シンプラル法律事務所
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最高裁H11.6.29 (判時 1684) |
判断 | 抗弁を認定しながらこれに対する再抗弁を摘示せず、判断しなかったことは、判決に影響を及ぼすべき重要な事項(再抗弁)についての判断を遺漏した違法がある。 but 上告理由としての理由不備(民訴法312条2項6号)とは 「主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていること」をいうとし、 本件の控訴審判決は、それ自体においては、論理的に完結しており、 主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けるものではない ⇒ 民訴法312条2項6号の事由には該当しない。 but 右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反にあたる。 ⇒ 民訴法325条2項により、職権をもって、控訴審判決を破棄し、事件を差し戻した。 |
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解説 | ● | 民訴法改正における上告制度の改正点: 上告理由を @憲法違反と A従来の絶対的上告理由 を中心に整理する(民訴法312条)とともに、 従来の上告理由であった法令違反については、 @法令解釈の統一を要する判例違反と A法令の解釈に関する重要な事項 とを上告受理の対象とし(民訴法318条) 「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」は、 職権破棄の事由(民訴法325条2項)とした。 |
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以上の趣旨 ⇒ 民訴法312条2項6号に規定する理由不備・齟齬の内容も、 正当な法令解釈を前提としたときには当該法令の適用について理由が不足し、あるいは理由が一貫しないという意味での実質的法令違反としての理由不備・食違いをいうものではないということになろう。 ⇒ 本判決: 上告理由としての理由不備を、 「主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていること」とし、 本件はこの意味での理由不備には該当しないとした。 |
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再審事由たる判断遺脱(民訴法338条1項9号)における 「判決に影響を及ぼすべき重要な事実」 〜 判決の結論を導き出すために論理的に判断が必要となる主要事実(又は重要な間接事実)をいい、かかる事項の判断遺脱自体が判決を違法ならしめるものであり、 当該主要事実を判断した結果、判決の結論が代わることまでをいうものではない。 他方、 職権破棄の要件たる「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」とは、旧法下における上告理由たる法令違反と同様、その法令解釈の違法が主文に具体的に影響することをいうもの。 ⇒ その意味するところは同一ではない。 |
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● | 請求原因(抗弁)を認めたときの抗弁(再抗弁)のように、その判断が判決の結論を導く上で論理的に必要となる事項は、 「判決に影響を及ぼすべき重要な事項」に辺り、これに関する判断の遺脱は再審事由に該当する(民訴法338条1項9号)。 |
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再抗弁を摘示しながら判断しなかった⇒主文を導き出すための理由の一部が欠けていることになる⇒上告理由足る理由不備になるとともに、再審事由にも該当する。 but 主張された再抗弁を摘示せず判断しなかった⇒再審事由に該当するが上告理由には該当しない。 |
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● | 本件: 判断遺脱をもって「理由不備」であるとの主張⇒上告理由の記載があるものとして、原裁判所の却下決定(民訴法316条1項)又は最高裁での却下決定(民訴法317条1項) によることなく、適法な上告として、民訴法325条2項を適用して職権破棄をし、原判決の過誤の是正を図った。 |
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but 「理由不備」の意義を正しく理解して「判断遺脱」のみを掲げた上告は、 上告理由書に上告理由の記載の内不適法な上告として原審却下(民訴法316条1項)又は 最高裁での決定却下(民訴法317条1項) の対象となり、 職権破棄(民訴法325条2項)が適法な上告を前提とするものとすれば、職権破棄による是正もできないことになりそう。 but 判断遺脱のみを掲げる上告であっても、再抗弁が摘示されて判断されなかった場合と同様に、理由不備の趣旨を含むものとすれば、本件と同様の対応をすることも許される? |
☆閲覧・謄写等制限関係 | |||
大阪地裁H11.8.30 (判時 1714 民事p119) |
事案 | 女性Xが裁判所に対し、 XがAに対して提起したセクハラ行為を理由とする損害賠償訴訟における訴訟記録の閲覧、謄写、正本、抄本の交付、複製は、当事者に限り許される旨の閲覧等の制限の申立て。 ← この訴訟が性的被害の侵害を争点とするため、訴訟書類にXの性的被害の実情が詳細に記載され、これはXの私生活上の重大な秘密で、この閲覧等が無制限に認められると、マスコミの興味本位の報道により、Xの社会生活を営むにつき著しい支障が生ずる。 |
