シンプラル法律事務所
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要件事実入門(岡口)

要件事実入門
★第1章 民事訴訟の知識 
    ◆1 総論 
  ◇2 民事訴訟の審理における3つのレベル(p2)
  ■ア 請求レベル
請求(訴訟物)の特定:処分権主義(=いかなる請求をするかは原告の自由)
給付訴訟では、当該給付請求権が存在するか否かが、訴訟の審理判断の対象(=訴訟物)
  ■イ 主張レベル 
   
  原告:請求を理由付ける事実として、請求権の発生要件等に該当する具体的事実(=主要事実)の主張をする

「広義の請求原因」 
    被告:請求権の発生を障害させる要件、請求権を消滅させる要件、請求権の行使を阻止する要件等に該当する具体的事実(=主要事実)の主張

「抗弁」
  主要事実は、当事者が主張しなければ、裁判所は、これを裁判の基礎とすることができない(弁論主義の第一テーゼ)。
  ■ウ 立証レベル 
直接証拠又は間接証拠による立証:自由心証主義 
  ◇3 民事訴訟の3類型 
給付訴訟:
金員等の給付を求める訴訟:
「被告は、原告に対し、5万円を支払え」
確認訴訟:
権利(又は法律関係)の存否の確認を求める訴訟
「原告が甲土地の所有権を有することを確認する。」
形成訴訟:
法律関係を新たに形成することを求める訴訟
「原告と被告とを離婚する。」
  ◆4 請求レベル・・2(請求の選択・特定)(p10)
  ◇1 請求の選択 
原告は、審判の対象(=訴訟物)及びその範囲を、自ら設定することができ、裁判所はそれに拘束される(民法246条)(処分権主義)。
民訴法 第246条(判決事項)
裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
請求には、契約に基づく請求、法定債権(事務管理、不当利得、不法行為)に基づく請求、物権的請求権に基づく請求などがある。
契約に基づく請求権とそのよの請求権のいずれも行使できる⇒契約関係という特殊な関係にあることを利用する⇒まずは契約に基づく請求権の行使を検討。
不当利得返還請求権は、補充的なもの⇒まずはそれ以外の請求権から考える。
  ◇2 請求の特定 
  ■ア 概要 
原告は、訴状において、請求の趣旨及び狭義の請求原因によって請求を特定する
  ■イ 請求の趣旨 
被告は、原告に対し、100万円を支払え。
強制執行の際に実質的判断をしなくて済むよう、請求の趣旨は、給付内容だけを簡潔に表現
  ■ウ 狭義の請求原因 
  □a 意義
請求の趣旨と相まって訴訟物を特定するのに必要な事実。
民訴規則 第53条(訴状の記載事項・法第百三十三条)
訴状には、請求の趣旨及び請求の原因(請求を特定するのに必要な事実をいう。)を記載するほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。
  □b 訴訟物を特定するのに必要な事実 
債権的請求権:
同一当事者間に同一内容の権利が併存し得る⇒権利・義務の主体及び権利内容に加え、権利の発生原因である歴史的事実によって特定
「原告の、被告に対する、原被告間で平成〇年〇月〇日に成立した売買契約に基づく代金支払請求権」
物件的請求権:
権利・義務の主体、権利の対象物及び権利内容で特定できる。
土地の所有者が、その土地の占有を侵奪している者に対し、物権的請求権を行使して、その土地の明渡請求をする場合、その請求権は1つしかない。⇒それ以上特定する必要はない。
「原告の、被告に対する、所有権に基づく返還請求権としてのAっ¥土地の明渡請求権」
広義の請求原因の記載との関係:
訴状には広義の請求原因の主要事実が記載されるのが通常。

法令上は訴状の必要的記載事項とされていないが、早期の争点把握などのため実務上記載が求められている。

広義の請求原因が記載されると、その中に、狭義の請求原因の記載も含まれるのが通常。
⇒訴状において、広義の請求原因とは別に狭義の請求原因が記載されることは通常ない。
  □c 請求の法的性質の明示・・・よって書き 
     
  ◆5 主張レベル・・・1(攻撃防御方法)(p13) 
  ◇1 概要 
  ◇2 広義の請求原因 
  ◇3 抗弁 
  ■ア 概要 
    被告が、原告の請求を排斥するため、
@訴訟物である請求権の発生を障害させる要件
A請求権を消滅させる要件
B請求権の行使を阻止する要件
等に該当する具体的事実(=主要事実)を主張。
   
