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倒産判例

百選等
  判時2092
最高裁H22.6.4 

倒産百選5版
58
★所有権留保と民事再生手続
  事案 Yは、販売会社から本件自動車を購入する際、信販会社であるXを含めた三者間契約において、本件自動車の残代金をXが立替払することや、本件自動車の所有権がXに対する債権の担保を目的として留保されることなどを内容とする三者契約(「本件三者契約」)を締結。 
  規定 民事再生法 第45条(開始後の登記及び登録)
不動産又は船舶に関し再生手続開始前に生じた登記原因に基づき再生手続開始後にされた登記又は不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第百五条第一号の規定による仮登記は、再生手続の関係においては、その効力を主張することができない。ただし、登記権利者が再生手続開始の事実を知らないでした登記又は仮登記については、この限りでない。
2 前項の規定は、権利の設定、移転若しくは変更に関する登録若しくは仮登録又は企業担保権の設定、移転若しくは変更に関する登記について準用する。
民事再生法 第49条(双務契約)
双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、再生債務者等は、契約の解除をし、又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
2 前項の場合には、相手方は、再生債務者等に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、再生債務者等がその期間内に確答をしないときは、同項の規定による解除権を放棄したものとみなす。
3 前二項の規定は、労働協約には、適用しない。
4 第一項の規定により再生債務者の債務の履行をする場合において、相手方が有する請求権は、共益債権とする。
5 破産法第五十四条の規定は、第一項の規定による契約の解除があった場合について準用する。この場合において、同条第一項中「破産債権者」とあるのは「再生債権者」と、同条第二項中「破産者」とあるのは「再生債務者」と、「破産財団」とあるのは「再生債務者財産」と、「財団債権者」とあるのは「共益債権者」と読み替えるものとする。
  原審 X(信販会社)が販売会社に立替払をすることにより、弁済による代位が生ずる結果、販売会社が留保していた所有権は、販売会社のYに対する残代金債権と共にXに移転するのであり、本件三者契約はそのことを確認したものであって、Xがこの留保所有権を主張するについては、販売会社において対抗要件を具備している以上、自らの取得について対抗要件を具備することを要しない。
⇒Xの請求を認容。 
  判断 ・・・・本件三者契約は、A(販売業者)において留保していた所有権が代位によりX(信販会社)に移転することを確認したものではなく、Xが、本件立替金等債権を担保するために、Aから甲(自動車)の所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解するのが相当。⇒Xが別除権として行使し得るのは、本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべき。
三者契約の合意内容によれば「XがAから移転を受けて留保する所有権が、本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。」
「立替払の結果、Aが留保していた所有権が代位によりXに移転するというのみでは、本件残代金相当額の限度で債権が担保されるにすぎないことになり、本件三者契約における当事者の合理的意思に反するものと言わざるを得ない。」
再生手続が開始した開始した場合に再生債務者の財産について別除権の行使が認められるためには、手続開始時にその担保権について登記、登録等を具備している必要があることを確認し、本件自動車については、販売会社を所有者とする登録があっても、Xを所有者とする登録がされていない以上、Xの別除権行使は許されない
  解説 @購入者の債務完済までに信販会社が自動車の所有権を留保する一方、
A自動車の所有者登録が販売業者に残されるという取り扱い。
⇒購入者の倒産時に信販会社が所有権留保を主張できるか?
所有権留保を別除権とすることは下級審判例および学説の大勢と一致するところ。 
双方未履行契約との関係:
A:@債務者が立替金等債務を負う一方で、A自動車の所有権留保においては、債権者が債務完成時に所有権移転義務とともに登録移転義務を負う⇒双方未履行双務契約該当性を肯定する見解が有力。
B:所有権留保が債権担保を目的とすることを重視⇒所有権移転および登記移転は債務弁済による他の県の消滅と公示の抹消。
Aだと、破産管財人・再生債務者は自動車の価値や債務の既履行額等を考慮して契約の解除または債務の履行を選択できる
⇒契約解除により、債権者が受領した弁済の返還義務を負う一方で中古品として価格の下落した目的物を押し付けられるなど、債権者の地位が害される可能性もある。
⇒所有権留保の双方未履行双方契約該当性を否定し、別除権として取り扱うことには一定の合理性があると考えられる。
本判決:別除権行使が認められるには原則として手続開始時に担保権について登記・登録等を具備している必要がある。 
民事再生法45条をめぐる、民事再生手続の開始と対抗問題
A:民事再生手続では原則として債務者に対する財産の処分制限効が及ばない⇒対抗問題が生じない。
B:再生債務者に実体法上の第三者性を肯定し、対抗問題の発生を認める見解も有力
本判決:再生債務者の第三者性に言及しないものの、別除権行使に登記・登録等の具備を要求する前提として、一般債権者が個別の権利行使を禁止されることを挙げる
⇒との親和的。