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判断 | Xの申立てのうち、 本件訴訟記録全部についてXの氏名、住所、生年月日及び愛称部分の閲覧等は当事者に限定し、 また、、本件訴訟記録の一部については閲覧等は当事者に限定として、第三者の閲覧等を制限。 but その余の申立ては却下。 ← @本件訴訟記録中、Xの氏名、住所等Xを特定するに足りる事項が、第三者の閲覧者等により外部に明らかとなれば、記録中のわいせつ行為と相まって、被害を受けたXにとって重大な秘密が明らかとなり、社会生活上重大な障害となる。⇒Xの氏名等特定に関する事項の閲覧は当事者に限るのが相当。 but A当事者以外の本件事件の関係を特定する事項については、閲覧等を制限しても、その制限とXの秘密保持との間には因果関係がない。 B本件訴訟記録中のわいせつ行為の記載についてはXの代理人から本件訴訟提起後に報道関係者に対し記者会見を開き要約した書面を配布しており、既にXの私生活上の秘密とはいえないが、その前記制限した一部は、公開された事実ではない。 |
☆最高裁により事実認定の誤りとされた事案 | |||||
最高裁H18.11.14 (判時 1956) |
判断 | 患者の相当多量な血便や下血、ヘモグロビン値やヘマトクリット値の急激な下降、頻脈の出現、ショック指数の動向等 ⇒患者の循環血液量に顕著な不足を来す状態が継続し、輸血を追加する必要性があったことがうかがわれ、第一審で提出された医師Aの意見書中の意見が相当の合理性を有することを否定できず、 むしろ、原審で提出された医師Bの意見書の追加輸血の必要性を否定する意見の方に疑問があると思われる but 両意見の各内容を十分に比較検討する手続を執ることなく、原審の第1回口頭弁論期日において口頭弁論を終結した上、医師Bの意見書を主たる根拠として、担当医が追加輸血等を行わなかったことにつき過失を否定した原審の判断には、採証法則に反する違法がある。 |
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解説 | 採証法則違反となることの根拠として次の三点を重視 @原判決は、追加輸血の注意義務違反があることをうかがわせる事情について評価を誤った。 ← ・・・輸血の必要性がうかがわれる。 A医師Bの意見書よりも、医師Aの意見書の方に合理性があると考えられる。 B原審が両意見書の各内容を十分に比較検討する手続を執ることなく、原審の第一回口頭弁論期日において口頭弁論を終結、 |
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最高裁H18.3.3 (判時 1928) |
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解説・説明 | ● | 国家公務員災害補償法に関する最高裁昭和51.11.12: 業務上の傷病等と認定するためには、当該傷病等が業務に起因するものであることを必要とし、 ある傷病等につき業務に起因するものであるというためには、業務と当該傷病等との間に相当因果関係があることを必要とする、という考え方を示している。 |
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最高裁判所は、具体的な事案に即して、当該労働災害が業務に内在する危険が現実化したものであるか否かを判定することによって、業務起因性の有無を判断するという態度。 | |||||
● | 脳・心臓疾患のように、基礎疾患等が種々の有害因子により長い年月の間に形成され徐々に増悪して発症するという自然の経過をただる疾病の場合には、業務と疾病との間の相当因果関係の有無の判断に困難を伴うことが多い。 | ||||
この点についての、行政解釈: @基礎疾患等が業務遂行中に増悪して脳・心臓疾患が発症したとしても、当該基礎疾患等がその自然的経過に従って増悪して脳・心臓疾患が発症したにすぎない場合には、業務が基礎疾患等の増悪にわずかな影響(いわば最後の一滴とでもいうべきもの)を与えていたとしても、業務と脳・心臓疾患との間に相当因果関係があることを認めることはできない(このような脳・心臓疾患は業務を機会として生じたものにすぎず、業務はいわゆる機会原因にすぎない。)が、 A当該基礎疾患等が業務上の精神的、身体的な過重負荷という有害因子によりその自然的経過を超えて急激に著しく増悪して脳・心臓疾患が発症した場合には、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務と脳・心臓疾患との間に相当因果関係があることを認めることができる。 |
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最高裁判所の先例: @基礎疾患等が業務遂行中に増悪して脳・心臓疾患が発症したとしても、当該基礎疾患等がその自然の経過に従って増悪して脳・心臓疾患が発症したにすぎない場合には、業務が基礎疾患等の増悪にわずかな影響を与えたとしても、業務と脳・心臓疾患との間に相当因果関係があることを認めることはできないが、 A当該基礎疾患等が業務上の精神的、身体的な過重負荷によりその自然の経過を超えて増悪して脳・心臓疾患が発症した場合には、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務と脳・心臓疾患との間に相当因果関係があることを認めることができる。 |