  ■イ 障害の抗弁
    訴訟物である請求権は、その発生が障害されたため発生しなかったとの主張であり、
請求権の発生障害要件に該当する具体的事実(=主要事実)を主張するもの。
ex.
契約に基づく請求に対する虚偽表示無効の抗弁
     
  ■ウ 消滅の抗弁 
    訴訟物である請求権は、発生したものの、基準時である口頭弁論終結日より前に消滅したとの主張であり、
請求権の消滅要件に該当する具体的事実(=主要事実)を主張するもの。
ex.
消滅時効の抗弁。
     
  ■エ 阻止の抗弁 
    訴訟物である請求権は、存在しているが、行使することができないとの主張であり、
請求権の行使阻止要件に該当する具体的事実(=主要事実)を主張するもの。
ex.
履行期限の抗弁
   
  ■オ その他 
    要件事実論では、法的三段論法の大前提に証明責任分配原則を組み込む
⇒実体上の発生障害・消滅・阻止要件ではないの抗弁となるものがある。
     
  ◇4 再抗弁(p15)
    再抗弁:
原告が、抗弁による法律効果(請求権の発生障害・消滅・行使阻止等)を覆滅させるために、当該法律効果の発生を傷害する要件、当該法律効果を消滅させる要件等に該当する具体的事実(=主要事実)を主張するもの。
    障害の再抗弁
消滅の再抗弁
阻止の再抗弁
その他:要件事実論に特有なもの
     
  ◇5 再々抗弁以下 
     
     
  ◆7 立証レベル(立証責任) 
  ◇1 概要 
立証責任の考え方として、
A:証明責任規範説と
B:法規不適用説
  ◇2 証明責任規範説 
  ■ア 概要 
    主要事実の存否が不明に終わった場合に、その事実はない(又はある)と擬制するのが、証明責任規範。
    主要事実の存在立証⇒法規適用
主要事実の不存在立証⇒法規不適用
主要事実の存否不明⇒証明責任規範により主要事実の
@存在擬制⇒法規適用
A不存在擬制⇒法規不適用
  ■イ 立証責任 
    立証責任:
主要事実の存否が不明であるため証明責任規範が適用されて裁判がされることにより生ずる不利益。 
  ■ウ 立証責任の所在
    法の明文で定められている場合もある(民法117条1項)が、多くの場合は規定なし。

実体法の趣旨、実体法に基づく価値判断を主たる基準とし、
実体法において請求権の発生要件とされているもの⇒原告が立証責任
請求権の発生障害要件、消滅要件⇒被告が立証責任
という考え方がある。
     
  ◇3 法規不適用説 
  ■ア 概要 
    主要事実の存否が不明である場合に、証明責任規範を介することなく直ちに法規不適用とする見解。
vs.
実体法は、法律要件に該当する主要事実が存在する場合には法規が適用され、
存在しないばあいには法規が適用されないと定めているだけで、
主要事実の存否が不明である場合に法規が適用されないとは定めていない
⇒論理の飛躍がある。
but
ドイツ及び日本で通説
    主要事実の存在立証⇒法規適用
主要事実の不存在立証⇒法規不適用
主要事実の存否不明⇒法規不適用
  ■イ 立証責任 
    主要事実の存在が立証されない限り、法規は適用されない。

立証責任とは、
主要事実の存在が立証されないことにより、法規が適用されず、法律効果の発生が認められない不利益
  ■ウ 立証責任の所在・・・法律要件分類説 
    実体法において請求権の発生要件とされているもの該当する主要事実が立証されなければ、法規が適用されず、請求権の発生が認められない⇒
これにより不利益を負うのは原告⇒
「請求権の発生要件は原告が立証責任を負う」 
実体法において請求権の発生障害要件、消滅要件、行為阻止要件とされているものについては、被告が立証責任を負う。

実体法の定める法律要件に分類して立証責任を定める考え方:
法律要件分類説。
    請求権の発生要件⇒原告が立証責任

請求権の発生障害要件:
請求権の消滅要件:
請求権の行使阻止要件:
⇒被告が立証責任
    but
発生要件と発生障害要件は裏返しの関係にあって、そのどちらにも分類できる。
ex.
主債務の存在が保証債務履行請求権の発生要件
と言えるし
主債務の不存在が保証債務履行壊死級兼の発生障害要件
ということもできる。

実体法の規定から立証責任の所在を決めることはできない(現在のドイツの通説)。
  ■エ 修正された法律要件分類説 
    実体法は、立証責任の分配を十分に考慮して規定されているとは限らない。