45が規定する登記・登録のある財産に限らず、差押債権者との関係で対抗要件の具備が実体法上要求される場合、一般について、対応要件具備が必要。
所有権留保の法律構成: 
A:売主の所有権が担保目的に制限され(留保所有権)、買主にある種の物権的地位が帰属するという考え方が有力(最高裁H21.3.10)。
本件のように販売業者・信販会社・購入者という3者が登場する場合には、さらに信販会社が留保所有権を取得するメカニズムが問題。
A:代金の立替払いを受けた販売業者が留保所有権を被担保債権である代金債権とともに信販会社に譲渡し、購入者と信販会社の合意によって被担保債権を立替金債権とする。
B:代金が立替払いされると弁済による代位の効果として販売業者の留保所有権が代金債権とともに信販会社に移転するという見解
⇒法律上当然に権利移転が生じることから、販売業者の所有者登録が存在する限り、信販会社が別除権行使のため対抗要件を具備する必要がない(原審の立場)。
最高裁は、本件の三者契約の解釈としてBの見解を採用しない。

三者契約の合意内容によれば、所有権留保の被担保債権は残代金債権ではなく、立替金等債権であると解するのが当事者の合理的意思に合致する。
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A説のように販売業者の留保所有権が信販会社に譲渡されると構成される場合、被担保債権が立替金等債権に変更されるロジックは必ずしも明らかではない。
判旨の内容からすれば、Xの留保所有権がAの留保所有権から独立して新たに設定されたと解しうる。
例えば、立替払いによる残代金債権の消滅とともにYがAとの所有権留保に基づく物権的地位を放棄し、Aが完全な所有権をXに譲渡して、X・Y間で新たに所有権留保を設定することが、三者間で合意されていたと考えることもできる。
@X・Y間での新たな所有権留保の設定と、AAの留保所有権の代位によるXへの移転とは、契約解釈の問題として二者択一の関係。
当事者の合意次第では、法定代位による留保所有権の移転が生じる場合もあると考えられる(この場合、被担保債権は残代金債権となるが、債務者からの弁済を手数料等に優先充当するという対処があり得る。ただし、信販会社の別除権行使に対抗要件が不要であるかは残された問題(対抗要件必要説あり))。
本判決の帰結⇒甲は再生債務者財産に含まれ、YはAに対して所有権登録の移転を請求できる。
  倒産百選5版
74
最高裁H7.4.14 
  ★ファイナンス・リースと会社更生法61条
  事案  Xは、本件機械をBから買い受け、Aにリースする旨のいわゆるファイナンス・リース契約を締結。
本件リース契約は、リース期間満了時に本物件に残存価値はないものとみてリース期間中にXが投下資本の全額を回収できるように算定されたフルペイアウト方式によるもの。
Aに更生手続が開始⇒Yが管財人に選任。
Xは、未払のリース料の支払を催告した後、本件リース契約を解除し、本物権の引渡しおよび未払リース料の支払を求めて本訴を提起。
  規定 会社更生法 第61条(双務契約)
双務契約について更生会社及びその相手方が更生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、管財人は、契約の解除をし、又は更生会社の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
2 前項の場合には、相手方は、管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、管財人がその期間内に確答をしないときは、同項の規定による解除権を放棄したものとみなす。
3 前二項の規定は、労働協約には、適用しない。
4 第一項の規定により更生会社の債務の履行をする場合において、相手方が有する請求権は、共益債権とする。
5 破産法第五十四条の規定は、第一項の規定による契約の解除があった場合について準用する。この場合において、同条第一項中「破産債権者」とあるのは「更生債権者」と、同条第二項中「破産者」とあるのは「更生会社」と、「破産財団」とあるのは「更生会社財産」と、「財団債権者」とあるのは「共益債権者」と読み替えるものとする。
「模範六法 2014」 (C)2014 Sanseido Co.,Ltd.
  判断 いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約において、リース物件の引渡しを受けたユーザーにつき会社更生手続の開始決定があったときは、未払のリース料債権はその全額が更生債権となり、リース業者はこれを更生手続によらないで請求することはできない。 
右の方式によるファイナンス・リース契約は、リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて、リース業者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定
⇒その実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するもの
⇒右リース契約においては、リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し、リース料の支払が毎月一定額になること約定されていても、それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず、各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない。

