(730)
    義務の範囲内の行為は通常の寄与であって、特別の寄与には当たらない。

通常の寄与はもともと相続分の基礎に組み入れられており、相続分を修正する事由とは認められない。
    ex.妻の家事労働は夫婦間の協力、扶助の範囲内の行為とみなされ、夫の財産に反映されたとしても、特別の寄与とはみなされない。
    ex.子に関しては、三男が8年間被相続人と同居して面倒を見たことを直系血族として扶養義務の履行であることを考慮すれば、この程度では遺産の維持に貢献したとはいえない(東京高裁昭和54年)。
     
  ◇(2) 寄与の態様 
     
  ■(ウ) 被相続人の療養看護
    ・・・・子の親に対する通常の面倒見扶養の程度を超えたものでなければならない。
    看護によって相続財産が維持されたことが必要⇒看護がされたため、被相続人が看護人の費用の支出を真b脱がれたという財産上の効果をもたらした場合でなければならない。
     
    審判例:
被相続人の1人(4女)が結婚以来20年間被相続人と同居し、入院10年前から痴呆が目立つ被相続人の療養看護を家庭で不寝晩をすなどしてたえず付き添いながら行い、入院後死亡までの5か月間、毎日タクシーで病院に通い、被相続人に付き添い、身の周りの世話をしたケース

20年間のの中、被相続人痴呆が高じた後半の10年の看護は、親族間の扶養義務に基づく一般的な寄与の程度をはるかに超えたものとみ、被相続人の療養看護の方法により相続財産の維持に特別の寄与があった
⇒当時の看護婦(師)・家政婦紹介所の協定料金を基準として算出し、その60%を寄与分とした。
    高齢者介護は未だ家族構成員に重い負担となっている⇒これらの法的評価が寄与分制度に根強く期待されている。
    老人介護について寄与分を認めることは肯定すべき。 
   
  ◇(3) 被相続人の財産の維持または増加 
    寄与行為の結果、被相続人の財産を維持または増加したことが必要。
   
寄与者は、寄与を主張するのであれば、どのようにして財産の維持に寄与したのか、また、財産の貢献したのであれば、どのような労務の提供や財産の給付をしそれに貢献したのかを明らかにする必要がある。 
     
     
     
     
★新版注釈民法(28)  
     
     
     
     
☆1021  
    第1021条(遺言の執行に関する費用の負担)
遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
  ◇(1)
  ◇(2)
◇(3) 遺言執行費用の支払は相続人の遺留分を害することはできない
    相続人は遺留分の減殺によって得た財産の執行費用の引当にしなくてもいい⇒遺留分に食い込む分だけ受遺者の負担となる。
執行費用を遺言による財産処分の延長とみて、相続人の遺留分を確保しようとする。
     
     
     
     
     
     
     
     
☆1029条  
    第1029条(遺留分の算定)
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
     
     
     
  ◆W 控除されるべき債務(p457)
   
    相続財産の負担となるべき費用
相続財産に関する(相続税、管理費用、訴訟費用等)
遺言執行に関する費用(遺言書検認申請の費用、管理費用、相続財産目録調整の費用など)
が、控除されるべき債務にあたるか?
A:否定(通説)

民法885条2項は、相続財産に関する費用は減殺によって得た財産をもって支弁することを要しないと規定
民法1021条は、遺言執行に関する費用を相続財産の負担とするが、この費用によって遺留分を減ずることができないと規定
     
     
☆1030条  
  規定  第1030条
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
   
   
  ◆V  遺留分権利者を害することを知ってなした贈与
    「損害を加えることを知って」:
単に損害を加えるという認識、すなわち、
「法律の知不知を問わず客観的に遺留分権利者に損害を加うべき事実関係を知ること」を意味する。
    いかなる場合に、損害を加うべき事実関係の認識があったといいうるか?
「贈与が遺留分権利者に損害を加えることを知りてなされたるものなることを認定するには、
当事者双方において贈与財産の価額が残存財産の価額に超えることを知りたる事実のみならず、尚将来(・・・・相続開始の日迄に)被相続人の財産に何らの変動なきこと、少なくともその増加なかるべきことの予見の下に贈与をなしたる事実」
が認められなければならない。