実体法の規定に厳格に従うのではなく、
条文の文言から許される範囲で、立証の困難性などの事情をも考慮して、柔軟に立証責任の所在を定めるという考え方(=修正された法律要件分類説)。
司法研修所:
この見解に立ち、
考慮事由として、
「法の目的、類似又は関連する法規との体系的整合性、当該要件の一般性・特別性又は原則性・例外性、その要件によって要証事実となるべきものの時事的態様とその立証の難易など」
を挙げている。
     
★第2章 要件事実総論 
  ◆1 民事裁判過程論 
  ◇1 概要
   
     
  ◇2 判決三段論法 
  ■ア 大前提:実体法規範(法律要件⇒法律効果
実体法規範:
法律要件を充足すると法律効果が発生する旨を抽象的に定めており、これが大前提。
ex.「債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したとき」は、「その債権は、消滅する。」(民法519条)
  ■イ 小前提:あてはめ(主要事実⇒法律要件)
当該事例における具体的な事実(=主要事実)が法律要件にあてはまること。
これが小前提。
ex.「債権者であるAと、債務者であるBが、平成〇年〇月〇日、AとBとの間に債権債務がないことを確認したこと」
  ■ウ 結論(主要事実⇒法律要件⇒法律効果)
@大前提とA小前提が整うと、当該事例において法律効果が具体的に発生する。
     
    大前提:実体法規範(法律要件⇒法律効果)
小前提:あてはめ(確定した主要事実⇒法律要件)
結論:確定した主要事実⇒法律要件⇒法律効果
   
  ◇3 無権代理人に対する損害賠償請求 
    民法 第117条(無権代理人の責任)
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
  ■ア 大前提
    民法117条1項を分節

@他人んぼ代理人として契約したこと
A@の際に、その代理権を有していなかったこと
B本人が@の契約を追認しなかったこと
C契約の相手方に損害が発生したこと
D契約の相手方が、履行請求ではなく、損害賠償請求を選択したこと
  ■イ 小前提 
    上記@〜Dにあてはまる具体的な事実(=主要事実)
(1)被告が、Aの代理人として、原告から土地を買った。
(2)(1)の際に、被告が、その代理権を有していなかった。
(3)Aが(1)の売買を追認しなかった。
(4)Aが(1)の土地の売却のための準備をしたが、Aがこの土地を買わなかったため、準備に要した費用が無駄になった。
(5)原告が、被告に対し、(4)で要した費用の賠償を請求した。
  ■ウ 結論 
     
  ◇4 主張立証責任 
  主張責任:
訴訟物たる請求権の発生要件は原告が主張責任を負う。
上記@〜Dは、いずれも訴訟物たる請求権の発生要件⇒原告が主張責任を負う(=客観的主張責任)。
⇒原告は、@〜Dに該当する主要事実を主張しなければならない(=主観的主張責任)。
    立証責任:
@〜Dは、いずれも訴訟物たる請求権の発生要件⇒原告が立証責任を負いそう。
but
A(代理権の不存在)は被告が立証責任
←民法117条1項
Bも被告が立証責任
←代理権の授与と追認は、本人による授権が代理人の意思表示よりも前か後かという時期的な違いしかない。

@CDは原告が立証責任
ABは被告が立証責任
     
     
     
  ◆2 要件事実論(p28)
  ◇1 概要 
    訴訟物:民法117条1項に基づく損害賠償請求権
  ◇2 判決三段論法 
    要件事実論⇒
判決三段論法の大前提の前件が「法律要件」ではなく「要件事実」に。
要件事実は、裁判規範としての民法典の抽象的、類型的規定の中から、その意味内容を明らかにして、証明責任分配の原則に基づいて、これを抽出していく。
    要件事実論を採用⇒
判決三段論法の大前提:
「法律要件の充足⇒法律効果の発生」ではなく、
「要件事実の充足⇒法律効果の発生」
   
  ◇3 無権代理人に対する損害賠償請求 
    民法 第117条(無権代理人の責任)
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
    無権代理人に対する損害賠償請求権が発生するための法律要件:
@他人の代理人として契約したこと
A@の際に、その代理権を有していなかったこと
B本人が@の契約を追認しなかったこと
C契約の相手方に損害が発生したこと
D契約の相手方が、履行請求ではなく、損害賠償請求を選択したこと
このうち、
原告が立証責任:@CD
被告が立証責任:AB
要件事実論では、
「証明責任分配の原則に基づいて」大前提が修正