会社更生手続きの開始決定の時点において、未払のリース料債権は、期限未到来のものも含めてその全額が会社更生法(現行法)2条8項にいう会社更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権に当たる。
会社更生法(現行法)61条1項の規定は、双務契約の当事者間で相互にけん連関係に立つ双方の債務の履行がいずれも完了していない場合に関するものであって、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約においてあ、リース物件の引渡しをしたリース業者は、ユーザーに対してリース料の支払債務とけん連関係に立つ未履行債務を負担していない。
⇒右規定は適用されず、結局、未払のリース料債権が同法(現行法)61条4項に規定する共益債権であるということもできないし、他に右債権を共益債権とすべき事由もない。
  倒産百選5版
80 
@最高裁H12.2.29
A最高裁H12.3.9
  ★預託金会員制ゴルフクラブの会員の破産と破産管財人の解除権
  事案  @ @事件:
A会社は、平成2年2月9日に預託金2300万円を払い込み、Y会社が経営するゴルフクラブの会員。預託金は、会員が会員資格を喪失した時に返還されるが(無利息)、入会後10年以内の資格喪失の場合には、払込日の翌日から起算して10年経過した後に返還。
破産管財人は、破産法59条1項(現53条1項)により上記会員契約を解除する旨の意思表示をし、預託金全額の変化を請求。 
  A 預託金の据置期間は15年で、年会費の定めなし。 
  規定  破産法 第53条(双務契約)
双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
2 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
3 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第六百三十一条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第六百四十二条第一項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。
破産法 第54条
前条第一項又は第二項の規定により契約の解除があった場合には、相手方は、損害の賠償について破産債権者としてその権利を行使することができる。
2 前項に規定する場合において、相手方は、破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存するときは、その返還を請求することができ、現存しないときは、その価額について財団債権者としてその権利を行使することができる。
  判断 @ 預託金会員制ゴルフクラブの会員契約は、主として預託金の支払とゴルフ場施設利用権の取得が対価性を有する双務契約であり(会員に年会費の支払義務がある場合には、年会費の支払も対価関係の一部となり得る。)、その会員が破産した場合、会員に年会費の支払義務があるゴルフクラブにおいては、ゴルフ場施設を利用可能な状態に保持し、これを会員に利用させるゴルフ場経営会社の義務と、年会費を支払う会員の義務とが破産法59条1項(現53条1項)にいう双方の未履行債務になる。
破産管財人が契約を解除することができるとしているのは、契約当事者双方の公平を図りつつ、破産手続の迅速な終結を図るためであると解される。そうすると・・・・契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきである。
・・・相手方に著しく不公平な状況が生じるかどうかは、解除によって契約当事者双方が原状回復等としてすべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、(改正前)破産法60条(破産法54条)等の規定により相手方の不利益がどの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が双務契約において本質的・中核的なものかそれとも付随的なものにすぎないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである
破産管財人が破産者の会員契約を解除できるとすると、ゴルフ場経営会社は、他の会員との関係からゴルフ場施設を常に利用しえる状態にしておかなければならない状況には何ら変化がないにもかかわらず、本来一定期間を経過した後に返還することで足りたはずであり、しかも、当初からゴルフ場施設の整備に充てられることが予定されていた預託金全額の即時返還を強いられる結果となる・・・。その一方で、破産財団の側ではゴルフ場施設利用権を失うだけであり、殊更解除に伴う財産的な出損を要しないのであって、甚だ両者の均衡を失している・・・。ゴルフ場経営会社が、・・・右のような著しい不利益を損害賠償請求権として構成し、これを(改正前)破産法60条(破産法54条)により破産債権として行使することで回復することは、通常は困難である」。「また、・・・(年会費の支払)義務は、会員契約の本質的・中核的なものではなく、付随的なものにすぎない」。「そして・・・市場における当該ゴルフ会員権の価値が預託金の額より低額である場合に、・・・解除権を行使することによって、価値の低いゴルフ会員権を失う対価として預託金全額の即時返還を請求しえるとするならば、著しく不当な事態を肯定することになる」。「なお、破産管財人としては・・・年会費の支払を免れる・・・ためには本件会員契約を解除しなくても、会則の定めに従って退会の手続を執れば足りる」。「これらにかんがみると、Xが本件会員契約を解除するときは、これによりYに著しく不公平な状況が生じ・・・、Xは、・・・本件会員契約を解除することができない」。
A 「(ゴルフ場施設の)利用料金支払義務は、会員が実際に施設を利用しない限り発生しないものであって、これを破産宣告時における会員の未履行債務ということはでき(ず)・・・、他に会員であるAに未履行の債務があることは記録上うかがわれない。」「そうすると、・・・A側には未履行の債務がないというべきである。」
⇒本件会員契約を解除することはできない。