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● | Aが、昭和59件以降、通常通りの職務に従事していたことなど、原審の認定と矛盾する事実がある ⇒「Aは、直ちに心筋こうそくを発症するよな状態になかった」と認定する余地がある。 |
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最高裁 H18.1.27 (判時 1927) |
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事案 | 80歳を超えた女性が、脳こうそくの発作でYの開設する病院に入院⇒急性期から安定期に移ったことから、一般病室へ移った⇒同病室にはMRSAの保菌者が在籍し、同女もMRSAに感染⇒死亡 | ||||
相続人であるXらが、 病院の医師には、 @広域の細菌に対して抗菌力を有する抗生剤である第三世代セフェム系抗生剤を投与すべきでなかったのに、これを投与したことにより、女性にMRSA感染症を発症させた過失 A早期に抗生剤バンコマイシンを投与すべきであったのに、これを投与しなかったことにより、MRSAの消失を遅らせた過失、 B多種類の抗生剤を投与すべきでなかったのに、これをしたことなどにより、女性にMRSA感染症や多臓器不全を発症させた過失等があり、 その結果、女性を死亡させるに至った ⇒債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を求めた。 |
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判断 | @当時の医療慣行はともかく、国立病院等のマニュアルや私的意見書においては、MRSA感染症を予防するためには、感染症の原因菌を正しく同定して、できるだけ狭域の抗生剤を投与すべきであり、広域の抗生剤である第三世代フェム系抗生剤の投与は避けるべきであるとされていること、 A裁判所の鑑定においては、担当医師が第三世代セフェム系抗生剤を選択したことが当時の医療水準にかなうものではないという趣旨の指摘がなされていること ⇒ 第三世代セフェム系抗生剤を投与したことについての担当医師の過失を否定した原審の判断には、証拠の評価を誤り、経験則に反して、第三世代セフェム系抗生剤を投与したことが当時の医療水準にかなうものであるとの事実認定をした違法がある。 |
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@裁判所の鑑定においては、早期にバンコマイシンを投与しなかったことが、当時の医療水準にかなうものではないという趣旨の指定がなされていること A私的意見書は、早期にバンコマイシンを投与しなかったことが、当時の医療水準にかなうものであるという趣旨の指摘をするものであるか否か明らかでないこと ⇒ 早期にバイコマイシンを投与しなかったことについての担当医師の過失を否定した原審の判断には、証拠の評価を誤り、経験則に反して、早期にバイコマイシンを投与しなかったことが当時の医療水準にかなうものであるとの事実認定をした違法がある。 |
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@当時の医療慣行はともかく、国立病院等のマニュアルや私的意見書においてはMRSA感染症を予防するには、適正な種類の抗生物質のみを使用すべきとされていること、 A医師側の私的意見書においてさえ、担当医師が必要のない抗生剤を投与したことなどが、当時の医療水準にかなうものではないという趣旨の指摘がなされている ⇒ 多種類の抗生剤を投与したことについての担当医師の過失を否定した原審の判断には、証拠の評価を誤り、経験則に反して、多種類の抗生剤を投与したことが当時の医療水準にかなうものであるとの事実認定をした違法がある。 |
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解説 | 要するに、本判決は、 裁判所の鑑定や私的意見書の真意が、第三世代セフェム系抗生剤を投与したこと、早期にバイコマイシンを投与しなかったこと、及び、必要以上に多種類の抗生剤を投与したことの各点について、当時の医療水準にかなわないところがあり、担当医師の過失は否定し難いという趣旨をいうものとうかがわれるにもかかわらず、 裁判所の鑑定や私的意見書の記載のうち、担当医師の過失を否定するかのように読める部分を強調し、担当医師の過失を否定する趣旨には読み難い部分を担当医師の過失を否定する根拠として利用し、 他方で、担当医師の過失を肯定するように読める部分を合理的な根拠を示すこともなく排斥した点において、 担当医師の過失を否定した原審の判断は、裁判所の鑑定や私的意見書の証拠の評価を誤ったものであり、その結果、当時の医療水準についての事実認定を誤り、また、過失についての判断を誤ったものであることを指摘するもの。 |
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@医療訴訟において決め手となる裁判所の鑑定や私的意見書について、つまみ食い的に評価をすることを戒め、十分に吟味してその真意を探求すべきであること、 A真意がはっきりしない点とか、不十分な点があるというのであれば、労をいとわずそれらの点を確認すべきであること、 B一方当事者が拠り所としている部分を採用しないというのであれば、合理的な根拠を示してこれを排斥すべきであること、 C鑑定事項とされていない事項について鑑定において問題視されていないことは、過失を否定する資料とすべきではないこと等を示唆。 |