請求原因における大前提の前件(=要件事実)は、@CDだけ。
ABはその不存在が、抗弁の大前提の前件(=要件事実)に回る。
@:請求原因
A:不存在(=代理権の存在)が抗弁
B:不存在(=追認の存在)が抗弁
C:請求原因
D:請求原因
  ◇4 抗弁の4分類 
    上記ABは、請求権の発生要件の不存在(=代理権の存在(A)、追認の存在(B))が抗弁になる。
    抗弁の4分類:
@請求権の発生障害要件
A請求権の消滅要件
B請求権の行使阻止要件
C請求権の発生要件の不存在(被告が立証責任を負う場合)
     
  ◇5 要件事実論の理論的根拠 
  ■ア 概要
    何故、大前提に証明責任分配の原則取り込むことができるのか? 
  ■イ 裁判規範としての民法 
    民法は、裁判官を名宛人とする裁判の規準を示したもの(裁判規範)。
(国民を名宛人として社会生活上の行為、行動等に関する権利義務等をさだめたもの(行為規範)ではない。)
  ■ウ 法律効果の発生時期 
    民法は、現代社会における行為規範ではなく、裁判における規範

判決三段論法は、裁判において、主要事実の存在が立証されたときに成立し、
法律効果は、判決の確定によって発生。 
  ■エ 証明責任規範は不要 
    民法は裁判規範⇒法律効果が発生するのは、主要事実の存在が立証され、判決が確定したとき。
主張事実の存否が不明⇒判決三段論法が成立せず、法律効果は発生しない

法律効果が発生したか否かわからないということはないので、証明責任規範は不要。
    but
現実には証明責任規範があるため(民法117条1項)、それをどのように位置づけるのかが大問題。
  ■オ 証明責任分配原則の組入れ 
    @民法は裁判規範
A判決三段論法の成立による法律効果の発生は、民事裁判過程における主要事実の立証と結びつけられている

その立証のルールを判決三段論法の大前提に組み込むことで民事裁判過程の効率化を図ることが可能。

要件事実論では、判決三段論法の大前提の前件を、実体上の法律要件そのものではなく、これを証明責任分配の原則によって修正したものとし、これを要件事実と呼ぶことにした。

立証責任の問題を、判決の三段論法の小前提(事実認定)の問題としてだけではなく、大前提の問題として捉え直そうとする考え方。
     
  ■カ 注意事項 
     
  ◇6 主張責任
  主要事実:
大前提の前件である法律要件に該当する具体的事実。
主張責任:
主要事実の主張がないために、法規が適用されず、法律効果の発生が認められない不利益
    要件事実論では、大前提の前件が要件事実

主要事実:要件事実に該当する具体的事実
主張責任:要件事実に該当する具体的事実の主張がないために、法律効果の発生(又は不発生)が認められない不利益
  要件事実論⇒
法律要件の中から証明責任分配の原則に基づいて摘出された要件事実が大前提の前件。
主張責任も、大前提の前件である要件事実について考える。

要件事実論では、
主張責任の所在=立証責任の所在
 
  ◆3 要件事実の摘出(p34)
  ◇1 概要 
     
  ◇2 発生要件と発生障害要件 
    民法第95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
    A説:
錯誤無効という法律効果の発生要件:「法律行為の要素に錯誤があったこと」
表意者に重大な過失があったことが、その発生障害要件。

B説:
錯誤無効という法律効果の発生要件:
「法律行為の要素に錯誤があったこと」及び
「表意者に重大な過失がなかったこと」
「重過失の不存在」を発生要件とするか
「重過失の存在」を発生障害要件とするかは、
実体法の解釈の問題。
     
  ◇3 法律行為の成立要件と効力要件(p36)
  ■ア 概要 
     
  ■イ 効力要件欠缺の抗弁 
     
  ■ウ 効力要件欠缺の抗弁における立証責任の転換 
     
  ■エ 農地法の許可 
     
  ■オ 保証契約の書面性 
     
  ◇4 そもそも実体要件ではないもの 
  ■ア 概要 
     
  ■イ 不当利得返還請求における「善意」 
     
  ■ウ 即時取得における「無権利者からの取得」 
     
  ■エ 表見代理における「代理権の不授与」 
     
  ◇5 請求権の発生要件ではないのに請求原因の要件事実となるもの 
  ■ア 概要 
     
  ■イ 請負・委任・寄託の報酬請求における先履行義務の履行 
     
  ■ウ 履行遅滞に基づく損害賠償請求における反対債務の履行 
     
  ■エ 貸金返還請求における返還時期の到来(又は催告後の相当期間経過) 
     
     
★第3章 要件事実各論